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Voice of “usen for Cafe Apres-midi” Crew

2021 Early Autumn Selection(8月30日~10月10日)

橋本徹(SUBURBIA)を始めとする
「usen for Cafe Apres-midi」の選曲家17人が
それぞれのセレクトした音楽への思いを綴る
「Voice of “usen for Cafe Apres-midi” Crew」

詳しい放送内容はこちら
D-03 usen for Cafe Apres-midi
http://music.usen.com/channel/d03/



橋本徹(「usen for Cafe Apres-midi」プロデューサー) Toru Hashimoto

空前のコロナ感染拡大と緊急事態宣言の延長で、カフェ・アプレミディは引き続き休業、どこにも出かけられず、自宅とUSENスタジオの往復のみで穏やかにすごした2021年夏。それでも街の風景を素敵な音楽で彩り輝かせ、少しでもささやかな幸せを感じてもらうことができたらと、心からの思いをこめて、今回もメロウ&グルーヴィーで心地よい楽曲を中心に、計34時間分を新たに選曲した。
月〜日を通してのTwilight-timeの特集は、20周年を迎えた「usen for Cafe Apres-midi」の集大成となるセレクションを意識して、「Music City Lovers」と題して。リリースを予定しているセレクター仲間と選んだ20周年記念コンピCDも、収録希望曲のアプルーヴァルに時間がかかってはいるが、現在制作進行中なので、ぜひ楽しみにお待ちいただけたらと思う。
今期のNo.1アルバムは文句なく、2020年の年間ベスト・アルバムでもワン・トゥー・フィニッシュとしたSaultのメンバーとしても知られるイギリスの女性SSWで、昨年はソロ・ファースト・アルバム『Rose In The Dark』も我が家のNo.1愛聴盤だったクレオ・ソル(Cleo Sol)の新作セカンド・アルバム『Mother』だ。キャロル・キング〜ミニー・リパートン〜リンダ・ルイスなどの70年代前半の名作を思わせる、柔らかでオーガニックなフォーキー・メロウ・ソウルの風合いを、豊かな低音や乾いたビートで細部までモダンにアップデイトした、2021年夏に生まれた永遠のエヴァーグリーン。素晴らしく素敵なジャケットとアルバム・タイトルから伝わるように、出産して母親となったクレオ・ソルが、生まれたばかりの子への視点・心情と生み育ててくれた母への視点・心情を重ね(ジャケ写で彼女は子を抱きながらソファでくつろぎ、後ろの壁には母の写真が飾られている)綴ったソングライティングも感動的な、穏やかな高揚感が心地よく親密で慈愛にあふれたピースフルな福音のような一枚なので、毎日繰り返し聴いて感激を新たにしている。
さっそく我が家でも2021年のベスト・アルバム(にしてオールタイム・ベスト)に認定され、ヘヴィー・ローテイションされているクレオ・ソルの『Mother』だが、それに負けないくらいこの夏よく聴いていたのが、これも年間ベストの上位に入りそうなクレイロ(Clairo)の『Sling』(グリーン・ヴァイナル)、続いて爽快なジャケットをリヴィングに飾って太陽の力と夏気分をお福分けしてもらっていたロード(Lorde)の『Solar Power』(ブルー・ヴァイナル)。大好きだった最新シングルで互いに客演し合っていたクレイロとロードは、どちらの新作もジャック・アントノフがプロデュースに関わり、過去作に比べこまやかで内省的なコロナ禍を踏まえた内容だったことも、共感を抱いた理由のひとつかもしれない。
そしてBandcampのみの配信リリースながら、クレオ・ソル『Mother』が発表されるまで最も気に入って愛聴していたのが、ポートランドの知る人ぞ知るトワイライト・アンビエント系黒人アーティストKafariが、古いピアノと向き合ってメランコリックな旋律を奏でた美しいアルバム『Blanket Of Black』。心を落ちつかせたいときは、「usen for Cafe Apres-midi」常連のメロウでジャジー&スムースなフランスのプロデューサーFKJが、音楽の持つセラピー効果を探求して、睡眠・瞑想・リラクゼイションのための人気アプリCalm上で公開したピアノ弾き語り集や、過ぎゆく夏を惜しむようなビーチ・ボーイズやファラオ・サンダースのカヴァーも含む、LAのサックス奏者サム・ゲンデルとベース奏者サム・ウィルクスの期待通りの共演作続編も、よく流していた。
元気を出したいときには、ボンベイ・バイシクル・クラブのフロントマンでありジャズ・ベーシストでもあるMr. Jukesと、トム・ミッシュやロイル・カーナーと親交がありサウス・ロンドン・シーンで活躍する若きMCのBarney Artistによる、90年代ゴールデン・エラ(特にトライブ・コールド・クエスト〜J・ディラ)への憧憬と愛情を感じずにいられない共演盤などもよく聴いたが、今回の選曲でとりわけ重宝した作品のジャケットを計24枚掲載しておくので、その中身の素晴らしさにもぜひとも触れていただけたら嬉しい。

2021 Early Autumn 橋本

Cleo Sol『Mother』
Clairo『Sling』
Lorde『Solar Power』
Billie Eilish『Happier Than Ever』
Kafari『Blanket Of Black』
FKJ『Just Piano』
Kiefer『When There's Love Around』
Sam Gendel & Sam Wilkes『Music For Saxofone And Bass Guitar More Songs』
Mr. Jukes & Barney Artist『The Locket』
Oscar Key Sung『Echo Hill Green Square』
Jerome Thomas『That Secret Sauce』
Andrew Wasylyk『Balgay Hill: Morning In Magnolia』
Vasconcelos Sentimento『Furto』
Mia Doi Todd『Ten Views Of Music Life』
Mocky『Overtones For The Omniverse』
Still Woozy『If This Isn't Nice, I Don't Know What Is』
Brandee Younger『Somewhere Different』
Michael League『So Many Me』
Becca Stevens & The Secret Trio『Becca Stevens & The Secret Trio』
David Crosby『For Free』
Enji『Ursgal』
Jesse Harris & Vinicius Cantuaria『Surpresa』
Rodrigo Amarante『Drama』
Arroyito Dúo『Raigal』

