福島

夢の話(ヒコーキ)

不吉な夢を見た。16年8月16日の朝、一度起きて少し本を読んでまたウトウトしていたときに、その夢を見た。

あたりの景色はすっかり夕闇に包まれてきていて、しかしまだ空には明るさが残っている。段々と薄暗くなり始めている時間帯のようであった。そのとき、静かな住宅街の上空を、ゆっくりと「ゴォーッ」という音を立てて飛行機が横切った。そして、それはちょうど頭の上を通過していったのである。
普段、空を見上げて見る飛行機よりも、かなり近いところを飛んでいる印象を真っ先に受けた。なにごとかと思い、ずっとそれを見上げたまましばらく見入ってしまった。
夜の闇にまぎれて黒い機影は、はっきりとは見えなかったが、胴体や翼についているのであろうライトの光の位置で、どこを飛んでいるのかは把握することができた。ゆっくりと北東の方角に飛んでいった飛行機は、近くの家並みの向こうにあるはずの地平線の向こう側へスーッと沈んでゆくようであった。
いつも見る飛行機の音よりも大きめの轟音を立てながら、なだらかにその黒い機影は暗くなった空を滑り落ちてゆくように見えたのである。「もしかしたら、あのままどこかに落っこちてしまうんじゃないか」とも思った次の瞬間に、その機体を目で追うときに目印にしていた小さな光がフッと消えた。
そして、その次の瞬間に、飛行機が飛んでいった北東の方角の地平線近くの空の一角だけが、ポワッと赤く燃え立つように大きく染まったのである。何の音も聞こえなかった。爆発の音も、墜落の音も。
それは、その落ちた飛行機と同じような高さを同じように北東に向かって飛んでいるもう一機の飛行機が、ちょうど頭上を通過していたからだった。もう一機の飛行機は、こちらも大きな音を立てながら、赤く燃えるように染まっている北東の地平線近くの空を目がけて、ゆっくりと夜空を滑り落ちてゆくようであった。
すぐに、この二機目の飛行機も同じように落ちて赤々と燃え上がるのであろうことを直感した。そこでもう、赤く染まっている北東の空の方へとゆっくりと近づいてゆく二機目の飛行機を目で追うのはやめた。

ぼくは、家の玄関から20メートルぐらい離れた場所で、空を飛んでゆく飛行機を眺めていた。ぼんやりと薄暗くなった住宅街の路地にひとり突っ立って、その出来事を眺めていたのである。
すぐに家に戻って、カメラ機能のついた携帯電話をもってきて、あの飛行機が飛んでいった先の異様な感じに赤黒く染まっている空を記録しておかなくてはと思った。それとともに、その次にはテレビをつけて何が起こったのかを確認しなくてはと思った。暗く狭い住宅街の路地で見ているだけでは、あの二機の飛行機がどうなったのかを確認することは全くできなかったのだ。
とにかく何でもよいのであの飛行機に関する情報をすぐに得たかった。しかし、ぼくはなぜか右手にたっぷりとコーヒーが注がれたマグカップをもっていて、それをこぼさないように歩こうとするから、なかなか思うように急いで家に帰ることができなかった。
すぐにでもほんの数十メートル先にある家に急いで帰りたいのに、どうしても全速力で走って戻ることができないという、とてもまどろっこしい思いをしているところで目が覚めた。

そして、後になって気がついた。あの飛行機が飛んでいった北東の方角というのは、福島の原子力発電所がある方角であったのではないかと。はたして、あの二機の飛行機はどこから飛んできて、どこに向かっていたのだろうか。そして、北東の空が赤く染まったのはなぜなのか。家の外で空を見上げながら、なぜコーヒーを飲んでいたのかも気になるところである。この夢の続きはまだ見れていない。

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