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🌾 ヒンメリが生まれ、育まれる場所 vol.3 2人のアンナとヒンメリの息吹

ヒンメリを作っている人、ヒンメリに魅了されている人の声を紹介することで、ヒンメリの文化的な側面を考える「ヒンメリが生まれ、育まれる場所プロジェクト」

第3回は、2014年12月に mtv UUTISET が公開した記事をご紹介します。
原文はこちら



ヒンメリは滅びゆく民族の伝統ではない
現代の暮らしにもフィットする



ヒンメリは伝統的にライ麦の藁から作られ、天井から吊り下げられる装飾品です。長年にわたって様々な神話や伝説と結び付けられてきました。今日では、伝統的なヒンメリの傍らで、より現代的なバージョンのヒンメリも手仕事として産声をあげています。

ヒンメリは、私たちにおばあちゃんの家の温かさを連想させるにもかかわらず、今日でも伝統的な手法で制作されています。

アンナ・ライティラさんとアンナ・クヌーティラさんは、タンペレにあるタッリトリでモダンなテイストのヒンメリを販売しました。どのようにして現代風のヒンメリは誕生したのでしょうか?

ヒンメリはフィンランドのライ麦に由来する

アンナ・ライティラさんとアンナ・クヌーティラさんは幼なじみで、ともにフィンランドの湖水地方にあるカンガスの出身です。昨年の夏、一緒に働くという夢を叶えることを決意し、ヒンメリを手仕事で制作することを思いつきました。

ヒンメリの材料は、タンペレの西、フィンランド南西部のサタクンタにある親戚の畑から調達しました。エコロジカルでナチュラルな素材の麦に2人は魅了されたのです。

「私たちは麦を刈り取って、それらを手首ほどの厚さの束に分けました。そのあと、青い状態の麦は乾かすために倉庫に置かれました」(ライティラさん)

麦が黄金色になったら、皮をむいてカットします。必要な麦の長さは、どんなかたちのヒンメリを制作するかによって異なります。伝統的であれモダンであれ、ヒンメリの材料は、必ずしも簡単に見つかるとは限りません。

「伝統的なヒンメリに必要な麦は21cmです。長くてまっすぐな麦を見つけることは容易ではありませんです。」(ライティラさん)


材料が積まれ、2人は作業に取り掛かりました。少しずつ、慎重に、選んだ麦を糸で繋ぎ、特別なヒンメリを組み立てます。モダンと伝統、両方の模型を制作することが2人の目標でした。


「それからは試行錯誤。考えたり、実際に試してみたり、いろいろやってみたんです。」

古いしきたりを大切に守りながら、2人はこの冬、いくつかのヒンメリを完成させました。

■ ヒンメリはクリスマスの飾りものではない

モダンなヒンメリはダイヤモンドを思わせるかたちです。宙を回転するだけのシンプルな飾りは多くのインテリアにフィットします。季節を問いません。

「麦の色をしたヒンメリはクリスマス飾りとして広く認知されているかもしれませんが、私たちの白と黒にペイントされたヒンメリはモダンなインテリアにフィットし、1年中飾っておくことができます。ヒンメリは決して、単なるクリスマスの飾りではありません!私たちは1年中自宅にヒンメリを飾っています。」(ライティラさん)


古い伝統を暮らしの中で目覚めさせることは、タンペレの町には温かい気持ちを呼び起こしました。ヒンメリの未来を信じる2人がその道を作ったのです。

来年の夏、麦を使って何かできないか、ライティラさんとクヌーティラさんは既に新たな計画を考えているところです。

「私たちがもう一度伝統的な材料を使ってヒンメリを作ることに対して好意的な反応をいただきました。ヒンメリの作り手たちはそれほど多くいません。このようなヒンメリがどこで手に入るのか、多くの人が不思議に思って、そのことを話し合うようになりました。」(ライティラさん)

2014年12月14日公開 mtv UUTISETを翻訳


文化は生き物

ヒンメリがおばあちゃんの家を連想させるものならば、その価値基準とされるヒンメリもまた、時代とともに見直されるべきではないか、という視点がとても面白いです。

例えば、ある時代をある場所で生きた私が、祖父母の家を連想するモノの一つに「黒電話」があります。

現代の子どもたちが少し大きくなった頃に同じような質問をしたところで、同じような回答も共感も得られることはないかと思いますが、彼らは黒電話の音がどんなものかを、スマートフォンの着信音を通じて認知しているはずです。姿形は変わっても、ある時代のある文化が、ひっそりと息づいているのです。

実はこの記事を読むまで、私自身、プラスチックやワイヤーアートで作られるモダンなヒンメリに否定的な気持ちがありました。ところが今、伝統を大切にする心はとても大切ですが、文化を継承するという点では、モダンテイストのヒンメリも一つの形としてあっても良いのではないかなと思います。

ヒンメリの材料は必ずしもライ麦の藁でなければならない、
ヒンメリの色は必ずしもライ麦の藁の色でなければならない、
ヒンメリが飾られるのは必ずしもクリスマスの時期でなければならない。

こうした伝統やヒンメリの文化を理解したうえで、選ばれるのがモダンなヒンメリであっても構わないと思うのです。一方で、「ヒンメリ=フィンランド」「ヒンメリ=クリスマス」「ヒンメリ=正八面体」と何かの記号のようにヒンメリが表現されることには、まだ少し抵抗があります。

それから、もし機会があったら2人のアンナさんには、なんでヒンメリを作ってみようと考えたのか、そのきっかけを伺ってみたいです。身近なところでお金をかけなくても材料の麦わらが手に入る環境であったとしても、なぜヒンメリである必要があったのか。手間暇がかかるし、もっと楽な選択肢もあったと思うんです。それでも2人がヒンメリを選んだのは、エコロジカルでナチュラルな素材の麦に魅了されるに至った何らかのバックグラウンドがあるように思いました。

第4回は新たなヒンメリの作り手に関するロングインタビューをご紹介したいと思います。

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