見出し画像

マルチプレイのゲームをどうマネタイズするか

闇鍋人狼のDLCを販売開始したので、その宣伝ついでにマルチプレイのゲームを売るとき色々考えることがあるっていう話と、闇鍋人狼でどうしたかを書きます。

闇鍋人狼 DLC SAKURAは各ストアで販売中です。


問題意識

大前提として、ゲームの作者は面白いゲームを作ろうとしています。面白いにも色々な種類がありますが、筆者は特に「繰り返し遊べる」「何度でも遊べる」ことに強い関心を持っています。

限られたルールやデータの中で遊ぶ度に展開が変わり、もっとこうしてみよう、ああしたらどうなるだろうと時間を忘れて夢中になってしまうことに魅力を感じており、自身で作るゲームもそれを目指しています。

一方で、プレイヤがずっと同じゲームで遊び続けるという状況はデザイナ視点では不都合なこともあります。

サーバー代がかかる

一般的にマルチプレイのゲームを提供するにはサーバーが必要です。マルチプレイといってもボードゲームからFPSまで様々な種類があり要件によってコスト感は違いますが、特にクロスプレイを提供するには開発者がサーバーを維持する必要があります。

例えば闇鍋人狼はとある構成でサーバーを構築したとき、1人あたり1ゲーム0.015円かかるという試算が出たことがありました。買い切りの値段が500円、1ゲームあたりの時間を20分とすると、仮に闇鍋人狼があまりにも面白すぎて購入した人全員が10,000時間遊び続けたら筆者は破産します。

もちろん現実的にそんなことは起こり得ず、また各社クラウドサービスやプラットフォームが無料枠として提供しているリソースを考慮すれば、個人開発の規模感で即赤字ということはあんまり起こらないはずです。

ただ、これらはあくまで試算でありプレイヤのゲームプレイを全て正確に推測するのは困難です。また、プログラムのバグや悪意あるイタズラなど、想定外のことは常に起こり得るのでサーバーを維持するというのはコストだけでなくリスクも負っています。

どうぶつタワーバトルでサーバー代が高額になった話とかはヒヤっとしました

商品が限られている

SteamやSwitchでインディーゲームを販売する状況に絞って考えると、買い切り(最初に代金を払ってもらって以降は遊び放題)が一般的です。DLCやスキンなどで商品を追加するケースもありますが、本体を上回ることはなく補助的な立ち位置です。

ゲーセンで100円を入れるような、プレイの度にお金を払ってもらうというのも一般的ではないので、結果的に最初に払ってもらった額の範囲内で収まるよう祈るしかないという状況になります。


というように、お客さんの購入ポイントが限られているのにプレイの度コストが発生するというのが問題意識です。意地悪な言い方をすれば、購入だけしてすぐ飽きてくれるのが最も儲かります。

10,000時間も夢中で遊んでしまうような面白いゲームを作ろうとすれば赤字に近づき、購入して積まれている方が利益に繋がる、という矛盾に向き合っていくのがマネタイズを考えるということです。

ちょっと話が逸れますが、先日WiiUのオンラインサービスが終了しました。最期に遊んでおこうと多くのプレイヤが集まり、スマブラやスプラトゥーンなどのコミュニティは大きく盛り上がっていました。

【ありがとう】サービス終了時刻を過ぎてもなぜかプレイ出来てしまうスプラ初代の最後を約20時間ぶっ通しで見届けるダイナモン【スプラトゥーン】 - YouTube
スプラ1の頃から活躍し続けているダイナモン選手が、サービス終了してもなおプレイし続ける様はちょっと感動的でした

愛だけで生きていくことはできませんが、世の中に生まれたゲーム全てが長く愛されていてほしいなと思います。持続可能な仕組みを作るため知恵を絞って工夫しましょう。

既存の事例

既存の試みを見てみましょう。マルチプレイゲームのコンテンツは商品と購入方法に分けて考えることができます。

商品と購入方法の分類。闇鍋人狼と近いタイトルを例としてあげています。

まずは商品を見ていきます。これは何を売り物にするか? つまりはお客さんが何に価値を感じているか? の分類です。

スキン

操作キャラの外観やプロフィールなどの見た目を変える商品です。例にあげたAmong Usの他にもFall GuysやApex Legendsなど、人気タイトルの多くで採用されており、オンラインマルチプレイのマネタイズを考えるときまず最初に検討すべきでしょう。

スキンが商品価値を持つためには他プレイヤに見せる機会、もしくは他プレイヤのを見る機会が多いことが重要です。プレイヤが操作するアバターが同じ画面内に表示されるアクションゲームとは相性が良さそうです。

