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2023ベストブックス:小説以外編

次に小説以外のベストを。量的な課題もあるので、まず新書、文庫に絞った20冊。
まんまと新書ビジネスに乗せられて、ほいほい新書を買ってるわけだが、良い新書が増えているのも事実ではある。失念していた以下の決定的な二冊を加えて22冊に。

● 『実験の民主主義-トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ 』宇野重規・若林恵 中公新書 2773)
●『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか 』ナンシー・フレイザー/江口 泰子訳(ちくま新書)

文庫は、選ぶとき意識しなかったけど結果的に小説は入っていない。来年は文庫化を機に『百年の孤独』やオンダーチェをもう一度読むことになリ、ベストに選ぶんだろうな。

新書、文庫の20冊

◉『開かれた社会とその敵 第1巻 プラトンの呪縛 上』カール・ポパー/小河原誠訳(岩波文庫)
◉『人間の条件』ハンナ・アレント/牧野雅彦訳(講談社学術文庫)
◉『目的への抵抗 シリーズ哲学講和』國分功一郎(新潮新書)
:『WIRED vol.48 RETREAT 未来への退却』で予告された「目的」の思索のファーストステップ。なのでスタンスは、「決着をつけることはできていないが、いま考えていることを現状報告として書き記す。考えは続くかもしれないし、続かないかもしれない。続けられる人がいたら、その人に続けてもらえれば良い。おかしなところがあれば指摘してもらって、次からはそこに留意する。」ということで読む人に考えることを促す。それはつまり、「あらかじめ用意された問いーーこの事柄について賛成か反対かーーをただ受け取り、あらかじめ用意されたテンプレに身を置かざるを得ないのは、自分なりにその事柄について問いを立てるという営みが省かれているからです。哲学の勉強をすれば、問いを立てて、概念をもってそれに取り組む訓練ができます……」。ということでもう全文引用したい。
◉『精神の生態学へ 上中下』グレゴリー・ベイトソン/佐藤良明訳(岩波文庫)
◉『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』今井むつみ、秋田喜美(中公新書)

◉『小説作法』小島信夫(中公新書)
◉『サークル有害論 なぜ小集団は毒されるのか』荒木優太(集英社新書)
◉『中世哲学入門 存在の海をめぐる思想史』山内志朗(ちくま新書)
◉『作家の仕事部屋』ジャン=ルイ・ド・ランビュール/岩崎力訳(中公文庫)。
◉『聖トマス・アクィナス』 G.K.チェスタトン/生地竹郎訳(ちくま学芸文庫)

◉『現代フランス哲学』渡名喜庸哲(ちくま新書)。
◉『問いを問うー哲学入門講義』入不二基義(ちくま新書)
◉『訂正する力』東浩紀(朝日新書)
◉『精神分析入門講義』フロイト/高田珠樹他訳(岩波文庫)
◉『スーザン・ソンタグ 「脆さ」にあらがう思想 』波戸岡景太(集英社新書)

◉『読み書き能力の効用』リチャード・ホガート/香内三郎訳(ちくま学芸文庫)
:社会学~文化研究。いま読むべき本かどうかは以下の佐藤卓己氏の解説によりわかる。「すばやく問題を解決してしまう学校秀才とはちがって、「本当に求めるものは吸収し、どうでもいいものは成行きにまかせる能力」が労働者階級にはいくぶんなりとも温存されているというのだ。この能動的に採用された「成行きにまかせる能力」を、ホガードは道徳的資質として高く評価する(……)この能動的な「耐えを忍ぶ」能力があれば、資本主義社会の広告や宣伝を適当にやり過ごす生活が可能なのである。」そういった話がネガティブ・ケイパビリティにつながっていったりしてその点で現在的である。
◉『世にもあいまいなことばの秘密』川添愛(ちくまプリマー新書)
◉『人が人を罰するということ ――自由と責任の哲学入門 』山口尚(ちくま新書)
◉『構造と力 記号論を超えて』浅田彰(中公文庫)
◉『知性改善論』バールーフ・デ・スピノザ/秋保亘訳(講談社学術文庫)


