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防衛費増額の財源を考える~「戦時国債」という選択肢

 防衛費増額を巡って、その財源確保が大きな議論を呼んでいる。政府・与党が法人税などの増税を軸に検討を進めると、「賃上げや雇用に悪影響が出る」などと異論が噴出、「たばこ税のアップで」、「復興特別税の一部を付け替えられないのか」との意見も出るなど、調整は難航している。
 こうした中、「赤字国債を増発すればよい」という、お定まりの意見も出てきているのだ。

赤字国債は法律違反

 当たり前になっている赤字国債だが、改めて指摘するまでもなく、本来は「法律違反」だ。
 国債は国が借金をした際に発行する「借用証書」。償還(返済)期限10年が中心だが、長いものでは40年のものもある。現時点で発行された国債の償還を担うのは、償還を迎えた時点の国民だ。国債は親の借金を子供が支払う、「親子2世代ローン」に他ならないのである。
 世代間の不公平を生むことから、国債発行には制限がある。法律上認められているのは、道路や港湾、学校などの公共事業のために発行されるもののみ。財政法第4条によって発行が認められている、いわゆる「建設国債」(4条国債)だ。
 本来、国は借金を極力回避するべきだ。それでも建設国債の発行が認められているのは、親が国債を利用して造った橋や学校などは、借金を返す子供の世代も利用できるという考え方に基づいているため。親子2世代ローンで家を建てた場合、いずれは子供たちも住めることから、理解が得られるのではないかというわけだ。
 ところが、赤字国債はわけが違う。歳入不足を補うために発行されるのが赤字国債であり、発行された世代で使い切ってしまう支出が大半となる。親が贅沢な旅行をしたり、おいしいものを食べたりと、収入以上の支出をして作った借金を、子供が支払うことになる。子供としては、到底納得できるものではない。
 世代間に大きな不公平を生むことから、赤字国債は原則発行禁止になっている。それでも発行する場合、法律違反を回避するために特別立法を行い、国会の承認を得ているのだ。赤字国債の正式名称が「特例国債」となっているのは、こうした理由からなのである。
 しかし、現実には発行が恒常化し、償還期限がきた国債も、ほぼ自動的に借換債が発行されている。このため国債の残高は増え続け、「親子2世代ローン」が「親子孫3世代ローン」、「親子孫ひ孫4世代ローン」・・・となっているわけである。

建設国債で防衛力強化?

 赤字国債が垂れ流される中、自衛隊の施設整備費の一部に、建設国債を活用するという案が出ている。
 財務省はこれまで自衛隊施設は「耐用年数が短い」として活用を認めてこなかった。1966年の国会で当時の福田赳夫蔵相は「防衛費は消耗的な性格を持つ。国債発行対象にすることは適当でない」と答弁しているのだ。
 しかし、防衛費は将来世代の安全に寄与すると考えることもできる。単純な赤字補填ではないので、建設国債を活用してもいいのではないか?というわけだろう。

「戦時国債」という選択肢

 ここで思い出されるのが「戦時国債」だ。太平洋戦争中、政府が戦費調達のために、大量に発行した国債だ。当時の政府は、莫大な戦費を確保するために、巨額の国債を発行していた。金融市場で消化しきれないため、日本銀行が国債を購入する「日銀の国債引き受け」を行っていたがそれでも足りなかった。
 そこで、広く国民から戦費を調達しようと、戦時国債を発行したのである。国債購入を促すポスターを見て欲しい。




「大東亜戦争一周年記念 あの感激を国債へ」という見出しが躍り、「勝って、勝って、勝ち抜くために、我等銃後の国民はもっともっと国債を買って銃後必勝の体勢を固めねばならない!」と勇ましい言葉が踊っている。
 さらに「貯蓄は国債で致しませう!」とした上で、国債を買うことは貯蓄によるご奉公の一番の近道で、「国債は安全確実で非常に便利です」としている。こうした呼びかけに答えて、多くの国民が国債を購入してゆくことになったわけだ。

