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宇佐江、宇佐の神様に会いにゆく。ーおでかけがしたい。①ー

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到着した宇佐は、めちゃくちゃ晴れていた

昨年秋、コロナの波がいっとき停滞気味になり、使っていいのか悪いのかよくわからなかったゴートゥーもようやく「利用しました」の声が夕方のニュースなどで散見するようになったころ、旅仲間でもある友人Rと大分県に行く話がまとまった。
なぜ大分?というと、1にも2にも温泉である。友人Rとはパリにも一緒に行った仲だが、大学生の頃から年1回くらいのペースで温泉地巡りをしている。始めは草津、堂ヶ島、鳥取、奥飛騨、有馬、箱根、渋温泉(長野)。お互い全然別の仕事で住まいも今は東京と名古屋で離れているため、これまでは1泊2日で行ける範囲が多かったが、久々の遠出。
「思い切って2泊行くか!」
となれば、同じ県内で複数個所の温泉が楽しめるところがいい。大分といえば別府・由布院という超有名な2大温泉地がある。「じゃあ大分にしよう!温泉以外でも行きたいところあったら、教えてね」と、ふたり旅のプランをいつも担当してくれているRに言われ、いそいそとネットで大分観光を検索すると、ある漢字に目が釘付けになる。

宇佐神宮!!!

なんと大分県には宇佐市という場所があり、そこに、全国の八幡宮の総本社である「宇佐神宮」というものがあるそうな。私の筆名は宇佐江みつこ。これはぜったいに行かねばならないと、速攻でRにメールする。
(※筆名の由来は岐阜県美術館所在地のほうの、宇佐です。)

わくわくと大分ことりっぷも買って当日を楽しみしていた私が唯一心配だったのは飛行機。1人で利用するのは生まれて初めて。電話越しにRの懇切丁寧なレクチャーを受けながら、自動チェックイン機で必要な2次元バーコードなるものをオンラインで事前に取得し、空港に着いてからの導線や、出発日の早朝タクシーの予約まであらゆる準備を万端にしていたらなんと台風襲来で、出発前日に飛行機が欠航になるという大トラブル!しかし、ここでも準備のいいRがすぐさま仕事帰りの私に指示をくれ、新幹線と特急で無事に宇佐まで辿り着ける切符を手に入れることが出来た。そのようにすったもんだの末辿り着いた九州・大分の宇佐駅は、台風なんてまるで違う国の出来事のようにすっきりとみごとな快晴だった。


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宇佐神宮の御神木に宇佐江の名刺をすりつける

着いてすぐ、名物のねぎ焼と「つぶらなカボス」というジュースでエネルギーを充填し、いざ参拝。人も少なめで、ゆっくりと時間をかけて、上宮、下宮、願掛け地蔵の順にまわった。上宮はあまり見たことのない3つの本殿が並ぶ形式で、左の御殿から丁寧にひとつずつお参り。おみくじと、家の仕事部屋用に木札も欲しいな…と社務所を探して振り返ると、大きな楠に目がとまる。
宇佐神宮の御神木…。こんなこともあろうかと、仕事の名刺を1枚だけ持参していた私はそっと、「宇佐江」と書いてあるほうで樹に触れ、(宇佐江と申します。どうかずっと作家をやっていけますように…)と、宇佐の神様に願う。お札は「商売繁盛」と書かれたものを選んだ。

神宮から宇佐駅まで戻り、1泊目の別府に向かうため「特急ソニック」というカッコいい名前で見た目も鮮やかなブルーの列車に乗り込む。ところが、何故かいっこうに発車しないソニック。しばらくして、『鳥が電車の部品に引っかかってしまったため状況を確認しております』という悲しいアナウンスが流れる。
まあ急ぐ旅でもないし。先日バンドマンばりに髪を真っ青に染めたばかりのRとソニックの青被り写真を撮るなどして40分ほど待ち、迎えに来た別のソニックに乗ってようやく宇佐を旅立った。

