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Voice of “usen for Cafe Apres-midi” Crew

2018 Spring Selection(4月2日〜5月20日)

橋本徹(SUBURBIA)を始めとする
「usen for Cafe Apres-midi」の選曲家17人が
それぞれのセレクトした音楽への思いを綴る
「Voice of “usen for Cafe Apres-midi” Crew」

詳しい放送内容はこちら
D-03 usen for Cafe Apres-midi



橋本徹(「usen for Cafe Apres-midi」プロデューサー) Toru Hashimoto

春爛漫、という気分で光の季節を祝福するような、メロウ&グルーヴィーで心地よい楽曲を中心に、今回も計34時間分を新たに選曲した。

金・土・日トワイライトタイムの特集は、このところジャズ〜ソウル〜ベース・ミュージック〜ビート・ミュージック〜ハウス〜ダブなどが融合した新鋭アーティストによる傑作が次々に生まれ、活況を極めているロンドン新世代シーンにフォーカスした「2018年・春──ロンドン・コーリング」。期待に違わぬニュー・アルバムが届くサウス・ロンドンの星トム・ミッシュやジェイミー・アイザック、UKアコースティック・ソウルのAdy SuleimanにUKエクレクティック・ジャズのヌビア・ガルシアやジョー・アーモン・ジョーンズを始めとする精鋭たち、ナイジェリアから渡ったAzekelやサウス・アフリカから渡ったNakhaneといった魅力的なヴォーカリスト、ロイル・カーナー/コスモ・パイク/プーマ・ブルー/ルーシー・ルー/ローラ・ミッシュからBruno Major/Noya Rao/Reginald Omas Mamode IVまで2017年のベスト・セレクションに選んだ面々もフィーチャーしている。

『Geography』からのリード・シングルをいずれもヘヴィー・プレイし続けてきたトム・ミッシュは、アルバム収録曲もすべて粒揃いで、高校野球のシーズンということもあり、まるで大阪桐蔭のような強力打線、と感じてしまうほど。切り込み隊長はゴールドリンクをフィーチャーした抜群のニュー・シングル「Lost In Paris」、ロイル・カーナーとの「Water Baby」やデ・ラ・ソウルとの「It Runs Through Me」にボビー・アジューダとの「Disco Yes」あたりがクリーンアップだろうか。「Movie」や「South Of The River」に「Cos I Love You」などバイ・プレイヤーも機動力と長打力を兼ね備え、スティーヴィー・ワンダー「Isn't She Lovely」やパトリック・ワトソン「Man Like You」のカヴァーも泣ける。この春から夏にかけて、サウス・ロンドンからはトム・ミッシュ以外にもロイル・カーナーやコスモ・パイクも日本公演にやってくるから、今から楽しみでならない。

やはり来日ライヴを切望したいサウス・ロンドンのフェイヴァリット・アーティスト、ジェイミー・アイザックとプーマ・ブルーの新曲群もとても気に入っている。キング・クルールとブリット・スクールの同級生であり、ジェイムス・ブレイク×チェット・ベイカーと形容したくなるような前者は、ダブステップ以降の素晴らしいSSW×ジャズ・ヴォーカルで、エレクトロニック世代のボッサ・フィーリングも漂わせる。キング・クルールやジャックカーブとも共振するブルー・ウェイヴなローファイ・ベッドルーム・ジャズという趣きの後者は、盟友ルーシー・ルーの新曲への客演(前シングルでも共作していた)も光っていた。

サウス・ロンドンを発火点とするUKジャズの隆盛については後ほど詳しく触れることにするが、ヴォーカリストならAdy Suleimanの待望のファースト・アルバム『Memories』が好感度大。チャンス・ザ・ラッパーが絶賛し、僕が2015年に最もよく聴いたドニー・トランペット&ザ・ソーシャル・エクスペリメントの『Surf』に参加していたことでも知られる彼は(ジョーイ・バッドアスと共演していたのも忘れられない)、実はUKソウル・シンガーで、2年くらい前にジャイルス・ピーターソンが注目していて感心したのを憶えている。ジャズやレゲエの風味もほんのり香る多幸感とアコースティックな風合いが快い春らしいソウル・アルバムだ。

マッシヴ・アタックの「Ritual Spirit」にフィーチャーされ、プリンスのお墨つきでもあった、ナイジェリアからイースト・ロンドンへと移住したAzekelも、去年の暮れに出た「Don't Wake The Babies」を気に入って以来よくかけてきたが、その後も「Hollow」〜「Pyramids & Starships」〜「Loading」と3曲のナイス・シングルを好調にリリースしており、要注目のUKブラックSSWと言っていいだろう。2017年に輝きを放ったモーゼス・サムニーやサンファ、ダニエル・シーザーらに続く存在の内省的なハイブリッド・ソウル・ミュージック、と僕は位置づけていて、アルバムの完成が待ちきれない。

南アフリカはポートエリザベス出身でロンドンへ活躍の場を移すNakhaneがBMGフランスから出したばかりのセカンド・アルバム『You Will Not Die』も聴き応え十分。2013年のファースト・アルバム『Brave Confusion』のオープニングを飾ったプリンスを思わせる「Christopher」も逸品で、僕にはサウス・アフリカ・ディープ・ハウスの第一人者ブラック・コーヒーの「We Dance Again」での歌声も印象的だった彼の、官能的なヴォーカルの魅力が極まっているのが「Presbyteria」だろう。タイトル曲の素晴らしく沁みるピアノ弾き語りのライヴ・ヴァージョンも必聴だ。

アルバムの到着が待ち遠しいという意味では、ボルティモア出身で現在はNYを拠点とするクラシックの素養もある黒人SSWサーペントウィズフィートを特筆しておきたい。昨年末に出たビョークの傑作アルバム『Utopia』で最も好きだった曲「Blissing Me」のリミックス12インチが3月初めにリリースされたが、そこで素晴らしすぎるデュエット・ヴァージョンを聴かせてくれたのが彼(エメラルド色のアクア・カラー・ヴァイナルで、裏面のハープ・ヴァージョンも美しい)。名門インディーTri Angleの重鎮ハクサン・クロークがプロデュースしたEP『Blisters』で、エクスペリメンタルR&B/アンビエント・ゴスペルの新星と注目を浴びていたが、6月に発表されるというファースト・アルバム『soil』からの先行曲「bless ur heart」が今年に入ってNo.1ではないかと思うほど感動的だ。

RhyeやBonoboあるいはシャーデーを思わせる官能的かつ繊細な美意識と憂いのあるシルキーな歌声、と前クールでも紹介して先行シングルをかけ続けてきたブリストル出身のシンガー/プロデューサーHenry Greenの『Shift』も期待通りの仕上がり。翳りを帯びたアンビエントR&B×チルアウト×エレクトロニカの良曲が揃っている。

このひと月ほど、プライヴェイトな時間に何となく流していることが多かったのが(最もヘヴィー・ローテイションだったかもしれない)、カリフォルニア出身のSSWマイケル・セイヤーの新作『Bad Bonez』だ。ひたすら気持ちよいベッドルーム・ソウル×スウィート・サイケデリアという感じで、エレピもメロウで心地よく、“ひとり感”のあるTriathalon(前回のこのコラムの最後で推薦したスムース&チルアウトなインディーR&B/ブルー・アイド・ソウル・グループ)と言えばいいだろうか。ジャケットもよくて、曲名もなるほどと思うものばかりで、フィジカルがないと聞いたから、アプレミディ・レコーズで日本盤CDにできないかと、A&Rディレクターにアプローチしてもらっているところだ。

