広告プロダクトを作る会社が見る、広告の未来(2021年版)
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広告プロダクトを作る会社が見る、広告の未来(2021年版)

usedhonda(CEO of FreakOut HD)

広告プロダクト開発会社、フリークアウトHD代表の本田です!毎年のように年イチでnoteにまとめているモノになりますが、広告プロダクト開発をする会社の立場から考える、広告の未来について、今年も懲りずに書いてみます。

この内容は、2021/05/25にフリークアウト社内で行われたグループ総会にて、私が話したことの中から、パブリックに出せそうな内容を中心に再構成したものになります。読んでいただいて、こういった話にさらに興味を持たれて、フリークアウトで働いてみたいと思われた方は、フリークアウトのグループでは、こういった広告の未来を作る仕事をいくらでもやってますので、最後までこちらを読んでから、エントリーください。

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2021年の今、広告の世界の未来を捉えるために必要なこと。それは今、広告業界に起きている「潮目の変化」を掴むこと。そして変化を掴むには、今より少し前の過去が、それまでの広告の歴史と比べて、どのような特徴があったか、それによって、何が引き起こされたのかを理解すること。特に「潮目の変化」のタイミングに未来予測を行う上では、それが重要でないかと考える。

潮目の変化

ここにかいた潮目とは、デマンドとサプライのパワーバランスのことだ。2020年代に突入して、少し前と顕著に変わってきたと感じるのは、デマンドサイド(広告主側)に対し、サプライサイド(媒体側)が以前より力を持つようになってきて、サプライ側にパワーバランスが偏りだしたことが挙げられる。

これは当社がRTB(リアルタイム広告取引)による広告ビジネスを主力事業とし、あらゆるメディアインプレッションから発生する膨大なトラフィックを捌き、デマンドとサプライが入札で取引するマーケットを黎明期からモニタリングし続けた立場として感じることだ。

また昨今のメディアビジネスを見回しても、例えば、ゲーム実況者のライブ配信に対し、ファンの視聴者が投げ銭をするような、今どき当たり前のメディア体験があったとして、この中において、コンテンツであるスマホゲームは課金型ビジネスであるし、それを見る視聴者から得られる収益も投げ銭モデルであることから、これらのメディアはもはや何一つ広告収益に依存せず、ビジネスを行うようになった。またライブ配信ではなかったとしても、Netflixなどのサブスク視聴においても、同様だ。こういった広告収益に依存していないメディアへの滞在時間が増えつつあるのは、2020年代以前から起きていたが、これに加えてApple社が、GAFA覇権争いの中で、ターゲティング広告を無力化させようと、あらゆる手を打ってきたこともあり、これらの影響によって、デマンド側が弱まったことで、相対的にサプライサイドのパワーが強まっているのが2020年頃を境目に起きた変化だ。

2010年代を歴史的な特異とみるべきか?

2020年代に入り、サプライにパワーバランスが偏ってきた理由を知る上で、振り返るべきは2010年代にメディアと広告に起きた事象だ。

1990年代から始まったインターネット広告の歴史は、ポータルサイトのトップページバナー枠を月額固定料金で押さえるような旧来型マスメディアと同様の広告メニューからはじまり、それがインプレッション課金、クリック課金、成果報酬ベースと、より広告主が望む形へ、販売粒度が小さくなる方向へ、と進化を遂げてきた。

この進化の1つの到達点とも言えるのがRTBであり、遂に媒体が表示される毎に広告枠が受けるリクエストをサーバー間による瞬間的な入札で価格を決定するところまで粒度が小さくなると、グローバル規模のDSP(広告主側の買付プラットフォーム)は、秒間数百万回と言うとてつもない数の広告枠入札取引に応じるようになったのが、2010年代に起きたことだ。

