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「usen for Cafe Apres-midi」20周年コンピCD 『音楽のある風景~ソー・リマインディング・ミー』 (『music with a view ~ so reminding me』) 12月24日リリース!

※発売日の12/24まで毎日、収録曲を1曲ずつ順に、各セレクターが選曲に際しての思いを綴ったライナー・エッセイと共に紹介していきます。

※コンピCDのご予約&ご購入はこちらへどうぞ!

選曲・文/橋本徹 ── Scott Orr “Know U”

あなたは音楽を愛していますか?

季節の移ろいや一日の時の流れを彩り、遠い記憶の温もりや大切な思い出を呼び起こしてくれると同時に、今を生きる、何気ない日常にささやかな光を灯してくれる音楽。「usen for Cafe Apres-midi」の20周年を記念して制作されたこのCD『音楽のある風景~ソー・リマインディング・ミー』は、心を動かされた音楽を、愛と情熱をこめて選曲する毎日から生まれた、僕らの“新しいクラシック”の記録です。17名のセレクターそれぞれが選んだ「この1曲」を連ねていますので、街や時代の空気に寄り添い、日々アップデイトされ、進化し続ける「usen for Cafe Apres-midi」の現在地を感じていただけると思います。

セレクター仲間から最初に収録希望曲を募ったのが2021年1月でしたから、制作期間はほぼ1年。僕がまず選曲候補にリストアップしたのは、ドニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスペリメント「Sunday Candy」~マック・ミラー feat. アンダーソン・パーク「Dang!」~クレオ・ソル「Young Love」の3曲でしたが、アプルーヴァル業務が思うように進まないとA&Rから相談を受け、途方に暮れていたところにリリースされ、「これは絶対コンピレイションのラストに収録するしかない」と確信したのが、カナダ・ハミルトンのフォーキー・シンガー・ソングライターScott Orrの名作「Know U」でした。

『音楽のある風景(music with a view)』という言葉は、2006年に「usen for Cafe Apres-midi」の5周年を記念して作った、僕たちの絆の原点とも言える大切な本のタイトルでもあり、2009年にスタートしたアプレミディ・レコーズの、最初のコンピ・シリーズのタイトルでもあります。“ソー・リマインディング・ミー”というサブタイトルはもちろん、そのアプレミディ・レコーズのファースト・リリース『音楽のある風景~春から夏へ』に収録した、Grażyna Auguścikがキース・ジャレットの名曲を歌詞のついたジャズ・ヴォーカル版でカヴァーした、多幸感あふれる「So Reminding Me」から。「usen for Cafe Apres-midi」でこの20年間、最もかけられてきた曲のひとつと言って間違いないでしょう。

このCDに収められた曲はどれも、聴いてくださる方の幸福を祈り、心の透き間を埋めるように響くことを願う、(個人的でありながら公共性も宿した)選曲者の気持ちが伝わる、“ある種のテイスト”に貫かれた音楽だと思います。これからも「街の音楽を美しくしたい」という希いをこめた、タイムリーにしてタイムレスな手作りの音楽放送チャンネルとして、大好きな音楽、素晴らしいと思う音楽、街(人)に愛される音楽を、こつこつと丁寧にお届けしていきますので、よろしくお願いいたします。


選曲・文/富永珠梨 ── Roos Jonker & Dean Tippet “Lorelei”