Dinner-time 土曜日22:00~24:00
Cafe Apres-minuit 日曜日0:00~10:00
Brunch-time 月曜日10:00~12:00
Brunch-time 火曜日10:00~12:00
Brunch-time 水曜日10:00~12:00
Brunch-time 木曜日10:00~12:00
特集 月曜日16:00~18:00
特集 火曜日16:00~18:00
特集 水曜日16:00~18:00
特集 木曜日16:00~18:00
特集 金曜日16:00~18:00
特集 土曜日16:00~18:00
特集 日曜日16:00~18:00



本多義明(「usen for Cafe Apres-midi」ディレクター) Yoshiaki Honda

18歳のジャズ・アコーディオン奏者Anatole Musterによる、Louis Cole「Things」の素晴らしいカヴァー。オリジナルも大好きだが、こちらもかなり良い。
夏が終わって少し切ないイメージのこの時期に合う、お気に入りの一曲。

2021_Early Autumn_本多

Anatole Muster『Outlook』

Lunch-time~Tea-time 木曜日12:00~16:00
Lunch-time~Tea-time 金曜日12:00~16:00
Lunch-time~Tea-time 土曜日12:00~16:00
Lunch-time~Tea-time 日曜日12:00~16:00



中村智昭 Tomoaki Nakamura

2015年頃にApple Musicを利用するようになってからは、サブスクリプション→レコードという順番で新しい音楽を聴くのが常だ。それは当然、データ配信の方が圧倒的にリリースが早いからに他ならない。だが、キングス・オブ・コンヴィニエンスの2009年作『Declaration Of Dependence』以来12年ぶりとなる『Peace Or Love』は、先行シングル「Rocky Trail」のヴィデオ・クリップを公開日にYouTubeで観てからはあえて配信を一切耳にせず、LPが到着するのを待ちに待った。それは、どうしても確認したい感覚があったから。2000年代の僕たちにとって、彼らの音楽はある種の象徴であり、ひとつの基準だった。2004年のセカンド・アルバム『Riot On An Empty Street』に、当時は渋谷・公園通りにあったカフェ・アプレミディで初めて針を落としたときの感動を忘れることは一生ないだろう。彼らは今回の『Peace Or Love』で普遍的な音楽の魅力を、そして何よりキングス・オブ・コンヴィニエンスたることを証明した。僕はリスナーのひとりとして、そのことを丁寧に受け止めていきたい。今回の初秋セレクションには流れにフィットした「Comb My Hair」と「Fever」を選んだが、結果として、配信リリースのタイミングからは大きく遅れることとなってしまった。けれど、それをこれから意味のあることにしてゆくつもりだ。

2021_Early Autumn_中村

Kings Of Convenience『Peace Or Love』

Dinner-time 月曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 火曜日0:00~2:00



添田和幸 Kazuyuki Soeta

Early Autumn Selectionを選曲中もっとも針を落としたのはAntonio LaureiroやSam Gendelをはじめ豪華ゲストが参加した笹久保伸の『Chichibu』。Sam GedelファンにもオススメしたいLAを拠点に活動するDanny Scott Laneもよく聴いた極上のバレアリック/アンビエント。そして早くも今年のベスト・リイシュー候補のKevin McCormick & David Horridgeの1982年作は夢見心地の浮遊感に包まれた時空を越えて現在とシンクロするアンビエント・フォーク。時間軸に合わせて丁寧に選曲してるので、曲目リストと併せてぜひチェックしてみてください。

2021 Early Autumn 添田

Shin Sasakubo『Chichibu』
Danny Scott Lane『Caput』
Kevin McCormick & David Horridge『Light Patterns』
Ify Alyssa『Pelita Lara』
Will Stratton『The Changing Wilderness』
Jeb Loy Nichols『Jeb Loy』
Always You『Bloom Off The Rose』
Paula Fuga『Rain On Sunday』
Papik & Sarah Jane Morris『Let The Music Play』
Dante Elephante『Mid-Century Modern Romance』
Brainstory『Ripe』
Ralph TV『Cabin Fever Dreams』
Loveshadow『Loveshadow』
Raaja Bones『Black Dreams』
Leon Bridges『Gold-Diggers Sound』
George Riley『interest rates, a tape』
James Vickery『Songs That Made Me Feel』
Noumuso『Freequency Of Da Sun』
Amaro Freitas『Sankofa』
Oscar Key Sung『Echo Hill Green Square』
Brittany Howard『Jaime Reimagined』
Enji『Ursgal』
Sam Gendel & Sam Wilkes『Music For Saxofone And Bass Guitar More Songs』
Alice Coltrane『Kirtan: Turiya Sings』
arc rae『Primitive』
Blank Gloss『Melt』
Marigold Sun『Swimming』
Beverly Glenn-Copeland「Ever New (Kelsey Lu's Transportation)」

Dinner-time 火曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 水曜日0:00~2:00



中上修作 Shusaku Nakagami

今月中旬から続いた長雨が影響しているのでしょうか、暦のとおり彼岸をこえたら暑さもずいぶんやわらぎました。各地で線状降水帯が発生する1週間ほど前、連日猛暑が伝えられ当地、奈良でも例外ではありませんでしたが、蝉の声やちょっとした風の匂いが「秋」へと変化しつつあることを意識した刹那、この暑さで麻痺していた身体がウソのように蘇りました。

季の変わり目に敏感な日本人は二十四節気をベースにあらゆる芸術や文化、料理を生み出してきました。現在は世界がずいぶんと狭くなり、あらゆる品が時を待たずして入手できますが、この「季の感覚」だけはそうもいかないようです。同じ東アジアの人間である韓国や中国の人も優れた季節感を持ってはいますが、日本は島嶼という独自文化を醸成するための地政学的なアドヴァンテージがあり、仏教伝来から1,300年間、いや1,800年ほど前の弥生時代くらいから、すでに日本人にはこまやかな感覚や気遣いが備わっていたのかもしれません。

