スットコ三人組

 とある町。年中通して穏やかな気候で人が住むには贅沢と言っていい程の静かな町にひっそりとではあるが、確かな悪意を持った三人組がいた。

 「おい、いい加減行動を起こそうぜ。いつまでもこんな町にいる訳にはいかねぇだろ。まさかとは思うが、あの時の約束を忘れたって事はねぇよな?あ、すいませーん、大関お代わり」

 「忘れてなんかいやしないよ。でも行動を起こすのはまだ早いと思うな。だってまだ準備が中途半端なんだから。行動を起こす前の準備こそが大事なんだよ。それに計画だってまだまだだし。あれ?プーちゃん、今日はあんまり食べてないね?」

 「うん・・・ちょっとね・・・最近我慢してるんだ。どうしてもメタボリックが気になっちゃって・・・」

 「そんなの気にしてんじゃねぇよ!食べたいから食べる!我慢したって死ぬ時は死ぬんだから!」

 「バカだなぁ、リョクスケくんは。実際に調べた事がないからそんな事が言えるんだよ。最近読んだ本に書いてあったんだけどメタボリック症候群っていうのはね・・・」

 「はいはい、お前の説教は40年前から変わらないのは知ってるよ!それよりプーちゃん。喰わねぇなら俺がもらっちゃうぞ!」

 「あ・・・酷いよリョクスケちゃん・・・やっぱり食べようかなって思ってたのに・・・」

 「バカヤロウ!プーちゃんが遅いからだぞ!それにメタ・・・何とかが心配なんだろ?食べたら怖い、それなら助けてもらったって思ってもらいたいくらいだ!」

 「ふぅ・・・」

 そんな町の駅前にある小さな居酒屋の中で交わされている会話である。カウンターには七人、座敷もあるけれど、四人連れが三組も来たら一杯になってしまうようなそんな小さなお店でこういう会話が繰り広げられていた。

 この三人がこのお話の主人公となる人物だが、ここで少しだけ紹介しておこう。

 口は悪く、酒癖が悪く喧嘩っぱやいのだが、友人の事を一番に考えているのが時々その会話の内容で分かる男。それが「リョクスケ」と呼ばれている男である。

 仕事は三代続く魚屋で、自身もそうであるが、祖父、父の両名も生粋の漁師であり、勝気な性格が災いしてか二度の離婚を経験している。二名いる元妻の間に三名子供がいるが「二度と会わない事が条件」とされているので、遠くから見守るしかない事を肴に呑んでは暴れるので近所ではあまり評判はよろしくない。

 「リョクスケ」というのは勿論あだ名であり、本名を「緑屋輔平」と言う。珍しい名前だが、そのまま発音してしまってはあまりにも不甲斐ない、という事で親しい友人はそう呼んでいる。それがこの性格を産んでしまった要因の一つでもある。

 一方、論理的に物事を考え、知的である事を望み、結果それが疎まれてしまうのだが、本人はそれを「愚民共が何を言っても所詮は蟻の足音にしか過ぎないから気にならない」と言ってのける程のプラス思考の持ち主であり、本人は「文筆業」と自称しているものの、未だヒット作を出せないまま、官能小説を毎月書きそれで食べている男。

 卑猥な文章とは裏腹に垣間見えるその表現力に友人達は彼の事を敬愛と畏怖の念を込めて「プロフェッサー」と呼ぶ。本人も何故かその呼び名を気に入り「今度あるプロジェクトがあるんだ」というのが近年口癖になっているが、無論そんな行動を起こした事はない。

 少々パラノイア気味ではあるが、生活能力に問題はないので黙視されているようである。奇妙な癖を持っているので周辺の子供達から良く石を投げられているのだが、それを本人は「人気者だから仕方が無い」と勘違いしている事も書いておかねばならない。

 その癖というのが「木の上に登って本を読む」という行為である。時たま枝が折れてしまう事もあり、一度病院に運ばれた事もあるが、本人曰く「アソコが一番落ち着く」と言って聞かないので現在では大人は見て見ぬフリをしているようである。

 そしてプーちゃんと呼ばれている男。「何故あの二人と付き合っているのか?」と近隣住民から心配されているのだが「この世には悪い人なんていないんだよ」と逆に嗜めているようなお人好し。

 生命保険の勧誘を生業としているのだが、その何を言われてもめげない性格と、ゆったりとしたスローペースで話すので、いつの間にか勧誘された人間は彼と仲良くなってしまい、結果として契約してしまうのである。

 毎月のノルマは達成出来ないものの、社内状況としては平均を叩き出すのでクビには出来ない。酒は嗜む程度、自ら酔っ払ってしまった同僚を送り届けるなど、人の嫌がる事を率先して引き受けるその態度に誰もが彼を慕ってしまうのだ。

 この三人の中で唯一の妻帯者。一人ずつ息子と娘がおり、それぞれ一流大学を経て、医者と弁護士の卵という道を進んでいる。年に一度の妻との旅行を大切にし、穴場の温泉旅館探しを趣味としている。当然グルメであり、食べる事が好きなのであるが、それが災いし、最近ではかかり付けの医者から食事制限をされている事が悩みの種であるらしい。

 ちなみに「プーちゃん」というあだ名は小学生時代からであるが、授業中に居眠りをし、その時に見事な程の「鼻ちょうちん」を見せた事に由来する。これは現在でも続いているようであり、社内での呼ばれ方は「プーさん」である。

 さて、この三人。単なる幼馴染であるが、一体これから何を始めようと言うのか?それはこれから少し前の話になるが、ある出来事がきっかけで三人とも同じ目的を果たす為にこうして集うようになったのである。

 それが一体どのような事なのか?

 それはまだ、この町の誰にも分からない・・・。


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