「街の音楽を美しくしたい」──その想いからスタートした「usen for Cafe Apres-midi」。セレクターひとりひとりが想いを込め、手紡ぎのように選曲していくそのスタイルは、20年経った今でも変わることはありません。AIが席巻する現代において、そんな音楽チャンネルが存在していること自体、もはや“奇跡”と言ってもいいのかもしれません。聴きたい音楽、知りたい情報、繋がりたい人、全てがあっという間に手に入ってしまう現代。ポンとスウィッチひとつ押してしまえば、その空間や季節にフィットした、最新の音楽が自動的に選曲されるシステムも、私が知らないだけで、もうすでにあるのかもしれません。でもきっと、無意識に人の心が求めるものは、誰かが自分のために想像力をうんと働かせながら手を動かし、愛と情熱を注いで作り上げたものだと私は思います。それはもちろん選曲や音楽の世界に限ったことではないはず。伝統を受け継ぎ誠実な想いを持って作られた器や、我が子のように真心込めて育てた農作物、心から気持ちよく過ごしてもらいたいと誠心誠意を尽くす飲食店、流行や周りの雑音に惑わされず、嘘のない美しいものをセレクトし続ける雑貨店。ジャンルは違えど、皆きっと同じ志を持って「その道」を貫いてきたのだと思います。そんな、誠実で温かい「手触り」を感じられるものに、人は心動かされ惹かれるのだと私は信じています。「usen for Cafe Apres-midi」はこの20年間、唯一無二の「ハンドメイド・チャンネル」として、その「手触り」を常に大切にしてきました。
この記念すべきアルバムのために私は、Roos Jonker & Dean Tippetの愛らしいデュエット曲「Lorelei」をセレクトしました。ルースとディーンのスウィートで、どこかほのぼのとした歌声は、気の置けない友人とのおしゃべりのように、ゆったりと心をリラックスさせてくれます。私にとって、現代版「午後のコーヒー的なシアワセ」といえる大好きな一曲です。


選曲・文/渡辺裕介 ── Emma Noble “Woman Of The World”

「usen for Cafe Apres-midi」20周年──素晴らしき歴史。
小学校4年生頃から友人の影響で洋楽を聴き、中学生の頃には自分で楽しむためにラジオ番組やレコードからラジカセで録音・編集するようになった私。FM番組や貸レコード屋からヒットチャート以外の音楽を知り、我が道を行く音楽生活から、音楽の楽しみ方を学んだ「Suburbia Suite」という本。そしてブラック・ミュージックだけじゃない心地よい空間ソウル・ミュージック「Free Soul」。そんな我々の音楽生活の未来を導いてくれた橋本徹師匠のカフェがオープン。「まだまだ音楽は広く、世界中そして我々の知らない過去の音楽を、四六時中楽しめるんだよ」と教えてくれたカフェ・アプレミディのコンピレイションCDの数々。様々な出逢いそして運命から「usen for Cafe Apres-midi」セレクターのひとりであることの喜び。どんな状況でも次の選曲を思い悩んでいる時間が私の生きがいであります。仕事は慣れていくものですが、この選曲だけは、少し先の未来を楽しんでもらえるかどうかを悩みながら、いつも初心の気持ちでドキドキする大切な時間であります。そんな気持ちで選び抜いたEmma Nobleの極み心地よい「Woman Of The World」。マーヴィン・ゲイの未発表曲カヴァーだということも含め、製作陣の溢れんばかりの音楽愛を堪能してください。皆様これからもどうぞよろしくお願いします。


選曲・文/山本勇樹 ── Natalie Prass “Never Too Late”

2016年に「usen for Cafe Apres-midi」の15周年企画のアニヴァーサリー・コンピ『Music City Lovers』がリリースされてから、早いもので5年が経ちました。今回も20周年コンピレイションに収録される候補曲を選ぶ際、真っ先に思い浮かんだのが、ケイト・ボリンジャーとナタリー・プラスでした。どちらもこの5年間、選曲リストに何度も入れたアーティストです。そして縁あってナタリー・プラスが2018年に発表したアルバム『The Future And The Past』に収録された「Never Too Late」が選出されて嬉しい限り、感慨もひとしおです。僕はランチからアフタヌーン・ティーの時間帯の選曲を担当しているので、主にサロン・ジャズ系のヴォーカルやピアノ・トリオ、ブラジル音楽といった軽やかでフレッシュな曲を意識して並べていますが、時折、ナタリー・プラスのようなメロウなシンガー・ソングライターを織り交ぜることによって、自分なりの音のグラデイションを描ければと考えています。それにしても、こうしてひとつの音楽放送チャンネルが20年も続くなんて、本当にすごいことですね。僕もその端くれとして誇りに思うと同時に、ショップや家のBGMとして楽しんでいただいている方に感謝の気持ちでいっぱいです。コロナ禍という前代未聞の事態に見舞われましたが、この「usen for Cafe Apres-midi」から、絶えず素敵な音楽が流れ続けていることが心の救いになっています。そして遠く離れた選曲仲間たちと、「街の音楽を美しくしたい」というひとつの目標を持ちながら繋がっていることも、大切なモティヴェイションになっています。


