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上映会『東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻第十三期生終了制作展「GEIDAI ANIMATION 13 AGE」』レビュー

【鼻くそ物にハズレなし】

 東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻第十三期生終了制作展「GEIDAI ANIMATION 13 AGE」を観たので感想をつらつらと。まずオープニングアニメが可愛かった。きゃりーぱみゅぱみゅっぽかった。全体の印象から言えばコロナ禍も2年目となって希薄化する人との繋がりを取り戻そうとするようなテーマが多いように感じられた。内省的で個人的とも言えるがそれが今の気分でもあるのだろう。

 そんな修了生の作品から、まずはオダアマネ『HA・NA・KU・SO』は2作あってどちらも良かった鼻くそ物の1本。ちびまる子ちゃん風な絵で鼻くそほじる女の子の前でしり取りをするカップルから始まり、酒とタバコを取り上げられた友蔵じゃないじいちゃんとか、コンビニで働き始めたけどレジ打ちとかうろ覚えの男子とか、オンライン合コンで頑張る女子とかVTuberが登場した挙げ句に公園のカップルに戻って、「好き」から恋が始まらないオチに涙しつつ笑った。
 
 阿部天音『残り香』はコンテチョークによるラフな線画のメタモルフォーゼで見せた。時々エロティックなモチーフも混ぜて繰り広げられる感覚的なビジュアルが良かった。

 小林真陽『四時間目のプール』はプールの授業を通して同級生のちょっぴり大人びた少女に対する少女に対する恋心を描いてキュンキュンとさせられる。絵もテーマに沿って柔らかく温かい。手足の関節が人形みたいに切れているのは何でだろう。気になった。
 
 岸本萌『Liminal Park』は夜の公園で回るメリーゴーランドが変容し、いろいろなものが融けたり変幻したりと不気味さと同時のわくわく感を覚えさせる。今敏監督『パプリカ』に描かれた廃墟になった遊園地がふと浮かんだ。暗闇への恐怖と興味を同時に誘う1本。絵も上手い。

 林増亮『透明』はストップモーションアニメーション。木の上で仕事をしながら同僚たちの噂を気にするカメレオンの話。キャラの造形が可愛らしくなく異形なところに嘲笑と逡巡の心理が表に出ているような雰囲気を覚えた。

 石井多以『九一九』は立てられた額縁の中、海岸線で僧形の男が動き走り鬼に襲われ逃げ回る。実写と合成されて走り回るアニメーションの人物はロトスコープだろうか。波音がザンザンと響く音響が良かった。海に行きたくなった。

 増田優太『フンおちた山とんだ』は虫を食べた鳥から落ちたフンが落ちた先にあった三角形の山に恋する話。相容れない関係を頑張って繋ごうとする心根に涙。尾籠で不条理でもあるテーマを独特なキャラクター造形でコミカルに見せた感じ。作者の増田優太は他の作品でも声優として活躍してたような。

 若林萌『サカナ胃袋三腸目』は魚にのまれた豚が、先にのまれていた魚と結婚してオタマジャクシの子を設け、その子にあれはカボチャか何かを食べさせ手足が生えたけど豚は胃袋から発芽して木になるという不条理のファミリードラマを、古いアメリカのカートゥーン的ルックで見せるという力業。ストーリー性があり17分の長丁場をしっかり釘付けにする。映画祭とかで上映されても評価を得そう。

 西野朝来『nowhere』は和田淳みたいな木訥な線で描かれる主人公の冒険とおばあちゃんの誘導。それは保護したい欲目の現れた保護されたい依存の発露か。ビスケットが美味しそう。

 陳佳音『冬のスターフルーツ』はキャラクターの造形が素晴らしい。潰れふくれた顔だちの子供たちが集う学校で、片思いの少女から思われる男子への届かぬ恋心がスターフルーツになぞられえられる。主題にマッチしたルック。2人はあのあと離れたのだろうか、それともきっかけが生まれて始まったのだろうか。

 鼻くそ物2作目は池田夏乃『はなくそうるめいと』。ストップモーションアニメーションでちびまる子ちゃん風キッズのルックを持った人形たちが、エイジングも施された用具などの上で物語を演じる。友達から離れ遊ぶ少女に鼻くそがギャル語でアドバイス。これが愉快。勇気を出せばきっと仲良くなれると知れ。

 許煒『薄命』はあれは横浜だろうか上海だろうか、現代と近代が隣接する街で夜にイタチが走り回るストーリーを確かなレイアウトと巧みなカメラアングルとそして圧巻のビジュアルで描く。夜の街を追う背景美術が素晴らしく、カメラワークも遠近を混ぜてバリエーションに富む。上手いなあ。そして迎えた夜明けにほっこり。明けない夜はないのだ。

 higoAkari『必要な存在になりたかったな。』は漫画にしても良さそうな絵で女性の街での暮らしを描く。熱が出て仕事に行けず心苦しかったり、出会って同志的な気分を覚えた蜘蛛を気の利かない彼氏が潰してささくれたり。生きるって苦しいけれどそれでも私たちはこの街で生きている。そう思わせてくれる作品。

 黒澤さちよ『庭の詩学』はバベルの塔のように積み上がった山に木々が茂って落ち葉があたりを埋め尽くす。生々流転。自然のうつろいを感じさせられる。

 そして全振生『喪失の家』。1950年というから朝鮮戦争だろうか。そこで戦って今は老人ホームにいるお年寄りたちを見つめるケアする2010年の若者。茫とした老人たちの読めない表情の奥にある長い歴史、そして経験を垣間見せることで韓国という国に暮らす人たちの60年ほどの強烈だった経験を蘇らせる。それらを描く絵の大友克洋ばりに巧みでなおかつ崩れたりする変幻も苦悩する表情もしっかり捉え描いて素晴らしい。注目作だ。

 世界の短編アニメーションを数百本ほど観る機会があって中近東あたりでは戦争だとか貧困だとか社会にコミットするテーマが多く見られたのに対して、日本の作品は個人の記憶や心情をすくい取ったり抉ったりするようなテーマが割と見られた。それでもコロナ禍という共通の“敵”と対峙する中、覚える息苦しさから光を求め出口を探す作品が世界中から生まれているようにも見えた。今年はどうだろう。(タニグチリウイチ)

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