また、スキンの種類が大量にあることも重要です。おそらく現実のファッションに近い感覚で扱われているので、他の人と被ってないことや、自分だけの個性を表現できることに価値があり、また、流行り廃り、レア物、期間限定、など購買意欲を唆る手法がそのまま適応できるからです。

拡張

ゲームに追加されるコンテンツそのものが商品です。例にあげたDominionの他にもHearthStoneやマーベルスナップ等DCGでは使えるカードの種類が増えます。他にも、使用キャラが増える、追加のストーリーが遊べるといったDLCもよくあります。

拡張売りで重要なのは、もとのゲームの魅力が十分伝わっていることです。プレイヤにもっと遊びたい、別パターンでも遊んでみたいと思ってもらう必要があるので、もとのゲームはコンパクトに完結せず、拡がりを感じさせるデザインが理想的です。

MARVEL SNAPはスキンと拡張を組み合わせたようなとてもユニークな商品設計になっています

次に購入方法を見てみましょう。これはお客さんがいつどうやってお金を払うか? の分類で、買い切り以外にも選択肢があります。

サブスク

月額を払っている間は遊び放題、というやつです。例えばBoard Game Arenaでは、無料で遊べるゲームと有料専用のゲームがあり、後者はサブスクに登録しているときのみ遊べるといった形式です。

最近では映画や漫画だけでなく、Apple Arcadeやいっせいトライアルなどゲームが提供されるのも一般的になってきました。

サブスクで重要なのはやはり物量でしょう。パッと見ただけでも遊びきれない量が提供されているのと、定期的に供給し続けられている様子がお客さんの信頼や納得感に繋がっているのだと思います。

広告

広告を視聴するとゲーム内アイテムがもらえるやつです。連続でプレイするには待ち時間が必要だけど動画を見るとすぐ遊べる、いわゆるスタミナ課金なんかが一般的です。

広告で重要なのは商品を細かく小さく提供することです。ちょっとしたことを売り物にしないと、有料で売っている他のコンテンツの価値を壊してしまう恐れがあります。

スタミナ課金の他にもリトライ課金やパズルゲームなどで「1手だけ待ったさせてくれ……」などと相性が良いですね。

闇鍋人狼でどうしたか

拡張を買い切りで売る、という形に落ち着きました。これには後ろ向きな理由と前向きな理由があります。

物量勝負を避けたい

まずは最も正攻法であろうスキンを検討したんですが、これは相性が悪いと判断しました。闇鍋人狼ではプレイヤのアバターが画面内に表示されていることのゲーム的な意味が薄く、アクションゲームのように自由に動かせるわけではないので見た目の変更を商品価値にするのは難しそうです。

また、スキンを売る場合ある程度はまとまった量を提供しないと効果が薄いとも予想されます。アセットを大量かつ継続的に追加し続けるのは個人開発の規模感ではあまり現実的ではありません。

同じ理由でサブスクも選択肢から外れました。こちらは商品ではなく購入方法の話ですが、物量が重要になってくるという点が共通しています。

ゲームを売りたい

何を売るか選べる余地があるなら、売れるものより売りたいものを優先すべきだと思います。社会の価値観はコントロールできず、流行り廃りに対応するのは難しいのに比べ、自分の価値観はそう大きく変化することがなく持続性があるからです。

筆者にとってのゲームとは選択することです。もっと言うと、1つのゴールに向かう道が複数あり、それを選ぶジレンマを楽しむことです。

どっちが良い道か分からず判断に迫られているとき、またゴールしてから別の道だったらどうなっただろう? と振り返っているとき、そのゲームに魅力を感じ「道が増える」ことが商品として提供されていることに納得します。

自分が価値を感じているものを、同じく価値を感じてくれる人に売るのが最も理想的な商売です。やりたいこと、できること、求められていることの落とし所として、拡張を売るという判断になりました。


というように、サーバー代がかかって大変なので闇鍋人狼では拡張を売っていくことにした、という話でした。

身も蓋も無い話をすれば、ボードゲームで遊んでる人はゲームそれ自体よりコミュニケーションに価値を感じてる人が多いので、面白いゲームを売るより快適なコミュニティを売り物にした方がいいんだろうなと思います。

それはそれで難しいだろうし筆者の技量ではコミュニティをデザインすることはできないんですが、ソフトウェアは商品設計が自由で、やろうと思えばどうとでもお金を取れるので、だからこそ商品価値の矜持とか哲学が大事なんだろうなと考えています。

闇鍋人狼の規模感ではDLC自体が売上に繋がるというよりは、DLCをきっかけに卓が立つことの方が効果が大きいです。これを機にぜひ遊んでみて下さい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?