広告プラットフォーマーのバックエンドが繋がったことで、多くのサードパーティー事業者がうまれ、複雑なエコシステムが形成された。それにより多くのデータがシームレスに扱えるようになったことで、広告主側は、狙った媒体の狙った瞬間に、自社商品の購買が期待できる消費者だけによるメディアインプレッションを狙い撃ちし、しかもその広告成果を正確に把握できるようになってきた。まさに、"Right person, right place, right time and right message."を成す上で、仕組みの上ではいよいよ実現されてきたのが、2010年代というわけだ。

このような広告マーケターの理想が、マスに対する1to1コミュニケーションの手法で可能になったことは、広告の歴史が始まって以来のことでもあることから、2010年代は、それまでの広告の歴史上最もデマンド側が力をもっていたといって、差し支えないだろう。

このような技術発展が起きると、それにつれて、力をもったデマンド側が、広告出稿の際に媒体側に求める要求水準が高くなり、

・好きなユーザーデータを使わせろ。
・そのデータで、媒体閲覧の少しだけをつまみ食いさせろ。
・広告効果はしっかり可視化しろ。

こういった強い要求を、広告主側から媒体に課しつづけたことで、媒体側に何がおきてしまったのだろうか?

バランスを欠いた果てに・・

広告枠購買の決定要因が、媒体の品質、記事の内容よりも、閲覧者の属性を重視するようになると、媒体にどんな変化が起きるか?

まず広告収益期待する媒体側にとっては、「媒体をしっかり読んでもらうことよりも、検索ワードに引っ掛けて、一瞬だけでも来てもらう」ことに労力を割く方が、うま味が多くなる。そうやって2010年代に多く誕生したのが、キュレーションメディアだ。クラウドソーシングなどを用い、SEO効果の高いキーワードを混ぜ込んだ記事を大量に作成したメディアがウェブ上に溢れた。だが、その記事が場合によっては正確性を欠き、特に人の命に関わるような医療情報に関する不正確な内容のコンテンツファームが現れたことが社会問題化したのは周知のことだ。

また著作権を侵害し、漫画データを違法アップロードしたようなウェブサイトが、広告枠をもち、そこから堂々と広告収益を得ていたことも同様に社会問題となったが、これも媒体品質を全く見ずに、閲覧者属性だけで、広告枠の購買を決めるような2010年代のビジネス慣習から生まれた、悪しき一例と言えよう。

そしてもう一つ、2010年代に起きた媒体ビジネスの特徴として、ニュースアグリゲーターの躍進が挙げられる。人に読まれる優良な記事を自分たちでライターを揃えて書くよりも、それらの媒体記事を集める媒体の方が、広告ビジネスとして成功したことも、このパワーバランスの偏りをうまく説明できていると言えるのではないか。

結果として、このパワーバランスの強烈な偏りによって、まともな記事を自分たちで書く媒体ビジネスが疲弊しているような状態だったのが2010年代なのだ。

その反動として

現在Appleによって、広告ビジネスにおけるユーザーデータ活用が封鎖されようとしているが、これは広告主による媒体閲覧のつまみ食い抑止としての効果は高いので、健全な媒体ビジネスの運営にとってはよい方向に進むだろう。

もちろんこれは、媒体側からしたら棚ぼた的な要素が強く、名目上はプライバシー保護を目的とするとAppleは言うが、実際のところ、GAFAの覇権争いにおけるAppleによる揺さぶりにしか過ぎない。1998年に始まった司法省とマイクロソフトによる独占禁止法提訴からAppleが学んだのは、プライバシーを盾にし、世論を見方につければ、今の独占状態をより長く続けやすいという発見であり、これに(主にデマンド向けの)広告事業者が割りを食った形だ。

また、広告収益依存でのビジネス継続が難しいのならと、良質な記事を書く媒体が、サブスクリプションモデルでのビジネスに移行しだしたのも、2010年代の流れの反動と言えるだろう。前述した、ゲーム実況ライブ配信に、投げ銭が行われるようなメディアビジネスもそうであるが、現在の広告フォーマットとの相性がよくないライブ系のメディアに、消費者のメディア滞在時間が奪われていることも、広告事業者にとっては注視せねばならない課題だ。

