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エクソン・モービル――復活の石油メジャー、新エネルギーシフトと事業再編で成長模索へ

気候変動問題の高まりで徐々に風当たりが強まるなか、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う世界的な需要減も加わり、厳しい経営環境が続いた石油メジャーが復活を見せています。

石油メジャーとは

ここで、「石油メジャー」について、ごく簡単に説明します。
かつて、世界の石油市場は「セブン・シスターズ」と呼ばれる大企業7社によって支配されていました。

・スタンダード・オイル・オブ・ニュージャージー
 (→エクソン→エクソン・モービル)
・ロイヤル・ダッチ・シェル(→シェル)
・アングロペルシャ石油(→BP)
・スタンダード・オイル・オブ・ニューヨーク
 (→モービル→エクソン・モービル)
・スタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア(→シェブロン)
・ガルフ石油(→シェブロン)
・テキサコ(→シェブロン)

これに対し、産油国はOPEC(石油輸出国機構)を設立します。
中東戦争を機にOPECの力が増したのとは対照的に、メジャーの影響力は小さくなっていきます。

こののち、メジャーは合併を繰り返し、現在では
エクソン・モービル
・シェル
・BP
・シェブロン
に再編されています。

エクソン・モービルとはどういう会社?

「セブン・シスターズ」の1つ、スタンダード・オイル・オブ・ニュージャージーを起源とするエクソンと、スタンダード・オイル・オブ・ニューヨークを起源とするモービルが、1999年に合併して誕生しました。

事業は、石油や天然ガスの探査・採掘を行う上流部門から、採掘した石油や天然ガスを精製し、燃料油や化学製品に加工し販売する下流部門まで行う、垂直統合型で運営されています。

上流部門は、米国内のほか、東南アジア、中東、アフリカ、南米など世界各地で採掘を行っています。最近では、南米ガイアナ沖で新たな油井が発見され、開発が進んでいます。

ガイアナ沖の Liza Phase 2 Project

下流部門は、大きく2系統に分かれます。

1つが、燃料と潤滑油の製造・販売です。
航空機や船舶の燃料、産業用の潤滑油、アスファルトなど幅広い用途向けの石油製品を提供しています。自動車のエンジンオイル「Mobil 1」は日本でもよく知られていますよね。
また、全米で1万1000件以上の「EXXON」と「Mobil」ブランドのガソリンスタンドを運営しています。

もう1つが化学部門です。
原料からプラスチックの原料となるオレフィン、ポリオレフィンなどを製造しています。梱包材向け、消費財向け、自動車向け、ヘルスケア向けなど、多様な用途向けに製品を展開しています。

最新の決算動向

2021年10~12月期

まず、2021年10~12月期の四半期決算の内容を見ていきましょう。

(100万ドル)     売上高     純利益   1株当たり利益
2020年10~12月期  46,540   ▲20,070    0.03ドル
2021年  7~  9月期  73,786     6,750    1.58ドル
2021年10~12月期  84,965     8,870    2.05ドル

会社発表資料より作成

売上高は849億6500万㌦で、前年の同じ時期と比べ82.6%増加しました。
一方で、前年計上した巨額の減損がなくなり、純利益は88億7000万㌦と2014年1~3月期以来の高水準となりました。

メインの上流部門では、原油や天然ガス価格が上昇したことの追い風を受けました。また、前年計上した巨額の減損費用がなくなったこともあり、部門利益は米国内、米国外ともに拡大しました。

下流部門は、新型コロナで落ち込んでいた需要が回復してきたことに加え、価格が上昇したことでマージンも一段と改善しました。部門利益は、前期(7~9月期)に引き続き、黒字を維持しました。

化学部門も需要回復の恩恵を受け、マージンが改善しています。米国内の資産売却益もあり、部門利益は前年同期比で約2.8倍となりました。

2021年通期

今度は、2021年12月期の通期決算の内容を見てみましょう。

(100万ドル)  売上高    純利益   1株当たり利益
  2019年    264,938   14,340    2.25ドル
  2020年    181,502   ▲22,440   ▲0.33ドル
  2021年    285,640   23,040    5.38ドル

会社発表資料より作成

売上高は2856億4000万㌦で前年比57.4%の増加、純利益も230億4000万㌦と黒字を回復しました。
新型コロナの影響で需要が大きく減少、原油価格が急落して巨額の赤字を計上した前年からV字回復を果たし、コロナ前の水準に戻しています。

気候変動対応と新エネルギーに注力

エクソン・モービルは温室効果ガスの排出量削減や、新エネルギー関連事業の展開を加速しています。

温室効果ガスの排出量削減については、2030年までの新しい中期計画を公表しています。

・全社:原単位20~30%削減
・上流工程:原単位40~50%削減
・全社のメタンガス原単位70~80%削減
・全社のフレアリング原単位60~70%削減

また、温室効果ガスを少なくする取り組みに対し、2027年までの6年間で150億㌦以上の投資を行うことも表明しています。

新エネルギー関連事業では、昨年2月、低炭素技術を商業化するための新たな事業「エクソンモービル・ローカーボン・ソリューションズ」を立ち上げています。

現在中心となっているのは、CO2を回収し地中や海底に貯蔵するCCSと呼ばれる炭素分離・貯留プロジェクトで、米国内のほか、スコットランドやオランダ、シンガポールやインドネシアなどで計画が進んでいて、一部は稼働しています。

ほかには、カナダで再生可能ディーゼル生産計画を進め、林業や木材建築の廃棄物からバイオ燃料を製造するノルウェー企業を買収し、テキサス州では2022年末までの稼働を目指し、プラスチック廃棄物のリサイクル施設の建設を進めています。

事業再編とロシアからの撤退

3部門に事業再編

2022年1月、エクソンモービルは4月1日より事業構成を以下の3部門に再編することを発表しました。

・ExxonMobil Upstream Company
・ExxonMobil Product Solutions
・ExxonMobil Low Carbon Solutions

この再編における最大のテーマは、化学部門と下流部門の統合です。
この両部門を統合する「Product Solutions」では、ポリエチレンをはじめとする高価値化学製品の販売で市場リーダーとなり、芳香族、潤滑油、燃料添加剤では市場第2位の地位を確保することをめざしています。

石油や天然ガスの探査・開発・採掘を行う上流部門は「Upstream Company」に完全に一本化する方針です。

Low Carbon Solutions」は前述の通り、低炭素技術を商業化するための新たな事業部門であり、3本目の柱として位置づけられました。

加えて、これまで上流、下流、化学の部門ごとに置かれていた技術・エンジニアリング関連業務やサポートサービス業務は一元化されることになります。

The Energy Center at Houston

この事業再編により、2023年までに60億ドルを超えるコスト削減効果が期待できるとしています。
なお、現在テキサス州アービングにある本社を、2023年半ばまでにヒューストン北部に移転する予定です。

ロシアからの撤退

エクソンモービルは、ロシア極東サハリン州で、日本、インドなどが参画する「サハリン1」を運営しています。

3月1日、ロシアのウクライナ侵攻を受け、「サハリン1」の操業を停止するためのプロセスを開始し、「サハリン1」から撤退するステップに着手することを発表しました。
あわせて、ロシアでの新たな投資は行わないことも発表しています。

まとめ

・「セブン・シスターズ」の一角、エクソンとモービルが合併して誕生
・探査・採掘から精製・販売、化学製品の製販まで手がける垂直統合型
・売上高、利益とも大幅な回復みせ、コロナ前水準に復活
・下流部門と化学部門を再編し、高付加価値製品分野に集中
・ロシアのウクライナ侵攻受け、「サハリン1」停止、ロシア撤退発表


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