産後本を読めなくなった私が文章を仕事にするまで⑩最終回

在宅ワーク、で検索すると、ランサーズやクラウドワークスなどクラウドソーシングのサイトが表示された。

ランサーズは実は結婚してすぐの頃、登録していたサイトだ。
当時は、本格的なウェブ関連の案件か、10円程度の怪しい仕事しかなく、
普通に働いた方がいいな、と思い、そのままパートに勤めたのだった。

だけど、久しぶりにログインしてみて驚いた。
依頼の数が前と比べ物にならない。
特に昔はほとんど見なかったライティングの案件が増えていた。

ライティング。

文章を書いて、お金を得られるということ?

かつて作家になりたかった私の気持ちが、ずくりと動いた。

とりあえず、いくつかのタスク案件を執筆してみる。
どんなネタでも文章を書くのはとても楽しかった。

次の日にはいくつかのタスクのお金が振り込まれていた。

私の、文章が、お金になった。

嘘みたいだ。
ただの母親だった私が、たった1日で、仕事をしてる。

稼いだ額は全部合わせても500円くらいだったけど
嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。

それからは夢中で書いた。
朝の二度寝してた時間も、子供のお昼寝や寝かしつけのあとも、ずっと何かしら書いていた。

書けるタスクがなくなり
どきどきしながらプロジェクト案件の提案もたくさん書いた。
いっぱい落ちたけど、2個受かって、定期的に仕事をくれるクライアントができた。
そのうちの一人が本当に褒め上手で、社交辞令とはわかっていてもどんどんやる気になる。

「よくまとめられてますね。」
「構成が丁寧で引き込まれました。」
「テンポがよくて、長くてもあっさり読めてしまうのはさすがです。」

褒められるとその日1日世界の色が鮮やかになる。

ああ、自分はこんなに、褒められることに飢えていたんだな。

母親になる前は、褒められたり、期待されるのが怖かった。
褒め言葉は期待に変わり、評価が上がれば上がるほど背後にぴったり「期待はずれ」の闇が迫る。

誰にも何にも期待されないただの主婦になれたときには肩の力が抜けて楽になった気がした。

だけど、それは気のせいだった。

自分に期待していたのは誰よりも自分だ。

「専業主婦のくせに家事もまともにできないのか」
「こんなこともできないなんて母親失格だ。」
「子供の将来を考えてちゃんと金も稼げよ。」

全部全部、誰から言われたわけでもなく、自分で自分を追い詰めた言葉だった。

誰かに評価されることがなくなると自分で自分を評価してしまう。
そしてその評価はあたりまえだけど客観性のない、歪んだ評価だ。

顔も知らないクライアントからの褒め言葉は社交辞令かもしれないけど、お金が振り込まれる限り、仕事は確かにやりとげているのだ。

褒められることももちろん嬉しかったけど
はっきりした外部の評価が何より嬉しかったように思う。

あれから、1年半。

ちょっとしたスランプはあったりしたけどライティングはまだまだ楽しい。
来春には末っ子の息子も幼稚園に行く。

これから私はどこまでライターでいられるだろう?

もっともっと文章で、人の心を動かしていきたい。

この長いお話が
どうかどこかの、自分の狭い世界の中で自分を評価して悩んでいるあなたに届きますように。

外の世界は、意外とやさしいよ。

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