両面の花

A面

とても綺麗だと思ったの。
純白の花びらにこぼれる朝露がまるで宝石。
もう決して、これ以上花を綺麗だと思う感情にとらわれることはないと思った。

たくさんの人にこの花を見て欲しい。
あんまり綺麗だから、見て欲しいと思った。
その代わり、この花は私が守る。

温室だけで育った花は、温室だけを世界の全部だと思い込んでいる。
砂漠でしか咲けなかった花のことを世界の一部だなんて思っていない。
その花が純白の花に毒の花粉を飛ばしてきたり、
純白の花の美しさを求めて蔓を伸ばしてきたりする。
それらから、何としてでも私が守る。

でも、花は言葉を持たないから、私にはわからない。
私は君を守ってもいいのかしら。
それは君に必要なことなのかしら。
朝露のこぼれるその姿を毎日見ていたいと思うことは我儘かしら。
世界にたった一本しか咲かない、純白の花を。

B面

不思議な花だと思った。
たったひとつだけぽつんと、砂漠の隅に咲いていた変わった形の花。
見たことも無かったし、これからも見ることはないだろうと思った。

不思議と目が吸い寄せられる。
砂漠には水も栄養も足りていない。
僕の部屋の窓辺に、連れて帰りたいと思った。

温室で育った花は美しいけど、全部同じものに見えた。
僕の窓辺を飾りたいというその声も、僕には聞き分けられなかった。
何故誰もこの変わった花の美しさに気付かなかったのだろう。
このまま砂漠に咲いていたら、この花はきっと枯れてしまう。
たとえ僕の窓辺だけでも、咲き続けてくれていたら。

でも、花は言葉を持たないから、僕にはわからない。
僕は君を砂漠から連れ出してもいいのだろうか。
それは君に必要なことなんだろうか。
僕の窓辺をいつまでも飾っていてほしいと願うことは我儘なんだろうか。
世界にたった一本しか咲かない、不思議な花に。

海が見える窓

鉛筆を差し込んでくるくると回す。
絡まらせないように慎重に、細長いテープを四角いプラスチックの中にしまいこんでいく。
「どうしてこんなことしたの。聞けなくなっちゃうじゃない」
「このカセットテープ、A面もB面も同じ曲が入ってるの。でもお互いそれを知らないままじゃかわいそうだなと思って。どうやったらそれに気づいてもらえるか考えてるうちに、テープを引きずり出しちゃった」
「変なこと考えるのね」
「そうかな?」
デッキの蓋が開き、指先がガチャリとボタンを押す。
「良かった、ちゃんと鳴る」
「もうカセットなんて売ってないんだから、大事にしなさいよ」
「うん」
「本当に同じ曲が入ってる」
「そう。ずっとそうだったのに、このテープはそのことを知らないのよ」
夏の終わりの潮風が吹き込んでくる。
「ずっとひとつだしこれからもひとつなのに、ふたつに分かれてるなんて不思議ね」

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主にフィギュアスケートの話題を熱く語り続けるブログ「うさぎパイナップル」をはてなブログにて更新しております。2016年9月より1000日間毎日更新しておりましたが、現在は週5、6回ペースで更新中。体験記やイベントレポート、マニアな趣味の話などは基本的にこちらに掲載する予定です。お気軽に遊びに来てくださいね。

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