別府のホテルに無事チェックインし、グリルみつばという人気のお店で大分名物・とり天をたべる。甘辛いソースが絡まった中華風で、冷たいビールをのむ至福。満腹になると妖しい雰囲気の路地を抜けて、竹瓦温泉へ。歴史を感じるいい雰囲気の建物だったが、とにかくお湯が熱すぎて、長くは居られなかった。ほかほかになった体を夜風でさまし、ジェラートを買って閉店後のデパート前の植え込みに腰かけてたべた。ホテルに戻ると、ひと眠りするというRを部屋に残し、私は露天風呂に浸かりに行った。


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夢の実現・砂に埋まる

旅の2日目、目が覚めて早々ひとりでふたたび露天風呂へ。昨夜は暗くて見えなかった海が湯舟からも見えて、朝も来てよかった~と思う。

チェックアウトのあと別府駅のロッカーに荷物を預けたら、今日のメインイベント、砂湯体験である。
旅の前。長澤まさみちゃんがCMで砂風呂に浸かっていて、「いいな~指宿かな?」と思ってぼんやり見ていたら、なんと大分!!大分にも砂風呂ってあったんだ!砂風呂体験をずーーっと前からやってみたかった私は急いでまたRにメールを…と考えたその瞬間、チャラララ~♪と携帯が鳴り、そのRからメールが。
『こんばんは。2泊3日なら別府・由布院・宇佐をぜんぶまわれるプランができそうだよ。ちなみに砂にうまる砂湯って大丈夫そう?ずっとやってみたいなと思ってて。』
まさにドラマのようなタイミング。

そんな2人の念願だった、砂風呂体験ができる別府海浜砂湯へ到着。午前中の早い時間に行ったけれどすでに入り口から人が溢れていて、我々の番は1時間ちょっと後。目の前の青い空、青い海、そしてRの青い髪をまたも記念に撮って待つ。番号が呼ばれたら、すっぱだかの上に浴衣を着てスタンバイ。いちどに8人くらいずつ、間隔をあけて砂場に横たわり、ざくざくと熱い砂をかけられてゆく。「砂かけさん」と呼ばれる女性たちは柄の長いスコップのようなもので「苦しくない?」などと確認してくれながら砂を乗せてくれるのだけれど、はじめてだとちょっとびっくりしてしまうくらい、本当にすごい量と重さ。一緒のタイミングで砂をかけられ始めた前列のおじさんは、「もう無理」と早々に砂から出てしまっていた。
うう熱い。左足首の部分だけ、ちょこっと砂のかかりが薄かったので外気を感じてひんやりと心地良かったのだが、すぐさま「あら、ここあんまりかかっとらんね。」と見つけられ容赦なくさらに砂追加。もう完全密閉状態。プールにあるような大きな時計が置いてあって、
「このまま15分。それからゆっくり砂を落としますね」
と案内される。
横たわりながらも海が一望できるように砂で枕を作ってくれたり、「写真撮りますね~」と、あらかじめ体験者から預かったスマートフォンであらゆる角度から体験者を撮りまくってくれる、行き届いたサービスの砂かけさんたち。しかし、砂にうめられ首だけ飛び出ている状態の写真でいったい、どんな表情を浮かべるのが正解なのか…。あとから見たら、砂から飛び出たRの顔はニッコリとほほ笑み、いっぽう私は無の表情でうつろな目をして写っていた。

砂と汗を温泉で洗い流しスッキリしたら、新鮮なお魚がおいしい回転寿司のお店へ。どうやら大分はカボスが有名らしく、ふつうなら柚子やレモンがいるだろう場所に必ずカボスが鎮座している。ここでも白身魚の三貫盛りにカボスがちょこんと添えられていた。
午後はべっぷ地獄めぐりの中の「海地獄」。天然であることが不思議なくらいのスカイブルーの湯(入湯用ではない)に見惚れながら、「地獄蒸しプリン」をたべる。