メインストリームに目を移すと、ビヨンセが惚れ込み彼女が率いるParkwoodからデビューしたハイティーンのシンデレラ・ガールズ姉妹(ミシェル・オバマもファンだと公言しているそう)Chloe x Halleの『The Kids Are Alright』が何と言っても愛聴作。とにかくその惚れ惚れとするような歌声の虜になってしまった。ジョーイ・バッドアスが参加したトラップ風ビートのメロディアスなナンバーから、シドやジャミラ・ウッズにも通じるメロウ・ミディアム、荘厳だがシンプルかつ味わい深いバラードまで、ローラ・ムヴーラもこういうアルバムを作ってくれたらいいのに、なんて感じてしまったほど。R&Bもヒップホップも映画音楽もフレッシュ&ダイナミックに溶け合った、2018年最高のポップ・ミュージックのひとつだと思う。

前回すでにレコメンドした、コモン+ロバート・グラスパー+カリーム・リギンスの新バンドであるオーガスト・グリーン(彼らのTiny Desk Concerrtでもフィーチャーされていた本来はピアニストのサモラ・ピンダーヒューズがヴォーカリストとして貢献していることも見逃せない)と、ミシェル・ンデゲオチェロのカヴァー・アルバム(やはりこの季節はプリンス「Sometimes It Snows In April」をかけないわけにはいかない)は、リリースに伴い全曲解禁となり、今回も多くの曲をエントリー。お騒がせな存在ながら全米No.1ヒットに輝き、「カート・コバーンへのミレニアル世代からの回答」と評されたりするのも納得の、ひりひりとした切なさや儚さに心疼かされるXXXTentacionの『?』(ケンドリック・ラマーやエリカ・バドゥ、J・コールやエイサップ・ロッキーも称えているそうだ)や、スヌープ・ドッグが制作した豪華ゲストのゴスペル集『Bible Of Love』もまた然りだ。

Pファンク由来の“スターチャイルド”を名乗り、“Champion Music For Heartbroken”を標榜するスターチャイルド&ザ・ニュー・ロマンティックも、楽しみにしていたフル・アルバム『Language』が届いた。プリンスとシャーデーの大きな影響を公言し、ブラッド・オレンジ〜ソランジュ〜カインドネスをサポートしてきたのもうなずける、ダンサブルかつメロウでアーバンな一枚だ。ジェシ・ボイキンス/JMSN/スミーノ/ジョン・バップ/ジェイムス・ヴィンセント・マクモロウら客演陣も光るSango、マイルス・デイヴィス×ロバート・グラスパー『Everything Is Beautiful』つながりとも言える、ヒップホップ×R&B×ネオ・ソウルを担ってきたフォンテとクリス・デイヴやドゥウェレも参加したブラック・ミルク、エレクトロニカ/ブレイクビーツ・シーンを牽引してきたビートの魔術師ダブリー伝説の三部作の最終章となるヒップホップ・アルバム、初来日公演も好評を博したコンゴ出身でベルギー在住のフランス語ラッパーBalojiのアフロ・ビート×エレクトロニクスが冴える『137 Avenue Kaniama』も充実していた。

NY生まれチリ育ちのNicholas JaarがA.A.Lという別名義でソウル/ファンクのサンプルを駆使したダンス・ミュージック・プロジェクトも、“冴えてる”という言葉が似合う鮮やかな出来映えだったが、ロンドンの現行シーンも相変わらず活発だ。ヴェテランなら今回はエレクトロニックな意匠をまとったトレイシー・ソーン、新鋭ならフランク・オーシャンもフックアップした話題沸騰の多国籍8人組バンドSuperorganism。イギリスのMild High Clubと形容したくなるほんのりサイケデリック&メロウなインディー・エレクトロニック・ポップを聴かせるClub Kuruもロンドンらしいし、シネマティック・オーケストラ×マッシヴ・アタック×ジェイムス・ブレイクと高い評価を受けるサブモーション・オーケストラも健在。マッシヴ・アタックが大プッシュし、映画『T2 トレインスポッテイング』に名曲「Only God Knows」など6曲を提供した、エディンバラ出身のヤング・ファザーズも新作を発表。サブモーション・オーケストラ〜ヤング・ファザーズとも共振するようなサウンドなら、イスラエルはテルアヴィヴのガーデン・シティー・ムーヴメントも聴き逃さないでほしい。

フォーキーなテイストに目を移せば、アヴァン・ジャズからフォークまでを横断するトロント・インディー・シーンでライアン・ドライヴァーと並ぶ僕のお気に入り、エリック・シュノーの『Slowly Paradise』が嬉しいかぎり。とりわけ11分をこえるエンディング曲「Wild Moon」はエクスペリメンタル・フォーク・ジャズの名品だと思う。歌心あふれるオレゴンの女性SSWでオルタナ・フォーク×アメリカーナ・ブルースという雰囲気もあるHaley Heynderickxや、ナッシュヴィル育ちで今はNY在住の女性ソフィー・アリソンのベッドルーム・ポップからバンド・サウンドへと飛躍したプロジェクトSoccer Mommy、ヨ・ラ・テンゴの通算15枚目となるセルフ・プロデュース作『There's A Riot Going On』(スライを模したタイトルも含め、彼らのキャリアの中でも特に印象的かもしれない)、チャンス・ザ・ラッパーのツアー・サポートをしていたことでも知られるNYベースのソウル×フォーク×ポップ・グループThirdstory、オーストラリア発の春めいた晴れやかなギター・ポップ・サウンドVacationsあたりにも触れておきたいが、あまりにも素敵だったのが、サーストン・ムーア始めジャンルをこえて様々なアーティストとコラボレイトしているアンビエント・ハープの名手、メアリー・ラティモアが名門インディーGhostly Internationalから5月にリリースする『Hundreds Of Days』からの先行カット「Hello From The Edge Of The Earth」。優雅でリズミカルかつ幻想的な彼女の作風の美しい結晶のようだ。フォーキーな女性シンガーのシングルなら、ジュディー・シル×ローラ・ニーロ×ジョニ・ミッチェルと思わずにいられなかったスウェーデンのDaniela Serafimova「Image Of A Tree」にも感銘を受けたけれど。

シングルやEP単位でのトピックを列挙するなら、その筆頭は文句なくアンダーソン・パークの「'Til It's Over」だろう。スパイク・ジョンズ監督のAppleの新しいスマート・スピーカーのCMでお披露目されたが、先鋭的なビートを軽やかに乗りこなす彼のフロウが新境地という感じもあって、群を抜くカッコよさ。ディズニー映画新作のために書きおろされたシャーデー待望の8年ぶりのオリジナル曲「Flowers Of The Universe」も、(スチュアート・マシューマン抜きの)シャーデーらしい物哀しくも優しい作品で、歌詞やタイトルもどこまでもシャーデーらしい。ドイツJakarta発のネオ・ソウル×メロウ・ビーツでNoah SleeとMAIAが歌うBluestaeb「Mind」、MndsgnプロデュースでStones ThrowからのProphet「Insanity」もフェイヴァリット。Amber Mark〜Cleo Sol〜Chad Valley〜Smerzなどもブライテスト・ホープと言っていいだろう。カナダ産で日本編集盤が出たばかりのローファイ・スウィートなインディー・ダンス・トリオMen I Trustも。

ジャズではやはり、サウス・ロンドン周辺の『We Out Here』勢を中心とするUKジャズの充実から目が離せない。ヌビア・ガルシア(先日対談した「Straight No Chaser」のポール・ブラッドショウは“ヌバイア”と発音していたが)のニューEP『When We Are』は、クラブ・フィールド/エレクトロニック・ミュージックとの接点のキー・パーソンK15とマックスウェル・オーウィンによるリミックスも収録されていて、そちらも最高。僕はこうしたシーンで何かお薦めを訊かれたら、マイシャやJazz Re:freshedからのリーダー作はもちろん、Touching Bassのブルー・ラヴ・ビーツ、それにエポックメイキングな重要作となったジョー・アーモン・ジョーンズ/マックスウェル・オーウィンのEP『Idiom』など、この女流サックス奏者の参加作品を挙げることにしている(彼女が絡んだ名作を選りすぐった日本編集盤CDを作れたらいいな、と仮想選曲さえしてしまうほどだ)。

