美容鍼って果たして本当に効果があるか?(2022年2月ちょっと改訂しました)

今、世界中でブームの「美容鍼」。つまり、しわ取り、肌のたるみ解消、シミ取り、小顔(ちなみに小顔にこだわるのは世界中で日本人と韓国人と中国人の知識層だけでしょう)などを謳った手法。

日本での第一人者の某先生が、顔に大量に鍼を刺していくのが象徴的に、印象的に、そしてドラマティックに紹介されているので、一見怖いと思われるかたも多いと思います。

(「美容鍼」という言葉で、グーグルで検索して出てくる画像で、特に大量に顔に鍼を刺している画像がありますが、これが大問題です。理由は後述します。)


また、痛いのだろうか?痛くないのだろうか?などといろいろな疑問を持たれている方も多いと思います。今回は、私(セラピスト界でもかなり勉強している方であり、常に物事に対して懐疑的な見方をし、科学的、医学的に証明は?といつも考えている)の”冷静な”美容鍼の考え方を紹介します。

そもそも美容鍼が世界中でブームになったのは、美容整形やボトックスに対して、害が圧倒的に少なく、安全で(実はこれは?です)、治療費が安い、ということからでしょう。そして「東洋医学」のもつ魅了性も加わって世界的なブームを引き起こしたのだと思います。また美顔マッサージなるものが日本で流行ったのは、15年くらい前に出されたエステシャンの本が発端かと思われます。ちなみにその方自身は美容鍼を定期的に受けていたという噂を聞いています(笑)。そもそも美顔マッサージと言わずとも、昔から「フェイシャルマッサージ (Facial massage)」として存在していた顔のマッサージがなぜ日本でブームになったのか?これも後述します。

まずはじめに2つ断りをいれておきます。まず一つは、顔だけの”トリートメント”を行っている人達は論外であること。顔は体の一部です。全身のトリートメントと併用しないと意味がないことは誰にでもわかります。良心的な治療家のほとんどは顔に鍼を打つ時、顔をマッサージするときは必ず全身の治療も一緒に行っています。(リラクゼーション目的の顔のマッサージ(いわゆるフェイシャルマッサージ)30分とか1時間とかは”あり”です)

次に鍼ではありえませんが、よく美顔”マッサージ”、美顔術などと謳ってトリートメントをしている人は、日本ではあん摩マッサージ指圧師の国家資格が必要です(医師、歯科医師も含む)。それ以外の自称整体師、エステシャンとかは完全に違法行為です(グレーゾーンだと宣うバカも多いですが)。

1,美容鍼の効果は非常に疑わしい

美容鍼の治効理論として、多くの人があげているのが、「鍼による刺激によってコラーゲン再生」「鍼による微小な傷が、傷が治っていく過程で、うんちゃらかんちゃら」です。しかし顔への鍼の刺激の量を考えると、とても組織変化に必要な刺激に足りていません。日常生活で動く顔の筋肉の刺激の方が(それと紫外線)、睡眠、栄養、ストレスなどのほうが1回1時間程度の鍼治療よりも圧倒的に組織に与える影響が大きいので、理論的に考えて、「鍼による刺激」と「微小な傷の回復」が肌に与える影響は少ないと考えざるをえません。前回のブログで紹介した日本の美容外科医の先生方が「顔のマッサージは肌を弛ませシワの原因になる!」と繰り返しツイートしていますが、それも同様に本当に顔のマッサージでシワを作るまでの刺激にはたりていないと思われます。ですので、週に1回1時間程度の顔のマッサージ、美容鍼はリラックス効果以外なにももたらさないであろうと考えられます。ただ美容外科医の先生方がおっしゃるように自分で毎日顔のマッサージをするのは考えものかもしれません(特にローラーのようなモノを使って毎日とか)。あくまでも刺激量の問題だと思われます。

2,美容鍼灸を行っている鍼灸師達は解剖学をちゃんと勉強しているのか非常に疑わしい

例えば、ボトックスとかフェイスリフト(日本では美容外科で行なわれていると思います)を勉強していると、必ず顔面の皮膚、筋肉、血管、神経、リンパを勉強します。そしてどこが気をつけるべき部位なのかを慎重に考えて治療します。上にあげたグーグル検索で見つかる「大量に鍼を打っている画像」と以下の顔面の危険な部位の画像を比べてみてください。何がいいたいかわかると思います。(ちなみに鍼灸師達のほとんどは経絡、経穴(ツボ)、そしてせいぜい筋肉しか勉強していないと思われます。美容外科医ほどの解剖学と生理学の知識を備えている人は私のまわりにはいません。そんな方々に鍼を顔面にガンガン打たせて大丈夫だと思いますか?)