別府駅に戻りバスに乗って、約1時間。由布院は山の中だった。おこもり宿として人気のちょっと高級な(しかしゴートゥーのお陰で割安だった)宿にチェックインする際、私の書いた住所を見て支配人さんが「ここって、近くに○○っておいしい珈琲屋さんありますよね!」と、超ローカルな馴染みの喫茶店の名前を大分で言われてびっくり。近くにお知り合いがいるのだそうな。部屋はもともと全て風呂付きだが、急なキャンセルが出たそうでさらにグレードアップしてもらえた。ひとつひとつの部屋が離れになっており、玄関もついている。道中、「ここから先へは、他のお部屋のお客様はご遠慮ください」みたいな札があって、こういうところへ芸能人はお忍びにくるのかなとかふと思う。部屋にはいってしばらくは、Rも私も部屋についた露天風呂に見とれてぼーっと過ごした。
夕食も豪華だった。出てくるものすべてがうつくしくて、おいしい。色んな料理にちょっとずつあしらわれている葉は、おそらくこの宿を囲む山のものだろうなあ。「こんなに使うなら、毎日『葉っぱを取ってくる係』みたいな仕事がありそうだね」とRとこっそり言い合う。メインは豊後牛と大分の赤ワイン。


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最前列。吐き気をこらえておいしいお弁当と景色を味わう

3日目。今日はRも一緒に起き上がり、昨夜は部屋風呂に入ったので、朝は大浴場のほうに行ってみる。誰もいなくて貸し切り状態だった。こちらはこちらでまた素敵。朝ごはんのお米がめちゃくちゃおいしくて、ふたりともおかわりする。チェックアウトのあと、金鱗湖を経由して湯の坪街道を歩く。ゴートゥーでもらった大量のクーポンが、意外とこの時期、まだ使えない施設が多くて昨日のぶんを持て余してしまったので、ここで一気にお土産に変えてしまう。

バスで豊後森へ。旅の締めくくりはリゾート列車「ゆふいんの森」に乗り、新幹線の乗り口である博多駅まで向かう。
のどかな景色に映えるグリーンの列車に乗り込むと、Rが用意してくれていたのは何と1番前の車両の最前列。発車を待つあいだに、これも事前にRが私の希望をきいて予約してくれていたお弁当を奥の車両まで取りにいっていると、電車が動き出した。
ふらつきながら弁当を抱えて最前列の座席まで戻り、どんどん流れていく景色をよそにお弁当をひらく。どれもおいしそうなおかずばかりでわくわくしたが、次第に私は自分のある欠点をすっかり失念していたことに気づく。

私は昔から乗り物にめっぽう弱い。バスや電車は必ず窓際じゃないと酔ってしまうし、学生時代のバス遠足で行われるビンゴも映画鑑賞も寝たふりでやり過ごした。以前Rに誘われ出掛けたUSJは1つ目のアトラクションの開始5分でノックアウト。その後の記憶がない。
お弁当はおいしい。景色もうつくしい。しかし想像以上にゆふいんの森は激しめに、揺れた。ゆっくりと、胃がもちあがってくる感覚がだんだんと強くなり、おそらく隣で別の豪華弁当を食べていたRは身を固くして弁当をたべる私の異変に気づいたことだろう。ああ申し訳ない…。
けれど私ももうおとなだ。新幹線なら酔わなくなったじゃないか。JRにだって毎日乗って通勤して、今では読書が出来るまでに成長したじゃないか…心のなかで自分を一生懸命励ましながら、時間をかけて弁当をたべ終えて、さらにはデザートのロールケーキ(先ほど湯の坪街道で買った。すごくおいしかった。)までたべきった。場違いな達成感と、ほっとした気持ちに包まれて、私はきれいな窓の景色に瞼をむけていつのまにか眠ってしまった。

博多駅に着く。父の好物のかるかんを買って、帰りの新幹線に乗りこんだ。



今週もお読みいただきありがとうございました。大分…楽しかった。またぜひ行きたいし、他の砂湯も体験してみたいです。この旅のあと、またコロナが大きく流行ってきてしまい再び旅行も遠のいてしまいましたが、愛知は昨日をもって緊急事態宣言が解除。そろそろどこかに行きたいなあ…。
さて、来週は特に内容を決めないフリーの回。お楽しみに?
…思っていただけたら、嬉しいです。

それではまた、次の月曜に。


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◆今回のさんぽ猫◆
大分の金鱗湖から湯の坪街道に抜ける道の、屋根にいた猫。

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