そして真打ち、『Idiom』に続いてヌビア・ガルシア/オスカー・ジェローム/マクスウェル・オーウィンも顔を揃えた、ジョー・アーモン・ジョーンズ(エズラ・コレクティヴのピアニストでもある)のBrownswoodからのファースト・アルバム『Starting Today』も、ジャズ〜アフロ〜レゲエ〜ダブ〜ソウル〜ファンク〜ハウス〜テクノ〜ヒップホップ〜ブロークンビーツなどが溶け合ったエクレクティックなシーンの顔に相応しい好内容。UKらしいアーバンなメロウネスに惹かれる「Almost Went Too Far」やスペイシーなダブ・ミーツ・ジャズの金字塔「Mollison Dub」、オスカー・ジェローム活躍のコズミック・ジャズ×ファンク×レゲエ風味の「London's Face」にJ・ディラ〜ロバート・グラスパーの流れにUKから応えたような「Ragify」と、既発だった渾身のタイトル曲を凌ぐような充実ぶりだ。

UKのカマシ・ワシントンとも言われるシャバカ・ハッチングス率いるサンズ・オブ・ケメットのImpulse!移籍第1弾も到着したばかり。2LPは音の艶がより立体的・空間的に輝いていて、これはぜひアナログ盤を薦めたい。カリブ海への憧憬が増したようなサウンドになっているのも歓迎。ユセフ・デイズとのユセフ・カマールでも知られる、やはりサウス・ロンドン重要人物のひとりヘンリー・ウーことカマール・ウィリアムスも、5月に出るムーディーマン〜J・ディラ〜ロニー・リストン・スミス〜ロイ・エアーズ好き必聴のアルバム『The Return』から新曲「Salaam」を。中期ビートルズと英国クラブ・カルチャーを同時に連想させる進化するUKラーガ・ジャズのユナイティング・オブ・オポージットや、スピリチュアル・ジャズの求道を続けるナット・バーチャルも、手応え十分のアルバムを届けてくれた。

シャバカ・ハッチングスも参加したシェイン・クーパーのプロジェクトMabutaの『Welcome To This World』の日本盤CDリリースも決まり、注目の高まる南アフリカでは、前回のコラムでThandi Ntuliと共に触れたベース奏者Benjamin Jephtaの5月リリース予定のニュー・アルバムに先駆けて「Dear My Hodge」を。アメリカでは、NYのジャズ・シーンで活躍するインド系ギタリストRafiq Bhatiaの近況が気になっていて、ソロ・アルバム『Breaking English』のエクスペリメンタル・メロウなタイトル曲を繰り返し聴いている。ヴィジェイ・アイヤーやヴァルゲイル・シグルズソンとも共演していた、ポスト・ロック的な佇まいを感じさせる彼のギター・プレイは、メンバーの一員であるサン・ラックスの新譜でも生かされていて、ビート・ミュージックとの接点もうかがわせる音像に興味が尽きない(そういえば彼はライヴでフライング・ロータスのカヴァーも披露していた)。

このところ好作の多いSunnysideからはジョン・レイモンドの『Joy Ride』。フリューゲルホーン/ギター/ドラムの変則トリオが先鋭的なメロディーを奏で、美しいハーモニーが広がる、NYらしいコスモポリタンな感覚も芳しい作品集だ。プロデュースはマット・ピアソンで、こちらも大活躍のギターはギラッド・へクセルマン。ピーター・ゲイブリエルからボン・イヴェールまでのカヴァーからオリジナル曲まで、そのアレンジの妙に引き込まれてしまう。

やはりカヴァーの妙も含め長年愛好しているジャズ・ピアニストと言えばブラッド・メルドーだが、信頼のブランドNonesuchから極めつけ、バッハをテーマにした彼らしい美学の息づくインプロヴィゼイションに魅了される『After Bach』が発表されたばかり。ジャズとクラシックの境界線をこえて聴き継がれていくだろう名盤の風格をすでに備えていて、僕がかつて選曲した6枚のクラシック・ピアノのコンピレイション、“Classique Apres-midi”シリーズと同じ螺旋階段のジャケットにも感激してしまった。

長年愛好しているアーティストということなら、ブラッド・メルドー以上なのが40年近いキャリアを通して好きな作品ばかりの鬼才キップ・ハンラハン。NYサウス・ブロンクスのインディー・レーベルAmerican Claveを主宰するプロデューサーでありパーカッショニスト。彼の手がけた音楽には独特の芳醇な香り、色気のあるミスティシズムとエキゾティシズムが漂っていて、20代の頃から憧れの存在だったが、10年くらい前に東京のバーでご一緒したときの印象も同様だったのが忘れられない(想像より優しく社交的だったけれど)。ブランドン・ロス始めいつもの錚々たる面々が参加した7年ぶりの新作『Crescent Moon Waning』も、毎度のことながら最高傑作かも、なんて言いながら気づくとCDプレイヤーに入れている。特にNYらしい(というか彼らしい)ジャジー・ソウル・ナンバー「We Were Not Alone」は僕のまわりのFree Soulファンに大好評で、早くヴァイナル・リリースされないかなと切に願っているところだ。

ワールド・ミュージックではアルゼンチン勢が大豊作。4年ぶりの日本ツアーも決まったキケ・シネシは、10弦と7弦のガット・ギターの繊細なタッチと優しい余韻が相変わらず沁みてくる(シンプルで味わい深いギターということならGerardo Villarの名も挙げたいが)。キケ・シネシと同じく2010年に編んだコンピ『素晴らしきメランコリーのアルゼンチン』にエントリーした顔ぶれでは、モダン・フォルクローレを代表する歌姫でありエグベルト・ジスモンチとの親交でも名高いシルヴィア・イリオンドが、カルロス・アギーレ/フアン・ファルー/ハファエル・マルチニらをフィーチャーして期待以上のニュー・アルバムを制作、音の妖精アレハンドロ・フラノフもソロ・ピアノ最新作が到着したばかり。カルロス・アギーレが参加し彼が主宰するShagrada Medraからリリースされたネオ・フォルクローレの男女デュオSilvia Salomone & Alfonso Bekesや、キケ・シネシ/フアン・ファルーをゲストに迎えたやはり男女フォルクローレ・デュオQuinke Duo、そしてそうしたシーンでも存在感が際立つ女性シンガーGeorgina Hassanにも触れておきたい。

さらに、師でもあるディエゴ・スキッシがピアノ/アレンジで全面協力し、フォルクローレからタンゴまでの要素を昇華したアルゼンチン・ジャズで話題の女性歌手・作曲家フロール・フランケル、ディエゴ・スキッシが讃辞を贈るピアニストMatias Martinoのトリオ録音によるオラシオ・サルガン集、エルナン・ハシントら名手がサポートする女性シンガーGabriela Diazのジョニ・ミッチェル・トリビュート、と枚挙に暇がない。ソフト・ロック的なメロディー・センスが光るコルドバの男性SSWのGonza Sanchez、毎度パッケージ・ワークも凝っていて好感を持てる女性グループPuebla、男女ヴォーカルの対比とアトモスフェリックなエレクトロニック×アコースティックが印象に残るYogaなどにも気を留めてほしい。

ブラジルでは、前作もよかったサンパウロの新進ピアノ・トリオCaixa Cuboがボサノヴァの祖ガロートの至宝にフォーカスした粋なブラジリアン・ジャズ盤をよく聴いた。イヴァン・リンスの新譜は70年代黄金期を支えたアレンジャー/キーボード奏者ジルソン・ペランツェッタとの名曲再演集で、エレピと生ピアノの連弾もいい。ポップ・フローレスタTulipa Ruizは日本盤が登場。イギリスのFar Outで復刻されたEdu Passeto & Gui Tavaresの1981年作『Noite Que Brincou De Lua』も、ブラジリアン・ソフト・ロック×フォーキー・サイケ×ミナス風MPB男声コーラスという感じの、知る人ぞ知る名盤だったことも付け加えよう。