日本人のみならず世界中の人々にいえることですが、人間は勝手に生まれてきて勝手に死ぬ存在です。究極的には人間に「生きる目的」なんてありませんから、生きている間(命を生かしている間、というべきでしょうか)はせいぜい美味しいものを身体に摂り、人と語らい、そして美しいものを視るべきです。ぼくがボブ・ディゲンのピアノを、このアルバムの「Liazinth」を好んで聴くのも、そのような目的からです。

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Bob Degen Trio『Hidden Track』

Dinner-time 水曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 木曜日0:00~2:00



髙木慶太 Keita Takagi

お盆を境に空気が確実に変わる。数字なら大した違いはないのかもしれない。しかし、体感湿度は明らかに違う。微差は大差。以前なら8月31日に感じていた物寂しさを立秋のあたりで覚えるようになってもう何年だろう。そして、ここからが長い。初秋と呼ぶには暑く、残暑と呼ぶにはやや爽やかな、9月がなくて8月が60日あるような、そんな陽気がしばらく続く。
とはいえ簡単には書き換えられないカレンダーの代わりに、まずは選曲だけでも。

2021 Early Autumn 高木

Blue Nile『Hats』

Dinner-time 木曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 金曜日0:00~2:00



FAT MASA

台湾出身のヴィブラフォニスト、チェンチェン・ルーのファースト・アルバムが、とても心地よい。
残暑を和らげるように涼しげなヴィブラフォンの音色に酔いしれたくなる、スパイク・リー映画のテーマ「Mo' Better Blues」のカヴァーが白眉。
ロイ・エアーズ「We Live In Brooklyn Baby」のカヴァーも収録されていて、アナログ盤でも欲しいと思ったら11月17日発売とのことです!

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Chien Chien Lu 『The Path』

Brunch-time 金曜日10:00~12:00



三谷昌平 Shohei Mitani

2021 Early Autumn Selectionから3作品をご紹介。
まずはイギリス・ロンドンを拠点にするギタリスト/ヴォーカリストのロージー・フレイター・テイラーのセカンド・アルバム『Bloom』。トップDJやメディアに取り上げられ、今や若手注目株の彼女。個性派の多い現在のイギリスのジャズ・シーンにおいては、彼女のようにピュアでナチュラルなサウンドを聴かせてくれるアーティストは逆に貴重な存在かもしれません。本セレクションでは彼女の美しいスキャットが印象的な「Better Days」を。
次はアメリカ出身のシンガー・ソングライター、クレイロの2年ぶりのセカンド・アルバム『Sling』から「Amoeba」。ローファイなベッドルーム・ポップのオリジネイターの一人として注目されている彼女。ジャック・アントノフを共同プロデューサーに迎え、前作をさらに深化させた作品に仕上げています。
最後はブラジルのホドリゴ、ヂオゴ、ガブリエーラの三兄妹によるメリンによるジャヴァンのカヴァー集『Deixa Vir do Coração』から「Samurai」。ジャヴァンの息子、マックス・ヴィアナをプロデューサーに迎え、シンプルなアコースティック・サウンドに兄妹ならではの息のあったコーラスを聴かせてくれます。
興味のある方はぜひ聴いてみてください。

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Rosie Frater-Taylor『Bloom』
Clairo『Sling』
Melim『Deixa Vir do Coração』

Dinner-time 金曜日18:00~22:00



渡辺裕介 Yusuke Watanabe

こんな世の中でもとりあえずオリンピックにTVを通じて参加させていただいた。
やはりあらゆる国の選手が集まり行進する姿にはぐっとくるものがあります。新たな競技を含む、カメラ・アングルによる迫力。LAオリンピックを観ていたブラウン管時代とは全然迫力が違います。
そういえば、最近ライヴ体験していないなとか。DJでもライヴ音源括りでやって異常な盛り上がりだったり。
実際のところ声を出さず、拍手だけとかが常。

ということで、ライヴ音源を違和感なく繋いで、贅沢なセッション・タイムをお届けします。基本どんなミュージシャンでもライヴ音源は買うようにしてます。やはりあの汗具合は音源だけでも充分に楽しめますし、アルバムとは違うアレンジ演奏も楽しい。あとは「えええ」というようなカヴァーだったり。
ということで、Simply Redの名盤ライヴ『Live In Cuba Vol.2』。このアルバムは、やはりキューバだけに全体がラテン・テイストで、演奏の素晴らしさとキューバの空気に持っていかれます。そして誰もが口ずさむBetty Wright「Clean Up Woman」のリフに乗せてフリー・ソウル名作カヴァー・メドレー。この続きはぜひ聴いていただきたいです。

2年から3年に一度、ジャンク品のヨーロッパ/アメリカの70年代/80年代/90年代ジュークボックス7インチ・レコードを段ボール3個ぐらい買ってます。もちろん目的は、一発屋の知らない名曲やシングル・カットされていたのか知らなかった曲。そしてフリー・ソウルな知らない曲やパロディーものとか。
そんな中、知らなかったフリー・ソウル的名曲を発見。
ヨーロッパ~フランス・イタリア・ドイツ・オンリー・プレス? 日本盤は当時なさそうです。この後の作品は日本盤たくさんありますが。フレンチ・シンガー・ソングライター David Cristieの「Love Is The Most Important Thing」という、タイトルも「愛は最も素晴らしいもの」なんて。
曲は、ティナ・チャールズ・ヴァージョンでヒットした「I Love To Love」のJack Robinson & James Boldenのお二人。フルートとギター・カッティングによる軽快なスロウ・ディスコに合唱のサビ。知りませんでした。
それとは逆に、ブルー・アイド・ソウルのブロウ・モンキーズに亀裂が入ったからこそのインクレディブル・ボンゴ・バンド「Apache」使いのスパニッシュ・ギター炸裂のマンチェ・バレアリックな解散直前の名曲「La Passionara」。近年の短かすぎる秋が終わるまでに聴いていたい一曲です。
まだまだ暑い夏のような秋が続きますが、身体にお気をつけて、たくさん音楽を聴いてください。

