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知らないだれかの知らないことば(きょうの読書)

 いろいろと私事にとりまぎれていつのまにやら半年ほどほったらかしにしていたnote、そのあいだにも見ていただけていたようでとても恐縮しております。
 お気に入りとかスキとかいただけてうれしいです。
 すこしでもお楽しみいただけましたなら。

 青空文庫で読めるあれこれがコンスタントに見ていただけてるのかなー。
 という気はちょっとしつつ。
 そして、だからというわけでもないんですけど今回読んだ本をひとさまにおすすめしたいなって気に駆られた、のも、なんていうかそのへんの塩梅からなんですけどですからそういうものの見方は苦手だなあという方はこのあたりでリターンされるとおたがいの精神衛生上たいへんによろしきものかと存じます、ということでお察しください、でははじめます。


 BLという言葉も人口に膾炙し幾星霜、こういう(というふんわりとした言い方でざっくりとまとめる)ものの見方とか、こういう世界がすきとか、それが実際のセクシャリティとかジェンダーとかなんだかそういういろいろなものにどうかわってくるのかとか、たぶんものすごくいろいろなことがあって、ひとによってもそれぞれで、そういうなかでこういう文章を書くのってどうなんだろうかなあと近頃とみにおもいつつ、そうしてなぜ自分はBとかLとかつくようなものに心ひきよせられることがあるものかなあとか、といってそれを探るためにアマゾンの奥地にゆくわけでもなくぼんやりとまあいっかーでもまあ気にはなるわなあという感じで日々考えたり考えなかったしているわけであります。
 みんなそのへんどう考えてるんだろうなー聞いてみたいなーとおもいつつ、でも聞いたらなんだかよくわからないことになってしまいそうだなとの危惧もあり、なんかこういろいろ難しいよね。
 という相変わらずくだくだしい前置き。
 自分の文章読みにくいなっていっつもおもってる。
 読んでくだすってる方には感謝申し上げる所存であります。


 ということでこのあいだ読んだ本でBとかLとかがすきなひとにはたまらない展開なんだろうけど時代が早すぎてそのへんもてはやされずに終わってしまったのではないかしらこのご本という作品に出会ったのでご紹介を。

筑波耕一郎『殺人は死の正装』(角川文庫)


 古本屋さんでお見かけしてあらこちら聞いたことないおなまえだわ、とおもって手にとり、解説を見たら「島崎博主宰『幻影城』出身」とあってえええとなり、「泡坂妻夫、栗本薫、連城三紀彦と並び」とあり、不勉強でごめんなさい読みます! となって買ってきました一冊。
 もの知らずでおはずかしい。
 ということで読みましたるこちら。
 昭和51年に発表された作品。
 ちょっとさきばしりますが栗本薫『ぼくらの世界』で信と薫クンがいちゃいちゃしているのにコミケのお姉様方がきゃーってなってたのが昭和59年だったのでそれより8年も早いですね。
 なにとは申しませんがだいぶ先駆けてますね。
 
 
 淡い思いを抱いていた従妹が轢き逃げに遭って死んだ。
 彼女は、三年前の心中事件で亡くなった女性の友人だった。
 ある雑誌に発表された懸賞小説はその事件によく似ていた。しかし小説では真犯人は別にいるという。
 彼女がその小説を知った矢先の突然の死。
 もしや彼女は殺されたのでは?
 事件の謎を追う逸平、そして次第に明らかになる従妹の姿とは……


 あらすじまとめるのにものすごい時間がかかりましたが全然きれいじゃない、むずかしいですねあらすじまとめるの……ほんとはもっと入り組んでます。
 パズルのようにあれこれがいろいろはまっていって、人間関係のごちゃごちゃとか、それぞれの思惑とか、物語としても謎としても複層仕立てでありました。
 読みごたえがありました。
 なんというかぶあつい感じ。
 おもしろいなーとおもったのが細かい描写。
「薄汚れた六階建ての、左右の建物にいじめ抜かれながら建っているようなビルだった。」とか、「百戦錬磨の武将たちに支えられている若武者(マンション)」とか、建物や無機物の描き方が擬人化めいているというかはまったら癖になるような感じだなあとおもいました。


