🇫🇮 等身大のフィンランド vol.11 アヌさんと辿る冬戦争の記録（8）

アヌ・カーリナさんの祖父アルヴィさんは、ソ連が宣戦布告なしでフィンランドを国境を越えて攻撃し、１９３９年１１月３０日に始まった「冬戦争」の時代を生きました。

等身大のフィンランド第１１回は、アヌさんが追いかけたアルヴィさんの足跡を一緒に辿ってみたいと思います。

今回は第８話を紹介します。

前回（１９３９年１２月７日）のお話はこちら

アヌさんの記録から
1939.12.8

一晩中穏やかで、全てのオペレーション部隊がしっかり体を休めて新しい１日を迎えることができました。彼らは交代で見張りをして、各部隊には朝のお茶が配られました。


朝８時、双方の砲台から数発の砲撃がありました。各部隊は配給された食事を砲撃の中でいただきました。（『冬戦争の記録』１３３４ページ）

ここでも私たちは、情報官のパロランピの記録にあたることができますが、コッラーでの戦いについて、彼の描写は他とは少し異なります。パロランピによれば、戦いは激しく、戦線が混乱しているようなのです。

もしかすると、パロランピには、目まぐるしく過ぎゆく日々の記憶を整理する必要があったかもしれません。彼の記録では「この時点で」何人かの兵士たちが敵の陣地で行方不明になり、彼らは数日後に発見されたと考えられています。

しかしながら、それらは、祖父の部隊（第３４歩兵連隊第５中隊）の戦争日誌には、一週間後の出来事として記録されています。

もちろん、第５中隊の記録者がひどくトンチンカンだった可能性もありますが、彼らの記録、『冬戦争の記録』においては、無事でいることや生き残ることへの信念が存在していた心象が記録全体から伝わります。

この日は、新たな犠牲がありました。

国立公文書館の死亡者名簿によれば、それまで、祖父アルヴィの部隊（第３４歩兵連隊第５中隊）での戦闘犠牲者はわずか２人でした。冬戦争が始まって初日に亡くなった、彫刻家のラウリ・ヴェルグさん、用務員のヴェイッコ・ポッラネンさんです。一方で、隣の第３４歩兵連隊第６中隊では、ラウティヤルヴィ出身の４人が戦闘の犠牲になっていました。

この日、ウウクニエミ出身の兵士が３人命を落としました。１８歳のアルヴィ・ハルカネンさんと、２９歳のエイノ・イコネンさん、それから３２歳のラウリ・レミネンさんです。

国立公文書館によれば、この時点までで冬戦争で犠牲となったのは９０１人と記録されています。

情報官パロランピによれば、モロッコの恐怖こと、アアルネ・ユーティライネンは、亡くなったソ連兵の遺体を垂直に立たせるように吊し上げて宿泊先に飾ったそうです。地面に放置された遺体は恐ろしい姿になっていました。冷たくなった手からは手袋が、他にも毛皮のコートや暖かい上着などはすべて剥ぎとられた状態だったのです。

Anu KaarinaさんのInstagramを翻訳

興味深いのは、情報官パロランピが残した記録と、祖父アルヴィさんの部隊の記録とを照らし合わせたときに、わずか１週間とはいえ、その内容に差異があることをアヌさんが見逃さなかったことです。

情報官パロランピ

情報官パロランピの人物像に近づくために、ウィキペディアの情報を翻訳・要約してご紹介します。

本名　アルヴァ・エルッキ・ブルノ・パロランピ（ただし、１９２７年までの苗字はスンドステュルム）。１９０８年生まれ。タンペレ出身。

エルッキ・パロランピはフィンランドの戦争記録者であり、スポーツ界の第一人者。冬戦争でのコッラーの戦いに関する記録は、彼の最も有名な作品で、彼自身はコッラーの前線で教育将校としての任務に就きました。

タンペレの高校で学んだあと、そのまま地元企業に就職。１９３８年から１９４０年にかけては、地元紙アアムレフティ社の記者として働きました。冬戦争のあと、１９４１年から１９７１年まで３０年間、フィンランド協同組合の社会生活指導員を務めます。

その間、フィンランド体操協会会長（１９５９ – ６７）、フィンランド王国の国技協会副会長（１９６０ − １９６７）を兼任し、もう一つのキャリアを築きました。

エルッキ・パロランピは、ラウリ・ピフカラと並んで、フィンランドのスポーツの歴史を牽引した人物の一人と称されます。彼らは共同で１９５５年にはじめて開催されたクロスカントリーレース（ピルカン　ヒーフト）を企画しました。

https://fi.m.wikipedia.org/wiki/Erkki_Palolampi

https://fi.wikipedia.org/wiki/Erkki_Palolampi

疑いながら信じること

冬戦争においてパロランピの責務の一つが「啓蒙」であったことがわかりました。

2つの記録に差異が生じているのは、もちろん単なる記憶違いかもしれませんが、ひょっとしたら、戦いが激しく戦線が混乱しているように周囲を「啓蒙」する必要があったのかもしれません。

一方で、パロランピがジャーナリストであったことにも、わたしは敬意を払いたいです。前線にいるパロランピと一般の兵士では、同じ景色でも見え方、受け取り方がまったく異なっていたのかもしれません。

次回に続きます。

戦争博物館の記録から
1939.12.8

Pohjois-Suomen Ryhmän esikunnan lennätinhuone. 4 Morsea ja 2 Hughesia. Kajaani 1939.12.08
【SA- kuva-arkisto】

カヤーニで撮影された１枚です。北フィンランド軍司令部の電信室には、４つのモールス電信機と２つのヒューズが写っています。