2021 Early Autumn 渡辺

Simply Red『Live In Cuba Vol.2』
Betty Wright『Live』
David Christie「Love Is The Most Important Thing」
The Blow Monkeys「La Passionara」

Dinner-time 金曜日22:00~24:00
Cafe Apres-minuit 土曜日0:00~2:00



富永珠梨 Juri Tominaga

2021 Eary Autumn Selectionのベストワンには、ケイト・マクギャリーが、2018年にリリースしたアルバム『The Subject Tonight Is Love』をセレクトしました。2019年グラミー賞「ベスト・ジャズ・ヴォーカル・アルバム」にノミネートされたことでも知られる傑作です。気心知れたミュージシャン仲間とともに吹き込んだ、リラックスした雰囲気に包まれたフレンドリーなアルバム。ケイトの透明感に満ちた歌声と、シンプルな編成で奏でられたアコースティックなスタンダード&オリジナル・ナンバーに思わず笑顔がこぼれます。こんなに可憐で瑞々しい「Secret Love」は、ほかに聴いたことがありません。ヨーロッパの古い絵葉書のような、美しく愛らしいアートワークにも心惹かれます。秋のはじまりの風景がよく似合う、心透き通る軽やかなジャズ作品です。

こちらの作品は、先日7年ぶりにリリースされた、山本勇樹さん監修のディスクガイド本『クワイエット・コーナー 2 ~ 日常に寄り添う音楽集』でも紹介されています。唐突ですが、ここでちょっと、個人的なご報告を。実は大変僭越ながら、こちらのディスクガイド本に、わたしも執筆陣のひとりとして、参加させていただいております。わたし自身、もともとクワイエット・コーナーのコンピレイションCDはもちろん、第1弾の書籍、そしてすべての源流となる、2010年にHMVのフリーペーパーとしてスタートした「Quiet Corner」の長年のファンでもありました。まさか自分が、憧れの作品に執筆者として参加させていただけるなんて……ほんとうに夢のようです。

クワイエット・コーナー・ファンや、CD/レコード愛好家はもちろん、ジャンルにこだわらず、心地よい音楽が好き&そんな音楽を探している方、読書好きの方にもおすすめなディスクガイド本です。日常の風景にやさしく寄り添い、ささやかな幸せと豊かな彩りを届けてくれる一冊。書籍と同時リリースされた、コンピレイションCD『Quiet Corner – Ma Fleur』も、ほのかに香る可憐な花のように、心をゆったりとリラックスさせてくれる、美しく穏やかな音楽が、ひとつひとつ丁寧に紡がれています。みなさま、ぜひチェックしてみてくださいね!

2021 Early Autumn 珠梨

Kate McGarry, Keith Ganz & Gary Versace『The Subject Tonight Is Love』
『クワイエット・コーナー 2 ~ 日常に寄り添う音楽集』
V.A.『Quiet Corner – Ma Fleur』

Brunch-time 土曜日10:00~12:00



小林恭 Takashi Kobayashi

夏の終わりを感じさせるメロウで心地よい曲を中心に今回もオールジャンルで選曲しています。
今回はピックアップしている16枚の中からMockyのニュー・アルバム『Overtones For The Omniverse』を特にお薦めします。
このアルバムはモッキーが(誰もが)敬愛するスティーヴィー・ワンダーの『Music Of My Mind』『Talking Book』『Songs In The Key Of Life』などと同じスタジオの、なんと同じ部屋で録音が行われたそうです。今回選曲した、そのこだわりを題名とした「Stevie's Room」、前回に選曲した「Bora!」をはじめ、ストリングスをふんだんに使用したヴィンテージ感覚なサウンドはポップス、R&B、ラテン、クラッシックなどジャンルを包括した彼独自の包容力のある暖かい表現で、聴く人の心を安らがせてくれます。モーゼス・サムニー、ニア・アンドリューズ、ファイスト、エディ・チャコンなど大好きなシンガーが合唱コーラスで参加しているのも豪華です。夏から秋へと変わるこの季節にとてもお似合いなアルバムなので、ぜひ聴いてみてください。

2021 Early Autumn 小林

Green-House『Music For Living Spaces』
Joseph Schiano di Lombo『Musique de niche』
Sea Span「Not Far Down」
Rudy's Midnight Machine『Crystal Dragonfly』
Quinn Oulton『Show Your Face』
Charlotte Day Wilson『Alpha』
Mathieu Boogaerts『En anglais』
Mocky『Overtones For The Omniverse』
Sault『Nine』
McClenney & CHIKA「Too much sun in LA」
Amaro Freitas『Sankofa』
Luca Mundaca「Momento」
Vanessa Moreno『Sentido』
TonicMotion & Jasper The Jeweler「Something About You」
Rosie Turton「Part II」
Sam Gendel & Sam Wilkes『Music For Saxofone And Bass Guitar More Songs』

Dinner-time 土曜日18:00~22:00



ヒロチカーノ hirochikano

2021年の夏の終わり、現代の街音の感覚を手探りで探している中から、ポップなジャケットのセンスが目に止まって偶然出会った1曲を。どこか懐かしさを感じるラヴァーズ風の心地いいグルーヴ感の中で、抑制の効いたRi-Anのウィスパー・ヴォイスが重なるミラクルなアレンジは、パーティー向けのキラー・チューンとしても、ぜひレコードバッグに忍ばせておきたいお気に入りです。
何より、このトラックから感じるポジティヴなヴァイブが、こんな時代の街の中でも、きっと聴く人の心を素敵でシアワセな心地にしてくれることでしょう。

2021 Early Autumn 野村

Ri-An「Confidence」

Brunch-time 日曜日10:00~12:00



吉本宏 Hiroshi Yoshimoto

ウィッスルとフィンガースナップに導かれるスウィート&メロウなフィメイル・ヴォーカルの「Polar Opposite」をタイトルに冠したオーストラリアはメルボルンのアーティスト、ザック・ロバートソンのデビュー・アルバム。昨春のアッシュ・ケネディーをフィーチャーしたデビュー・ソロ・シングル「Closer」や、昨秋のウィル・クリフをフィーチャーしたセカンド・シングル「Slowly」を含み、その他の曲にもそれぞれにゲスト・ヴォーカルを迎えたメロウなR&Bアルバムに仕上がった。しっとりと秋の夜に。