最後に小説と文庫・新書以外の2023年の本・雑誌を40冊。たぶんプラス20冊ぐらい漏れがありそうだけどもういいや。12月分は来年に。

◉『アントピア だれもが自由にしあわせを追求できる社会の見取り図』ウォルター・モズリイ/品川亮訳(共和国)
◉『『啓蒙の弁証法』を読む』上野成利、高幣秀知、細見和之編(岩波書店)。
◉『生成と消滅の精神史 終わらない心を生きる』下西風澄(文藝春秋)。
◉『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる ―答えを急がず立ち止まる力』谷川嘉浩、朱喜哲、杉谷和哉(さくら舎)
◉『「事実性」の哲学』宮坂和男(晃洋書房)

◉『食客論』星野太(講談社)
◉『無用の効用』ヌッチョ・オルディネ/栗原俊秀訳(河出書房新社)
◉『宝ヶ池の沈まぬ亀II  ある映画作家の日記 2020-2022』青山真治(boid)
:じつは青山真治の「小説」のパーフェクトリーダー。これほどクールな文体は他にないんじゃないかと感じていて、むしろ小説家としての青山真治がアイドルであり、最近は書いていなかったとしても、もう一切読めなくなってしまうことに絶望した。この日記シリーズは最後の青山文体として貴重だ。
◉『精読 アレント『人間の条件』』牧野雅彦(講談社選書メチエ)
◉『誤謬論入門 優れた議論の実践ガイド』T・エドワード・デイマー/小西卓三監訳・今村真由子訳(九夏社)

◉『フッサール志向性の哲学』富山豊(青土社)。
◉『思考の技術論 自分の頭で「正しく考える」』鹿島茂(平凡社)
◉『ハンナ・アーレント、三つの逃亡』ケン・クリムスティーン/百木漠訳(みすず書房)
◉『科学と資本主義の未来』広井良典(東洋経済)
◉『アイデア 402 小さな本づくりがひらく 独立系出版社の営みと日本の出版流通の未来』誠文堂新光社

◉『詩歌川百景 3』吉田秋生(小学館フラワーコミックス)。
:本巻も素晴らしくほとんど泣きながら読んでました。夜叉にしてもイブにしてもそうなんだけど、ひとつの物語、サーガを描き継ぐのに神のような絶大な力が発揮される。すべて見えているんだ。
◉『スピノザ全集 Ⅰ  デカルトの哲学原理 形而上学的思想』(岩波書店)
◉『昭和40年男 8月号』。
: これは少し説明が必要ですね。いわゆる本特集だけど『昭和40年男』だけあって他にはない切り口。ノスタルジーではあるが徹底しているので資料としての意味も持つ。採りあげてるのはこんな本。ノストラダムスの大予言、コインロッカーベイビーズ、筒井康隆、成りあがり、蒼い時、ライ麦畑でつかまえて、小学館百科事典、科学と学習、時代とコース……。本好きのルーツがここにありますね。
◉『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか? 岩波ブックレットNo.1080』小野寺拓也・田野 大輔(岩波書店)
◉『無目的』トム・ルッツ/田畑暁生訳(青土社)。
:「「無目的性は厳格性の対極にある」、「達成のためには厳格性が必要」、「したがって、無目的性は達成の敵である」といった考え方を私は解体したい」。ということで、國分功一郎に続き、まさに問題意識に的確にはまる一冊。

◉『フェルナンド・ペソア伝 異名者たちの迷路』澤田直(集英社)
◉『記憶は実在するか――ナラティブの脳科学』ヴェロニカ・オキーン/渡会圭子訳(筑摩書房)
◉『本のある空間採集 個人書店・私設図書館・ブックカフェの寸法』政木哲也(学芸出版社)
◉『水島新司の世界 ドカベン&大甲子園』(三栄)
:これも説明が必要ですね。ドカベンシリーズは、国民のほとんどが読んでいるわけですが、いや俺は/私は読んでいないですよ、という人にももれなくドカベンの魅力が伝わるほぼパーフェクトなガイドになっています。弁慶高校後もしっかり拾っている、といえばその網羅性をおわかりいただけると思います。
◉『〈公正 フェアネス〉を乗りこなす』朱喜哲(太郎次郎社エディタス)
:来年、ローティの『偶然性・アイロニー・連帯』で100分de名著をやる朱氏ですね。自由とか正義について新しい(私が思いつくことのない)枠組みを用意してくれていて、新しい概念の拠り所ができた印象がある、という点でベストオブベストに近い。『バザールとクラブ』(よはく舎)も入れたかったところです。

