日本の美意識 ~散らし書き~

紙面上では、平安時代中頃の三色紙の和歌の散らし書きが、余白の美の源流なのかなあ。

「継色紙(つぎしきし)」(伝小野道風)・「寸松庵色紙(すんしょうあんしきし)」(伝紀貫之)・「升色紙(ますしきし)」(伝藤原行成)は三色紙とよばれ、平安時代中頃(11世紀後半頃)の名筆。
万葉集や古今和歌集など和歌を、散らし書きにしたもの。

「継色紙」
『万葉集』『古今和歌集』等の古歌を集めた未詳私撰集の写本断簡。
http://idemitsu-museum.or.jp/collection/calligraphy/kana/03.php

「寸松庵色紙」
『古今和歌集』の四季の歌を書写したもので、色紙と称されているが、もとは粘葉(でつちょう)装の冊子本であった。
https://www.moaart.or.jp/?collections=092

「升色紙」
平安時代初期の歌人清原深養父(清少納言の曾祖父)の私家集『深養父集』の一部を書写した現存最古の写本の断簡。
https://www.gotoh-museum.or.jp/2020/10/04/08-018/

"絵と文学(歌)と書(文字)を一体として一つの美的世界を創り上げるという伝統は、日本人の美意識のなかでずっと生き続け、数多くの優れた作品を生み出してきた。(p137)"『日本人にとって美しさとは何か』(著者:高階秀爾、2015年、精興社)より引用

"(源氏物語絵巻に)記されたひらがなは、「散らし書き」と呼ばれる手法が用いられている。
 これは絵画や文字だけでは伝えられない思いを表現する手法で、書き出す上下の位置や行間を適宜変えることで感情の抑揚を表すものである。中でも「重ね書き」と呼ばれる左右の行を重ねる技法は圧巻である。「源氏物語絵巻」の御法の巻には、主人公光源氏の正妻、紫の上が亡くなる、まさにクライマックスシーンにおいて、読みづらいほどに字が重ねられている。
 さまざまなことをしつくさせたまへどあけゆくほどにたえはてさせたまひぬ
 死の悲しみを表現するために行間の余白をなくしたものとみてよいだろう。このような余白の操作によって感情を表す方法は、まさしく「もののあはれ」や、のちに触れる「余情」の表現とみてよいだろう。"(p87)
『日本の美意識』(著者:宮元健次、2008年、光文社)より引用

「源氏物語絵巻」平安時代(12世紀)
https://www.gotoh-museum.or.jp/collection/genji/

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