ウルグアイが世界に誇るレジェンド、ウーゴ・ファットルーソ率いるプロジェクトCuarteto Orientalあたりや、共にフェラ・クティのアフロ・ビートの後継者、オプティミスティックなファンク×ハイライフ×ジャズを奏でる長男フェミ・クティと“アフリカの夢”を謳う末息子シェウン・クティにも光を当てるべきだろうが、最後に、シルヴィア・ペレス・クルースの初来日公演が間近ということもあってか、このところ一段と脚光を浴びている感のある現代カタルーニャ音楽を。シルヴィアと並び称されるカタルーニャの美形女性SSWで、過去作もどれも「usen for Cafe Apres-midi」でヘヴィー・プレイしてきたジュディット・ネッデルマンの新作『Nua』は、ジェンマ・ウメットなども手がけてきたカタルーニャ・ギターの雄パウ・フィゲレスがプロデュース&アレンジを担当。彼の多彩なギター・ワークも冴える、しなやかでアコースティックな好盤に仕上がっている(特に「Vinc D'un Poble」は大のお気に入り)。ブラジルのボサノヴァやアルゼンチンのネオ・フォルクローレにも通じる、やはりアコースティックなアンサンブルのJoana De Diegoもカタルーニャの女性SSWで、アントニオ・カルロス・ジョビン作「Estrada Do Sol」のカヴァーが印象的。スペインのマック・デマルコとも評されるFerran Palauも、その惹句に違わぬカタルーニャ・インディーの注目株と言っていいだろう。

Tom Misch『Geography』
Jamie Isaac『(04:30) Idler』
Ady Suleiman『Memories』
Azekel「Loading」
Nakhane『You Will Not Die』
Björk feat. serpentwithfeet「Blissing Me」
serpentwithfeet『soil』
Henry Green『Shift』
Michael Seyer『Bad Bonez』
Chloe x Halle『The Kids Are Alright』
August Greene『August Greene』
Meshell Ndegeocello『Ventriloquism』
Nubya Garcia『When We Are』
Joe Armon-Jones『Starting Today』
Kip Hanrahan『Crescent Moon Waning』
Judit Neddermann『Nua』

Dinner-time 土曜日22:00~24:00
Cafe Apres-minuit 日曜日0:00~10:00
Brunch-time 月曜日10:00~12:00
Brunch-time 火曜日10:00~12:00
Brunch-time 水曜日10:00~12:00
Brunch-time 木曜日10:00~12:00
Twilight-time 月曜日16:00~18:00
Twilight-time 火曜日16:00~18:00
Twilight-time 水曜日16:00~18:00
Twilight-time 木曜日16:00~18:00
特集 金曜日16:00~18:00
特集 土曜日16:00~18:00
特集 日曜日16:00~18:00



本多義明(「usen for Cafe Apres-midi」ディレクター) Yoshiaki Honda

モッキーが絶大な信頼を寄せるシンガー・ソングライターという触れ込みだけで、聴きもせずに信頼してしまいそうな一枚。アントニー&ザ・ジョンソンズなどで知られる名門インディー・レーベルSecretly Canadianからのジョーイ・ドーシック『Game Winner』です。2016年に自主リリースされた同名のEPにボーナス・トラックを4曲追加収録しての再リリースとのこと。あんまり尖がりすぎない柔らかなサウンドが自分にはすごく良いです。ニュー・アルバムが出れば必ずまたチェックするアーティストになりました。

Joey Dosik『Game Winer』

Lunch-time~Tea-time 木曜日12:00~16:00
Lunch-time~Tea-time 金曜日12:00~16:00
Lunch-time~Tea-time 土曜日12:00~16:00
Lunch-time~Tea-time 日曜日12:00~16:00



中村智昭 Tomoaki Nakamura

ベルリンで活動する作曲家/ピアニストであるニルス・フラーム史上、最も完成された音楽作品。毎夜Bar Musicにて2枚組のアナログ・レコードを聴いていますが、そのつど店内の細部にまで彼の魂が宿るような感覚に見舞われます。本セレクションでは深夜帯のラストに冒頭の「The Whole Universe Wants To Be Touched」〜「Sunson」を選曲いたしました。今回組み上げた8時間の終わりが、さらに彼の音世界──この『All Melody』への始まりとなることをイメージしながら。

Nils Frahm『All Melody』

Dinner-time 月曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 火曜日0:00~2:00



添田和幸 Kazuyuki Soeta

今回のスプリング・セレクションの中で最も春らしい一曲と感じたミネアポリスのシンガー・ソングライター、Jeremy Messersmithの極上のボッサ・チューン「Postmodern Girl」。Triste Janeroの「Without Him」を現代にアップデートしたような夢見心地の春の陽光に包み込まれる一曲です。

Jeremy Messersmith『Late Stage Capitalism』

Dinner-time 火曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 水曜日0:00~2:00



中上修作 Shusaku Nakagami

ストリングス、中でも弦楽四重奏が好きだ。最近では話題のエベーヌ弦楽四重奏団が演じたウェイン・ショーターの「アナ・マリア」に鳥肌が立ったばかりで、ヴァイオリンのピエール・コロンベいわく「クラシックとジャズを区別せず、どんな音楽も楽しめることを証明したい」と公言して憚らない。ストリングス=春の響き、とは余りに安易だが、ジャズにストリングスが構成されるだけで、なぜこんなに心浮き立つのか。それは本作エミール・ブランクヴィスト・トリオの最新作を聴けば、首頷いただけるかもしれない。中でも色彩感豊かな「ブレス・イン」、プログレッシヴ・ロックばりにスリリングな「ジャーニー」が白眉だが、未聴の皆様にはピアノ・トリオにストリングスが加わるだけでこんなに倍音が豊かなハーモニーが生まれるのか、という好例になると思う。

Emil Brandqvist Trio & Sjöströmska String Quartet『Breathe Out』

Dinner-time 水曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 木曜日0:00~2:00



髙木慶太 Keita Takagi

今回のプレイリストにはタイトルに“Spring”が使用されている楽曲を随所にちりばめてあり、中でもオープニングを飾る「It Might As Well Be Spring」は昔からのお気に入りである。
Bob Brookmeyerといえばジャズ・トロンボーンの第一人者だが、ここではなんとピアノを弾いている。自身のキャリアをピアニストとしてスタートしているだけに、原点回帰的喜びと寛ぎが演奏から伺い知れて実に心地よい。春はスウィンギーなピアノ・トリオがよく似合う。

Bob Brookmeyer『Holiday: Bob Brookmeyer Plays Piano』

Dinner-time 木曜日18:00~24:00
Cafe Apres-minuit 金曜日0:00~2:00



FAT MASA

昨今アコースティックだったアプローチのトレイシー・ソーンの、80sシンセ・ポップな新譜の内容に安堵する。チェリー・レッドの時代を聴く前にアルバム『哀しみ色の街』でドラムンベースを聴いていたせいか、トレイシー・ソーンの歌にクールなクラブ・サウンドが映える印象。今回の新譜はクールすぎず80年代アプローチなアップテンポもあり、20年前ならダサくて吹き出してしまっていたものが今なら違和感なく聴けてしまう。この感覚が楽しい。アーバンなトレイシー・ソーン万歳!