選曲・文/ヒロチカーノ ── Agata Piśko & Werner Radzik “So Reminding Me”

20年前、「街の音楽を美しくしたい」という想いで始まった音楽放送チャンネルが、今も変わらぬコンセプトでこうして街に流れ続けている奇跡に感謝しながら、僕は万感の想いで今この曲を聴いている。 Grażyna Auguścikのヴァージョンが、「usen for Cafe Apres-midi」初期を象徴する代表曲なのに対して、この声とピアノだけで聴く「So Reminding Me」は、自分自身の音楽人生を回想させてくれる特別な曲だ。あらためて20年間を振り返ると、本当にいろんな出来事があった。まわりの環境も自分自身も随分変わった。僕に本物の音楽を教えてくれた大切な師の多くがこの世を去った。音楽を聴くための媒体はCDから配信に替わり、AIが自分好みの曲を適当に流してくれる時代になった。それでも、このチャンネルだけは、昔と変わらずハンドメイド選曲で街に流れ続けている。僕自身も、街の風景を想い浮かべながら、純粋に心に響いた曲を集めてつなげるという選曲スタイルだけは、全く変わることなく、今ではすっかり生活の一部になっている。それは、気の合う仲間や大切な人と一緒に美味しいお酒や食事を愉しんでいる時間のように。
「自分が本当に好きな曲だけを選ぶコト」。20年前に公園通りのカフェ・アプレミディで橋本さんが教えてくれたこの選曲の本質こそが、僕たちが長く選曲を続けられてきた秘訣かもしれない。そしてこれから先も、このチャンネルが、いつまでも「街に愛され続ける」ことを信じて、現在進行形で出会った音楽の歓びを、皆さんにピュアに贈り続けたいと思います。


選曲・文/小林恭 ── Antonio Loureiro “Saudade”

2021年。コロナによって大きく世界が変わっている今、先が見えない不安は消えません。ですが、こんなときも素晴らしい音楽はいつも心に寄り添ってくれます。時には胸が躍るような気持ちにさせてくれたり、時には静かな波のように穏やかな気持ちにさせてくれたり、そして感謝の気持ちを芽生えさせてくれたりします。だからこそ、20周年を迎えた「usen for Cafe Apres-midi」を聴いてくださる方々に、少しでもそんな気持ちが伝わるように思いを込めて選曲してきました。今回選んだAntonio Loureiroの「Saudade」もそんな気持ちにさせてくれる名作です。
郷愁、憧憬、思慕、切なさなどの意味合いをもつポルトガル語のSaudade(サウダージ)というタイトルは、家族や信頼する仲間たちと集い、守られ、無邪気に楽しい日々を過ごしたビフォー・コロナ時代の郷愁を感じたり、ニュー・ノーマルな世界に移行したあとに昔を懐かしむような感情を思い起こさせます。それと同時に軽快なサウンドは、先の見えない重苦しい今の空気感を一掃してくれるような、不思議な爽快さと力強さを感じさせ、その美しさに惹かれます。
輝く未来を夢見させてくれる希望あるこの曲を聴いて瞑想してみてください。きっと新たな美しい世界が開かれるに違いありません。音楽と寄り添い共生しながら素晴らしい道を歩んでいきましょう。


選曲・文/高木慶太 ── Naive Super “Pacific Sketches”