また、大量に鍼を打つ場合、大抵顔面をアルコール消毒しません。なぜなら顔面にアルコールを塗られて気持ちいい人はいませんし、アルコールで肌が荒れてしまう人も時々いらっしゃります。消毒をしないで顔面に鍼を打つ人達はかならずある論文を根拠に、「アルコール消毒しなくても、使い捨ての鍼を使って、また、鍼を素手で触らなければ大丈夫」といいます(この論文は議論の余地がありですが)。ここでの落とし穴が、仮に出血した場合(というか顔の鍼ではよく出血がおこります)、その血を拭うコットンは個別パックで滅菌処理されているものではいけないはず。大抵は、ブーツ(イギリスの薬屋さん)とかで50枚くらい一緒にパックになったやつで血を拭います。厳密に考えると感染の恐れありで、しかもその顔面の危険な部位で感染してしまうと、とても恐ろしい病気になってしまいます。

3,結構な回数の治療を(無理やり)勧められる

まあ、これは患者さんが同意しているのであればいいのですが、普通に考えて週に1回10回も通えば、体調はよくなるでしょう。体調がよくなったら顔の艶や張りも良くなるでしょう。美容鍼だけの効果とは非常に考えにくいです。ここで思い出した言葉。10年ほど前、私の手技(マッサージのテクニック)の師匠の一人である某先生から「痛みの治療は君に任せた!僕は美容に走る!だって痛みの治療だと患者さんは治ったら、もう来ないんだもん!」を思い出しました。美容目的だと何回も通ってくれると。たしかにそうなんですよね〜(笑。

4,美顔(小顔)マッサージのからくり

おそらく小顔目的で顔のマッサージを受けるのは、日本人と韓国人だけだと思います(笑)。というか、ヨーロッパに住んでいる私としては、顔が大きいのは日本人のアイデンティティの一つで、悩むべきことではないと思うのですが・・・。まあそれはさておき、「美顔マッサージ」で顔が小さくなる(小さく見える)のは、いくつか理由があって、一つはリンパ液と体液が一時的に流れた(時間がたてば元にもどる)、とファシアのviscocityによるもので、つまりテンピュールの枕を押したらへっこむ的なものです。なので、時間が立てば(下手すると数分で)元に戻ります。それでもよければどうぞ(笑。あと、顔面骨を動かして小顔にすると宣うバカもいますが、相手にしないように。手の力で動くはずはありません。(私は力が強いので私なら思いっきりやったら動くとは思いますが、その場合骨折させてしまいます笑)

5,痛い方法とそれほど痛くない方法がある

顔に鍼を刺す方法は大きくわけると2つあって、鍼を刺す時に鍼管(しんかん)を使う方法と、直接鍼を刺す方法。鍼管とは、こんなやつです。

透明なプラスティックのチューブみたいなやつで、これを使って鍼を刺すと、ほんのすこしチクッとするだけか、全くチクッともしません。ただこれを使うデメリットとしては、顔面に大量に鍼をさすには、押し手(鍼を支える手)や、鍼管(チューブ)自体が邪魔になってしまうので、向かないこと。鍼を大量に刺す人は、鍼管を使わずに直接鍼をバンバンさしていきます。で、それは痛いのかどうか?めちゃ痛いです(笑。まあ、耐えられないほどではありませんが、私は嫌です(笑。ここで参考としてyoutubeで「美容鍼」で検索してみてください。その動画の中で、上の鍼管(チューブ)を使わずに、鍼をそのままバンバンさしていく動画が見つかると思います。受けている方は痛がらずにとても気持ちよさそう・・・。

で、次にyoutubeで「人面に鍼100本」で検索してみて下さい。おそらくこの方の「反応」が一番”まとも”だと思います。そのビデオをみて、それでも美容鍼をうけるのかどうか、検討してみるといいでしょう。

6,出血することは多数、青タンとなって残ることは時々、時にはその青タンが数週間残ることがある

美容鍼をする人がよくする説明「時々内出血が起こりますが、数日で消えることが多いです」は果たして本当にそうか?この画像は以前、某美容鍼の先生が講習会で鍼を打った後にできた内出血です。

左目のところに思いっきり内出血ができています。有名なツボではあるのですが、大きい血管があるところで、どれだけ鍼を刺す時に気をつけていても、内出血ができる時はできてしまいます。大抵このような大きい血管での出血ができたら、完全に消えるまで2~3週間くらいかかります。それでもよければどうぞ(笑。それと消毒を気をつけないととても危険なinfectionにかかってしまいます・・・。ちなみにこの講習会で教えてくださった先生も、消毒しないタイプです・・・。

7,他の美容器のほうが肌に圧倒的に効果があるので、即時的な効果はそちらに負ける

私はエステシャンや美容外科医ではないので、レーザー系とか、フォトフェイシャル系とかその他美容器具については、よくわかりませんが、鍼よりも肌に与える影響が圧倒的に大きいことは事実。ただそれら美容器具についての事故というか、副作用もちょくちょく耳にしますので、そのような美容器具を使ったトリートメントを考えている方々は、よく相談してから受けた方が良いと思います。そして信頼できる美容外科医を探してください。

8,ええっ!?でも顔に鍼を打ってもらったら、肌に張りがでていい感じなんだけど!?