Tracey Thorn 『Record』

Brunch-time 金曜日10:00~12:00



三谷昌平 Shohei Mitani

今回、ご紹介させていただくのは、ロンドンを拠点に活動するシンガー・ソングライター、ブルーノ・メジャーのデビュー作『A Song For Every Moon』です。2018 Winter Selectionで橋本さんも絶賛していた本作、ようやくここ日本でも3月18日にリリースされました。2018 Spring Selectionでセレクトさせていただいた「Places We Won't Walk」は、素晴らしい楽曲が並ぶ本作の中でも美しいピアノと彼の憂いのあるヴォーカルが特に光る一曲です。今年、ブレイクが間違いないと思われる彼、まだ聴かれていない方はぜひチェックしてみてください。

Bruno Major『A Song For Every Moon』

Dinner-time 金曜日18:00~22:00



渡辺裕介 Yusuke Watanabe

寒暖差の激しい、近未来が予測できない天気。4月にも雪が降る可能性もあるかもしれない今年の春。わがレコード・ストア「LIVING STEREO」。最近お隣韓国からのお客様が増えました。それもオープン13時から来店。すべての商品が試聴可能なので、いろいろ試聴されていろんな音楽のレコードを買っていただいてます。そんなある日、若い韓国の女性2名。片言の日本語で一生懸命話しかけてくれて、共通な音楽や韓国のインディーズ・シーンの話などで盛り上がりました。結局一人の女性が、インディーでヴォーカルをしている方で、スマートフォンでしか聴けませんでしたが、素晴らしいRhyeのような美しい楽曲に透明感のあるヴォーカル。残念ながらまだ販売されてないのですが、販売の際は、必ず「usen for Cafe Apres-midi」でも取り上げさせていただきたいなと思っております。
そんな韓国にJack Leeというジャズ・ギタリストがいまして、これがまた素晴らしい。アルバム『Pray』はヴァラエティに富んだ内容で、ヴォーカルをフィーチャーしたトラックのキメの細かさ。ジャケットから想像できる見事な世界観です。
これからも福岡にいるからこそ選曲できるアジアなものも取り入れていこうと思います。

Jack Lee『Pray』

Dinner-time 金曜日22:00~24:00
Cafe Apres-minuit 土曜日0:00~2:00



富永珠梨 Juri Tominaga

私の住む北海道にも待ちに待った季節がやってきました。春の選曲をしているときは、いつも本当に楽しくて、たぶん一人で終始ニコニコ(いや、ニヤニヤかな)しちゃっていると思います。ふわりと鼻先をくすぐる若葉の匂いと、心を解きほぐしてくれる柔らかな春の陽射し。重いコートなんか脱ぎ捨てて、ステップ踏みたくなる靴に履き替えて、さあ街へ出かけよう! 今回は、そんなキャッチフレーズをつけたくなるような、ポジティヴで甘酸っぱい雰囲気の選曲に仕上がりました。春のウキウキした気分を増幅させたかったので、前半はPhum Viphurit(最近のお気に入り!)やRyan Power、そしてFirefliesなど、わりとビートを効かせたインディー・ポップ的なサウンドを選びました。後半はJorge Drexlerや、Materere Trio、Guillermo Rizzotto Y David De Gregorioなど中南米のサウンドをベースに、Kelly GreenやBilly TaylorやSondre Lercheなど、軽やかだけど、どっしりと説得力のあるアーティストの作品をセレクト。最後は、DJをするときにもよくかけている、個人的にもお気に入りの3曲でフィニッシュ。その中から、今の季節にぴったりな、春色に包まれた心ときめくスウィートな一曲をご紹介いたします。ほんのり90年代テイストを感じさせるドリーミーなオーガニック・ソウル、Raveena「No Better」。心透き通る爽やかなギターのカッティングと、揺らめく木もれ陽を思わせる柔らかなエレピの音色、思わず身体が揺れるまろやかなベース・ラインと、愛らしくも透明感に満ちたRaveenaの歌声。インド人の両親を持つアメリカはコネティカット州出身のシンガー Raveenaが2017年にリリースしたEP『Shanti』からセレクトしました。Corinne Bailey Rae「Put Your Records On」を彷彿させる、ポジティヴな空気に包まれた、誰もが笑顔になれる一曲です。

Raveena『Shanti』

Brunch-time 土曜日10:00~12:00



小林恭 Takashi Kobayashi

先日、橋本さんからのお誘いで「London Jazz Calling」と題して最近のロンドンのソウルやヒップホップ含めたクロスオーヴァーなジャズをテーマに一緒にDJをさせていただきました。特にそれらのシーンに特化して聴いているわけではないのですが、レコード棚に結構な枚数のレコードがあり、楽しくプレイできました。ただ残念だったのは、その際パソコンの調子が悪くかけられなかったアルバムがあったことで、それが今回ご紹介するベーシストDaniel Casimirによるソロ・アルバム『Escapee』。注目するレーベルjazz re:freshedからの1枚で(今回このレーベルからはもう1曲、 Brixton Baby feat. MPHOも選曲しています)、Shirley Tettehのギターが印象的な「Cable St.」、Tess Hirstがしなやかに歌う「Really For Always」の2曲をピックアップしました。もうすぐアルバムがリリースされるJoe Armon-Jones(他にも「Go See」を選曲しています)のキーボードやMoses Boydのドラムなど、今の旬なメンバーによる心地よい音をみなさんにもぜひ聴いて欲しいです。

Daniel Casimir『Escapee』

Dinner-time 土曜日18:00~22:00



ヒロチカーノ hirochikano

今回のクールでは、「春」の新しい鼓動を感じる「usen for Cafe Apres-midi」ならではのポップ選曲をテーマに、ジャンルも時代も国境もボーダーレスに、より自由にアーティスト本意の表現が聴けるインディー・ポップの新作を中心にセレクトしました。1曲目は、ニュー・ウェイヴの影響を色濃く感じるヴォーカルとベース・ラインが心地よかったLAのインディー・ポップ、Leanの「Come Back」を。続いて紹介するのは、アプレミディ選曲のど真ん中ストライクなサウンド・テイストを聴かせてくれたStill Woozyの新作「Lucy」。そして、マイケル・ジャクソンの初期作品へのリスペクトを色濃く感じるメロディー・ラインと80年代風の近未来的シンセ・サウンドとの組み合わせが面白いKid Bloom の「Take My Breath Away」。最後は、サウドシズモを感じる繊細で美しいメロウ・ビーツに心打たれたJoey Pecoraroの「Glory Days」でしめくくりました。
今や、メジャー/インディー問わず世界中の音楽が、配信という便利な手段を通じてフラットに探せて聴ける時代だからこそ、選曲者は、自分の耳だけを頼りに、掘れば掘った分だけ、そこに時間をかければかけた分だけ、こうやって“素晴らしい音楽”と無限に出会えるのだと思います。

Lean「Come Back」
Still Woozy feat. Odie「Lucy」
Kid Bloom「Take My Breath Away」
Joey Pecoraro「Glory Days」

Brunch-time 日曜日10:00~12:00



吉本宏 Hiroshi Yoshimoto

昨年、吉祥寺にオープンしたミュージック・バーLilt。設計は「usen for Cafe Apres-midi」のメンバーであるimaの小林恭。先日、彼に招かれて一緒に選曲をしたときに選んだ、LAのプロデューサー/キーボード奏者のJohn Carroll Kirby。メロウなトラックに“Exotica”なムードを漂わせたシンセ・サウンドは、英国製のモニター・スピーカーを通してフロアを不思議な夜の異国情緒で包みこんだ。かつてマーティン・デニーが居ながらにして異国の気分を味わわせてくれたように、「Shofar」や「Lamanii」に誘われて、エキゾティックな春の音楽の旅が始まる。

