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「夢広がる国」嬉野さんの言葉の切れはし#368

前の人間たちが頑張って獲得した幸福は、次に生まれてきた人間たちにとっては当たり前のことになっているだろうから。あんたらの社会は無限に満足できない社会だよ。
ーー鬼(嬉野雅道)

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「来年のことを言うと鬼が笑う」。
「未来のこと?誰に分かるよ」そういって鬼が笑うのだそうです。
鬼はデカい図体のわりに穏やかな口調で私に話しかけます。
「大事な人たちは、いるの?」
「いるよ。」
「大事にしてるの?」
「してる、かな?」
「大事な人たちが誰だかわかってる?」
「分かってる、つもり。」
「誰かの世話になっている?」
「え?誰の?」
「生きていく上で。あんたが支え、支えられもしている人」
「あぁ、そうだね、いろんな人の世話になってるかな」
「みんな、大事にしなきゃね」
「そうだね」
鬼は根気よく私の横にすわり遠くを見ています。
「2、3日前さぁ、仲間と飲みに行ったよね」
「うん」
「親しい人間とさ、美味いもの食べたね」
「そうだね」
「あのマグロの刺身、美味かったんじゃない?」
「あぁ、あれ美味かったなぁ」
「ずいぶん安い値段で出す店だったね」
「そう。毎朝市場に出かけて、安くてうまいもの仕入れてくるらしいよ。毎日メニュー書き換えてるらしいんだ」
「美味いもの食べられた時って幸せじゃない?」
「幸せだね」
「好い時代じゃない」
「うん。好い時代だよね」
「こんなに恵まれた時代、オレたち鬼も記憶にないんだよ」
「あぁ」
「不満のないところって、いつか知らないうちに当たり前に思えて来ない?」
「思えてくる」
「国民が日に三食、ちゃんと食べられる国にしなければっていうのが政治のテーマだった時代もあったよ」
「そうなの?」
「うん。そんなに昔のことじゃない」
「知らなかった」
「ほんの60年くらい前のことだよ」
「あぁ」
「その頃の日本からすれば、今、すでに、この国は大成功したということじゃないの?」
「そうだね」
「それ以上なにしようとするの?」
「あ、…」
「誰かに感謝とかする?」
「え?なにを?」
「飢えてた時代から抜け出して、美味しいものが食べられる時代にしてくれた人がこの60年の時代のどこかにいたってことでしょ」
「そうだね」
「その人たちにさ」
「誰だか知らないから」
「誰だか特定できないと感謝しないの?」
「だって、誰に、どういう形で感謝し続けなきゃいけないかイメージが湧かないと」
鬼はしばらく黙っていました。
そしてこう言いました。
「あんたたち人間も、俺たち鬼と同じように、何千年も何万年も生きれたら、きっとどんな時代の果てに今の時代があるかも分かるだろうな。でも、あんたらにとってみれば、ほんの100年生きるのも稀なことだからな。60年も生きたら徐々に衰弱していくし、その間にまた新しい人間が生まれて来るから、前の人間たちが頑張って獲得した幸福は、次に生まれてきた人間たちにとっては当たり前のことになっているだろうから。あんたらの社会は無限に満足できない社会だよ」
そんなことをまぁ、鬼が言ったというよりか、
私が書いてるだけなんですけどね。
自作自演という。いい気なものという、ねぇ。
でもこれ、私が書くより、鬼が言ったってうそついた方がね、
おそらく受け入れやすいものですからと、思いましてね、
鬼にも今回特別に出ていただきまして、
まぁ鬼も暇だろうと思いましたのでね、
やりましたよ。
日本はまだ、国家が国民を戦場へ連れて行くような国ではありませんね。
日本人同士が殺し合う内戦もありません。
それだけでも、すでに夢が広がるような国ではないでしょうか。
とりあえず、その認識だけは忘れずにと、私は思いますのよ奥さん。
私が思ってるだけですけどね。
それでは諸氏。
本日も各自の持ち場で奮闘願います。
今年も穏やかな日本でありますように。
解散。
ーー嬉野雅道(水曜どうでしょうディレクター)