日本では年初に流行ったClubhouse(クラブハウス)は記憶に新しいが、これからのインターネットメディアは益々のライブ化、リアルタイムコミュニケーション化、常時接続化が進むと予想され、この流れが止まることはないだろう。広告ビジネスにとっての問題は、現在の主要な広告フォーマットが、このようなライブメディアと極めて相性が悪いことだ。もちろん媒体側も、この相性の悪さについてはよく理解しているので、広告よりも、よりリアルタイムに人が集まる状態がもつ熱量を活かす方法でのマネタイズを検討するのが一般的である。

先の話にはなるが、次のインターネットが向かう先、その行き着く先がメタバースのようなものであるとして、その未来のインターネットにおけるメディアビジネスの経済覇権を広告で握ろうとするのなら、我々広告事業者が、現時点でライブ配信型のメディアに対してですら(流行りだして、もう何年も経つのに)、未だに最適なスタンダード広告フォーマットを見つけ出せていないこともまた、広告業界にとっては憂慮すべきことと、付け加えておく。

・Appleによるユーザーデータ活用の封鎖
・媒体による、広告以外の収益模索
・広告と相性の悪いライブ媒体の急速な拡大

今、このような広告主側にとって望まない事態が起きているのは、他ならぬ、過度にデマンド側が力を持ちすぎたことに起因するところが少なからずある。今はこれが引き起こされた2010年代とは異なり、媒体が力を持ち始めたことで、今後はこれまで以上にインターネット上には良質な媒体(特に広告収益を最初からあまり考えずに、純粋によいコンテンツを提供することを目的としたような媒体)にとっての、新たなマネタイズ手段は、今後も増え続ける。なぜならFintechが進化を遂げれば、より多くのユーザーによる、より少額の決済が、より簡易に行われるようになるからだ。今世界中のチャレンジャーバンクと呼ばれる新興Fintech企業達が、これまで決済手段を持たなかった人たち向けに簡易な決済手段を提供しつづけていることを考えれば、その流れは自明なことである。そのような優良な媒体に対して、どのような価値を提供できるかが、今の広告事業者には問われている。

一方、デマンドサイドは?

ターゲティング広告の機能が抑制されたことで、広告枠取引において、デマンド側の対サプライへの相対的な力が弱まったことはあるもの、マーケティング技術全体の進化は続いている。

よって、ターゲティング技術のみに固執しつづける広告事業者は、デマンドに対し提供できる価値は減り、ビジネスを拡大する上では難しい面も増えてくるだろう。

一方で、マーケティング技術全体に視野を広げ、ターゲティング広告一辺倒な見方から、もっと別のチャネルへも目を向けられるか、言い換えれば、顧客のマーケティング活動を支援する立場として、よりマーケティングの本質なところへ回帰できるかが、問われていると言える。

具体的な例として、リターゲティング広告を挙げてみよう。

Appleのアクションにより、今後益々リターゲティング広告のリーチは狭まることにはなるが、各広告事業者は、これに対する具体的な対策は打てているだろうか?

実はリターゲティング広告の最大手であるCriteo社であるが、ここ数年はリテールメディア戦略を明確にし、その規模を急拡大しており、この記事を書いている2週間ほど前(2021/05/20)には、同じくリテールメディアテック企業のMabaya社の買収を発表し、この分野への更なる攻めの姿勢を続けている。

ここではリテールメディアテックについて詳しい説明は省くが、要はECサイト(主にモール型)上の広告プラットフォームのことであり、なぜ彼らがリターゲティング広告弱体化の対策として、こちらの分野にかじを切ったか、わかるだろうか?