多分それは、鍼を刺したあとに残る多少の痛みがそのような感じを出していると思われます。同じような感じにしたかったら、自分で顔を”ビンタ”してみるといいでしょう(笑。あと、肌に張りがでるという化粧品のようなもので、顔を拭うといいと思います。私が患者さんにつかっているAcuregenのLavender H2O tonerという化粧品はかなりそんな感じがでて、評判がいいです。(注:今は使っていません。これもあまり効果がないと思ったからです。)
それと仰向けの状態で30分以上寝ていたら顔の肌の水分が重力の関係で下に落ちます。そのために起きたときに肌が突っ張っている感じがするのは当然です(笑)。多分数時間で元に戻るでしょう。

9,でもやっぱり気持ちいいじゃん!

そうそう。結局は気持ちいいとか、終わった後なんかよくなった感じがする!でいいのです。そういう人は美容鍼にしても、美顔マッサージにしても受けてみるといいでしょう。効果はリラックス効果、リフレッシュ効果しかないと思われますが、それでもそれにお金を払う価値があると判断するのであれば、受けてみてもいいでしょう。

10,で、あんたは美容鍼をやってくれるのかい?

やりません。いろいろと勉強すればするほど、顔に鍼を打つ理由がありません。特殊な場合を除いては。ただ顔のマッサージは気持ちいいので、1時間以上の治療を希望する方々には、顔や頭もしっかりマッサージしています。もちろん、解剖学を十分に理解した上でです。(とはいえ、以前とは違い最近は押して気持ちいいツボをじっくり押すぐらいで、皮膚や筋肉を動かすようなマッサージはしていません。やはりシワを作る可能性を少しでも減らしたいからです。)

11,鍼灸マッサージ整体業界における美容に関する大いなる疑問(2022年2月追加)

私が鍼灸マッサージの学校に入ったとき、クラスメートの半分以上は鍼灸で自分の○○が治ったから私もそれを学んで人々の役に立ちたい、という人達でした。私が修行していた治療院での先輩、後輩、同僚達のほとんどもそうでした。それ以外は「これからの老齢化社会、この仕事は儲かる!」という人達がほとんどでした(これは嘘。儲かりませんです笑)。
では美容鍼、美顔マッサージ、小顔マッサージを行っている鍼灸マッサージ師、整体師でそういう人達(実際に肌が綺麗になった、シワがなくなった、小顔になった)っているのでしょうか?短期的にではなく、長期的にです。私は誰も知りません。たとえ美容鍼に顔のシワを減らす、シミを取る、肌を若返らせるというようなエビデンスがなくとも(実際に有力なエビデンスは今の所ありません)、自分が実際に受けてみて、長期的効果があったのであれば百歩譲ってよしとしましょう。でもなぜ自分の顔に効果があったと確信していないのに、患者さん(お客さん)に高い金をチャージしてまで行うのでしょうか?ある有名な美容鍼の先生が効果あると言っているからでしょうか?そんな不確かな理由で患者さんに莫大なお金を請求して心が傷まないのでしょうか?

12,(おまけ)治療前、治療後あるある(笑)

昔、イギリスの新聞で美容鍼が紹介されたことがありました。(リンク)このリンク先の記事の写真のように治療前と治療後の写真の不均一さは、ある意味この業界の様式美でしょう(笑)。どう考えても照明の当たり方が違うし、治療後は軽く化粧をしてるっぽいです。これって詐欺とちゃうの?(笑)
それと治療後の健康状態、その人が置かれている環境の変化もちゃんと示していません。それでは治療前と後とで美容鍼が本当に効果があったのかは全くの不明です。

誰にでもわかる事だと思いますが、顔のシワとか、肌の張りとか艶とかは、睡眠、ストレス、栄養、社会的環境のほうが、鍼やマッサージよりも圧倒的に影響が大きいと思いますが、いかがでしょうか?それでも高いお金(大抵、美容鍼とか美顔マッサージは相場の値段よりもかなり高い値段設定)をだして通うのか、それとも信頼している鍼灸マッサージ師に顔のケアまで頼むのか(大抵その場合は別料金をチャージされない)、ご自身で判断なさって下さい。

それでも顔への鍼やマッサージはリラックス効果ぐらいしか期待できないことを十分に承知しているのであれば、信頼できる鍼灸マッサージ師にかかるといいと思います。(鍼は内出血の覚悟をしておくことと、鍼灸師が至らないと感染の恐れもあるということは覚えておくべきです。)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?