2021_Early Autumn_吉本

Zac Robertson『Polar Opposite』

Dinner-time 日曜日18:00~22:00



高橋孝治 Koji Takahashi

変異を繰り返し、感染力を強めているコロナウイルスですが、今後この変異によって感染力が弱まることってないんですかね? 仮面ライダーのように、最初は悪の手によって創り出されたものが、正義の味方に生まれ変わったように、変異によってどんな病気も退治してしまうスーパー・ウイルスにでもなってくれたら嬉しいのですが、現実では変異するたびに感染力が強まって、悪のパワーが増しているんですから、全くもって困ったものです。

しかし、そんなコロナウイルスと同列に語っては不謹慎ですが、この「usen for Cafe Apres-midi」のモットーは、常に進化し、アップデートしていくことです。今回もイントロやインタールードに使用したインストゥルメンタル・ナンバー数曲を除いて4時間すべて初出の作品で構成したので、リスナーの方たちの先にある新たな扉を開けることを心に想い、フレッシュな音楽満載でお届けしたいと思います。

まずディナータイム前半は、ニューヨーク出身のアーティスト、Unknown Callerの最新作「Borderline」や、カリフォルニア州ロングビーチで活動するベッドルーム・ポップ・アーティストのデレク・シンプソンの「Xing」、南カリフォルニアを拠点にしているライアンとジョーイのSelan兄弟によるデュオ、 ザ・ラグーンスが6月8日にリリースしたニュー・シングル 「Dial Tones (Voicemail)」などのクールなナンバーをセレクトしてスタート。特にザ・ラグーンスの「Dial Tones (Voicemail)」はお気に入りで、日本語で「甘~い、甘~い」と空耳してしまうフレーズが頭から離れません(笑)。他にミシェル・ザウナーによるソロ・プロジェクト、ジャパニーズ・ブレックファストの4年ぶりとなるサード・アルバム『Jubiliee』収録の「In Hell」や、90年代に一世を風靡したマンチェスター・サウンドを思い起こさせるペンシルヴェニア州フィラデルフィア出身のアーティスト、Ali Awanの「Dogs Of Fire」、フロリダ州オーランド出身のシンガー兼プロデューサーであるMatt Bullarによるソロ・プロジェクト、Urlの「Honey」、キラキラとした幸せな光を放つ、香港出身で現在はロンドンで活動するサクラという女性アーティストの「Call It Divine」、さらにラルフ・TVの笑顔はじけるポップ・ソング「Superfood」、そして日本のCity Popの多大なる影響が作品から溢れ出ているカリフォルニアを拠点に活動するアジア系アーティスト、ジンジャー・ルートの「Loretta」などもピックアップ。
ディナータイム後半は、ポルトガル北部のモンサォンで活動するNana Lourdesの、キュートな楽曲に反し歌詞の内容は悲しみを綴っている「Made Your Mama Cry」や、イギリス人とアメリカ人から成る4人組53thievesの「Waterfront」、カナダはケベック州モントリオールのアーティストBeloeilの、フランス語と英語が混ざり合って歌われる「Les Kids」、日本をイメージしたアニメイションを使った「Yoshinoya」なんて作品もリリースしている、オーストリア出身の男性デュオPeach Tintedの「Peach Tinted」、オーストラリアのニューサウスウェールズ州出身で現在はシドニーに拠点を移して活動するYen Strangeのデビュー曲「Donnie Darko」(難解な作品として有名な、リチャード・ケリー監督の同名映画と何か関係があるのかな?)、同じくオーストラリアはメルボルンのドリーム・ポップ・バンド、Aeroplane Modenoの「Grow Ups」など、マイナスイオンのように心をクールダウンしてくれる作品をセレクトして構成しました。
日をまたぐミッドナイトからのセレクションは、自分の選曲ではお馴染みとなったイラン系イギリス人のCyrus Shahradの音楽プロジェクトHiatusが、実の父親の朗読(説法?)をフィーチャーした「Human」から、オクラホマで活動する男性デュオ、ハズバンズの「Burn The Witches」へと繋げてスタート。声の質がキングス・オブ・コンヴィニエンスにちょっぴり似ている、カナダはケベック出身のこれまた男性デュオ、Sunderloomの「Disbeliefs」や、ローファイ・ハウスのシーンからキャリアをスタートさせたスウェーデン出身のDJ・セインフェルドがNinja Tuneよりリリース予定の最新作『Mirrors』に収録される「U Already Know」、イギリスはマンチェスター出身のシンガー・ソングライター、フランシス・ラングが6月にリリースした最新アルバム『Miracle』に収録されているポップなナンバー「The Let Down」、イギリスの北東部にある工業都市、ニューカッスル・アポン・タインを拠点に活動するTrunky Junoのこちらも上質なポップ・ナンバーに仕上がった「Serial Killer Vibes」、90年代の音楽シーンに多大な影響を受けたと公言するニューヨークはブルックリンのシンガー・ソングライターMiddle Partの「2morrow」、そしてアメリカのウィスコンシン州マディソンで活動する4人組Slow Pulpの「At It Again」などをセレクトし、爽やかなポップ・ソング集といった趣で構成しました。
ミッドナイト後半は、マレイシアの首都、クアラルンプールで活動する男女デュオ、ミント・チェリーがたおやかなドリーム・ポップを奏でる「Stay」や、イギリスのリーズ出身のアーティスト、Jwesternのスムースなダンス・ナンバー「Active Guy」、ロサンゼルス出身の女性アーティスト、Fousheéによるデペッシュ・モードの2004年作「Enjoy The Silence」のカヴァー、そして英国のシンガー・ソングライター、ローラ・マーリングと、プロデューサーのマイク・リンゼイによるプロジェクト、ランプのセカンド・アルバム『Animal』収録曲「We Cannot Resist」などをピックアップして、アクセントにテネシー州メンフィス出身のサイケデリック・ロック・バンドSpacefaceの「Happens All The Time」や、ニューヨークはブルックリンで活動するシンガー・ソングライター、Rickie Quakeの「Afterglow」をちりばめ、最後は90年代のジャジーなヒップホップを思い起こす、ロンドンを拠点に活動するUKの謎多きユニット、Saultの99日間限定でストリーミング及びダウンロードやフィジカル・アイテムの購入が可能なアルバム『Nine』収録の「Bitter Streets」を選んで、初秋のセレクションは幕を閉じます。