21世紀と同い年でiTunesとも同級生。人ならちょうど二十歳である。
歩いたり走ったりよそ見をしたり、歩幅や歩数はまちまちながら後ろ向きに歩を進めることはこれまで一度もなかった。逆にめくるカレンダーがないように、あえてなのか、たまたまなのか、アーカイヴを残さないのだから振り返りようもないのだが。その意気や潔し。
前にしか時制が進まない20年間はヒトの成人までのそれにも似て本当に一瞬の出来事。選曲にかける想いは5日前も5年前も相似形でケジメがなく、熱量は常に金太郎飴状態。だからこうして5年に一度、足を止めてスケッチを残す。記憶の定着を目的にはしないが、さりとて忘れることを前提にはしたくない。記念写真では克明に過ぎ、文字だけのメモでは素っ気なくて物足りない。手描きの柔らかなスケッチがハンドメイド・チャンネルにふさわしいように思える。
奇しくも“Pacific Sketches”と題されたこの曲との出会いが、2020年以前つまり未曾有のパンデミックが起こる前であったなら、随分と印象は違ったものになっただろう。これまでに経験したことのない不安と閉塞感に心身が絡め取られるような日々を送る中で、現実逃避にポジティヴな意味を求めるのは必然だった。これは実際には訪れることのできない心象風景への旅路のスケッチでありサントラなのだ。


選曲・文/添田和幸 ── Booboo’zzz All Stars feat. Célia Kameni “Unstoppable”

今年で20周年ですか。僕は1年遅れて参加させてもらったので19年。時の過ぎ去る速さに驚きますが、人生の半分近くを「usen for Cafe Apres-midi」と共に過ごしているわけで、今後もチャンネルと共に歳を重ねられたらと思っています。
今回僕が選んだのは、Lianne La Havasのセカンド・アルバム『Blood』のオープニング・トラック「Unstoppable」を、極上のラヴァーズ・ロックに仕上げたBooboo’zzz All Stars。フランスのメリニャックにあるレコーディング・スタジオ、Born 2 Grooveのスタジオ・ミュージシャンたちで、様々なヴォーカリストを招いて名曲をレゲエにアレンジしています。本作でヴォーカルを務めるのは、イタリアのDJ /プロデューサー・デュオNu Geneaのゴキゲンなディスコ・ダンサー「Marechià」でもフィーチャーされていたCélia Kameni。ふと思い浮かぶのは夏の終わりの黄昏どき。浜辺に映るオレンジ色の光を思い描いて、毎年のように夏や初秋に選んできた思い入れ深い曲です。
最後に、執筆時にはまだリリースされていませんが、彼らの新作『Studio Reggae Bash, Vol.3』がリリースされるようです。Anderson .PaakとBruno MarsによるSilk Sonicのファースト・シングル「Leave The Door Open」やLauryn Hillの「Ex-Factor」をカヴァーしているので、こちらも楽しみに待ちたいと思います。


選曲・文/FAT MASA ── Sulu And Excelsior “Misery Luv”

20周年おめでとうございます。私が選曲家デビューして「usen for Cafe Apres-midi」に参加させていただいたのは5周年の頃だった2006年でしたから、あっという間に15年も過ぎたことも驚きであります。30歳目前の20代最後に参加したのが今は45歳であります。まだ続けさせていただいていることにただただ感謝でございます。
チャンネル屈指の問題児(笑)である私より、選曲の再提出&やり直しをしている方はいないと思います。最初の頃は、曲調やビートが強い、同じジャンルが連続しすぎるなど、NGの宝庫でありました。そんなトライ&エラーでご迷惑をかけている私が寄稿すること自体、甚だ恐縮ながら書かせていただきます。
現行ソウル・シーンに突如現れたSulu And Excelsior。限定7インチが即完売して話題になりました。
中でも「Misery Luv」はマーヴィン・ゲイ「What's Going On」タイプのメロウ・ソウルで、DJではもちろん、「usen for Cafe Apres-midi」でもよく選曲しました。
僕のDJパーティーでかけたとき、趣味のよさそうな素敵女子に曲の問い合わせで声をかけていただいた思い出もあります(笑)。こういうメロウ・ソウルに反応する女性は手放しで美女が多い気がします(当社比)。コロナ禍でめっきりイヴェントも開催しづらい世の中で、サブスクや家では楽しむことができない、現場でなければ体験できない共感する瞬間が忘れられません。
今はいろいろな制約もあり、感染対策を講じながら開催しておりますが、いい曲が本領発揮するパーティーを手放しで楽しめる日が、早く来てほしいと願わずにいられません。


選曲・文/中上修作 ── Remy Le Boeuf “Strata”

