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風と妄想


強い風が吹いている。
風が窓をガタガタ震わせている。
私の住む家は昭和の建物なので、隙間風がどこからともなく入ってきてはカーテンをふわり動かす。

目をつぶって、風の音を聞いてみる。
ゴォーッとか、ビュゥーッとか、ちょっとゾッとするような音がする。力強い風の音。目をつぶって聞いているとその壮大さが迫ってくるようで、畏怖の念を抱いた。





強い風に飛ばされて、どこかへ行けたら良いのに。

風をふわりとからだに纏い、空を飛べたら良いのに。


…そんな妄想をしてしまう夜。




中学生の時、寝る前によく空を飛ぶ妄想をしていたことを思い出した。

ふわり、空を飛ぶ私は、街の中をぐんぐん進んでいく。お店や住宅が小さいおもちゃに見える。私を遮るものは何も無く、パジャマのままで私は優雅に空を飛ぶ。両の腕を広げて、全身で風を感じながら、私が行く先は好きな人の家。私は好きな人の家に着くと、窓からこっそり好きな人の寝顔を眺める。そしてつぶやく。「わたしはあなたがだいすきです」と。


…今思うとなかなかに鳥肌のたつ妄想だと思う。ある種のストーカーのような、メンヘラのような…考えるだけで苦笑いだ。

それでも、当時の私は純粋にこれを考えていた。
風に乗ってどこまでも飛べる、風のように自由になれる。妄想ながら、とてもワクワクしていた。


大人になってさすがに好きな人の家にいく妄想はしなくなったけど、やはり風が吹くと、どこかへ飛べる妄想をしてしまう。幼い頃から心のどこかで「風のように自由に飛んでみたい」と思っているからなんだろうな。いくつになっても、私の幼心が反応する。





今もまた、私は布団に横たわりながら風の音を聞いている。
目をつぶりながら、私は妄想をしている。

寝静まった街を、私はふわふわ飛んでいる。
星空が、手が届きそうなところにある。
皆が知らない世界を、私は見ている。



きっと今日は、このまま夢の中でも、
私は空を飛ぶのだろう。
風に乗って。風を纏って。



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