🇫🇮 等身大のフィンランド vol.11 アヌさんと辿る冬戦争の記録（2）

アヌ・カーリナさんの祖父アルヴィさんは、1939年11月30日に始まった「冬戦争」の時代を生きました。等身大のフィンランド第11回は、アヌさんが追いかけたアルヴィさんの足跡を一緒に辿りたいと思います。

今回は第2話をお届けします。

googleでは翻訳できない

アヌさんの記事を訳しながら、自分の知識不足を痛切に感じています。

外国語から日本語に翻訳するときに必要なのは語学力だけではないからです。

まずは、そのテーマの全体像を俯瞰するために、広く浅く、必要最低限の知識を身につける必要があります。そのうえで、書き手の意図をより正確に理解するためには、狭く深く、専門的な知識を備えるべきと感じています。

今のわたしにはそのいずれの実力も備わっていないので、付け焼き刃かもしれませんが、図書館からいくつか参考になりそうな本を借りてきました。書籍の力を借り、適宜、フィンランド語の情報にもあたりながら、このシリーズを進めようと思います。

前回の記事はこちら

冬戦争とは？

今日はアヌさんの記録を紹介する前に、冬戦争の背景をおさらいしたいと思います。

1939年8月、ソ連はドイツと不可侵条約の秘密議定書を締結しました。バルト三国は軍事基地の譲渡を、フィンランドも例外でなく、いくつかの領土譲渡の可能性を示唆する内容でした。

同年9月、ドイツがポーランドを攻撃して第二次世界大戦が始まり、ソ連はポーランド東部を占領しました。続いて取りかかったのは、ドイツとの不可侵条約の秘密議定書の「実行」です。

ソ連のスターリンはフィンランドに領土割譲を要求しましたが、フィンランドは拒み、交渉は11月初めに結論が出ずに決裂しました。11月30日、ソ連が宣戦布告なしでフィンランドの国境を越えて攻撃し、冬戦争が始まりました。

不意打ちではあったけれど

前回アヌさんの記録に、祖父アルヴィさんが所属するフィンランド第34歩兵連隊は1939年10月9日に結成されたとありました。フィンランド全軍が臨時の軍事再教育訓練に召集されていたからです。

フィンランド軍にとってソ連の急襲は不意打ちではありましたが、冬戦争が始まったときには武器の準備が整っていたので、その後は敵の進撃を停滞させるなど奮闘します。

アヌさんの記録から
1939.12.2

1939年10月にウウクニエミを出発してから同年12月2日までに、森の見張塔で明かした夜を除けば、祖父アルヴィがテントで寝起きをするようになって41日目の朝を迎えました。

幸いなことに、12月のはじめは特段冷え込むということはありませんが、前日の記録は「テントへの新たな砲撃」で終わっています。そうした状況でゆっくり体を休めることができた人は、おそらく、いなかったのではないでしょうか。

第34歩兵連隊が属する〈第5中隊〉の戦時記録には、1939年12月2日の出来事についてこれ以上の詳細は残されていませんが、第34歩兵連隊の将校の記録にその情報を見つけることができます。

ティアイスタ司令官は12月2日の夜、（おそらくはフィンランド東部、1944年にソ連に割譲されるまではフィンランドの領土にあった、ソ連との国境付近のカレリア地方にあるロイモラ村の）駅員が避難したという知らせを受けました。

これは重要なニュースでした。

ロイモラ村から南東へ50kmほどの場所に位置するスイスタモ村では、この時点ではまだ避難をはじめていなかったからです。

実際、か弱きものたちは12月3日までその場に留まりました。12月2日の夜に救出のための最初の荷台がスイスタモ村に到着しました。

戦時記録によれば、12月2日の午後、後にその名が広く知られることになるアアルネ・ユーティライネン中佐が登場します。

Anu Kaarina さんのInstagramから翻訳

アアルネ・ユーティライネン中佐は、現在はロシアに割譲された、フィンランド東部カレリア地方の町ヴィープリで生まれました。フィンランド陸軍士官学校を度々の規則違反で退学後、フランス外人部隊に志願。モロッコ植民地戦争での独特の戦法から「モロッコの恐怖」と呼ばれます。フィンランド陸軍に復帰後も再びの品行不良で除隊を勧告されますが、冬戦争に予備軍として復帰しました。

冬戦争が勃発した際、フィンランド陸軍は4旅団と9師団を中心にいくつかの独立大隊や中隊を組織し、3つの軍団に分けられました。

アヌさんの祖父アルヴィさんが所属したのは、カレリア地峡軍と呼ばれる第2軍団の第34連隊第5中隊です。

一方、ユーティライネンが所属したのは、独立部隊と呼ばれる第4軍団の第12師団、第34連隊第6中隊です。開戦時には、カレリア地峡のラドガ湖の北方に構えていました。

スイスタモ村での救出は、ユーティライネン自身の裁量に任されていました。のちに「モロッコの恐怖」は、その攻撃を「ソ連軍の後方に手榴弾を投げた」と振り返りました。

12月2日の深夜、第2軍団は命令を受けました。

「Artahuhta を必ず守り抜きなさい、北に向いて開いている障壁線は我々が占領しなくてはなりません」

戦いは真夜中から翌日の夕方まで続きました。

夜7時半、マジェフスキーは撤退命令を受け取りました。最後まで残って戦ったのが、祖父アルヴィの部隊でした。

騎馬大尉のマジェフスキーは、この戦いでソ連軍は50人以上が死傷し、一方、フィンランド軍は8人が犠牲となり4人が怪我したと推定しています。

この時点ではまだ、かの有名なコッラの戦いはまだ始まっていません。

Anu Kaarina さんのInstagramから翻訳

アルヴィさんたちの部隊は、11月30日の朝にはまだ「ミュッリュヤルヴィ」の近くでお茶を沸かしていました。その日の午後に冬戦争が始まり、急いでカレリア地峡まで再び移動を開始します。

✅  3月2日追記
アルヴィさんたちの部隊が目指していた「ミュッリュヤルヴィ」が、カレリア地峡にあることを地図で確認しました。

✅  3月5日追記
カレリア地峡に「ミュッリュラルヴィ」は確認できますが、11月30日にはその付近に到着し、翌日の深夜（日付変わって2日）にはスオヤルヴィにあるアルタフフで戦った記録が残っています。600km以上も離れているので、現実的ではありません。今日のところは、「ミュッリュヤルヴィ」がこの近くに存在する可能性も考えながら、ひとまず先に進みます。

12月2日にはArtahuhで戦った記録が残っていますが、この Artahuh の場所が特定できませんでした。

疑問を残しながら、次回へ続きます。

✅  3月2日追記
Artahuhはスオヤルヴィ湖の南にあるスヴィハラティにあることが、アヌさんの記録から特定できました。

戦争博物館の写真から
1939.12.2

Evakoita Karjalan kannaksella kolmantena sotapäivänä, Karjalan kannas 1939.12.2
SA-kuva 所蔵 .

冬戦争の主戦場となったカレリアからは、開戦後、42万人もの人々が避難を余儀なくされました。持てるだけの荷物を馬車やそりに積んで雪の中を移動しました。

フィンランドの女性の地位は、この冬戦争と、続く継続戦争の時期を境に変化したと言われています。それまでは、フィンランドでも、女性が家庭と子供の面倒を見るのが伝統で、女性が外に仕事に出ることは極めて稀なことでした。

しかし、1939年の秋に男性が前線に招集され、その状況は一変します。女性たちが家の外でも役割を担うようになりました。工場や港、農場、森で仕事をし、兵士に武器や食料を供給することができたのです。