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高級腕時計の精度規格

腕時計の文字盤に「chronometre」という文字を見たことはありませんか?

これは、時計業界では権威でもあるスイス公認クロノメーター規格によって「ムーブメントの精度、即ち時刻の正確性が信頼に足るもの」だと太鼓判を押されたモデルにのみ許された栄えある称号です。

現在は電池式クォーツや電波・GPS時計などが普及しており、時計の精度は高いのが当然とされていますが、ゼンマイで動く伝統的な機械式時計にとっては、その正確性を維持することに非常に高い技術とコストを要します。

近年は機械式時計の精度を始めとした品質向上の動きが高まり、それにつれて様々な規格が制定されてきました。

今回はスイス公認クロノメーター規格を始め、ロレックス規格、グランドセイコー規格、オメガのマスタークロノメーター、ジャガールクルト マスター1000コントロールなど各メーカーの品質基準についてもご説明をさせて頂きます。



スイス公認クロノメーター規格


国際的認定機関であるスイスのクロノメーター認定協会COSC( Controle Officiel Suisse des Chronometres)が行う検査に合格した時計だけに「クロノメーター」の称号が与えられます。個体ごとに検査を受けるので、同じモデルの時計でも合格するものと不合格になるものがあります。この難関を突破した貴重な時計1本につき1つの証明書が発行されます。

■試験場

スイスのジュネーブ、ル・ロックル、またはビエンヌ

■試験対象

ムーブメントの精度

■試験概要

試験は15日。
対象時計を垂直・水平などの5つの姿勢差、3つの温度下に置き、日差(日にどれくらい時刻がずれるか)が査定されます。

日差マイナス4秒~プラス6秒以内、2cm以下のムーブメントはマイナス5秒~プラス8秒以内という基準の時計のみが合格とみなされます。

■認定されると

ISOによって定められたこれらテスト項目の厳格さゆえ、認定機はきわめて高い精度を誇ります。
それゆえ各ブランドにとってCOSC認定は大きな付加価値。

認定機には「歩度証明書」が発行され、ここに至ってダイアルに「クロノメーター」の表記を許されるのです。


ロレックス規格

ロレックスの時計についているグリーンのタグは、“Superlative Chronometer”(高精度クロノメーター)であることを意味する。この特別なタグは、ムーブメントがCOSC(スイス公認クロノメーター)による公式認定を受けており、さらにロレックスが自社内で行う一連の最終検査を通過したことを証明している。ケーシング後のムーブメントのクロノメーター精度および、防水性能、自動巻、パワーリザーブを独自に検査することにより、ロレックスは機械式腕時計の卓越性において新たな基準を打ち立てた。グリーンのタグがついているすべてのロレックスの時計には5年間の保証が適用される。


グランドセイコー規格

すべてのグランドセイコー機械式時計は、この厳格な規格に基づく「グランドセイコー規格検定」に合格することを条件としております。ケース組込み前のムーブメント単体の状態で、製造工場内の人工的に管理された様々な環境下において合計17日間にわたって時間の進み/遅れ(日差)を計測し、それらの数値が基準内にあるもののみに「グランドセイコー」の称号が与えられます。


オメガのマスタークロノメーター

2014年、スイス連邦計量・認定局(METAS)とタッグを組んで規格を制定。


査定対象機のムーブメントは、まずスイス公認クロノメーター規格に認定される必要があります。

【手順として】

①ムーブメントを15,000ガウスもの高磁場環境にさらして機能を確認する。

※ムーブメントにとって磁気は大敵ですが近年は携帯電話などの普及で常にその脅威にさらされます。
各社耐磁時計を製作していますが、150~1,000ガウスほどが通常のスペックです。

②ケーシング後、15,000ガウスにさらし、時計の機能確認、24時間後に精度測定

③6姿勢2温度で精度査定

④パワーリザーブ検査(各モデルごと)

⑤再度6姿勢で精度測定

⑥パワーリザーブ残量が33%と100%の際の時計の精度誤差

⑦水中にて防水性査定(各モデルごと)

このテストは社外の時計も認定を受けることができますが、まだ誕生から日が浅いこと、そして非常に厳格なことから、オメガの独擅場。

2007年以前、オメガは長らく自社ムーブメントの開発を休眠させていましたが、再びマニュファクチュールを復活させ、しかもゆくゆくは全てのモデルをこのMETAS認定機にするだとか・・・


ジャガー・ルクルトのマスター1000時間コントロール

19世紀後半からマニュファクチュールを確立していた、由緒正しいスイス時計ブランドであるジャガールクルト。
「時計の価値」はムーブメントにあることが連綿と受け継がれてきたものづくりの老舗ゆえ、全ての自社製品に非常に厳格な試験を課しています。


1992年から行われているこのテスト。
その名の通り、なんと1000時間にもわたって完成した時計の検査が行われるのです。

検査はムーブメントの精度に始まりケーシング後の耐久性、耐水性、耐磁性など6つの項目で構成。
このテストを通らなければ、どれだけコストをかけた製品であっても商品化されることはないという徹底っぷり。

ミドルクラスの価格帯でここまで厳格な品質基準を設けているのは、ジャガールクルトを除いて知りません。


まとめ

これら厳格な規格は、ブランドにとって大きな付加価値となります。
公認にしろ私的なものにしろ、精度や品質へのお墨付きになるのですから。

しかし同時に、「格」だけでなく私たちが実際に使用する時計としての品質を向上させる、という気質が業界全体に高まってきたことを意味します。

高級時計の購入の際は、上記を参考にしてみてはいかがですか。


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