それは、彼らが従来から手掛けていたリターゲティング広告も、今力を入れているリテールメディアテックも、購買ファネル上では、どちらも同じ「購買直前の消費者」にリーチするためのものだからだ。つまりリターティング広告を利用してきた既存顧客に対し、これまで通り訴求しやすい広告メニューとしてのリテールメディアテックに彼らは着目したのだ。

Criteo社は、購買ファネルに着目して、リテールメディアという別のチャネルを攻めたわけだが、これと近しい購買ファネルへのリーチを別の手段で確保することも可能だ。購買間近の消費者へのコミュニケーションを取りたいのなら、LPに訪れたユーザーを早めにショップのLINEアカウントに誘導し、その後はチャットでコミュニケーションをとるのも有効だし、オンラインに拘らないのなら、オフラインのリテール店舗内に、サイネージなどの広告媒体を設置し、リアル購買直前を狙うのもよいだろう。

要は、購買目前の消費者に対し、どのような手法でコミュニケーションをとるかという話なのであって、それをリターゲティングとはまた別のチャネルを見つければよいということなだけだ。むしろこれまで、あまりにリターティング一択だったことで、消費者を不必要なくらいに広告で追い回したことが、Appleに目をつけられ、彼らが世論を見方につける形で、広告事業者にとってユーザーデータを使いにくい状況にされたのは、実は広告事業者自らが招いたこととは、言えないだろうか?

リターゲティング最大手のCriteoでさえ、これだけの大胆な舵切りを行っているように、広告事業者は、2010年代に自ら招いたツケを、どう払うのかが問われている。この荒波における潮目の変化を、面白いと思えるモノは益々存在感を増し、一方で戦略なきモノは即退場とでも言うべき厳しい環境ではあるが、具体的にどのようにサバイブするのかの戦略プランが問われているのが、今とこれからの広告事業者と言えよう。

ー[ここまで]ーー

ここまで、お読みいただきありがとうございました!最初に書いたように、毎年社内のグループ総会で話したことを中心に、年イチでまとめているnoteなのですが、「この内容を社内で全社員に向けて話しているんですか?」という質問をよく頂いたりします。(主には他社の社長さんから頂くのですが・・)

そういったこともあり、ご質問への答えとして、先日行われた社内総会の中から、今回の記載部分に該当する箇所から、社外に出しても問題なさそうなパートのみを抜粋する形で、Inside FreakOutのほんの一部を、 動画で紹介させてもらいます。

抜粋したわずか4分の動画でも、このnoteの骨子になるくらいの情報量で話すので、社内総会で私が1時間半くらいで一気に話す、ノーカット版の内容を真剣に毎回聞いてもらうと、社内にはどういう人材が育っていくでしょうか?これを継続してみてわかったのは、「共に広告の未来を考える同士」が誕生することに気づきました。

更にこんなことを10年以上も続けてきますと、今となっては、フリークアウトの中の人だけでなく、退社され現在は社外で活躍される方、そして出戻ってきてくれた人材も含め、同士とも、マフィアとも呼べるような、人のネットワークが形成されるようになってきました。

同士といっても、単に「テクノロジーに明るく、一定の知識と知性をもって、広告の未来を考えて行動を起こす人」という基準以外は特に何もありませんが、そんなフリークアウトで、作る側として、俯瞰して広告の未来を見つめ、共に考えていく同士として加わることにご興味あれば、ぜひフリークアウトの採用ページへ

ここに書いたような、良質な記事を掲載するあらゆる優良なメディアが、広告依存から脱却し、完全サブスクモデルに行き着いてしまう未来が招く事態は、必要な情報があまねく行き渡らなくなる、社会の分断でありましょう。過去の歴史においてそれを未然に防ぐことが出来たのは、広告がメディアに対しうまく機能していたからであり、その後はインターネットが、更なる情報の民主化を加速させたからです。当たり前の今を保つためには、今後も進化を続けるインターネットのメディアにおいて広告が正しく機能していかねばならないのに、それが脅かされつつあります。そういった中でのアクションが、今の広告事業者には求められています。

インターネット上で広告が正しく機能しつづけるために何を成すべきか、共に考え、共に行動を起こしてみませんか?

2021/06/01 本田

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usedhonda(CEO of FreakOut HD)
フリークアウトの創業者社長で、世界中を飛び回っています。