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根室本線を巡る旅 Ⅱ

❐はじめて訪れた札幌

時は流れて、
はじめて北海道に行ったのは22歳。
友人と3人の旅行だ。

新千歳空港から入り、支笏湖で自然を満喫、その後小樽・祝津を訪れ、札幌に戻ってくる盛沢山のコースだった。
基本は千歳線、あとはバス。
すべて公共交通機関で行ったので詰めすぎたスケジュールになってしまい、ヘトヘトだった気がする。
類は友を呼ぶというが全員欲張りなので、私たちは手当り次第とにかく近隣で気になるところは全部まわっておく感じだった。


新千歳空港行きの列車を待つ間、「ちょっと遊んでくるから待ってて」と走って、入線してきた憧れのスーパーおおぞらを見に行く。

札幌は新宿級に賑やかだった。

❐ひとり、根室本線に乗る

念願の釧路に行ったのはその後の一人旅だ。23歳。

当時ちょうど一人暮らしを始めたばかりで、一人になったら何がやりたいか?自分の本当にやりたいことは?と考えて、その時に思いついたのが高校生の時から何度も映像を見返した景色を見るべく、『根室本線に乗る』ということだった。

❍仕事終わりの深夜便
❍憧れのスーパーおおぞら
❍目的地の音別
❍海岸線を辿って釧路湿原へ
❍この旅の宿へ
❍釧路湿原のまち、塘路を徘徊
❍塘路での食事について
❍男二人旅に便乗
❍人生変えられたやもしれぬ体験

❍仕事終わりの深夜便

行程は3泊4日。
無理を言って4連休を取った。
仕事が終わったら真っ直ぐに羽田空港に行ってすぐ飛ぶ。眼前に広がる夜景は高度が上がるにつれ、どんどん細かくなっていった。
ベタだけど宇多田ヒカルのtravelingを聴いてみることにした。
到着したら、新千歳空港内にある温泉施設「新千歳空港温泉」で仮眠しようという計画だ。
友人と3人で訪れた旅行のときに空港内のホテルに泊まったのだが、この温泉もセットになっていて、空港内の施設とは思えないほど快適だった。なので今回は休憩室に泊まっちゃえばいいじゃないかという考えだった。

空港に到着し温泉に向かう。

営業時間内のはずなのに、なぜか入り口が閉じられていたので係員を呼んでみる。

「定員を越えてますので本日は宿泊できません」
…………。
ガビーン。完全に計画が狂う。
連休をもらうためにしゃかりきに働いたあと。それに私は徹夜が無理な人間なので、どうにか横になって寝たかったし、だからといって5時間も6時間もひとりで空港の椅子に転がってる度胸は無かった。
困った。グーグルマップで近くのビジネスホテルを探す。どうにか見つけて、タクシーで向かった。貧乏旅行のつもりだったのに、ホテル代8000円にプラス、タクシー代でいきなりの誤算であった。

とりあえずこの日はどうにか床につく。

❍憧れのスーパーおおぞら

翌日、千歳の駅からスーパーおおぞらに乗り、帯広方面へ向かう。

池田で鈍行に乗り換えをして音別という駅に行く予定だ。そこがこの日の目的地であった。車内では移動販売がないらしく、これまた私にとっては誤算であった。

※千歳から釧路までは特急なら4時間かからないくらいだ。乗り換えもなく、寝てれば着く。

はじめは曇天だったが、途中から一気に晴れてくれた。十勝晴れというのだろう。やっぱ私持ってるな〜と上機嫌だった。


無事に乗り換えを済ませ、鈍行列車の車窓を楽しむ。

音別。

ここでいいのかな?

と思いつつとりあえず降りてみる。

❍目的地の音別

例の「尺別(音別)の丘」に行って上から線路を眺めてみたかった。Google Mapで調べてみたところ20分くらいで行けそうだったし、Twitterで歩いて行ってる人もいるようだったのでとにかくこの駅を目的地とした。

ストリートビューでイメージトレーニングは積んできたつもりだったが、駅につくと本当に何もなかった。駅員さんに話しかけてみる。


「尺別の丘」って歩いていけますか?

駅員さんは明らかにビックリしていた。

そして、「今朝も熊が出たばかりだから、行かないほうがいいよ」とのことだった。

羆に襲われるのは私が最も恐れていたことの一つであったので、それならばやめておくかとすんなりそう思った。事前学習にYou Tubeで散々、三毛別羆事件を調べた後だった。

まあそもそも車で来たら良かったんだよな。

駅舎にあった椅子に座る。

あと1時間半か。
本でも読んでよう。

ここまで来たのに簡単に諦めるなんてちょっと虚しい感じもするけど、まあ羆に会ってしまってはおしまいなのでしょうがない。また次の機会で。

駅員さんに声をかけられる。
「こっち来るかい?テレビあるよ」

お言葉に甘える。
駅員さんの部屋は広かった。
おじさんはこれからお昼を食べるとのことで私にもカップラーメンを選ばせてくれた。遠慮なくセブンイレブンの天ぷらそばをチョイスする。

「あの丘に行くには海岸近くの道を通るわけだけど、ここらで女性がひとりで海岸を歩いていたらまず警察に連絡しちゃうかな〜。」

線路の向こうからか、さっきから、ザバーンザバーンと割と大きめの波が打ち付ける音が聞こえているのが気になっていた。

大きな波、羆、警察。

名刺を渡された。
おじさんはこの音別駅に2人か3人いる駅員さんのうちの一人らしい。
時間になると一回なにかを動かしに行った。
主な仕事はこれだけだと笑う。

おじさんとは内容は忘れたが、結構いろいろな話をした。親類が私の地元と同じところにいるらしい。鎌倉に行ったときにみた海が暖かくて穏やかで綺麗だったと話していた。私も海といえば小さい時から見てきた湘南の海を想像するが、確かに昼下りなんか天国みたいにキラキラしているし、晴れた寒い日は空気が澄んで伊豆まで見える。それは特別な事らしかった。由比ヶ浜が恋しくなった。

あとなんかよくわからないキーホルダーをくれた。
線路を金太郎飴みたいに縦に切ったやつ?らしい。
結構嬉しかった。


列車の時間が近づいていた。

駅員さんに撮ってもらった。
この日は本当によい天気だった。

❍海岸線を辿って

列車に乗る準備をしようとすると、駅のおじさんは4時半で仕事は終わりで車で1時間ほどの釧路に帰るとのことで、よかったら送っていこうかと言われた。

これまた便乗してみることにした。

すこしイカツい車のシートには白い毛のふわふわのやつがのっかっていた。車は走り出すとゆずの「栄光の架け橋」が流れた。

予定を大きく変更して海岸線ドライブとなった。北海道を車で移動したのははじめてだった。広く誰もいない道。潰れた大きな遊興所。炭鉱があった頃は賑やかだったんだろう。線路と同じように周囲は何もなくて、なだらかな道だった。見たかった北海道らしい景色だった。
なんでもない普段の通勤の道をこんなに喜んでくれるなんて、とおじさんもかなり楽しそうだった。普段はこの海岸沿いに延々と続く道がとにかく眠くて辛いらしい。

私はこの日から釧路よりさらに30分ほど内陸に進んだ「塘路」というところの宿を取っていた。

結局、宿の入口まで送ってくださった。
鈍行列車の旅のはずが計らずも黒塗りの車で送り届けられることになった。

その時は気がついていなかったが今思えばほとんど保護されたも同然であった。


続く

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