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♡今日のひと言♡武田泰淳


「人間をささえるもの」

われわれは、人間の美しさ強さをありがたがるが、しかし、同時に人間の醜さや弱さもありがたがっていいのじゃないだろうか。

美しいことが美しいとわかるためには、醜さが必要ですし、強さが強さとわかるためには、弱さが必要です。逆に、醜さが醜さとわかるためには、弱さが弱さとわかるためには、美しさや強さが存在しなければわかりません。

だから、美しいだけ、強いだけの存在は、全く美しくもなく、全く強くもありません。美しくあろうと必死になり、強くなろうと必死になって、醜さや弱さを隠している限り、本当の美しさも強さも持ちえないのです。美しさと醜さが共存し、強さと弱さが共存してこそ、美しさも強さもさらに輝きを増すのです。

私たちは、自分の中の美しさと醜さを認めましょう。自分の中の強さと弱さを自覚しましょう。素直に、すべてを受け入れて、美しさの中に醜さもあり、醜さの中に美しさがあることを楽しむことです。

「人間をささえるもの」~『武田泰淳全集』全13巻・(筑摩書房、1971.6~1980.3)


武田泰淳(1898-1927~東京・小説家)大学中退後の1934年、竹内好らと中国文学研究会を結成。1937年召集されて中国で戦場を体験した。除隊後の1943年に評伝『司馬遷』を刊行。1944年再び中国に渡り、上海で敗戦を迎えた。帰国後『まむしのすゑ』を書いて戦後派作家として認められた。以後『異形の者』『風媒花ひかりごけ『快楽』など,思想的重量感をもった作品を発表。評論集《人間・文学・歴史》など,評論やエッセーにも注目すべきものが多い。《武田泰淳全集》がある。


2024.7.9
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