◉『訂正可能性の哲学』東浩紀(genron)
:言うまでもなくこれもベストオブベストですよ。
◉『コモンの「自治」論』斎藤幸平+松本卓也(集英社シリーズコモン)
◉『万物の黎明  人類史を根本からくつがえす』デヴィッド・グレーバー、デヴィッド・ウェングロウ、酒井隆史訳(光文社)
◉『WORKSIGHT 21 特集:詩のことば』(コクヨ株式会社)
:直近の『WORKSIGHT』は、雑誌としてもはやどの方向に進むのか予想できなくなってきたが、いずれも深くすばらしい。19号の「フィールドノート 声をきく・書きとめる」も、20号「Memory/Dementia 記憶と認知症」もベストに入れたいぐらいだが、それを超えたのが、韓国の詩壇を中心に詩の力を問う本号。「ことばと世界を探求する77冊」では、『36 New York Poets』、オンダーチェの『ビリー・ザ・キッド全仕事』、ディランの『ソングの哲学』、そしてハン・ジョンウォンの『誌と散策』などが正しくピックアップされている。そして、最後は、ここでも古田徹也。「詩がわかるとはどういうことなのか」。すばらしすぎる。
◉『「誰でもよいあなた」へ 投壜通信』伊藤潤一郎(講談社)。

◉『にがにが日記』岸政彦(新潮社)
◉『パピルスのなかの永遠』イレネ・バジェホ・見田悠子訳(作品社)
◉『佐々木敦による保坂和志(仮)』佐々木敦(HEADZ)
:文フリで欲しかった本をネット注文で。佐々木敦氏のこれまでの著書の保坂和志論プラスα。 まとめて読むことに意味がある。
◉『〈ツイッター〉にとって美とはなにか』大谷能生(フィルムアート社)
◉『大阪の生活史』岸政彦編(筑摩書房)

◉『世界 2024年1月号』(岩波書店)
◉『四つの未来 〈ポスト資本主義〉を展望するための四類型』ピーター フレイズ /酒井 隆史訳(以文社)
:以下は「第一章 コミュニズム--平等と豊かさ」からの引用。こういうフックがあると見通しグッと締まってくる。「『スター・トレック』の世界のコミュニズム的性格は、たいていは覆い隠されている。……コミュニズム的ユートピアから離れるとしたら、それは脚本家たちがドラマティックな緊張を高めるため、敵対的な異星人や稀少な資源という外的脅威を導入するときである。それ以外では、この作品のなかにあらわれる対立や葛藤(コンフリクト)は、「賢明に愉快によりよく生きる」ことの探究にかかわっている。」ちなみに四つの展望(ありうべき未来)は、「コミュニズム」「レンティズム」「ソーシャリズム」「エクスターミニズム(絶滅主義)」。

◉『自炊者になるための26週』三浦哲哉(朝日出版社)
◉『SPECTATOR vol.52 文化戦争』(エディトリアル・デパートメント)
:SPECTATORも、WORKSIGHTと同じく、このところすごい特集を組んでいる。なんでこんな特集やろうと思うの?こんな雑誌ほかにない。アメリカ政治思想史読書案内も良いです。
◉『価格支配力とマーケティング』菅野誠二・千葉尚志・松岡泰之・村田真之助・川﨑稔(クロスメディア・パブリッシング)
:ベスト唯一の ビジネス関連の本。「価格支配力」なので、例えばP社の「メーカー指定価格」の話などにも触れたりしますが、ようは「高いけれど欲しいと思わせるには、どうすればいいか?」、そこをつきつめた結果、手に入れられるものが「価格支配力」なのだ、ということで、そのためにじつは「マーケティングができること大全」になっている。大きくは、「4C(4Pではなく)」、「WHY-WHO-WHAT-HOW」、「STP」はやっぱり重要ですよねといったところから、それこそ、インサイト、ペルソナ、ジャーニー、口コミとか顧客のペイン/ゲインの話とか、もうほぼ全部じゃない?と思うぐらいテーマ化されていて、しかも、たくさんの企業事例も語られているため、マーケティング思考を現場と接続できるという内容になっている。マーケティング関連で、20年振りぐらいに登場したバイブルになり得る良い本。

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