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雨が止んだら

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女子中学生のちょっと変わった日常。
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雨が止んだら -晴れ女は-

雨が止んだら -晴れ女は-

 入梅晴さんは見ていてなかなか面白い。

 彼女の生態はこれまでよく分からなかったけれど、最近分かった事をまとめて表すと「変」だ。普段は無口で、素っ気なくて、本当にただのロボットにしか見えないが、ここ最近私たちの努力により彼女の謎は解明されつつある。

 最初に雨衣がふざけて行った任務、それは単純明快、尾行であった。バレない様コソコソと尾いていくと彼女はトイレへ入って行き、静かに誰かと通話している

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雨が止んだら -彼女の生態-

雨が止んだら -彼女の生態-

 これはごくごく普通の、よくある話である。
 ただ我々学生にとってはとても興奮することだ。

 それは、校舎に犬が迷い込むという偶然的イベントである。

 これは毎年あるわけでは無い。もしかすると、学生の間に出くわさない人もいるかも知れない。それくらいレアなことだと私は考えている。
 そう思えば、今こうして突如校舎に現れてくれた犬を見れた我々はラッキーだ。

「巡ちゃん見て!運動場に犬が居るよ!」

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雨が止んだら -図書室にて-

雨が止んだら -図書室にて-

「グゴォーーーー……」

 一つだけ言っておく、図書室は眠る場所ではない。

 しかし私の真横では正しく今大いびきをかいている怪獣がいる。
 その爆睡する怪獣を起こそうか迷い、少し考える。周りには迷惑そうにする生徒の視線。
 こんなに見られてしまっては起こす他あるまい。

「雨衣、起きて。……起きてってば。」

 肩を叩き声を掛けるが、なかなか起きないので今度は目一杯激しく揺すってみた。

「グゥ

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雨が止んだら -傘がない-

雨が止んだら -傘がない-

……なんてこった、私の傘がない。
 確かに朝持ってきた。そしてこの傘立てに立て掛けておいた。けれども無い。

「くー、やられちまったかぁー!」

 水無月雨衣、十四歳、下駄箱にて絶望。

 今日は午前は快晴、午後から雨の予報だった。それは当たり、なんなら大粒の雨が降り注いでいた。いわゆる土砂降りである。

 この中を傘なしで帰れって?そんな話があってたまるかってんでぃ。こちとら律儀にビニール傘を持

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雨が止んだら -転校生-

雨が止んだら -転校生-

 その日は梅雨の時期には珍しく、澄んだ空が広がっていた。

「巡ちゃん。『クロノスタシスって知ってる?』」

 雨衣が急に歌い出した。

「知ってる。」
「えーん、そこは知らないって言ってくれないと!」
「なんでよ。」
「『時計の針が止まって見える現象のことだよ』って歌えないじゃん!」

 雨衣はどうやら歌の掛け合いがしたかったらしい。
「はいはい、『ゆらゆら揺れて夢の様で』」
「『ゆらゆら揺れて

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雨が止んだら -前にもあった-

雨が止んだら -前にもあった-

……ん?あ、まただ。

 最近多いな。
 本当か試してみよう。

 ある日のお昼休憩、ご飯を食べている時にそれは起きた。いつもこの感覚の時はその通りにしないが、今日は試してみた。

 私がパンを齧る。雨衣がそのパン美味しい?と聞く。私がよく分からないけれど好きだと答える。雨衣はいつもの相槌をしながら今日あった数学の小テストの話を切り出す。

 うん、やっぱりそうだ。同じ行動、同じ会話。

 私は最

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雨が止んだら -隠し事-

雨が止んだら -隠し事-

「あー、熱があるわね。早退する?」
「します。」

 朝から雨が降っていたある日、雨衣はフラフラとした足取りで保健室に行ったきり帰ってこなかった。
後から先生に「水無月が早退するから荷物を保健室に持って行ってくれ」と頼まれた。

 私は言われた通り荷物を持って保健室に向かおうとした。
 すると、引き出しから一枚の紙がはらりと落ちた。それは、便箋に入った手紙だった。
「なんだこれ。」
雨衣は私の知ら

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雨が止んだら -目が悪い-

雨が止んだら -目が悪い-

 私は、目が悪い。
特に雨の日の前日から翌日までは視界が酷くブレる。お陰様で梅雨の時期は結構な頻度で目が悪くなり、近くまで寄らなければ誰か分からない事がしょっちゅうある。

 朝、いつも通りの通学路を歩く。

 むむむ?あれは何だ。恐らく人だとは思うが……

 ほら、またこうなるのだ。
 こちらに向かって手を振っている気はするが、誰だかさっぱり分からない。
 一歩一歩近づいて確認する。

だが……

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雨が止んだら -宿題-

雨が止んだら -宿題-

 イヤホンを付けて再生ボタンを押す。
耳には心地よい音楽が流れる。

 普段は雨衣も好きな歌手の曲ばかりを聴いているのだが、宿題のときの選曲は違う。どちらかと言えば、クラシックに分類されるだろう。
とある人の作った音色が私を包み込み、心に染み渡る。

 私がこの人の曲を知ったのは、実は訃報を見てからだった。生前に彼がどんな曲を作っていたか、何となく気になってユーチューブで適当に探して聴いてみた。

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雨が止んだら -花火大会-

雨が止んだら -花火大会-

チリン、チリン……

 風鈴の音と共に私は昼寝から目覚めた。
目覚めたと言っても目が開いたわけではなく、夢から覚めたの方が正しいだろうか。

(ダメだまだ眠い、目が開かない……)

気持ち良くもう一眠りしようとしていると台所から母の声が聞こえてきた。
「雨衣、起きてるの?あんたそろそろ準備しないといけないでしょ?」

え?なに……
あ、そうだ、そうだった。
今日は花火大会で、巡ちゃんとお祭りに行く

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雨が止んだら -ズルをした-

雨が止んだら -ズルをした-


 私はズルをした。

 「ズルをした」といっても、大袈裟なものでは無いし、誰でもするような些細なことだ。
例えば、道に落ちていた小銭で駄菓子を買ってしまうとか。
そういう感覚のもの。

 誰にも責められはしないけれど、なんだか心の中がモヤついて仕方ないというか、神様はそれを見ていていつか誰かに怒られるような気がする、というか。

「……それで、何をしたんだい?」

 誰も居なくなった教室で質問

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