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три книги…夕暮れに夜明けの歌を

 「ソ連に興味がある」というと、必ず「ソ連のなにに興味があるの?」と聞かれます。非常に困る質問で、というのが、ソ連のなにに興味があるのか自分ではよくわかっていないからです。
独ソ戦?政治?音楽?それとも文学?外交関係?思想?いずれへの興味も中途半端で、いまのところ、「人々の生活や空気感」という、答えになっていなくないか?という回答になってしまいます。

 その点、本書の著者の方は、「ロシア文学」という1点に心を注がれており、ひたむきで美しいなと思いました。ちょっと嫉妬。あんなふうに一途に、真っ直ぐに何かを追い求められる人だからこそ、何かを成し遂げることができるのだろうな、としみじみと思いました。

 本書は、なによりも文章が美しく、繊細で、たびたび胸がいっぱいになりました。
ロシアの雰囲気だけではなく、これまで全く知らなかったロシア文学作品や作家にも触れることができ、心が満たされていくような感覚になりました。
著者の方の言葉はもちろん、いまに残り読み継がれている文学の言葉たちは、語り手の心から絞り出したような、切実で、真っ直ぐなものだと思います。普段自分の手では届かない、どこにあるかわからない心のなにかに、届いた、と思いました。

 小説でも、詩でも、音楽でも、胸が満たされるあの感覚、あれっていったいなんなのでしょうね。臓器としての心はないはずなのに、確かに「満たされた」とわかる、あの不思議な感覚。

 感想文なのになんら具体的な感想を記していないですね。自分で読み返してもあとでなんじゃこりゃとなりそう。だけど、すばらしい本を読んだとき、それが詩やエッセーだったとき、なかなか言葉って出てこないです。ただ、「満たされた」としか、表現できない。

 人は言葉のみに生きるわけではありませんが、人生において、「言葉」が重要な位置にあることは確かだと思います。
言葉があるからこそ、人はより高度なコミュニケーションをとることができる。決して体験できない「誰か」の経験を共有することができる。決して重なることのないそれぞれの心を、想像し、抱きしめることができる。
人間が人間である限り、このわけのわからない「心」というものを持ち続けている限り、「文学」は、大切で、必要なものであり続けると個人的には思っています。それは、誰かが、何かへの切実な思いを込めた、言葉たちだから。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

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