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読書メモ:DXの真髄 日本企業が変革すべき21の習慣病

 「RPAの威力」「RPAの真実」に続く三冊目。今回はDX戦略を推進する上で「うまくいかない理由」を日本企業の慣習や文化の視点から切り出しています。
 RPA(ロボット・プロセス・オートメーション)の概念と導入事例を紹介した前二作も、その筆致は非常に明快で好感が持てましたが、本書はさらに視座を上げて書かれており、得るものが多くありました。

 本書の白眉は、日本企業がこれまで抱えてきた課題はもちろんのこと、ひところは強みとして認識されていた、QC活動や手厚いサービスのような企業文化が、現在日本企業のITの遅れの要因になっているという視点です。DX戦略の本質とは、単なるITの活用というより、ビジネスのあり方や企業文化そのものを変えることと表裏一体である(だからこそ進んでいない)という点は深く首肯できるものでした。

 たとえば、会計ソフトウェアパッケージの仕様に「業務の方を合わせて変えていく」という例に触れられています。たとえこれまで行っていた業務だとしても、それがソフトの機能にないものだとしたら、作業そのものを見直して廃止する、というような。
 私も営業部門からオペレーション部門に移動し、業務改革のプロジェクトを担当したとき、業務のクオリティを下げたりサービスを廃止したりすることに心理的な抵抗や怖さを感じたことをよく憶えています。しかし、「必要だと思っていたこと」や「やらなければならない特別対応」などを止めてみて、そのネガティブインパクトとメリットを分析してみると、べつにやらなくても問題はなかった、ということは多々あったわけです。

 いまや定例業務のような非競争領域で、個別最適化をしていくことはリソースの浪費であり、ガバナンスや標準化の不在が弱点となりうる、ということは、ロジックを積み上げていけばわかるのですが、長い年月をかけて血肉となっているのですから、そのようなパラダイムシフトを受け入れるのは簡単ではありません。業界標準の単一仕様のソフトを採用するより、自社の業務に合わせたスクラッチのシステムをベンダーに作ってもらいたくなるのも無理はない。しかしそれこそがDX推進の弊害となっているというわけです。

 絶えず現場の声を吸い上げ改善を図ってきた日本企業の強みが、いまやDXに遅れをとっている主要因となっている、というのは強烈なアイロニーです。本書に挙げられている「21の習慣病」がひとつも当てはまらない企業は、ほとんどないと思います。これがいったいDXとどう関わるのだろういうものもありますよね。そう思った方は、ぜひ手に取ってみることをお勧めします。

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 すこし話題は逸れますが、その時代時代でもて囃される企業や経営手法がどんど変わっていくことに、若いころの私は大きな違和感を感じていました。結局喧伝されるビジネストピックは一過性の流行のようなもので、それ自体は価値が低いのではないかと。
 いまは少し考えが変わっていて、その移り変わりの背景には、事業環境の変化によって適切な手法が変化していく、つまり常にルールが変わっていくゲームをプレイし続けることの根源的な困難があるのだと思っています。保守主義者の私としては、バズワードに踊らされることをよしとするつもりはありませんが、永久不変の正しい戦略や戦術などはないという諦観を前提に、いま、この状況下で最も適切な方法は何か、ということをその都度判断していくことが重要だなと思う次第です。


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