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直前情報!住宅ローン金利と金融政策の関係を知る ② ~固定金利型

固定金利型の住宅ローン金利を決める長期金利

 2023年最初となる金融政策決定会合が、1月17、18日に迫ってきました。前回は住宅ローンの変動金利型について、日銀の金融政策との関係を解説しました。
 変動金利型の住宅ローンという商品の仕入れ値は、日銀の政策金利を基準にした短期金利で決まります。
 これに対して、固定金利型の住宅ローン金利の決まり方は少々複雑です。固定金利型の住宅ローン金利の仕入れ値が長期金利です。こちらも日銀が操作しようとしているのですが、短期金利のように、スパッと決めることはできないのです。
 昨年12月20日の日銀金融政策決定会合の公表文で、長期金利の部分を見てみましょう。

長期金利:10 年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う。
国債買入れ額を大幅に増額しつつ、長期金利の変動幅を、従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大する。
10 年物国債金利について 0.5%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。

 短期金利では「0.1%のマイナス金利を適用する」となっていたのは対照的に、歯切れがわるいものとなっています。
 また、「上限を設けずに必要な額の国債の買い入れを行う」とか、「指値オペ」という言葉も出てきて、ますます意味不明となっています。
 しかし、難解に見えても、実はそれほど難しいことが書かれているわけではありません。大まかにいえば、長期金利が0.5%を超えないように、日銀がバリケードを設置するということなのです。

指値オペは金利上昇を防ぐバリケード

 長期金利の基準となっているのは、10年物国債の金利です。なぜ、国債の金利なのか?10年という長期資金の取引は、10年物国債の売買を通して行われることが一般的だからです。お金に余裕のある金融機関や投資家は、国債を購入してその金利を受け取ります。一方、資金が必要な金融機関は、手持ちの国債を売って資金を調達しているのです。
 国債の流通市場では、価格の代わりに金利(流通利回り)で取引が行われていています。
 インフレが進んで将来的に金利が上昇すると予想されるとします。ところが、国債の金利(表面金利)は10年間固定です。将来金利が上昇するのに、低い金利の国債を持ち続けるのは損なので、一刻も早く手放したいと国債の保有者は考えるでしょう。
 ところが、売るためには、買い手が必要ですねしかし、金利が上がる予想の中で、好き好んで低い金利の国債を買おうとする投資家はいません。  
 それでも国債の金利は、10年間固定で動かせないのです。そこで、代わりに価格を下げて売ろうとします。国債の額面は100円ですが、それを98円、97円・・・と、損を覚悟で売ろうとします。
 国債の表面金利は変わりませんが、購入価格が安くなれば、保有期間中の利回り(流通利回り)は上昇し、買い手が出てくる可能性が出てくるのです。
 しかし、金融緩和政策を継続している日銀としては、長期金利、つまり10年物国債の流通利回りの上昇は、なんとしても食い止めなければなりません。
 国債の流通利回りが上昇するのは、低い金利の国債を買ってくれる投資家がいないからでした。そこで日銀が動きます。国債の流通利回り上昇を食い止めるために、自らが国債の買い手なるのです。
 その方法が「指値オペ」です。公表文には「10 年物国債金利について 0.5%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日、実施する。」とあります。
 指値とは金利のこと(この場合は0.5%)で、オペとは、国債を買い入れるオペレーションの略です。「明らかに応札が見込まれない」というのは、0.5%で国債を売りたいという投資家がいない場合ということで、少しでも売り手が出てくる場合には、毎日、指値オペを実施するというわけです。
 指値オペは、金利上昇を食い止める「バリケード」です。日銀の公表文には、「上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う」とありました。 どんなに大きな売り注文が攻めてきても、日銀は上限を設けずに買い向かうというのです。これは、「0.5%より先には進入させないぞ!」と、盾を持った日銀が、国債を売り込んでくる投資家を、押し返そうとしているわけなのです。
 昨年12月の金融政策決定会合では、指値オペの水準が、それまでの0.25から0.5%に変更されました。バリケードの位置が、下げられたわけです。  
これによって、「日銀が金融緩和政策を修正した!」、「長期金利の上昇を容認した!」と受け取られました。
 この変更を受けて、固定金利型の住宅ローン金利を引き上げる金融機関が相次ぎます。長期金利の上昇傾向は確実であり、固定金利型の住宅ローンの仕入れ値も上昇するので、早めに手を打ったというわけですね。 

バリケードが突破された!

