紅玉の渚 1

町外れの浜辺には言い伝えがあった。
浜辺にはまやかしがいて、迷い込んだ子供の命を食らって永遠に生きているという。
だからこの町の子供はこの浜には近付かない。そもそも本当に町の外れの辺鄙な浜辺であり、そこへ至る道も険しかった。それに浜と言ってもほんの小さな、何の恵みもない場所であったので、普段から訪れる者は稀だった。

危険な場所へ子供を近付けさせないための作り話にも思えた。しかしそれならば何故、まやかしは「永遠に生きて」いなければならないのか。凶暴で恐ろしい化け物がいる、と言えば済むことではないか。そもそも子供だけではなく、大人もあまりこの浜には近寄らない。永遠の秘密を得ようとした者も、誰ひとり帰ってこなかったとされているからだ。

いわゆる不老不死伝説。
何故、この浜にその言い伝えが生まれたのか。
気が付いたら、取り憑かれていた。

訪れる者とてない荒れ果てた浜辺に人影がゆらめく。
若い男だった。
軍手を嵌めた左手にはつるはし。背には道具の詰まったリュックサックを背負っている。心なしか足元は覚束ない。
浜辺は岩に囲まれている。ある場所まで来ると、男は狭い砂浜にリュックサックを下ろした。どすん、と重たい音がする。

その岩はそびえ立つように砂浜に立っていた。まるで目印のように、すっくと立っていた。岩肌はつやつやとして、砂浜をぐるりと取り囲む岩と同じものであるはずなのに、それだけが新陳代謝を繰り返して生まれ変わっているように見えた。

─ここには何かがある。
改めて岩を眺める。まやかしなど居ると信じる方が最早馬鹿馬鹿しいのかもしれない。掘り返してみたところで何も見つからないかもしれない。だが、それで気が済んでしまうのなら、それでも良かった。
何かに取り憑かれていないと、狂ってしまいそうだった。

リュックサックから発掘のための道具を取り出して砂浜に並べる。海猫の声とやわらかい陽射しだけが降り注ぐ砂浜。まるで彼のように、孤独だった。
ふう、と息を吐く。
つるはしを握る手に力を込める。
どうせなら、叩き壊してしまおう、この岩を。つるはしが折れてしまっても構いはしない。まやかしとやらが現れるなら、本望だ。

降り下ろそうとした時だった。

「そこはお墓なの。そっとしておいてもらえないかしら」

歌うような、微笑むような、寂しげな声がした。



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