双生児としてこの世に生を受けた兄弟のうち管楽器奏者としてのキャリアをみがく幸運を得た彼は、2020年にリリースされた『Assembly Of Shadows』という2枚目のアルバムで、群雄割拠のニューヨーク・ジャズ・シーンにおいて静かに、しかし波長のながい残響音をこだまさせることになります。
蒼波がたえまなくかさなり小石が砂になっていくように。そして砂が水を濾過するように。細く綿密に編まれたアンサンブル「Strata」が嚆矢をかざるこのアルバムは、たとえばハットフィールド&ザ・ノースやマイク・ウエストブルック、ロバート・ワイアットらカンタベリー・シーンの音楽家たちが醸した「夕暮れのトーン」を感じさせたと思えば、ピエール・オヴェルノワが造るヴァン・ナチュールのごとく「大地を飲み干すような」のびのびとした自然味をも同期させてしまいます。これこそ彼のソングライティングの妙であり、チャールズ・ミンガスやマリア・シュナイダーなどのアメリカン・コンポーザーを偏愛しつつ、幼少期にヴァチカンでレナード・バーンスタインの『ミサ』でボーイ・ソプラノのソロをとった経験がいまに生きたのでしょう。保守的ではあるが危うきところから離れ、さらに2滴ほどラディカルな液体をくわえた彼独特な味わいは、ふだんジャズを聴かない方にこそ手許に寄せていただきたい一枚です。
「usen for Cafe Apres-midi」20周年を迎えたいま、「街の音をデザインする」というミッションの一端をになう私にとって、よき示唆を与えてくれたのは彼、レミー・ル・ブーフの「Strata」であり、この曲が刹那のいろどりに貢献できることはとても嬉しいことです。


選曲・文/waltzanova ── Kiefer “What A Day”

初めて「What A Day」を聴いた瞬間の高揚を僕は今でも思い出せる。
「これこそが新しいカフェ・ミュージックの決定打だ!」
確信がそこにあった。ジャズ×ビート・ミュージックの理想形。でもゴリゴリのそれではなく、ポップスとして成立するような展開を持ち、カジュアルでどこかしらファニーな趣きすらある。パグとトイ・ピアノが並んだジャケットも可愛らしく、おまけにアルバム・タイトルは僕らのジェネレイションだったらピチカート・ファイヴのあの名曲を思い出さずにはいられない『Happysad』だった。
2015年、橋本徹さんに声をかけられて僕が「usen for Cafe Apres-midi」のセレクターになったとき、チャンネルは転換期を迎えていたと思う。橋本さんは従来のカフェ・ミュージックのイメージを更新し、拡大しようとしていた。僕の音楽的関心の中心はどちらかと言えばジャズやソウルにあるのだが、そのテイストをチャンネルのカラーにいかに自然に溶かしこむかで悩んでいた時期でもあった。そんな中、NonameやMoonchildなど、メロウなテイストのヒップホップ~R&Bがチャンネルの中で一般化してきた頃に登場したのがKieferだった。ファースト『Kickinit Alone』はインディーっぽさが色濃かったが(これはこれで素晴らしい)、『Happysad』で一気にネクスト・レヴェルに達した感があった。期を同じくしてローファイ・ヒップホップ~チルホップが隆盛を迎えたこともあり、自分の選曲の方向性に自信を持てたきっかけだった。
Kieferとは来日ライヴ時に直接話す機会があったのだが、その音楽同様とても気さくなナイス・ガイだったことも書き添えておきたい。それが僕はとても嬉しかった。
改めてこの素晴らしい6年半に感謝をしつつ、これからも楽しさとまじめさ、そして自由さを忘れることなく選曲をしていきたい。


選曲・文/高橋孝治 ── Night Beds “Love Streams”

