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ユースワーカーのモヤモヤ②

こども基本法

 今年の6月に成立し、来年4月から施行されるこども基本法。日本は、子どもの権利条約を批准して以来、国連子どもの権利委員会から、「子どもの権利に関する包括的な法律を採択し、かつ国内法を条約の原則及び規定と完全に調和させるための措置をとるよう」勧告を受けており、ようやくこれが整った形になる。1994年の批准から、30年近くかかってしまったことにモヤモヤする気持ちを隠せない。
 この法律の基本理念として、すべての子どもが個人として尊重されること、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会が保障されることなどが定められている。
 実際の取り組みとしても、意見表明等支援事業の創設や内閣官房こども家庭庁設立準備室がこどもや若者が意見を言いやすい仕組みづくりのために、広く子どもや若者の参画を募っているなど、子どもの権利条約を日本にしっかりと根付かせるために、さまざまな動きが出始めている。
 個人的にも、ユースセンターにとっても、若者が意見を表明し、その声を地域コミュニティに届けることはとても重要なことだと考えており、この機会に意見表明支援、アドボカシーについて改めて学ぶことにした。

アドボカシーとの出会い

 自分にとって、具体的なアドボカシーの活動との出会いは、2017年12月にカナダ、オンタリオ州の子ども青少年アドボケイト、アーウィン・エルマン氏の「子どもの声の持つ力」という講演会に参加したことに始まる。この時は、オンタリオ州にはアドボカシーを目的とした公的施設があり、若者の声を地域コミュニティに届けるために、さまざまな活動をしていることに驚いた。更に、若者の声で少しずつ社会が変わっていく様子を聞き、感動すら覚えたことを今でも忘れない。
 今回は、NPO法人子どもアドボカシーセンターOSAKAの主催する子どもアドボカシー基礎講座と実践講座の選択ユニットを受講した。アドボカシーについて体系的に学ぶことは初めてで、新たな学びが多くあった。中でも印象的だったのが、アドボカシージグソーという考え方だった。中心に本人のセルフアドボカシーを位置づけ、ピアアドボカシー、独立アドボカシー、フォーマルアドボカシー、インフォーマルアドボカシーという4つのピースで構成されている。この4つのアドボカシーがしっかりと機能することで、本人が自分の権利のために声をあげられるようになると考えている。
 アドボカシーについて、漠然と子どもの声の代弁者として、また子どもが声をあげることを支援する役割とらえていた自分にとっては、この独立アドボカシーの考え方は、新たな発見だった。アドボカシーは、あくまでも子どもの声を届けるためのマイクであり、オン・オフは子どもの意思ででき、子どもが届けたいと思うことをそのまま伝える。あくまでも子どもの意思を尊重し、言わば支援者としての思いなどが介在してはならないという、高い独立性を担保するという考え方だ

 

独立アドボカシーとフォーマルアドボカシー

 ユースセンターでは、さまざまな若者と出会う。中には、アドボカシーが必要だと思える、もしくは必要としている若者に出会うことがある。勤務するユースセンターでは、何か問題を抱えた若者がいれば、まずは、その若者にとっての居場所として機能することに注力する。居場所として利用してもらい、関係性を築きながらサポートし、若者自身が自分で問題解決に向けて一歩進むことをを信じて待ったり、後押しするというスタンスだ。個別支援をすることには限界があるため、必要に応じて関係機関につなげることが大切になってくるため、そのための連携を並行して行うこともある。基本的には、フォーマルなアドボカシーとして、必要な時に若者が自分で声をあげられるようにサポートするのが原則だと考えている。
 ところが、既に複数の支援機関とつながっているケースや、そこまで深刻ではなくても学校や家庭との関係の中で、時には独立アドボカシーとしての役割を求められることもある。他の機関などに対して、若者が自分で声をあげることが難しい時には、独立アドボカシーとして若者に関わることになる。若者の意思によって、マイクのオン・オフをする。声を届けるか、届けないのかも若者の意思によるという覚悟が必要となる。他の機関と対立関係にならないための配慮も必要になってくる。
 ユースセンターのような居場所では、相反する要素を持つ2つのアドボカシーを使い分けていく必要があるのかもしれない。なかなか難しいことだと想像するし、不安やモヤモヤを感じる。アドボカシーという文化が、まだまだ根付いていない状況も、漠然とした不安を増幅させているのだろう。そして、このモヤモヤは、子どもの権利条約でも原則の1つに位置付けられている「子どもの最善の利益」は、どのように、そして誰が決めていくのかという別のモヤモヤにもつながっているのだと感じている。

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