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ふたつのハサミ

我が家にはふたつのハサミがある。
オレンジのハンドルにひらがなで夫のフルネームが書かれたハサミ。
赤のハンドルにひらがなで私の下の名前が書かれたハサミ。

それぞれ、お互いが幼稚園児の頃から使っていたハサミだ。
幼稚園に持たせる「お道具」として、それぞれの母親が名前を書いたのだ。
それを小学入学を経て、中学入学を経て、反抗期を経て、高校入学を経て、進学と田舎からの上京を経て、社会人になって何度かの引っ越しを経て、結婚をして、また引っ越しを経て、転勤になって海を渡って、今もなおここにある。

油性のマジックで我が子の名前をハサミに書いたそれぞれの母親は、当時、今の夫と私よりも若かった。

私たちは結婚をするとき、きちっとした結納やら、結婚式やらはしなかった。
カジュアルな和食やさん、—どちらかというと、居酒屋に近いようなお店—で両家集まって、カジュアルだけれども緊張したぎこちない食事会をして、彼の家で同棲していた私たちは、そのまま入籍した。
その後引っ越しをしても、同棲していた時から使っていた家具や調理器具はそのまま使った。嫁入り道具のようなものも、これといって用意しなかった。

そもそも、プロポーズらしきものもなかった。
そろそろ結婚でも、とあいまいに、ズルズルと、時にごねたりしながら、彼を巻き込んで結婚したのだった。
結婚して10年経過したけれど、夫は本当に結婚を望んでいたのだろうか、とか結納や結婚式をきちんとやればよかったかもしれない、とか、時々思うことがある。


けれども、このふたつのハサミを見ていると、私たちらしい結婚をしたのだと思えてくる。
私たちは、似たもの同士なのだ。

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