🇫🇮 等身大のフィンランド vol.11 アヌさんと辿る冬戦争の記録（9）

アヌ・カーリナさんの祖父アルヴィさんは、ソ連が宣戦布告なしでフィンランドを国境を越えて攻撃し、１９３９年１１月３０日に始まった「冬戦争」の時代を生きました。

等身大のフィンランド第１１回は、アヌさんが追いかけたアルヴィさんの足跡を一緒に辿ってみたいと思います。

今回は第９話を紹介します。

前回（１９３９年１２月８日）のお話はこちら

アヌさんの記録から
1939.12.9

１２月９日は再び実戦がありました。

「第３４歩兵連隊第４中隊と第５中隊が砲撃。敵の動きが停止した。戦利品として、スナイパーライフルや弾倉、弾丸の入った小さな銃を入手。夕食を済ませ、６時頃に砲兵が発砲を開始、道路の両側を集中砲火する。いくつかの砲弾は、弾薬や器材を積んだ宿舎の近くに落ちた。これが一晩中続いた。」
《『冬戦争の記録』1334ページよりアヌさんが抜粋した内容を翻訳》

砲撃戦の影響を受け、６００キロほどの石がいくつかテントを露営しているエリアへ飛んできました。祖父アルヴィの部隊は、墓穴が並ぶ避難エリアとテントエリアの間にありました。１２月の時点では、土を掘って作られる竪穴式の住居はまだ一つもありませんでした。

『冬戦争の記録』によれば、大きな被害は発生しておらず、これらの他に記録は見当たりません。国立公文書館の記録では、この日（１２月９日）、祖父アルヴィが所属する第３４歩兵連隊第５中隊では、アンッティ・クピアイネンさんが亡くなりました。まだ３１歳になったばかりで、２人の子どもの父親でした。

第３４歩兵連隊第５中隊の部隊は、この時点では、コッラー湖の西岸地域、湖の真ん中辺りにいました。彼らの南には、第4中隊と第6中隊の部隊が構えていました。

祖父アルヴィの部隊の『冬戦争の記録』には戦死した敵兵に関しては列記されていませんが、例えば、第７中隊の記録は毎日このような記述で締め括られます。

１２月９日の記録を紹介します。

「１０人の（※ソ連およびロシアの蔑称）が倒れた。」
《『冬戦争の記録』１３３６ページよりアヌさんが抜粋した内容を翻訳》


第３４歩兵連隊では真夜中に、ソ連軍の無線通信を各部隊が受信しました。打つ手がなくなったソ連軍は飛行機を要求し、１機のみが朝５時に発見されました。線路の方向には有毒ガスも見つかりました。おそらくホスゲンでしょう。

９日の夕方、第３４歩兵連隊の日記には次のような記録が残っています。

「第２軍団は、部隊がナーバスになり起こった騒ぎをわずか１時間で収束させた。敵を攻撃していると錯覚したのか、彼らはお互いを叩き（？）、最前線からコッラの部隊の方へ逃げ、ある伍長が殺害された。」
《『冬戦争の記録』１３２０ページよりアヌさんが抜粋した内容を翻訳》

この状況は突然の出来事で、これ以上の情報を見つけることは難しいのですが、アンッティ・クピアイネンが伍長だったことが記録されています。小さな不幸は他にも、第８部隊でも、伍長のハーカナが亡くなりました。

アンッティとハーカナどちらかの伍長が小競り合いによって刺されたのでしょうか？
《『冬戦争の記録』１３１２ページを参考にアヌさんがまとめた内容を翻訳》

Anu Kaarina さんのInstagramを翻訳

アヌさんが引用する記録には、当時はソ連だった国の人々を rysä という単語で表現することが度々あります。これは差別的な発言ですので、このプロジェクトにおいては直接の表現を避けることに決めました。

アヌさんの記録に、アンッティ・クピアイネンさんの訃報が最初に登場する場面では、わたしはてっきり敵兵との戦いで命を落としたものだと思い、読み進めていました。ところが終盤で、精神的に不安定になった部隊の仲間によって殺害された可能性が浮上しました。アンッティさん、ハーカナさんが亡くなった直接の原因は、依然として解明できないまま。どちらかが殺害されたのでしょうか、もしくは、記録に登場しない第３の人物が存在するのでしょうか。

わかっているのは、冬戦争がはじまって10日目にして、精神を病むほどに部隊が疲弊していることです。次回に続きます。

戦争博物館の記録から
1939.12.9

Haavoittunutta viedään ahkiolla linjojen taakse.
Kollaanjoki 1939.12.10

【SA- kuva-arkisto】

この日の写真は見つからなかったので、翌日、コッラー川で撮影された１枚を紹介します。怪我をした兵士が前線の後ろに運ばれています。