硝子のif
君はその道を行くんだね
誰も待っていないその道を
君は少しだけ開いた未来の地図に気が付かずに
硝子の箱が落ちて粉々に砕けた音にも気付かずに
覚悟のない道を歩いて行ってしまった
君の捧げた祈りはもう届かない
その道を選ぼうと決めた君に神は微笑まない
ひとりぼっちになる君を見たくなかったけど
背中に叫んだ声にも君は振り向かなかった
遠くない未来で君を呼んでいたもうひとつの声にも
鮮やかなターコイズの指輪
翡翠の色の春の星座の欠片
宝物を詰め込んだ硝子の箱が
力の入らなくなった指先からこぼれて
真っ暗な宇宙の底で粉々に砕け散った
宝物は君のため
ぜんぶ、ぜんぶ君のため
砕け散る前に君のその手に渡せていたら
でも君は気付くことすら無かったね
希望や未来や幸福が何もかも砕けたことに
硝子の箱にはおまじないがかかってる
もし粉々に砕けたら
君が破片を拾い集めることすら無かったら
持ち主を青白い炎の海に沈めてしまうように
瞳に君の背中を捉えたままこの身体は何処までも沈んでいった
もう君には姿は見えないし声も聞こえない
皮肉なものだね、だからそばに居られる
君の背中にそっと寄り添って居られる
ひとりぼっちの夜に顔を覆う君のその手を
体温の無い手のひらでそっと包んであげられる
君の選び損ねた未来
君がかわいそうでならない
君を守ってあげたかったのに
ひとりぼっちになんてさせたくなかったのに
でも君はとめどなく落ちる涙にすら気が付かない
いつか君がかたちを喪ったときは
大好きだったあの透き通る砂浜で君を待ってる
記憶の波が君をさらって
君がようやく気が付いて崩れ落ちるのを
少しだけ恨んでから黙って支えてあげたい
君と歩くはずだったこと
たくさんたくさん幸せが待っていたこと
君が必要だったこと
君にも必要だったこと
何も告げずにただ黙って
長い睫毛にこぼれる涙をやっと拭ってあげられる
もうひとりになんてさせないよ
でもほんとうはあのときに気付いて欲しかった
君のためだけに星から作った硝子の箱を抱きしめてあげて欲しかった
取り返しがつかなくなる前に
この砂浜に君とふたりだけ
波の音にかすかに混ざる小さな泣き声に気付かなかった君と
永久に罪を背負ってふたりだけ
この星が砕け散るまで続くはずだった命を断ち切ったわたしたちは
もう決して許されないのだから
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