夜のベッドの「愛の流れ」。日本語に訳すとなんともなまめかしいのですが、実際この曲は色っぽい作品ですよね。
艶やかで官能的。聴いているとうっとりして夢見心地な気分になれます。そして「Stream」という単語を目にすると、「Mr. Lonely」でお馴染みのイージー・リスニングが優雅に流れる音楽番組『ジェットストリーム』を思い出してしまいます。2021年の現在も放送されている長寿番組ですが、自分にはやはりダンディーな城達也のナレイションが印象的で、その声の響きも艶やかで色っぽいですよね。
「遠い地平線が消えて、深々とした夜の闇に心を休めるとき、遥か雲海の上を音もなく流れ去る気流は、たゆみない宇宙の営みを告げています」。これはオープニング・ナレイションの一部ですが、なんてロマンティックなんでしょう。イージー・リスニング専門の番組ですが、このナレイションの後にナイト・ベッズの曲が流れても素敵だと思います。
さらに「Love Streams」といったら言わずもがな、1984年に公開されたジョン・カサヴェテス監督が手掛けた同名映画を忘れてはいけません。不朽の名作「こわれゆく女」同様に、神経のバランスを崩していく女性を圧倒的な演技力で表現する愛妻のジーナ・ローランズとカサヴェテスが共演した作品で、普遍的な「愛」をテーマに映画を作り上げてきたカサヴェテス監督の集大成的作品です。そんな本作の中にはこんなセリフがあります。
「Love is a stream. It's continuous. It doesn't stop.(愛は流れなの。絶えず流れ続け、止まることはないの)」。残念ながら自分の人生の中でこんな素敵なセリフを言う機会はありませんが、これまた艶やかなセリフですよね。この映画の予告編を観ながら、音を消して代わりにナイト・ベッズの曲を流したことがありますが、まるでプロモーション・ヴィデオのように素敵でした。
また、この映画の魅力のひとつとして、劇中にジャズ・トランペット奏者のジャック・シェルドンが歌う「Almost In Love With You」(カサヴェテス作で『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』でも使用)が流れるのですが、こちらもとてもロマンティックなので、このCDを手にした方はぜひ聴いてみてください。
ロマンティックは止まりませんよ(笑)。


選曲・文/吉本宏 ── David F. Walker “Lay It On Me”

そのカフェ&バーはいつもグッド・ミュージックを流している。イギリスのTANNOYのヴィンテージ・スピーカーからは、時間帯によってさまざまな音楽が聴こえてくる。黄昏の時間にはスウィートなソウル・ミュージックやAORやスピリチュアルなジャズ、夜更けにはセンシティヴなピアノ・トリオや穏やかなアンビエント・ミュージックなど、時間の移ろいとともに音楽もその色合いを変えていく。街の色彩が刻々と変わっていく窓からの風景を眺めながらカクテルを飲み音楽を聴く。
寡黙なマスターは、その日の気分によってクラフト・ジンやウォッカをベースにさまざまなオリジナルのカクテルをつくってくれる。最近のお気に入りはドライ・マティーニ。彼はEAST LONDON L.C.のドライ・ジンにCOCCHI AMERICANOのヴェルモットを合わせ美しくステアして形のきれいなカクテル・グラスに注いでくれる。そのときに聴こえてきたのは、同じくイースト・ロンドンのシンガー・ソングライターDavid F. Walkerの「Lay It On Me」。たゆたう鍵盤の音色にまろやかな歌声が静かに重なり、ゆるやかなビートが刻まれる。そのお酒の味わいにも似たメロウな艶やかさ。彼の音楽は夜の選曲ととても相性がいい。グラスを覆った細かな水滴にランプの灯りが映る。そんな架空の店を思い浮かべながらいつも音楽を選んでいる。


選曲・文/三谷昌平 ── Rosie Frater-Taylor “Be So Kind”

