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釜山には鶏がいない?

 ○○さん「東京から大阪まで、新幹線でどれくらい時間がかかるか、知っていますか」

 韓国の学校で、教壇に立っていた頃、学生によくした質問である。質問された学生で、ただしく答えられた者は、半分もいなかった。

 その質問には「じゃ、ソウルから釜山までは、KTXでどれくらい時間がかかりますか」と続きがある。

 KTXは、新幹線の韓国版のような存在。さて、みなさんは、どれくらいかかるか、ご存じだろうか。

 答えは速い列車だと、約2時間半、時間のみでいうと東京新大阪間の「のぞみ」の所要時間とだいたい同じである。

 そう考えると、日本と韓国の大きさの違いを、理解しやすいのでは。大阪から、さらに福岡や鹿児島に行こうとすると、2時間半、4時間とかかる。

 他方、ソウルは、国の北西部に位置して、1時間も車で北上すれば、北朝鮮と接している軍事境界線だ。釜山は南東部に位置している港湾都市である。ほぼ端と端にあると、いってもいいかと思う。

 日本に比べると韓国は小さい。だが、小さいからといって、何から何まで、特徴がなく、みんな同じなのか。

 たとえば、韓国料理で、「チゲ」と呼ばれる料理がある。お店で出てくるのは、日本の釜飯が入っているような、素焼きの鉢に入った、具だくさんの汁物という感じであろうか。テーブルに運ばれてくる時には、まだぐつぐつと煮えてたぎっている状態のことが多いような。

 種類も、キムチチゲ、テンジャンチゲ、チャムチチゲ、センソンチゲ、スントゥブチゲといった具合に豊富である。

 庶民的な料理であり、このチゲをメインに、キムチなどのミッパンチャンと呼ばれる常備菜的なおかずが数種類、さらに焼き魚や、目玉焼きといったおかずがついて、(昼夜)定食として給されることが一般的であろうか。

 そのチゲのなかで、紹介したスントゥブチゲ。

 どんなチゲかというと、日本のおぼろ豆腐のように、まだ固まっていない、やわらかい豆腐を、アサリや豚肉のひき肉、そして玉ねぎや青唐辛子、時に刻んだキムチなどもいっしょに煮込んで、火からおろす直前、卵を落とす。運ばれてきた時には、卵が半熟状態になっている。因みにスントゥブチゲの「トゥブ」は、豆腐の韓国語音だ。

 スントゥブチゲは、調味料として、唐辛子粉やコチュジャンと呼ばれる唐辛子味噌が入っている。だからお汁は辛いのだが、卵が入ることで、その辛さがまろやかになり、さらにコクが出るのだ。そのコクのあるお汁と淡白な豆腐がよくあって、在韓中、よく食べた料理のひとつである。

 そのスントゥブチゲ、ソウルから、釜山に居を移して、食べてみたところ、ソウルで食べていたスントゥブチゲと違っているところがあった。

 それは、火からおろす直前に、卵を落とすのは、ソウルでは当たり前だったが、釜山では、その卵を落とさないのだ。

 つまり卵なしのスントゥブチゲである。

 卵を落とすことで、あのお汁のまろやかさが出るのに、卵のないスントゥブチゲに、当初は戸惑った。だが、住み続けて、何度も食べているうちに、その釜山の味に慣れていった。

 さらに、卵がないスントゥブチゲには、卵を落とすそれにはない、美味しさがあることに気づいたのだ。卵を落としてないので、アサリなどから出るお出汁の美味しさが、こちらの方があることに。

 卵を落とさないスントゥブチゲは、釜山以外にあるのかどうか知らない。だが、韓国が小さな国とは言え、チゲという日頃よく食されている料理から、ソウルとの違いを気づかされた。

 









 

 



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