John Carroll Kirby『Travel』

Dinner-time 日曜日18:00~22:00



高橋孝治 Koji Takahashi

リリース日が今回のスプリング・セレクションの納品締切日とほぼ重なっていたために、残念ながら今回の自分のセレクションにその楽曲を入れることができなかったのが、前作『Songs From The Falling』EPより3年ぶりに発表されたトレイシー・ソーンのニュー・アルバム『Record』です。このアルバムは2010年作の『Love And Its Opposite』以降のアコースティックな趣の作品から一転、80年代色の濃いエレクトリックでダンサブルな作品に仕上げられていました。その中でも話題になっているのがコリーヌ・ベイリー・レイとの共演作「Sister」だと思うのですが、私的にとても驚いたのが、昨年のマイ・ベスト・セレクションに収録していたイギリスの女性シンガー・ソングライター、シュラとの共演でした。シュラの作品も80sフレイヴァーに溢れている作品が多いので、今回彼女が起用されたことは納得のいくところなのですが、自分が注目していたアーティストが長年のアイドルであるトレイシー・ソーンに起用されたことは価値観を共有できたような気がして嬉しかったですね。そしてそのシュラの存在を知るきっかけとなったのは、彼女とコラボレイトして作品を発表していたHiatusというアーティストのおかげなのですが、今回のディナータイム・セレクションは、そのHiatusが先頃リリースした最新シングル「Unbecoming」からスタートしてみました。続いてスウェーデン出身の女性シンガーAmanda Mairをフィーチャリングした同郷スウェーデンのストックホルムを拠点に活動するドリーム・ポップ・バンドNovahの昨年11月にリリースされたシングル「Ghost」から、コロラド出身の女性シンガー・ソングライター、ローラ・ヴェイアーズの4月にリリース予定のニュー・アルバム『The Lookout』より、ゲスト・ヴォーカルとしてスフィアン・スティーヴンスを迎えて先行シングルとしてリリースされた「Watch Fire」や、カナダ出身のシンガー・ソングライターNate Eieslandの「Drifting」、そしてこちらもスウェーデン/ストックホルム出身の女性シンガー・ソングライターAnna Leoneのデビュー・シングル「My Soul I」などの柔らかなアコースティックの響きを持った作品を集めて繋げ、北アイルランド/ベルファスト在住のOwen Fergusonによるソロ・プロジェクト Owseyの「Watched You Dance At Sundown」辺りからメロウでドリーミーな流れにシフトします。その流れの中にはリアル・エステイトを脱退した(脱退理由は感心しませんが)マット・モンデナイルのプロジェクトであるダックテイルズの昨年リリースされた最新作『Jersey Devil』より、メロウな中にもローファイ感のある「Map To The Stars」や、デビュー・アルバムが18歳の誕生日に世界一斉発売され今年のサマーソニックにも参戦する現役高校生ビートメイカー、プチ・ビスケットの「Sunset Lover」(この曲はSoundCloud上で2,500万回の再生回数を記録したというから驚きです)、そして先に述べたHiatusとシュラのコラボレイト作品である「Fortune's Fool」などを織り込んでいます。

ディナータイム後半は、ストックホルム出身の(今回のディナータイム選曲はスウェーデン出身のアーティストの作品が目立ちますね)姉妹デュオ、ファースト・エイド・キットの今年に入ってリリースされた最新作『Ruins』より、切なくて美しい「Fireworks」からスタート。この作品のプロム・ナイトを題材にしたPVも素晴らしく、シシー・スペイセク主演で1976年に公開されたブライアン・デ・パルマ監督のホラー映画『キャリー』の主人公が豚の血を浴びせられる直前の美しいプロム・ナイトのダンス・シーンや、最新作『ビガイルド・欲望の目覚め』でドン・シーゲル監督とクリント・イーストウッドのコンビで1971年に公開されたエロティック・サスペンス映画『白い肌の異常な夜』をリメイクしたソフィア・コッポラ監督のデビュー作『ヴァージン・スーサイズ』のプロム・シーンを彷彿とさせ、こちらも美しく切ない作品に仕上がっています。そして再びダックテイルズの2014年から2016年にロサンゼルスで録音した未発表の作品60分を収録したカセット&デジタル配信作品『Daffy Duck In Hollywood』よりメロウ・ダンサーな「Angel Wings」をピックアップし、昨年末に7インチ・ヴァイナルがリリースされるも速攻でソールド・アウトとなったニューヨーク出身のスリー・ピース・バンド、サンフラワー・ビーンの最新シングル「I Was A Fool」や、ブライトン出身のインディー・ロック・バンド FURの郷愁感漂う「Eyes」、デトロイト出身の女性シンガー・ソングライター、アンナ ・バーチのデビュー・アルバム『Quite The Curse』からソフトでキュートなインディー・ロック「2 Cool 2 Care」、ライアン・アダムスの目に留まってデビューを果たしたフィービ・ブリッジャーズの「Motion Sickness」など、ギター・サウンドを主とした作品に繋げました。他にはJBM名義で作品を発表していたジェシー・マーチャントが、本名を名乗るようになってから2作目となる最新アルバム『Illusion Of Love』より、淡々と奏でられるピアノの音色がミニマルに響く「Sister, I」や、先に述べた北アイルランド/ベルファスト在住のアーティストOwseyとチルステップ系プロデューサーのResotoneがコラボレイトしてリミックスを手がけたボン・イヴェールの「Re: Stacks (Owsey & Resotone Rework)」などをディナータイム・セレクションのアクセントとしてセレクトしています。

午前0時からのミッドナイト・スペシャルは、久しぶりにカヴァー曲だけを集めて2時間のセレクションを構成してみました。まずはスロウ・ムーヴィング・ミリーの2011年に発表されたスミスのカヴァー作品「Please, Please, Please, Let Me Get What I Want」のプロモーション・シングル盤だけに収録されている同曲のインストゥルメンタル・ヴァージョンをイントロに、イギリスの老舗デパート、ジョン・ルイス の2015年のクリスマスCMで話題となったジョン・レノン「Real Love」のカヴァーも素晴らしかったトム・オデールのシンディ・ローパー「True Colours」のピアノ弾き語りヴァージョンを皮切りに、ファイストによるレナード・コーエン「Hey, That's No Way To Say Goodbye」、元スーパーグラスのメンバーだったギャズ・クームスのデヴィッド・ボウイ「Five Years」、エリザベス・フレイザーが参加したディス・モータル・コイルのヴァージョンを下敷きにしたであろうデーモン&ナオミによるティム・バックリー「Song To The Siren」、アイアン&ワインのサム・ビームとカリフォルニア出身のシンガー・ソングライター、ジェスカ・フープの共演によるユーリズミックス「Love Is A Stranger」などをセレクトし、続けてホセ・ゴンザレス「Love Will Tear Us Apart」(ジョイ・ディヴィジョン)、スコット・マシューズ「Boy With The Thorn In His Side」(スミス)、ケイティ・メルア「Just Like Heaven」(キュア)、ヘッドレス・ヒーローズ「Just Like Honey」(ジーザス&メリー・チェイン)といったニュー・ウェイヴ/ネオアコ系カヴァーも選曲に織り込み、ケイト・ウォルシュ「When Love Breaks Down」(プリファブ・スプラウト)や、以前セレクター仲間の武田さんも選曲に取り入れコメントも書いていた、1986 年に創立され音楽監督を定期的に交代して存続しているフランスの国立ビッグバンド、オルケストレ・ナショナル・デ・ジャズによるロバート・ワイアットのカヴァー集『Around Robert Wyatt』より、ヤエル・ナイムをヴォーカルに迎えたクライヴ・ランガーとエルヴィス・コステロのペンによる大名曲「Shipbuilding」、ケレン・アン「Life On Mars」(デヴィッド・ボウイ)、テイクン・バイ・トゥリーズ「Sweet Child O' Mine」(ガンズ・アンド・ ローゼズ)などのキュートな女性ヴォーカルによるカヴァー作品もセレクトしています。そしてミッドナイト・スペシャル前半の最後には、2012年に亡くなったオーストラリアで最初のアボリジニ出身のスター歌手であるジミー・リトルによるゴー・ビトウィーンズの名曲カヴァー「Cattle And Cane」をピックアップしてみました。

