聴かずにいたaikoでも聴こうと思った話

昔付き合ってた彼女がaiko好きだった。大学時代は彼女とずっと過ごし、僕の青春は彼女と共にあったと言っていい。いまやもう会うこともなくなったが、aikoの話題を見かけると、未だにふと思い出す。

大学時代、僕は一度もaikoを聴かなかった。僕は、彼女の趣味を理解しようとしていなかったからだ。当時流行っていた「スイーツ(笑)」という言葉を覚えているだろうか?ポップに流行っている文化を深く考えずに、受容しまくる女性を揶揄する言葉だった。彼女は、その言葉が似合う女性だった。テニスサークルとかイベントサークルとか掛け持ちしてるようなタイプだった。それなのに僕のような「陰の者」を好いてくれて、嫉妬してくれたりして、不思議な人だった。でも僕は僕で、そういうタイプの人が苦手だった。だから、彼女のことは好きだったけど、趣味は理解できないな、と思っていた。(好きな芸能人は岩ちゃん、だった。三代目の)

あと、なんか恋に恋する感じが苦手だった。いや、僕も男子校出身なのでどうしたらいいんだかわからないんだけれど、恋を「素敵なキラキラしたもの」としてみている感じが、ビシビシ伝わってきた。彼女は、「自分の周りの友達がこういうデートをしていた」というノロケ話をたまに共有してきた。それを聞いた時、僕は歯が浮いていた。比喩とかではなく、本当に。恋愛ドラマの見過ぎかよ、と思った。恋愛漫画脳ではなく、恋愛ドラマ脳だな、と思っていた。恥ずかしい。そんな歯が浮く話をされる度、「歯茎が荒れるからやめてくれ」と伝えていた。

だから、aikoは聴かなかった。「切ない恋愛を素敵な歌詞で歌う」人だとは知っていた。もちろん、いろんな場面で聴いたことはあったから。テトラポッドに登る人だし、月にぶら下がるし、カブトムシが好きな人だ。もちろんこの歌詞はなんらかの気持ちを比喩的に巧みに伝えているんだということはわかっていた。だから、本気でそれを心で感じる為に歌詞を理解することはしたくなかった。深く共感してしまうだろう自分が怖かった。

aikoが歌う「あたし」は彼女だし、「あなた」は僕になってしまうんだと思っていたから。aikoによって巧みに描かれる「あたしとあなた」の世界に、彼女は自分達の関係を落とし込んで「いいな」って思って聴いていると思うと、耐えきれないなと思ったから。恋愛ドラマ脳だな〜って思っちゃいそうだし、恋愛歌詞に共感するなんて、「スイーツ(笑)」って思っちゃうだろうなって思っていたから。

最近、ふとaikoがサブスクの海から漂流してきた。「久しぶりだな」、と、聴いたことない曲を前にして思った。しっかり聴いてみると、aikoの心地よい歌声、サウンド、後半に向けて伸びやかに歌い上げる表現力。卓越した歌手だ。曲を聴いて、歌っている歌手の姿がイメージが強くでてくる。実在感が大きい。すごい。

aiko、いっちょ聴いてみるか、と思った。

もうその彼女とは別れてしまっているので、「あたしとあなた」の関係性は、もう、変わっている。あの時はもう思い出に変わっているから、今の自分のどの心をくすぐってくれるのか、楽しみになった。

と書いてる途中にふと流れてきた「花風」に耳を落としてみた。別れを告げられた女の子が、それでもあなたと一緒にいたい、という気持ちを毎年巡る季節の景色に重ねた曲をだった。

もう彼女と僕はそんな関係は望んでいないし、あり得ないんだけど。僕の人生におけるaikoという存在が変わっていくなと思っている時に流れる曲がそんな曲なんて。御伽噺的で、ファンタジックで、ご都合主義的で、ちょっとだけ、感傷メーターが強く触れた。

サンクス。


もしよければ、何卒…