見出し画像

映画『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~ファイナル』レビュー

【爆発すべきなのは平野紫耀か現実に橋本環奈を見いだせない者たちか】

 結論から言えば平野紫耀は爆発しなくてはならないのだけれど、役柄としての白銀御行が役柄としての四宮かぐやとの間に執り行ったことであって、スクリーンの中でのフィクションに過ぎず、そこに一切のリアリティなど覚える必要はないのかもしれないと言えば言えるかもしれないものの、たとえ役柄としては架空でもそこにはリアルな肉体を持った存在としての橋本環奈がいて平野紫耀がいる訳で、その間に執り行われたことは肉体を介在させたリアルな触れあいに他ならないとなると、やはり結論は平野紫耀は爆発しなくてはならないということになる。

 映画『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~ファイナル』の話だ。

 スクリーンの中であろうことか2度も執り行われることになる行為に対して観客として一切の介入ができないもどかしさを覚え、悔しさに歯がみして地団駄を踏みたくなるのは当然として、全体としては散漫にいろいろなエピソードが連なっているように見えて、最後にひとつのまとまりを見せたあとに大逆転へと至る段取りがしっかりとあって、後から思い返せば通底したストーリーがあったと理解できるようになっている。

 2回目をみれば石上優の応援チーム参加だとか生徒会長が率先してのバルーンづくりや屋上のオブジェづくりだとか、そこかしこで繰り広げられているエピソードに意味を見いだして、初見では散漫だと思った部分を伏線と理解して楽しめる気がする。

 そんな映画だ。

 枝葉のように繰り出されるエピソードでは、会計の石上優をめぐる動きがなかなかにピュアで痛さも感じさせる青春ストーリーになっていて、そうした境遇に陥ったことに同情しつつそこから脱して向かった先が落ち着くところに落ち着いて欲しいと願いたくなる。単行本なりではまた違ったストーリーがすでにあるのかもしれないけれど、実写として肉体を帯びた石上にはやはり幸福になって欲しいし、それがフィクションの登場人物に身を添えて観ている者たちの救いになる。だから頑張れ石上優。つかみ取るのだその思いを。

 悪巧みとかき回しが役柄の生徒会書記こと藤原千花が、新しく生徒会に加わった伊井野ミコを得ていっそうの活躍を見せるかと思いきや、そこを排除する流れにそってドタバタと走り回っていただけというのはストーリーの上では正しくても、その秘められたナイスなスタイルを制服越しに感じ取りたい目にはいささかの不満が残ったかもしれない。そこは体育祭の中で素晴らしいスタイルを見せてくれたことに免じて許したい。エンディングでもダンスを見せてくれたので今回は良しと

 そうした脇役たちを文字通りに脇へと追いやり白銀御行と四宮かぐやの丁々発止の恋愛頭脳戦を役柄としてこなす橋本環奈の表情が、映画館の巨大なスクリーンいっぱいに映し出されることにこの映画の映画としての価値があるとするならば、それは十二分に果たされていたと断言できる。ハスキーな声も柔らかそうな唇もいっぱいの魅力となってスクリーンから場内に放たれていた。

 それだけに白銀御行であり平野紫耀との間に執り行われた密にして蜜なコミュニケーションに湧く情動の激しさは、過去の数多ある橋本環奈の映画でも最大級のものとなる。そうした覚悟を持って観たとしても平野紫耀は爆発すべきだという結論に陥ることをここで重ねて訴えつつ、それでもという人は美しさを堪能しに劇場へと駆けつけよう。

 平野紫耀のファンが橋本環奈にどのような感情を抱いたかも考えるべきだろうけれど、果たして爆発しろとなるのかそれとも成り代わりたいとなるかは分からない。あるいはフィクションはフィクションと割り切ってシチュエーション全体に好意を抱きつつ、現実の世界での恋愛頭脳合戦を謳歌するのかもしれない。平野紫耀は爆発すべきであるというのはしょせんは現実を持たず持ち得ない者の虚構にすがっての寂しい叫びでしかないのだから。(タニグチリウイチ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?