 で、冒頭からあれこれ書いているくだりについてはというと。
 従妹の死の真相を追う記者・逸平がまずひとり。こちらがたぶん主人公格。
 友人と立ち上げた小さなプロダクションで記者をしている三十代前半の男前。
 古い庭付き木造家屋に母親とふたり暮らし。
 かわいくて気が強い幼なじみの従妹・和子とはなかよくじゃれあったり口喧嘩したりときどき叱られたりする関係。
 そんな彼の相談役となるのが蓬田専介。
 むかし本屋で言葉を交わしたことをきっかけに同人雑誌の立ち上げに協力してもらったことがあり、それ以来の仲。
 売れない作家でごみだらけのモルタルアパートにひとりとぐろを巻いている。
 いかにも昭和だなという感じのたばこぎっしりの灰皿にどろどろのカップラーメン、それを平気でほったらかしにしている専介さんちをお掃除するのが逸平さん。
 自分ちでは母親に炊事洗濯まかせっきりなのになんでかここでは専介さんに呆れながらも甲斐甲斐しくお掃除してしまう逸平さん、よそでは男らしくガツガツいきトルコ嬢とかにも粋なかっこいい口をきくのになぜか「まるで俺はこの男の女中じゃないか」とかぶちぶちひとりで言いながら専介さんちのお片付けをしたりする逸平さん……
 「性格はグータラだが顔はそんなにまずくない」「逸平が好きなのは口元だ」とか地の文が続いたうえに専介さんに「何を聞いているんだ」とかつっこみが入るのは専介さんの顔にみとれていたからですか逸平さん……
 そして逸平さんが和子さんのことをおもってしょんぼりしているときには「ここは逸平くんの妾宅だとおもってくれていいんだぜ」と慰める専介さんとかそのあとに続く会話とか、たぶん昭和55年っていまみたいにその手の目線を意識したりするようなことはなかったんじゃないかなあいやよく知らないけど、だとすると天然ものってことじゃないですか……いやもしかしたら栗本薫先生がおなじ幻影城にいらっしゃるわけでいやだからといってそんな……としばらくうんうん考えていました。


 男くさくて気っ風がよくて女のひと相手にもちょっと下ネタ(昭和だしね)まじえた軽口がたたけて行動派でも母との実家暮らしにちょっとひけめを感じたりしててセンチメンタルなところもある記者30代前半と、「俺の小説は純粋だから売れない」とうそぶき無頼な生活を送りつつ親の代からの結構なパトロンがいる「彫りは深いし眉も男らしい(逸平さん目線)」イケメン作家30代なかば、って、なかなかてんこ盛りだなあとおもいました。


 まだ作品をそんなに読めているわけではないのですがこちらをきっかけにいま何冊か筑波先生の本を集めているところです。
 このふたりの探偵コンビが出てくる作品はほかにもあるのかしら。
 最初に「知らない作家」とか言ってたいへん申し訳ないのですが、ええと、なんていうか、その、さきに述べたビッグネームの作家さんたちと並ぶとやっぱり本が手にはいりにくいというか、あとちょっと検索したところでは筑波先生はダイsーミステリとかに別名で書かれたりとかしてたそうで、そんなんはまっても追われへんやん、ってちょっとどきどきしています。
 はまったらひとりの作家の作品をコンプリートしたくなるほうなので……ええ……
 

 もしもいまみたいに探偵コンビのなかよしぶりが作品人気の一助になる時代にこの作品が出ていたら、もっといろいろ違ったんではないかとかちょっとおもってしまったので、僭越ながらこちらをご紹介にあがりましたという次第です。
 もしよろしければこちらの探偵コンビについてお詳しい方ご教示願いたい、そのようにおもう所存でありますということで今回はお開き。

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