「サ・ヨ・ウ・ナ・ラ」(太宰治「グッド・バイ」の二次創作:別れ)
「よしこれだ。プランはバッチリ」
俺は手帳をピチンと閉じて、夜へ出た。
五人の女をフる為に。
一人めの女は潔癖症。
下町のドブにダイブして、愛しているぜと抱きしめた。
悲鳴は歓喜か絶望か。
「じゃあ、あばよ」
はいお終い。
二人めの女はお嬢様。
こいつは簡単。電話一本、ピーだのピーだの、お上品な輩が言えない言葉を連呼する。
バタンて音は、卒倒したんだろ。
次へ行こう。
三人めの女はちと面倒。
むかぁし発表した俺の小説の大ファンで、俺を神様のように崇めてる。ちょっとやそっとじゃ諦めない。
ところが俺は閃いた。
「実はナァ、俺盗作してたんだ」
女は真っ青。
それではドロン。
四人めの女は世間知らず。まだまだオボコなロマンチスト。
あまぁい言葉を囁いた。
「俺は政府の諜報員・・危険が迫っている・・君を巻き込む訳には・・・」
とか何とかテキトーに。
んな訳ねぇだろがー!
五人めの女は吝嗇家。
うむを言わさず縛り上げ、隠し金庫をこじ開けりゃ、金貨の山がキーラキラ。
「ありがとさんよ、おっとっと」
飲んでもないのに千鳥足。ポケットの金が重くてさ。
「ああ、忙しい夜だった・・・」
俺は新月の海にいる。
五人の俺の女たち。スッキリサッパリ切り捨てて、心の中に風が吹く。
俺は手帳を投げ捨てた。
「我ながらまぁ、上出来だ」
俺が愛した女たち。泣かす訳にはいかんのよ。
あれだけやりゃあ十分だ。俺のことなど忘れなよ。
手帳に挟んだ診断書。風に吹かれて飛んでった。
今宵は新月、闇の海。
俺は静かに踏み出した。
海に沈めばぶくぶくと、服から泡が湧いてきて、体が炭酸になるようだ。
酒も随分飲んだなぁ。ジンもウィスキーも割ったなぁ。
こんな体になったのは、自業自得というものさ。
月の無い夜がよかったのさ。
誰も助けちゃいけないよ・・・
ぶくり。
ぶくり と体が沈む。
重石は金貨だ、豪勢だ。
最後の La Mer に抱かれて。
別れの言葉は泡になる。
「サ」
「ヨ」
「ウ」
「ナ」
「ラ」
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