(短編エッセイ)イッキ読み願望/お寺様と女子会。
イッキ読み願望
ずっと読みたかった漫画の全巻セットを正月に丸2日かけてイッキ読みした。
掃除もせず、洗濯もせず、食事もテイクアウトかインスタント。日がな一日ソファで過ごし、眠くなったらそのまま目を閉じ、覚めたらまた続きを読むというまさに至福のひととき。
私が漫画を集め始めた時期はまわりの子と比べてやや遅く、小学4年生のころだった。以来、親とおでかけすると必ず本屋さんに寄ってもらうようになった。地下鉄やバスで漫画本を開くのが恥ずかしかった当時の私は(それは今も同じだが)帰り道はぐっと我慢し、家に着くとむさぼるように買ったばかりの漫画を読んだ。
しかし、そういう曜日はたいてい、習い事があったのである。
週末行っていたお習字教室は近所の寺(先日、父の葬儀でお世話になった)がやっていた。その日も私はしぶしぶ、読みかけの漫画を置いてお寺へ向かったのだが「早く続きが読みたいいいい!」という一心で猛スピードで筆を走らせ(たぶん書き終わった子から帰れるシステムだった)「できましたっ!」と速攻半紙を提出した。
朱色でトメハネを直されながら、「なあんか、心ここにあらずな字ねえ」と住職につぶやかれて焦ったが、だって家では、めくるめく漫画の世界が私を待っていたのである。
別の時期にはスイミングに通った。
またしても、私は当時夢中だった『こどものおもちゃ』(集英社)の新刊を前にして仮病を画策し、体温計を腋にぎゅうぎゅう挟んで奇跡的に水銀を37.1度まで上昇させた。その翌週も「なんか、頭が痛い」だの、「お腹がヘン」だのと親に訴えたので、いい加減親も娘のズルに気がついて「いいから行ってきなさい」とプールへ連行された。
「だって、この続きはぜったい今読まなきゃいけない気がする。」
そんなふうに思っていた。
そして、今でもときどきそんな気持ちに急かされて、明日仕事なのに夜更かしして漫画や小説の続きをつい最後まで読んでしまったりする。解せないのは、初読ではなくすでに既読のものであっても時々そういう感覚に陥ることである。
単に欲望を正当化するためにそう考えるのか、それとも本当に、本にも食べもののように「今読むのがいちばんおもしろく味わえるベストタイミング」があるというのか。わからない。
単行本を1冊ずつ揃えていた子どもの頃には叶わなかった、全巻イッキ読みを誰にも邪魔されず行える、おとなになった私。
しかし最終巻を読み終えると、
「なんか、これを1巻1巻待ち望んで読みたかったなあ…」
と、思ったりもする。
お寺様と女子会。
デパ地下のスイーツコーナーを、勤勉にうろついていた時期がある。
父が亡くなったあとしばらくの間、毎週お寺様がうちに来た。「七日参り」というやつだ。宗派などにもよるが、仏式では亡くなってから49日(もしくは35日)を「忌明け法要」とし、それまでの7日ごとにお参りがある。「初七日」は簡略化して葬儀の日にやったので、お寺様が初めて葬儀後いらっしゃったのは「2七日」。ここから3七日、4七日…と続き7七日まで、つまり都合6回、毎週のお参りがある。
といっても、お互いに予定もあるので
「来週はご都合いかがですか?」
と、歯医者さんの予約みたいにお寺様と日時を相談した。
来てくださったのは副住職、30代前半の女性である。枕経が初対面だったが、火葬場にも同行してくださったとき一緒にお弁当を食べながらあれこれおしゃべりして、気さくでかわいらしい方だったので、毎週の訪問もけっして億劫ではなかった。
30分ほどのお経をいただいたのち、温めておいたお茶(ご時世的に気を遣うかもと、湯呑ではなく小ぶりのペットボトルをそのまま)出し、小さなお菓子を添える。そしてちゃっかり、母と私も同じお菓子をもぐもぐ。
「これ、師匠(住職)から市場のトマトです」
「わー嬉しい!母も私もミニトマト大好きなんです」
「そうなんですか?良かった~。このお菓子、おいしいですね!」
「お口にあって良かったです。安寿様(住職)のぶんもあるのでどうぞこれ、お持ちくださいね」
父の遺影を前にして、30代の副住職と私と、70代の母。おしゃべりに花が咲き毎週女子会気分である。
デパ地下には、時期的に苺や桜のかわいいお菓子がたくさんあった。
桜色のゼリーに蜜漬けの梅がまるごと入った『たねや』の「糸結び」。華やかだし上品でぴったり!…あ、でもこれって種ありの梅だろうか。だとしたらお寺様、その場で種を出すのは恥ずかしいかも…。やめとくか。
こぼれそうなもの、歯につきそうなもの、バリバリ音が鳴りすぎるものも避ける。サイズもなるべく食べきりで。和菓子はいただく機会が多いだろうし、でもコーヒーは苦手だっておっしゃってたからお茶に合う洋菓子とか、ないかなあ。
自分も含めてたぶん、なんであろうと貰ったお菓子はそれなりに嬉しいのだけれど、せっかくだから喜んでもらいたいし、味だけじゃなくちょっとしたトキメキもプレゼントしたい。女のお茶菓子選びは真剣である。
毎週いろいろ用意して出したが、結局、最後の49日法要で出した岐阜の銘菓「あゆ」がいちばん好評だった気がする。
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今週もお読みいただきありがとうございました。これまでの「よみきりエッセイ」がちょっと長くて読むの大変そうだなあ~と思ったので(今更ですが…)、今後のエッセイは長編を書きたいとき以外は、「短編エッセイ2本立て」にしてみます。
引き続き、お気軽に楽しんでいただけたら幸いです。
◆次回予告◆
『美大時代の日記帳⑭』犀川で、お花見コンパ。他1本
それではまた、次の月曜に。
*宇佐江みつこ、長々しい系エッセイはこちら↓
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