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お笑い芸人を起用した広告、すべてが面白いわけじゃない。③

『有吉の壁』『千鳥のクセがスゴいネタGP』『新しいカギ』といったネタ番組・コント番組が多く放送され、「お笑い第7世代」を中心に新たな売れっ子芸人が次々に発掘されている現状は、お笑いブームが来ていると言ってよいでしょう。そういった状況下であるため、お笑い芸人を起用した広告もよく見かけます。

しかし、芸人を起用すれば必ず面白い広告になるかというと、もちろんそうではありません。本シリーズでは、芸人をどう活用すれば面白い広告になるのかを私なりに分析しています。これまで、笑いを生み出すポイントとして「テレビ番組とのギャップを演出する」「ネタを使うなら完全オリジナル」「商品の魅力を必要以上に語らせない」の3つを挙げましたが、今回はさらに別のポイントについて考えていきたいと思います。



「テレビ番組とのギャップを演出する」「ネタを使うなら完全オリジナル」については下記の記事で分析しています。


「お笑い芸人を起用した広告、すべてが面白いわけじゃない。②」では芸人を起用して笑える広告をつくるポイントとして「商品の魅力を必要以上に語らせない」というものがあるのではないかと考察しました。演技のプロではなく、俳優と違って普段から「素の自分」をさらす場面が多い芸人に長々と商品説明をさせてしまうと「この人、本当はこんなこと思ってないくせに。」という嘘っぽさを感じさせてしまいます。芸人をあくまで商品が大好きではない中立の存在として描くことで「広告のウソ臭さに視聴者が冷めて笑えなくなる」ことを防ぐことができるのではないかと思います。

しかし「商品の魅力を必要以上に語らせない」ことによって、その分商品特長を伝えることが難しくなるという課題が発生します。その問題を解決しつつ笑える広告にするためのポイントのひとつが「瞬時に理解できる芸人の特徴の活用」であると思います。

瞬時に理解できる芸人の特徴の活用

商品・サービスの魅力を言葉で語らせないとなると、映像表現やグラフィックによっていかにわかりやすく一番伝えたい商品特長を説明するかが重要になってきます。その際、瞬時に理解できる芸人(出演者)の特徴を企画の軸とすることで、セリフに頼ることなくスピード感のあるコミュニケーションが可能になります。

出演者の特徴を活用するのが大切というのは芸人を起用する場合に限った話ではありませんが、特に芸人の場合は「一発屋」「体型」「三枚目」「裸芸」「チャラ男」「ギャガ―」など「独自の強いキャラクター」を武器としている人が多く、広告上のキャラクター設定を受け手に瞬時に理解させられるという強みがあるのではないかと思います。


瞬時に理解できる芸人のキャラクターを活用している名作CMの一つが、フットボールアワーの岩尾望さんと木村拓哉さんを起用した男性向け化粧品ブランドGATSBYの洗顔フォームのCM。岩尾さんが洗顔フォームを使用すると、瞬時に顔が木村さんに変化するというわかりやすく面白いストーリーです。この企画の軸は「岩尾望さん=三枚目だが美への探求心が強い芸人」「木村拓哉さん=日本を代表するイケメン」という対極的な二人のイメージ。出演者2人のキャラクターと「男を上げる洗顔フォーム」という商品特長を掛け合わせることで、ユーモア溢れるノンバーバルコミュニケーションを実現しています。

また、このCMの後半は、岩尾さん本人が撮影したCMの出来を確認しているというメタ構造になっています。岩尾さんのセリフはCM映像を見た時の「嘘でも嬉しいです。」という本人としての感想のみであり、商品を無理やり褒めていないというのも秀逸な点だと思います。


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続いて紹介するのは、東京メトロの通勤ラッシュ時の混雑緩和を目的としたオフピークプロジェクトの屋外広告です。プロジェクト自体は2019年より継続されているものですが、今回紹介するのは2020年4月より実施された「ピークを知る男。」シリーズ。

このグラフィック広告に起用されているのは、ダンディ坂野さん、小島よしおさん、髭男爵、といった日本を代表する一流一発屋芸人たち。「一発屋芸人の人気のピーク」と「通勤のラッシュのピーク」をかけて、ピークの慌ただしさを経験した芸人たちが「ピークを過ぎた落ち着いた時間も悪くないですよ。」と投げかけるクリエーティブです。『爆笑レッドカーペット』を観ていた世代なら東京メトロの構内で「ピークを知る男。」というコピーと彼らの顔を見れば瞬時にメッセージを理解できるのではないでしょうか。

「ピークを過ぎた人」はアーティストやアスリートなど様々いますが、一発屋芸人を起用したからこそ、程よい哀愁と笑いが共存した企画になっています。芸人を起用する必然性がある、という点においても素晴らしいクリエーティブだと感じます。


最後に紹介するのはGPSと連動したスマホゲーム『ドラクエウォーク』のTVCM(上記動画の冒頭15秒)。出演するのはメイプル超合金のおふたり。カズレーザーさんがスマホ片手に住宅街を歩きながら、歩くことが脳に与える好影響や『ドラクエウォーク』の楽しさについて語ります。しかし、実はカズレーザーさんは安藤なつさんに肩車されており、ラストに「自分で歩けよ!」とツッコまれます。

このCMは前述した2つの事例とは異なり、カズレーザーさんが商品の魅力を語るストレートトーク型なのですが、前半の語り部分をフリとして「瞬時に理解できる芸人の特徴の活用」によってうまくオチをつけています。知的なカズレーザーさんとプロレス経験者で力持ちの安藤なつさんのそれぞれのキャラクターを活かすことでラストわずか2秒で一気に視聴者を笑わせる。どんでん返し的な展開も相まって、非常に印象に残るCMです。


紹介した事例のように秒数の限られているTVCMや、一瞬しか見られることのない屋外のグラフィック広告では、受け手が瞬間的にメッセージを理解できるかが大切になってきます。お笑い芸人さんたちの「独自の強いキャラクター」は笑える企画の軸になるだけでなく、素早く・わかりやすくメッセージを伝える点においても強力な武器となるのです。

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