さて、ここからはまたもや誰も興味がないであろう、個人的覚え書きのような独り言をぶつぶつと語っていくのですが、前回のコメントでペイル・ファウンテンズのスペインのTV出演時のライヴ映像完全版など、長年観たかったものを立て続けに観ることができて感動した出来事を書きましたが、最近またしても観たくて観たくてしょうがなかったある映像を、念願かなって鑑賞することができたので、それについて書いてみようと思います。
カーソン・マッカラーズの小説『心は孤独な狩人』を原作にした1968年のアメリカ映画『愛すれど心さびしく』は、このコメント欄でも何度か書いたように自分にはとても思い入れのある大好きな作品です。そしてコロナ禍以降に興味を持ち、いろいろとリサーチをして楽しんでいる昔TV放送のために制作された吹き替え映画の中に、この作品も含まれるのか調べてみました。するとWikipediaに1976年3月28日に『日曜洋画劇場』で吹き替え版が放送され、なんと近年の2016年にスカパー!の映画専門チャンネル『ザ・シネマ』にて再放送されたことが記されていました。それを知ってからは、この映画の吹替え版が観たくて観たくて、夢にも出てくる次第でした。そしてなんとその願いがかない、今回あるお方のご厚意によって『ザ・シネマ』の録画映像を鑑賞することができたのです。Wikipediaによると『日曜洋画劇場』版はカットが施された96分ヴァージョンと書いてありましたが、『ザ・シネマ』版も、黒人のコープランド医師が主人公のシンガーに心を開き、家族には内緒にしている自身の病について打ち明けた後、シンガーが部屋を間借りしている家の娘であるミックが開くホーム・パーティーのシーンなどがカットされており、96分の短縮版になっていたので、たぶんこれは『日曜洋画劇場』と同じ構成になっているのだと思います。しかしこの『ザ・シネマ』版は自分の想像以上に素晴らしいものでした。まずはその画像の美しさです。残念ながらこの映画はブルーレイでは発売されていませんが、所有する国内盤DVDと映像を比べてみると、明らかに『ザ・シネマ』版は細かな部分がつぶれた感じのDVD映像より美しく、輪郭などがハッキリとしていて、感動的なまでの美しい映像を観ることができました。さらにこの『ザ・シネマ』版の素晴らしい点は、ろうあ者であるシンガーの手話のシーンに字幕が入っていることでした。DVDには手話のシーンには一切字幕が入っておらず、そのシーンでは今まで何を語っているのか全くわかりませんでした。しかし今回初めてその内容を知ることができ、大好きな映画により深く触れることができて、とても感慨深いです。そしてその手話のシーンの字幕がとても温かみのある手書きフォントで書かれていて、これにもとても感動しました。これはそのフォントから察して、1976年当時の『日曜洋画劇場』版の映像がそのまま使われている可能性が高いですね。さらに2021年8月14日現在YouTubeで視聴できる海外の方がアップされているこの映画のフル映像を確認すると、手話のシーンに英語字幕は入っていなかったので、海外盤ソフトにも字幕は入っていない可能性が高く、このことからもこの映像の貴重性は高まり、改めて素晴らしいものが鑑賞できたことに感動しております。

2021 Early Autumn 高橋

Unknown Caller「Borderline」
Derek Simpson「Xing」
The Lagoons「Dial Tones (Voicemail)」
Japanese Breakfast『Jubiliee』
Ali Awan『Moon Mode』
Url「Honey」
Sakura「Call It Divine」
Ralph TV「Superfood」
Ginger Root『City Slicker』
Nana Lourdes「Made Your Mama Cry」
53thieves「Waterfront」
Beloeil「Les Kids」
Peach Tinted「Peach Tinted」
Yen Strange「Donnie Darko」
Aeroplane Modeno「Grow Ups」
Husbands『Must Be Cop』
Sunderloom「Disbeliefs」
DJ Seinfeld「U Already Know」
Francis Lung「The Let Down」
Trunky Juno「Serial Killer Vibes」
Middle Part「2morrow」
Slow Pulp『Moveys』
Mint Cherry「Stay」
Jwestern「Active Guy」
Fousheé「Enjoy The Silence」
Spaceface「Happens All The Time」
Richie Quake『Voyager』
Sault『Nine』

Dinner-time 日曜日22:00~24:00
Cafe Apres-minuit 月曜日0:00~2:00



山本勇樹 Yuuki Yamamoto

まずは8月の大雨災害につきまして、被害に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。そういった状況でも、季節だけは確実に変化していくのが常でありますが、この初秋は、そんな心や身体を癒し、気持ちが少しでもポジティヴになれるような選曲を心がけました。手前みそで恐縮ですが、ちょうど先日発売されたばかりの新刊ディスクガイド『クワイエット・コーナー2 ~ 日常に寄り添う音楽集』に掲載された作品と、最新作コンピ『Quiet Corner – Ma Fleur』に収録された曲を中心に、色づきはじめる街の風景に似合う曲を並べています。爽やかなサロン・ジャズや、フォーキーなシンガー・ソングライターはもちろんのこと、メロウな雰囲気のベッドルーム・ポップ、インティメイトなR&Bなど、どれもアプレミディ・チャンネルらしいタイムリーな曲ばかりで、きっと秋晴れのランチタイム~ティータイムを素敵に演出してくれると思います。穏やかな日常が戻ることを願いながら、BGMで少しでもお手伝いできればうれしいです。