コロナ禍で迎えた「usen for Cafe Apres-midi」の20周年。自粛につぐ自粛で徐々に街の活気が失われていったそんな1年半でしたが、素敵な音楽で少しでも街の風景を彩り輝かせ、ささやかな幸せを感じてもらうことができたらと、心をこめて選曲してきました。特に2021年は自宅で過ごすことが増え、どうしたら皆さんの心に響く選曲ができるだろうか、と悩むことが多かった一年でしたが、幸い素晴らしい音楽に数多くめぐり会った年でもありました。そんな中から今回、僕が選んだのはイギリス・ロンドンを拠点にするヴォーカリスト/ギタリストのロージー・フレイター・テイラー。彼女のセカンド・アルバム『Bloom』から「Be So Kind」です。トップDJやメディアにも取り上げられ、ジョニ・ミッチェルがパット・メセニーと出会った、とも評される若手注目株ですが、個性派の多い現在のイギリスのジャズ・シーンにおいては、むしろ彼女のようにピュアでナチュラルなサウンドを聴かせてくれるアーティストは貴重な存在なのかもしれません。「Be So Kind」は同じく若手注目株のサウス・ロンドン出身のマルチ・インストゥルメンタリスト、コナー・アルバートとのコラボレイション曲で、彼名義でもリリースされています。興味のある方はアレンジ違いの彼のヴァージョンも聴いていただければと思います。
コロナ禍以前の日常にはまだまだほど遠い状況ですが、ポスト・コロナの新しい時代に向け「街の音楽を(もっと)美しくする」という希いを胸に、これからも素敵な音楽をお届けしていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。


選曲・文/本多義明 ── Bruno Pernadas “L.A.”

「usen for Cafe Apres-midi」が、今年で20周年を迎えました。世の中の喧噪や人々の生活の変化、音楽の流行や聴き方の変化など、様々な時代の移り変わりを経験しながら、無事に20周年を迎えられたことは、リスナーの皆さんや選曲者の皆さんやUSENの仲間たち──多くの方々の音楽に向かう情熱の賜物だと確信しています。
この場を借りて感謝の言葉を申し上げます。
ちなみに“変化”と言えば、デジタル全盛の中でここ数年はアナログのレコードやカセットテープの需要もかなり高まっていますが、この「usen for Cafe Apres-midi」こそ、そんな嗜好の音楽好きの方々にもぜひおすすめしたい、人工知能ではない人の耳で1曲1曲を紡いだBGMチャンネルです。手前味噌にはなりますが、こんな音楽メディアは世界中でもこれだけだと思います。きっとこれからもリスナーの皆さんに大好きな音楽と出会っていただけるでしょう。
そして今回、この20周年記念のコンピレイションCDをリリースできることも、アプレミディ・レコーズのA&Rディレクターや楽曲収録を快諾してくださった国内外のレーベルに多大な感謝をしつつ、たいへん嬉しく思っています。自分が選んだ収録曲は、ポルトガルのシンガー・ソングライターBruno Pernadasの桃源郷のように夢見心地なナンバー。実はこれも他のセレクターの選曲リストで知った曲だったりします。「usen for Cafe Apres-midi」を聴いていると、こんな素晴らしい曲に出会えるんですよ。


選曲・文/武田誠 ── Holy Hive feat. Mary Lattimore “Oh I Miss Her So”

2011年3月11日の東日本大震災のとき、僕は部屋にいた。地震発生から揺れがどんどんとひどさを増していく状況で何をしていたかといえば、倒れそうなレコード棚を必死になっておさえていた。ひとつの棚はそのおかげで転倒はまぬがれたものの、部屋の中の散乱は目を覆いたくなるばかり。床に転がったTVをつけてみれば津波の被害が大きく報じられている。いろいろなことが頭をかけめぐり、ただ茫然となりながら少しずつ部屋の片付けをしていく中で気づいたのが、ケースに入れず立てかけていた一台のギターのこと。案の定、上から崩れた本と共に床に倒れた状態だった。この日から数日間、音楽を聴く気になれなかったという人は少なくなかったはずだが、今この倒れたギターの状態を確かめるためにとりあえず何かを弾いてみなければならない。いや、そんなことは考えていなかったかもしれないが、そのギターを抱え無意識のうち爪弾いたのが、ジョン・レノンの「Love」だった。なんならポール派の僕からなぜ滅多に弾くことのないこの曲が降りてきたのか。あの状況下で音楽を部屋に響かせることができるのは、なにかに救いを願うようなこの曲、と身体が求めていたからなのかもしれない。そして、そのときの情景は、遠い記憶にあるどこか甘い哀切を呼び覚ますものがあった。そんな体験を「usen for Cafe Apres-midi」の選曲と併せて語るのは、いささかこじつけがましいところだけど、日常生活と音楽の詩的関係ともいうべきことを、どれだけ聴き手と共有できるか、それを想像することが選曲の楽しみであったりするからです。
ヴィンテージ・ソウル/ファンクのグルーヴィーな精神を受けつぐ名うてのセッション・ドラマーとして知られるHomer Steinweissと、ファルセット・ヴォイスが魅力のフォーク・シンガーPaul Springを中心とするHoly Hive。そんな彼らの創造性が化学反応し生まれたミラクルな名曲がハーピストMary Lattimoreを迎えた「Oh I Miss Her So」。Cadet期のドロシー・アシュビー~ロータリー・コネクションなどチャールズ・ステップニー~リチャード・エヴァンス・ワークにインスパイアされたかのようなアイディアにうっとりの、リリースと同時に古典となったチェンバー・フォーキー・ソウルの金字塔。ワルツタイム・ビートに飾られた「Oh I Miss Her So (Reprise)」も最高だ。