ミッドナイト・スペシャル後半は、10月に3年ぶりの来日公演を控えているヨ・ラ・テンゴの「Friday I'm In Love」(キュア)に始まり、フランスのネオアコ・バンド、チェルシーの「These Are The Things (Reprise)」(ペイル・ファウンテンズ)に続いて、シックスペンス・ノン・ザ・リッチャー「I Won't Share You」、ジェフ・バックリー「I Know It's Over」、ジョシュア・ラディン「Girlfriend In A Coma」とスミスのカヴァー作品を続けてピックアップ。ディヴァイン&スタットン「Bizarre Love Triangle」(ニュー・オーダー)を挟みストロベリー・スウィッチブレイド「Sunday Morning」、ポール・クインとエドウィン・コリンズによる「Pale Blue Eyes」と今度はヴェルヴェット・アンダーグラウンドのカヴァーを続けましたが、前者のストロベリー・スウィッチブレイド「Sunday Morning」は今年の頭に中野の居酒屋で(笑)催された東京ネオアコ・シーンの新年会で20数年ぶりに再会した音楽ライターの宮子和眞氏が1999年に監修したオムニバスCD『ギター・ジャンボリー~レア・トラックス』で唯一CD化されていますので興味のある方は探してみてください。そして先頃発売されたMojo誌3月号の付録として付けられていたニック・ドレイク・トリビュートCD『Green Leaves – Nick Drake Covered』より、フェアポート・コンヴェンションやトレイダー・ホーンのヴォーカリストだったジュディー・ダイブルと英国のモッド・マスター、アンディー・ルイスとのコラボレイションによる「Northern Sky」と、ヴァシュティ・バニヤンとガレス・ディクソンによる「The Thoughts Of Mary Jane」をセレクトしてみました。そしてキャサリン・ウィリアムズ「Thirteen」(ビッグ・スター)、サラ・ブラスコ「Xanadu」(オリヴィア・ニュートン・ジョン&ELO)、シックスペンス・ノン・ザ・リッチャー「There She Goes」(ラーズ)を挟み、最後にこの特集のハイライトとしてライフ・ウィザウト・ビルディングス「Pop Life」(プリンス)、1990s「Sorry For Laughing」(ジョセフ・K)をセレクトしています。前者は90年代のオルタナ系インディー・バンドで最も好きなバンドのひとつであるライフ・ウィザウト・ビルディングスがイタリアのHomesleepというレベールから2001年にリリースした『Homesleephome 2』というオムニバスCDに収録されていたもので、大好きなアーティストによるこれまた大好きなアーティストのカヴァー作品ということでこの音源を入手した当時はとても興奮したことを覚えています。そして後者は2007年にティーンエイジ・ファンクラブのノーマン・ブレイクの奥さんがプロデュースしているHITHERTOSHOPというセレクト・ショップから限定500枚プレスでリリースされたロイヤル・ウィー「Poor Old Soul」(オレンジ・ジュース)と1990s「Sorry For Laughing」(ジョセフ・K)のスプリット・シングルからのセレクト。このシングルはリリースされた少し後にBIG LOVE RECORDSの仲真史くんから教えてもらったのですが、自分がその存在を知ったときにはすでにソールド・アウト状態で手に入れることができませんでした。しかし昨年ようやくネットで見つけて(それも未使用品をお手頃価格で)手に入れることができたので、その嬉しさもあり今回の特集のハイライトとして選曲してみました(笑)。

Hiatus「Unbecoming」
Novah feat. Amanda Mair「Ghost」
Laura Veirs『The Lookout』
Anna Leone「My Soul I」
Ducktails『Jersey Devil』 
First Aid Kit『Ruins』
Ducktails『Daffy Duck In Hollywood』
Sunflower Bean「I Was A Fool」
Anna Burch『Quite The Curse』
Jesse Marchant『Illusion Of Love』
Slow Moving Millie「Please, Please, Please, Let Me Get What I Want」
Feist「Hey, That's No Way To Say Goodbye」
Sam Beam & Jesca Hoop「Milky Way」
Scott Matthews「The B side」
Taken By Trees「Sweet Child O' Mine」
Chelsea「27」
Joshua Radin「First Between 3rd And 4th」
V.A.『Green Leaves – Nick Drake Covered』
V.A.『Homesleephome 2』
1990s/The Royal We「Sorry For Laughing/Poor Old Soul」

Dinner-time 日曜日22:00~24:00
Cafe Apres-minuit 月曜日0:00~2:00



山本勇樹 Yuuki Yamamoto

ちょうどこの原稿を書いている時、東京は桜が満開を迎え、春爛漫といった雰囲気で満ちあふれています。身も心も軽やかになった気分で、今年もお気に入りのコットンのジャケットをクローゼットから取り出してみました。今回の選曲も、まさにそんな気分で選んだラインナップで、春らしい色合いを感じさせるアコースティックなジャズやボサノヴァを中心に、午後のランチ~ティータイムにもぴったりな内容になったかなと思います。
そういえば、3月23日に日比谷シャンテに、日比谷コテージという新しい店舗がオープンしました(僕も音楽や映画のセレクトをしています)。そして目の前には、東京ミッドタウンも開業ということで、日比谷が華やかに生まれ変わるそうです。店内BGMには、「usen for Cafe Apres-midi」15周年を祝うアニヴァーサリー・コンピ『Music City Lovers〜Soundtracks For Comfortable Life』が流れています。コンセプトはずばり“すべての女性に捧げた書店”です。ぜひ、一度、足を運んでみてください。

