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『人間失格』- 夢十夜

あらすじ


夏目漱石の代表作『人間失格』の一編である「夢十夜」は、青年時代の主人公が自身の奇妙な夢の体験を語る形式で進行します。彼は夢の中で様々な出来事に遭遇し、その瞬間の感覚や会話、心情まで緻密に描写されます。

彼が語る夢の中での出来事は現実とは異なるものばかり。例えば、一つ目の夢では彼は山中で出会った美しい女性に一目惚れし、彼女との出会いを通じて穏やかな幸福感を味わいます。しかし、彼女が突然姿を消し、彼は失意の中で目を覚ますのです。

次の夢では、彼は妙な冒険へと赴きます。彼は未知の土地で様々な出会いや試練を経験し、自己を見つめ直す機会となります。その中で、彼は自身の欲望や孤独と向き合い、自己嫌悪や自己矛盾に苦しみます。

このように、夢から夢へと続く物語は読み進めるごとに深まり、主人公の内面と現実を交錯させながら、読者に自身の存在や人間性について考えさせます。

心が動いた箇所


夢と現実の境界が曖昧になる状況や、主人公が感じる孤独や欲望について描かれる箇所が心に響きました。

「何物かに取り殺されんが如く、重苦しき視線を浴びる殺気を、盲人めがけて向ける視線を、毛布に包めた幽霊の人形めがけて墜ちて来る視線を、眠そうな半睁きで狭突きながらも行かぬ夜汽車めがけて飛び出る瞳を見ていると、もうボクまでも堕とされんとする恐怖が胸を押すんです。」

これは主人公が夢の中で感じた異様な状況や恐怖を描写した一文です。彼が目にする視線や瞳がどんどん変化し、彼自身も夢の中で胸が苦しくなる様子が表現されています。このような描写は、夢の中という非現実的な空間において主人公の心理状態を表現しており、人間の内面の葛藤や不安定さを浮き彫りにしています。

おわりに


夏目漱石の「夢十夜」は、青年時代の主人公が体験した奇妙で不思議な夢の数々を通じて、人間の心の葛藤や欲望の複雑さを深く描いた作品です。読み進めるごとに、現実と夢の境界が曖昧になり、主人公の内面が徐々に明らかにされていきます。この小説は、人間の本質を問いかける一方で、主人公の苦悩や孤独に対する共感を生むこともあります。『人間失格』を読んだことがない方にも、ぜひ一度手に取っていただきたい作品です。

#文芸 #小説 #漱石

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