「少女夢想(詩)」(坂口安吾「恋をしに行く」の二次創作)

気障、偏屈、快活、無垢。あらゆる種類の男が信子の前に平伏し選ばれるのを待っている。女もそれ以外も待っている。信子の愛の対象には種類の区別が無い。誰もが候補に挙がり得る。野山の草花を摘む無邪気さをもって恋の相手を選ぶ。同じ無邪気さで草花を踏み散らす。

ちらりと人の視線を受けながら信子は中へ入った。一介の少女は女王となる。睥睨する。
大型書店の巨大な書棚。大恋愛の狩場。
とぷん。あぁ、私は今本の海に落ちた。人魚になる。三叉の矛を翳す海王になる。
つ、つ、つ、つ、つ。今宵の相手を人差し指で選ぶ。夜毎に褥を変えるドン・ファンになる。

「ありがとうございました」
店員に見送られ、書店の扉から出た途端に・・・信子は一介の少女に成り下がる。そして孤独で平たい胸に本を、小さな世界を抱え帰って行く。


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