 金融政策決定会合を前に、10年物国債の流通利回りは0.5%に張り付いていました。1月12日の国債市場では、投資家からの猛烈な売り注文が出されましたが、日銀が必死に買い向かったことで、10年物国債の流通利回りが0.5%という指値オペの水準を超えることはありませんでした。バリケードをなんとか守ったのですが、日銀の国債購入額は4兆6144億円と、一日としては過去最大を記録しています。
 しかし翌13日、ついにバリケードが突破されてしまいます。この日、10年物国債の流通利回りは0.545%を記録、日銀が上限としていた指値オペ水準の0.5%を突破してしまいました。「日銀アタック」とも呼ばれる猛烈な国債の売り圧力に、日銀は耐えきれなかったのです。
 このニュースは、多くのメディアが速報で伝えました。普段は株価や為替相場には注意を向けても、国債金利に注目が集まることはほとんどありません。しかし、NHKはもちろん、民放各局でも伝えられたのは、このニュースが、いかに重要な意味を持つものであるかを物語っているのです。
 午後になると日銀がさらに国債購入をさらに拡大させたことで、売り手を押し戻し、0.51%で取引を終えました。買い上げた国債金額は、過去最大だった前日をさらに上回る5兆円規模。これによって、なんとかバリケードを元の位置に戻したものの、いつまた破られるか分からない状況となっています。
 日銀は週明け月曜日も、徹底して買い向かい、なんとしても0.5%のバリケードを維持したいとしています。

日銀は白旗を掲げるのか?

 この事態を受けて、1月17,18日に行われる金融政策決定会合で、どのようか決定が下されるかに、一段と注目が集まっています。
 政策金利(短期金利)については、引き上げられる可能性は低いとみられています。しかし、長期金利については、金利上昇の圧力が猛烈に高まり、一時的ながらも0.5%のバリケードを突破されています。
 この事態に金融政策決定会合では、指値オペの水準を引き上げて、長期金利上昇を容認する、あるいは指値オペそのものを止めてしまう可能性も指摘されています。これは日銀が「白旗を掲げる」ことを意味します。
 黒田総裁としては、国債市場の売り圧力に屈したという印象を与えたくないでしょう。もし、「日銀が白旗を掲げた」という事になれば、その信用は大きく低下するからです。その一方で、日銀が負けたとなれば、「今が攻めどきだ!」と、「日銀アタック」のような国債への売り圧力は爆発し、長期金利は一気に上昇することになります。
 長期金利への上昇圧力は、やがて短期金利にも及びます。日銀が直接決定できるとはいえ、金融市場の動向から乖離した状況を、いつまでも続けることは困難なのです。
 現在は-0.1%となっている政策金利(短期金利)がゼロに戻され、さらに0.25%、0.5%と引き上げられてゆくことも、十分に考えられます。これは黒田総裁の下で、10年続けられてきた金融緩和の時代が終わり、金融引き締めの時代に突入することを意味します。
 住宅ローンについては、仕入れ値が上昇することで、変動金利型、固定金利型のどちらの住宅ローン金利も上昇します。
 毎月の返済金額は増加して家計を圧迫しますが、その影響は日本経済全体に影響を及ぼします。金利負担の上昇で企業活動を悪化させ、賃金や雇用にも悪影響を及ぼします。株価は下落する一方で、円相場は大きく円高に振れるでしょう。

大注目の金融政策決定会合

 まもなく開催される今年最初の金融政策決定会合は、住宅ローン金利はもちろん、日本経済全体に大きな影響を与えます。
 決定内容が発表されるのは、金融政策決定会合終了後です。今回は1月18日ですが、時間は確定していません。黒田総裁の記者会見が15時半に設定されていますから、それより前ということ以外は分からないのです。
 大きな変更がなければ、発表は11時半から12時半の場合が多く、変更に向けて議論が長引けば、ずれ込んでゆきます。もし、13時になっても発表がなければ、「大きな変更がある!」と予測されて、一足先に動き出す投資家も出てくるでしょう。
 公表文がアップされたら、真っ先に長期金利をチェックしてください。現在0.5%の指値オペの水準が変更されるのかがポイントです。次に、政策金利をチェックします。マイナス金利が維持されているかがポイントですね。
 前回の金融政策決定会合の決定は、「サプライズ」として大きな反響がりました。しかし今回の影響はさらに大きく、サプライズを超えて「ショック」となることも予想されます。
 日本のみならず、世界中が注目する今回の金融政策決定会合。このビックイベントを、ぜひリアルタイムでチェックしてみてください。

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