Mônica Salmaso『Caipira』

Lunch-time~Tea-time 月曜日12:00~16:00



武田誠 Makoto Takeda

春分もすぎ、僕の住んでいる場所では部屋の窓をあけはなてば甘い海の香りが漂ってきて、気分も街の空気もこれから徐々に朗らかさを増していくのかな、なんてことを考えながら、今回手がけた2018 Spring Selectionをイメージさせるポイント曲を、選曲どおりのタイムラインになぞって少しだけご紹介させていただきます。
まずは、毎月1枚ずつ計12枚のシングルがリリースされていくというニュージーランドのポップ・クリエイター、Lawrence Arabiaの2018年シングルス・クラブ(トッド・ラングレンばりのマルチ・ミュージシャンぶりが垣間みれるこの企画の紹介動画にも興味をそそられました)からの1月の1枚目「Solitary Guys」は、光の粒がゆるやかに零れ落ちてくるようなまさに春らしい好ナンバー。
ブラジルからは、ギターとパーカッションと歌のみの編成で、インティメイトで人懐こくありながらも風通しのいい穏やかなMPBを聴かせる、サンパウロの姉弟デュオTulipa Ruizの新作『Tu』収録の「Desinibida」が、春の夕暮れの海を思わせる心地よいサウダージ・フィーリングを運んできてくれました。
渡辺香津美の1979年のアルバム『KYLYN』からの「Water Ways Flow Backward Again」は、ここでの選曲を担当させていただいて以来、春のセレクションに必ずエントリーしていたタイムレスな名曲。今では日本のヒップホップ界隈でサンプリング・ソースとして再評価されているようですが、矢野顕子の天才性が発揮されたオリエンタルなメロディーと、まさに水の流れのように複雑に入り組んだ緻密なアンサンブルは、昨今のバレアリック的なリスニング・スタイルととても相性がよいもの(それと同様に、ゲイリー・バートンが1969年に取り上げていたラヴェルの「クープランの墓:前奏曲」を、新たにピアノに小曽根真を迎え同じくヴィブラフォンとのデュオで再録した2002年の名演も、桜の花びらが風に舞うような光景にも似て、あわせて春の定番として選曲に連ねていました)。
テキサス・サイケの伝統を受け継いでいるような印象さえ感じる、同地から登場した3人組ユニット、Lomaのデビュー作からは、アシッド・フォーク・チューン「Who Is Speaking?」を。乾いた大地からまどろむように浮かびあがってくる女性ヴォーカルはまさに美しく幻想的。ピンク・フロイド『More』あたりに通じる同じ匂いを感じてしまいました。
NY生まれモントリオール育ちの女性SSW、Brigitte NaggarがCommon Hollyと改名してリリースした昨年のアルバム『Playing House』からは、「Nothing」「Devil's Doubt」をエントリー。甘やかな翳りを帯びた心切なくさせるフォーキー・チューンで、この季節の風景を優しく彩ってくれます。また、彼女がヴァレンタイン向けのラヴソング・コンピに提供したフランク・オーシャン「Thinkin' 'Bout You」のカヴァーもとても秀逸。
フィリピンをルーツに持つオレゴン州出身の女性SSW、Haley Heynderickxの初のフル・アルバムからは、エリオット・スミスをも彷彿とさせる心に突き刺さる哀感に包まれる「The Bug Collector」が何と言っても絶品で、一番のお気に入りの曲。
カラフルなサウンド・デザインを繰り広げるトロントのByram Josephによるソロ・ユニット、Beatchild & The Slakadeliqsの新作『Heavy Rockin' Steady』は、ヒップホップ/ソウルにとどまらず、フォーク/ソフト・サイケデリアなど多彩なエッセンスが溶け込んだ作品。ここでは映画『ストックホルムでワルツを』でモニカ・セッテルンド役を演じたEdda Magnasonをヴォーカルに迎えた、中期ビートルズ風を思わせるアンサンブルも凝っているドリーミーなナンバーを。
最後は、2006年にもSusanna & The Magical Orchestraでジョイ・ディヴィジョンやレナード・コーエン等を取り上げた傑作カヴァー・アルバムをリリースしていたノルウェイの女性シンガーSusannaによる、ソロ名義としての同企画第2弾から、ルー・リード「Perfect Day」のカヴァーをピックアップ。手元に資料がなく楽器の詳細は不確かではありますが、プリペアド・ピアノやグロッケンシュピール、弦楽器などで構築された音空間は、ハウシュカあるいはビョークにも似た静謐さをたたえていて、エンディングへと向かう中でとてもいい流れを描いているかと思います。
それでは、今回も火曜12時から4時間のセレクション、どうぞお楽しみいただけたら幸いです。

Lawrence Arabia「Solitary Guys」
Tulipa Ruiz『Tu』
Kazumi Watanabe『KYLYN』
Loma『Loma』
Common Holly『Playing House』
Haley Heynderickx『I Need To Start A Garden』
Beatchild & The Slakadeliqs『Heavy Rockin' Steady』
Susanna『Go Dig My Grave』

Lunch-time~Tea-time 火曜日12:00~16:00



waltzanova

この原稿を書いている今、東京は20℃を超え、春爛漫という暖かさです。春選曲を聴きながらコメントを書くには、ぴったりの陽気ですね。今回は武田さんに倣って8枚のジャケットを並べ、ポイントとなる曲を紹介していこうと思います。
新生活を始める人が多いこの時期、ファッション雑誌には「一か月着まわしコーデ」的な記事がよく載っていますよね。ツッコミどころの多い設定やストーリー(女性誌だとけっこうトンデモなものもあるようです)も含め、ちょいちょい読んでしまうのですが(笑)、なぜこの話題を出したかというと、選曲という仕事にはある種のスタイリスト的な側面があると感じるからです。手持ちのアイテムに今年の新作を加えてみたり、持っていてもあまり着ていなかったものを取り出してみたり、あえてハズすことでアクセントを作り出したり……。春のファッションを楽しむような気持ちで、今回のセレクションを紡いでみました。
今回が2回目になるオープニング・クラシックは、「ブランデンブルク・コンチェルト」なんかもいいかな、と思ったりしていたのですが、最終的には定番中の定番、モーツァルトのストリングス・カルテット「春」にしました。そして、ナイス・タイミングでリリースされたブラッド・メルドーの『After Bach』(早くも愛聴盤です)からの曲をエンディングに置き、コンセプチュアルな構成にしてみました。螺旋階段をモティーフにした『After Bach』のジャケットは、橋本さん選曲のクラシック・アプレミディ・シリーズ(僕はルービンシュタイン編によく耳を傾けます)のファンなら思わずニヤリとしてしまうのではないでしょうか。
最近リリースされた笠井紀美子のシングル・コレクションから、ハービー・ハンコック版も最高な「I Thought It Was You」のシングル・ヴァージョンを。この『GOLDEN☆BEST』というシリーズは、曲解説もついていたりいなかったりで、デザイン的な統一性も全くないのですが、音源を聴くという意味では重宝していて、笠井紀美子に関して言えば「As」(こちらもシングル・ヴァージョン)も収録されており、僕のような非コレクターにはなかなか重宝するアイテムです。
続いてはいわゆる1,000円CDから。フライング・ダッチマンのリイシューから、この季節にバッチリな「You Are The Sunshine Of My Life」のレオン・トーマス版を選びました。1973年作『Full Circle』は、「Got To Be There」にレオン・ウェア作の「Wanna Be Where You Are」と2曲のマイケル・ジャクソンのメロウなレパートリーが収録されている、レオン・トーマス流のニュー・ソウル的意匠が施されたアルバム、と聞くと気になる人も多いのではないでしょうか。「レオン・トーマス? 『The Creator Has A Master Plan』だよね」という人にこそ聴いてほしい、今回の個人的なオススメ盤です。
さて、今回のキー・ナンバーと言うべきなのが、2ヴァージョンを収録した「Up Jumped Spring」。カナダの歌姫、ダイアナ・パントンが昨年秋にリリースしていた『Solstice - Equinox』は四季をテーマにしたアルバムで、次の春選曲ではぜひ使おうと思っていたのですが、オリジナルはフレディー・ハバードの『Backlash』に入っていることを知りました。恥ずかしながら、アルバムは持っていたものの、ジャズ・ロックのタイトル曲や新主流派的な「Little Sunflower」という印象しかなかったので聴き返してみると、春の香り漂う軽やかなスプリングタイム・ジャズ・ワルツ。迷わずに2曲ともエントリーを決めました。
最近、昨年のアルファ・ミストやエズラ・コレクティヴといったあたりから盛り上がりを見せているUKジャズ周辺も、小特集的にセクションを組んでみました。やっぱりこのあたりは単純に好きなテイストなので、その気持ちよさに自然と反応してしまいますね。
FAT MASAさんが前回のセレクションでレコメンドしていたソフト・グラスも最高ですよね。なんでも、ゴンサロ・ルバルカバの息子なんだとか(ジェシ・ボイキンス3世に才能を認められた、というのもいい逸話ですね)。ジャック・ジョンソンをより洗練させたという体で、橋本さん選曲の『FM』シリーズだったら必ずピックアップされていると思います。『Orange Earth』は、アルバム全体を通じて素晴らしい内容なので、これからの季節のプレイリストに入れておいて間違いないです。
最後に挙げるのはMASTのセロニアス・モンク・トリビュート。今回はこのチャンネル向けに「Round Midnight」を取り上げましたが、現在進行形的な感覚のジャズを中心に、さまざまな音楽的要素がエクレクティックに顔を覗かせる好作なので、こちらもぜひアルバムを聴いてほしい作品です。

Juilliard String Quartet『Mozart 'Haydn' Quartets』
Brad Mehldau『After Bach』
Kimiko Kasai『Butterfly』
Leon Thomas『Full Circle』
Diana Panton『Solstice - Equinox』
V.A.『We Out Here』
Soft Glas『Orange Earth』
MAST『Thelonious Sphere Monk』

Lunch-time~Tea-time 水曜日12:00~16:00


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