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レキシントンの幽霊

高校の国語の授業で読み、それ以来この本は数え切れないくらい読み返してきた。

高校の教科書に載っていたのは短めに再編されたもので、学校の図書室で完全版を読んだ記憶がある。そこで読んだ完全版と教科書版の区別がつかなくなって、テストで余計なことを書いてしまったのも合わせて覚えてる。

たぶん、これが初めて読んだ村上春樹の作品で、僕は軽く衝撃を受けた。こういう物語の語り方があるのか…と目から鱗だった。

僕がこの物語を忘れられなくなったのは、その奇妙でクールなストーリーももちろんのことだけれど、とある台詞が強烈に脳裏に刻まれたからだった。

「つまり、ある種のものごとは、別のかたちをとるんだ。それは別のかたちをとらずにはいられないんだ」

この台詞を読んだとき、そうか、そういうことだったのか、と思った。だけど、何がそういうことだったのか、何に納得できたのか、正直僕にはよくわかっていなくて、ただこの台詞との出会いで僕の内側にあった何かがかちゃり、とはまった気がした。

たぶん世の中には、知らず知らずのうちに別のかたちをとってしまっているものがたくさんある。僕はこの台詞によって別のかたちをとってしまっているものごととの付き合い方を考えられるようになった。

語る側ではなく、受けとめる側によって物語が閉じることがある。僕はこの台詞によってそのとき僕に起きていた何らかの物語を閉じたんだと思う。そして、この物語を通して好きなときに開け閉めできるようになった。

こんなふうに、人々の内側の何かを静かに閉じたり、あるいは丁寧に開いたりできるような言葉を紡げたら幸せだなあ、と思う。

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