見出し画像

旅戯曲モロッコ編🇲🇦山奥にパスポートを置き忘れた話#4

電車の窓越しに見えるのは、
どこまでも続くだだっ広い空と大地と、時々ヤギ。
やってしまった。
モウナさんが途中下車して1人になったわたしは、
いつの間にか寝てしまっていたのだ。


この電車を降りたら今度はバスに乗り換えなのだけど、
チケットに書かれたアラビア語が、
ランダムに並んだひじきか何かにしか見えない。
わたしが使えるのは日本語と英語。
一方モロッコで使われるのは主にアラビア語、ベルベル語とフランス語。
英語は通じたり通じなかったり。
時々聞こえてくるアナウンスは、何を言っているのか全く見当がつかない。


乗り過ごしていたらどうしょう。
ここはどこだろう。
窓の外に助けを求めた。
ヤギは答えてくれなかった。

ダメもとでいつの間にか隣に座っていたお兄さんに話しかけた。
するとお兄さんは親切に携帯電話で何かを調べてくれて、
わたしが降りる駅はあと5駅先だと分かった。
ただ1つ、新たに分からない事がでてきてしまった。
それはわたしが今直面しているこの状況。

周りの人達は何だか楽しそうな顔でわたしを見ている。
そして彼らの視線を集めているわたしは今、歌を歌っているのだ。
モロッコの電車の中でさっき話しかけたモロッコ人のお兄さんと、
バンプオブチキンの天体観測を歌っているのだ。


「あー日本人っすか。俺、日本語大丈夫っす」

お兄さんにどこから来たのか聞かれて日本と答えたら、
彼の口から流暢な日本語がでてきた。
隣に座っていたそのモロッコ人のお兄さんは、
なんとアラビア語と日本語の通訳を仕事にしている人だったのだ。

学生時代に日本に留学して、コピーバンドを組んでいたのだそう。
お兄さんの口からバンプオブチキンの名前が出ると、
どちらからともなく歌を口ずさみ始めた。
周りの乗客を観客にして、モロッコの田舎を走る電車の一角は
あっという間に小さなライブ会場になった。

「モロッコのこんな田舎で場所が分からなくなるなんて死ぬかとおもったでしょう?でももう大丈夫。降りる駅はここだよ。気をつけてね」

わたしはお兄さんに何度もお礼を言って電車を降りた。

つづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?