選曲・文/中村智昭 ── haruka nakamura “Reflection Eternal”

感謝の思いが溢れる20年の記憶を振り返るとき、特に衝撃的だった出来事にNujabesという音楽家の死がある。事故があった2010年を境にNujabesを選曲することの意味が変化し、季節がめぐるたびに彼とその仲間たちの楽曲を祈るような気持ちでリストに並べ、残された者に何ができるかを考え続けてきた。
かつて生前のNujabesに見初められたharuka nakamuraは、主人を失い時が止まったままのスタジオを没後10年の機に訪れ、代表曲「Reflection Eternal」のカヴァーを新たにレコーディング、今年9月に追悼の7インチEP盤としてリリースした。「usen for Cafe Apres-midi」の20周年記念コンピレイションCDは許諾作業が難航し、発売をめざしていた時期よりも制作が遅れていたことで、この曲の収録申請をギリギリのタイミングで行うことができた。僕が事前に挙げた候補曲たちがことごとく未アプルーヴァルとなっていたことは、逆に幸運だったと言っていい。見えない力、または意思のようなものに導かれたのかもしれない。
つい先日、渋谷Bar Musicでの仕事を抜けて向かったカフェ・アプレミディの22周年を祝うパーティーでのDJを終え、再び店に戻ってくると、奥の席からこちらに手を振るharuka nakamuraの姿があった。「中村さん、ありがとうございます。いただいてた(「Reflection Eternal」収録の)件、OKなんで」──それは、完全に嬉しいサプライズだった。彼こそ、残された者の正統として何ができるか、何をすべきかを考え続けている人なのだ。
Nujabesのオリジナルと同じく、巧みにサンプリングされたケニー・ランキン「Marie」のヴォーカル・パートが、僕たちにリフレインする。「あなたは花 あなたは川 あなたは虹なのだから」と。


RCIP-0327_FULLのコピー

収録曲
1. Roos Jonker & Dean Tippet「Lorelei」(富永珠梨)
2. Emma Noble「Woman Of The World」(渡辺裕介)
3. Natalie Prass「Never Too Late」(山本勇樹)
4. Agata Pisko & Werner Radzik「So Reminding Me」(ヒロチカーノ)
5. Antonio Loureiro「Saudade」(小林恭)
6. Naive Super「Pacific Sketches」(高木慶太)
7. Booboo'zzz All Stars feat. Celia Kameni「Unstoppable」(添田和幸)
8. Sulu And Excelsior「Misery Luv」(FAT MASA)
9. Remy Le Boeuf「Strata」(中上修作)
10. Kiefer「What A Day」(waltzanova)
11. Night Beds「Love Streams」(高橋孝治)
12. David F. Walker「Lay It On Me」(吉本宏)
13. Rosie Frater-Taylor「Be So Kind」(三谷昌平)
14. Bruno Pernadas「L.A.」(本多義明)
15. Holy Hive feat. Mary Lattimore「Oh I Miss Her So」(武田誠)
16. haruka nakamura「Reflection Eternal」(中村智昭)
17. Scott Orr「Know U」(橋本徹)

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