民意を反映する戦時国債の売れ行き

 日本はもちろん、第2次世界大戦を戦っていたアメリカやイギリスでも、戦時国債は盛んに発行されている。しかし、必ずしも順調に売れていたわけではなかった。
 第2次世界大戦が激しくなる中、アメリカ政府は戦時国債の発行を拡大した。ところが、売れ行きは芳しくなかったという。国民の戦争に対する意識が低く、国債を買ってまで応援しようという機運が広がっていなかったのだ。開戦から2年が経過した1943年の「戦争をどう考えているか?」との世論調査では、54%が「深刻に考えていない」というのが実情であった。政府の財政は破綻寸前となり、国民の間には厭戦気分が広がっていたのである。
 こうした状況を変えたのが、政府のプロパガンダであった。財務省は硫黄島の摺鉢山の山頂で、兵士たちが星条旗を掲げようとしている「硫黄島の星条旗」の写真を、国債の販売促進に利用する。劇的なこの一枚は新聞のトップを飾り、ドキュメンタリー映画も全米各地で上映された。これがアメリカ国民の戦意高揚をもたらし、国債は飛ぶように売れたという。(この経緯を扱った映画が「父親たちの星条旗」、クリント・イーストウッド監督の2006年の作品である)
 戦時国債の売れ行きは、国民の戦争に対する考え方を、大きく反映するものだったのである。

戦時国債は紙くずになった

 敗戦後、日本の戦時国債は事実上の紙切れとなった。額面通り償還されたものの、戦後の猛烈なインフレによって、ほとんど価値がなくなっていたのだ。政府が借金を踏み倒したわけであり、「安全確実」を信じて国債を買っていた国民は財産を失った。そもそも、激しいインフレの一因が、戦時中の歯止めのない国債発行にあったのである。
 こうした反省から財政法が改正され、「赤字国債の発行」と「国債の日銀引き受け」が禁止された。同じ過ちを繰り返さないためだったが、この2つの方針は、完全に形骸化してしまっているのである。
 防衛費拡大の流れは、既定路線になっているが、国民のコンセンサスは得られているのだろうか?財源論争の前に、まず、国防についての議論を深めることが重要だ。
 その上で、必要ということになれば、防衛費に使い道を限定した国債を発行するということも、選択肢のひとつになり得る。東日本大震災の復興を支援するために、個人向けに復興応援国債が発行されたことがある。その防衛費版だ。
 これを販売すれば、その販売状況が防衛費に対する民意を反映させるものになり得る。他の国債と同じく、日銀引き受けにされてしまえばどうしようもないが、際限のない国債発行を、ある程度抑制することも期待できるだろう。

増税か国債発行か・・・

 岸田総理は12月10日の会見で、防衛力増強の財源として国債を発行する可能性について「未来への責任としてあり得ない」と否定し、増税を行う考えを示している。赤字国債が子供、そして孫の世代へ借金を背負わせるものであることを認識した上での発言だ。また、増税の方がより安定的に財源を確保できるという思惑もあるだろう。
 しかしそれは、防衛力強化を「一人歩き」させることにもつながる。戦後の日本は、戦争を引き起こした反省から、「防衛費はGDP比1%以内」という枠組みを堅持してきた。しかし、国際情勢が緊迫の度を増す中で、その枠組みは「2%枠」へと拡大されようとしている。防衛費の拡大を増税で賄うことになれば、こうした流れが固定化して、3%、4%へと枠が拡大してゆく恐れがあるのだ。
 この点、防衛費に使い道を絞った「戦時国債」による財源調達の場合、発行の度に議論が行われる。状況の変化に応じて、より柔軟な対応が可能になるという考え方もできる。少なくとも、単純に赤字国債を増額させ、なし崩しに防衛費を拡大させるよりは、好ましい選択といえるのではないだろうか。
 戦時国債の勧誘ポスターには、戦争遂行に力を注ぐ政府と、その誘いに応じ、やがて財産を失う国民の姿が刻まれている。不幸な歴史を持つ戦時国債。その反省から生まれた赤字国債と日銀引き受けの禁止を解き、防衛費1%枠も取り払おうとしている。これが今の日本なのである。

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