2021 Early Autumn 山本

『クワイエット・コーナー 2 ~ 日常に寄り添う音楽集』
V.A.『Quiet Corner – Ma Fleur』

Lunch-time~Tea-time 月曜日12:00~16:00



武田誠 Makoto Takeda

カナダ・ケベック州モントリオールという芸術都市(いきなり余談ですが、MoMAの設計でも知られる世界的に有名な建築家・谷口吉生が手がけた葛西臨海水族園のエントランスホールは、そのモントリオール・サンテレーヌ島にあるバイオスフィアにそっくりで、僕の住む街の近くということもあって勝手に親近感をいだいています)で音楽家としてはもちろん、このアルバム・ジャケットに彼女と共に映る彫刻作品のような多彩な現代美術にたずさわっていたり、アニメイション作家としても活動するSteph Yatesによる最新の音楽プロジェクトCots。今までEsther Grey、Cupcake Ductapeといったユニットで作品をリリースしていた彼女ですが、それらで聴けるオルタナティヴな音楽性とはことなったジャジーでボッサでフォーキーな本作は、トロントであのサンドロ・ペリ(!)、そして市内のジャズ・ミュージシャンたちと出会い、オンタリオ州ゲルフにあるScott Merritt(IRSからリリースしていたミュージシャン、わあ懐かしい!)のスタジオでレコーディングされたという。管楽器の柔らかなアンサンブルが温かみを添える、その独特の詩の世界観へと誘う静謐とした親密な楽曲は、アート側の表現者がその優れた感性だけでとても美しいメロディーを紡いでしまった、みたいな感覚の作品(例えばArthur Russellとか)に近く、初秋の風景にとてもしっくりと合いそうです。
先日コロナウイルスのワクチン集団接種会場で、2回の接種をすませてきました。いわゆる接種直後に現れるかもしれない副反応への対応のため、細かく時間別にグループ分けされた自分たちは、縦一列に並べられた椅子に座らされ、衣服をめくって左腕をいっせいに差し出します。そしてその裸の腕がズラッと並ぶ左側の通路をキャスター付きの業務用チェアに座った看護士さん二人が前から後ろへと順に、まずはアルコール消毒、次に注射、と手際よく接種を進めていくのです。寡黙にそんな仕事をこなしていく、心に何かとても力強い意志を持っているであろう看護師さんたちのその姿を見ていて、僕は思わず泣きだしそうになっていました。これは、なんだ、SF映画のワン・シーンか? 未知の生命体と人類の戦いの? と──。
ステイホームが余儀なくされる今、このBGMが鳴るカフェやさまざまなショップへしっかりと感染予防対策をとられ訪れることで、少しでもささやかな喜びみたいな瞬間がうまれることを、心から願ってやみません。

2021 Early Autumn 武田

Shin Sasakubo『Chichibu』
Brendan Eder Ensemble feat. Edward Blankman「Three」
Cots「Disturbing Body」
Clara Presta『Pájara』
Astronauts, etc.「Nature」
Clairo『Sling』
Rodrigo Amarante『Drama』
Devendra Banhart & Noah Georgeson『Refuge』

Lunch-time~Tea-time 火曜日12:00~16:00



waltzanova

今回のEarly Autumn Selectionは、いくつかの小特集を設定しながら選曲をしました。まずは「1971年特集」です。Apple TV+で『1971:その年、音楽が全てを変えた』というドキュメンタリーが配信されていますが、この年にリリースされたアルバムを思いつくままに挙げてみるとマーヴィン・ゲイ『What’s Going On』、スライ&ザ・ファミリー・ストーン『There’s A Riot Goin’ On』、キャロル・キング『Tapestry』、ジョニ・ミッチェル『Blue』、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング『Déjà Vu』、ローリング・ストーンズ『Sticky Fingers』、レッド・ツェッペリン『Led Zeppelin IV』……。惑星直列かのようにクラシック・アルバムが並んでいますね。ビートルズ関係だと、ジョン・レノンは『Imagine』、ポール・マッカートニー『Ram』の年(先ごろ50周年記念盤がリリースされたのでわかりづらいですが、ジョージ・ハリスン『All Things Must Pass』はその前年、1970年作です)。いやー、改めて凄い年であります。

前半のタイムラインを追いつつ、解題という感じで書いていきますね。『Ram』は一時期からポール一世一代の傑作と思っている僕なので、このアルバムと同時期の傑作シングル「Another Day」を入れようと思ったのですが、彼の最新作を若い世代のアーティスト中心に再構築した『McCartney III Imagined』がとても良く、そこからドミニク・ファイクが手がけたキュートな「The Kiss Of Venus」を実質的なオープニングにすることにしました。やはりキュートな魅力が全開の女性インディー・シンガー・ソングライター、フェイ・ウェブスターの『I Know I’m Funny haha』は、今回のアルバム・オブ・ザ・セレクションですが、この流れでローラ・アラン、ヴァレリー・カーターという70年代の女性SSWにつなげたのもセレクターとしては手応えを感じられました。ここ最近「usen for Cafe Apres-midi」チャンネル的に打率の高いウーター・ヘメルの「LUCKY STREAK」、アルトゥール・ヴェロカイがプロデュースしたRubelの「O Homem da Injeção II」と、ナイス・ボッサ~ブラジリアン・ナンバーが続きます。このあたりはソングス・オブ・ザ・マンス・コーナーという感じですが、カート・エリングの「Manic Panic Epiphanic」は、waltzanova的推し曲です。彼は日本で7インチ化された「Steppin’ Out」に代表されるように、現代的な感覚を持ちつつ伝統に則ったジャズ・ヴォーカリストというイメージだと思うのですが、この曲ではかなりネオ・ソウル的なアプローチを試みています。キーパーソンは個性派で知られる名ギタリスト、チャーリー・ハンター。彼はフランク・オーシャンの2010s・アーバン・クラシック「Sweet Life」でも素晴らしいプレイを聴かせていましたが、それをぐっとアダルトな仕上がりにしたような、というとわかっていただけるでしょうか。カートと彼がタッグを組んだ新作『SuperBlue』も楽しみです。

