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自分の思考がダダ漏れな職業について考える散歩道ーおでかけがしたい。⑪ー

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旅や散歩にまつわるエッセイ+少し写真のシリーズ『おでかけがしたい。』第11回。

今回は、近ごろ自分の思考が周囲にダダ漏れな気がする不思議について考えながら、郊外をただただ歩くお話です。



キャロットケーキとチョコチップクッキー

地下鉄の終点までプラス乗り継ぎを経て、美術館へ。鑑賞後は予定もないので、帰りは行けるところまで歩いてみようと決めていた。
平日の午後3時半。初夏の昼は長い。

とりあえずお茶しよう。

目当てのカフェまでは約1キロ。今日は「絶対チーズケーキ」と思っていたのに、いざ店内のメニューを見たら、大好きなキャロットケーキがある!と誘惑に負けて、カプチーノと共に注文する。

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キャロットケーキはシャリシャリとしたココナッツの入ったおしゃれな味だった。上に乗っかっている白いものも、生クリーム?と思ったらクリームチーズ。おとななケーキである。

さて、休憩したし、いよいよ本格的に散歩だ……と歩き出して5秒。カフェの隣にあった小さな洋菓子店が気になり、1度通り過ぎるもクルリと戻り、入店。先ほど諦めたチーズケーキに目を奪われ、しかし要冷蔵だから、ここから2時間くらい歩くつもりの私が今絶対買っちゃいけないモノだと思いとどまる。常温で持ち歩けるものを店員さんに尋ねて、「おやつ画」の素材になりそうな塩梅のいいチョコチップクッキー2枚と、紅茶スコーンを買った。

事前に調べておいたのは美術館から先ほどのカフェまでだったので、ここから先は地図の範囲外。とはいえ、長年住んでいる県なので自宅の方角はなんとなくわかる(と思う)。確かこの先に大きな緑地公園があるはずだ。その周囲をぐるりと歩きながら進もう。


綿毛の思い出

木々の鮮やかな緑が広がる景色。風が吹き、綿毛のようなものがふわふわと舞った。

子どもの頃、私は綿毛が怖かった。誰に言われたのか謎だが「耳の中に綿毛が入るとたいへんなことになる」という情報を固く信じていて、道端で綿毛になったたんぽぽを見つけると、両手で耳を塞いだ。5歳の時に中耳炎の手術をしたので、幼年期の自分にとって耳はとりわけ注意を払うべき大切な部分だったのだ。

こどもの賑やかな声が聴こえる。
しかし姿が見えない。しばらく歩くとカーブした道の先に「学童」の文字がみえて、遊んでいるこどもたちの姿があった。こんな緑豊かな場所で遊べるなんていいなあ…と通りすがりながら眺めていたが、

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…という看板を見かけてちょっと心配になる。気をつけて遊んでね。

私は昔から歩くのが好きだ。
山登りでもハイキングでもウォーキングでもなく、「ただ歩く」ことが好きである。お店が建ち並ぶ街なかより、車はよく通るが人とはまったくすれ違わないような郊外の広い道が良い。車や自転車だと事故らないようにぼんやりしていられないが、歩いている時ならば色々と考え事もできる。

緑地公園の外周を半分過ぎると大きな道路へ出たので、青カンを頼りにさらに歩き続けた。


自分の思考がダダ漏れな職業

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作品をつくることは、自分を晒しながら生きることなんだなあ―と、最近思う出来事が相次いだ。

「あの、もしかしてなんですが……宇佐江さん、最近ちょっと元気ないですか…?」

あるとき、急に職場の同僚からそう訊かれ驚いた。心当たりがなかったので、なぜそう思ったのかと尋ねると、「最近描かれる4コマ漫画が、なんか内向きな内容が続いてたので…。私だけじゃなく、他にも同じような感想だった子がいたんです」と教えてくれた。

私は随分長い間(たまに諸々の事情で休みもするが)週1回ペースで『ミュージアムの女』という4コマ漫画を連載している。題材は主に美術館やアートに関することだけれど、エッセイ要素の強い漫画なので、当然その時の私の環境や心理状態も影響する。
自分では、ここ最近の投稿内容に意図した狙いはなく、ふつうに描いていたつもりだったので、同僚の感想は意外だった。しかし、よくよく考えると確かに、最近ちょっとした葛藤を自分の中で抱えていたことに思い至り、それがこんな形で周囲に悟られていたことに戸惑った。と同時に、同僚がちゃんと私の漫画を毎週読んでくれていることにも感動したし、その作品を通じて私の心理を慮ってくれたことに
「こんな有難いことがあるだろうか?」
と密かに感動した。

同じく『ミュー女』の話だが、いつも漫画内容をチェックして投稿してくれている(もはや編集者と言っても差し支えない)職員Aさんに、あるとき漫画の下書きを見せると、こんな反応が返ってきた。

「うーん、おもしろいんですけど…。今回言葉選びがいつもと違いますね。……なんか変な本読みました?」

私は爆笑する前に一回絶句した。
自分ではまったくその気はなかったが、確かにその回の主人公の台詞は少しエッジが効いていた。それというのも(“変な本”では決してないが)最近『ハイスクール!奇面組』(©新沢基栄)の再読とYouTubeで『笑ゥせぇるすまん』(©藤子Ⓐ/シンエイ)を観るのにドハマりしていて、大好きな80~90年代の言葉使いが知らず知らず漫画に影響していたことに、Aさんの指摘で初めて気がついたのである。
結局、漫画は主人公のキャラに合わせてもう少しソフトな表現に変えた。

「オン・オフを分ける」とよくいうが、なにかを創作している人間にとって生きている時間はまるごとオンだ。描(書)いている時はあくまで「作業のオン」であって、意識のレベルではずーっと何かを考えたり感じ続けているし、ある程度それが溜まれば、イメージは悪いが食べたものを排泄するように自然と「そう」とする構造になっている気がする。

それは作家にとって非常に健全な状態なのだろう。時々生き恥を晒すことにもなるが。



…などと考えていたら、早3時間も歩き続けていた。
移動距離約7キロ。
そろそろ疲れてきたし、ちょうど地下鉄の乗り場が見えたのでここから乗って帰るか。

もし、今日誰かが私の行動をGPSで監視していたら、
「こいつはいったい何をやっているんだ……?」
と謎に思うだろうなあ…などと想像しながら、無くなりかけた原稿用紙を買いに画材屋に寄って帰宅した。





今週もお読みいただきありがとうございました。行ったことのない土地をひたすら歩くのって本当に楽しくて、無意味で有意義な時間でした。
今日はこのあと歯医者で親不知を抜かなければならぬので、宇佐江にしては早めの時間に投稿します。

◆次回予告◆
『ArtとTalk⑰』美術館での撮影OKについて考える。あなたは撮る派?撮らない派?

それではまた、次の月曜に。


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◆さんぽ猫には出会えなかったけれど、かわいいかたつむりを発見◆



*計画と無計画の共存。他のおでかけ話はこちら↓




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