さて、1971年特集にも触れていきますね。ソウル~ジャズ寄りにシフトした流れの中で登場するのは、スライ&ザ・ファミリー・ストーン「(You Caught Me) Smilin’」カヴァー。ヒリヒリするような感触の『There’s A Riot Goin’ On』の中で最も優しさを感じさせる名曲を、クラブ・シーンで人気のヴァイブ奏者、ビリー・ウッテンが率いたとされるナインティース・ホール名義のレア・グルーヴ名盤から。ここからどちらも安定のKieferやジョン・キャロル・カービーといったジャジーな時間帯になっていくのですが、小沢健二の『Ecology Of Everyday Life 毎日の環境学』の話もしておきたいです。2006年にリリースされたこのアルバム、当時は全編インストだったこともあり、小沢ファンからはその前作『Eclectic』以上に戸惑いを持って迎えられた……というか、ほとんど黙殺されていたような印象を受けます。しかしそれから15年、アーバン・ジャズとして聴くとこれがとても素晴らしい! もちろん、『LIFE』の続編的なものを求めている方には厳しいと思いますが(汗)、「usen for Cafe Apres-midi」のリスナーの方にはその良さが間違いなく伝わると思うので、15年ごしの小沢健二~かつての渋谷系ファンからのレコメンということで、気になった方はぜひ聴いてみてください。彼らしい親しみやすさがメロディーやアレンジに表れていて、心ある音楽ファンの方なら「わかる!」という感じだと思います。Early Autumn Selectionは、秋の始まり/夏の終わりのバランスが重要なのですが、後者で言うとジョン・メイヤーの「Why You No Love Me」がバッチリでした。新作『Sob Rock』は、あふれるエイティーズ愛、それも彼の所属するCBSレコードのデザインを徹底的に研究したジャケほどにはグッとくる感じではなかったですが(笑)、海を眺めながら聴きたいこの曲は自作のAOR~ヨット・ロックのテープに入れたいですね。

そして1971年絡みの曲が続くセクションは、ジョニ・ミッチェルの秋にリリースされるアーカイヴ第2集から、ジェイムス・ブレイクもカヴァーした名曲「A Case Of You」のデモ・ヴァージョン。続いてはフライング・ブリトー・ブラザーズ「Wild Horses」。グループの中心人物だったグラム・パーソンズは、この曲のオリジナルであるローリング・ストーンズのキース・リチャーズとの親交でも知られるカントリー・ロックの伝説的アーティスト。こういうルーツ・ロック的な曲を忍ばせられるのもこのチャンネルならではですが、かつて橋本さんがカフェ・アプレミディ・コンピにリトル・フィートの「Willin’」をエントリーしていたことを思い出しながら、この曲を選んでおりました(笑)。ダイアナ・ロスは「Imagine/Save The Children」とジョン・レノン/マーヴィン・ゲイのおトクな(?)メドレー。こうやって並べると、1971年がラヴ&ピースの時代だったことが強く浮かび上がります。同じくマーヴィン・ゲイ「What’s Happening Brother」のピアノ・ソロで奏でられる静謐なヴァーノン・スプリング版へとつなぎました。

9月~10月上旬の放送ということもあり、ハーヴェスト・ムーン/ビル・エヴァンス追悼(9月15日が命日です)は毎年恒例なのですが、前者はサマラ・ジョイ「Moonglow」やベラミー・ヤング「Grapefruit Moon」(トム・ウェイツの名曲カヴァー)にLaufey「Like The Movie」やサシャル・ヴァサンダーニ&ローマン・コリン「Summer No School」を挟み込み、ノスタルジック~オールド・タイミー、さらにはクワイエットなひとときを作り出せたと思います。ラストに置いたのは、ヴォーカルにブリトニー・ハワードを迎えたネイト・スミス「Fly (For Mike)」。映画のエンドロールのような、心に沁みわたる名曲。ビル・エヴァンスはジャズ史に残る1961年のヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴから60周年ということもあり、5枚組CDボックス『Everybody Still Digs Bill Evans』が発売されましたね。こちらの未発表曲からとも考えたのですが、ジョン・ピザレリのソロ・ギターによるパット・メセニー・カヴァー集から「September Fifteenth」を選びました。

オープニング・クラシックは前回に引き続き、モーツァルト作品で「ピアノ協奏曲20番」から。最近出た村上春樹の『古くて素敵なクラシック・レコードたち』でも取り上げられていました。短調の20番と24番がお気に入りだとか。春樹さんは「クラシック・レコードに関しては、僕はジャケット・デザインにかなりこだわる」そうです。というのは「ジャケットの魅力的なレコードは中身も素敵であることがなぜか多いからだ」そうですが、思わず橋本さんの「Suburbia Suite」についての編集方針を思い出してしまいました。この本にはいろいろ気になるレコードが紹介されているので、次回以降、影響を受けた作品が登場するかもしれませんね。

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内田光子, The Cleveland Orchestra『Mozart: Piano Concertos No. 20, K466 & No. 27, K595 (Live)』
Paul McCartney『McCartney Ⅲ Imagined』
Faye Webster『I Know I'm Funny haha』
Rubel「O Homem da Injeção II」
Kurt Elling feat. Charlie Hunter「Manic Panic Epiphanic」
John Caroll Kirby『Septet』
小沢健二『Ecology Of Everyday Life 毎日の環境学』
John Mayer『Sob Rock』
Joni Mitchell『Blue 50 (Demos & Outtakes)』
The Flying Burrito Brothers『Burrito Deluxe』
Diana Ross『Touch Me In The Morning (Expanded Edition)』
The Vernon Spring「What's Happening Brother」
Samara Joy『Samara Joy』
Laufey『Typical Of Me』
Sachal Vasandani & Romain Collin『Midnight Shelter』
Nate Smith feat. Brittany Howard「Fly (For Mike)」

Lunch-time~Tea-time 水曜日12:00~16:00

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