ユースワーカーのモヤモヤ③

オルパという社会実験

 世田谷区のユースセンター(青少年交流センター)は、世田谷区が実験的に行ったオルパという事業を抜きに語ることはできない。オルパは、信用金庫跡の空き店舗を利用して、平成25年6月から平成26年2月末までの期間限定でつくられた中高生世代のための居場所。その運営は、大学生が中心となり、中高生も参画して行われた。つまり、若者の居場所を若者自身の力で運営したのだ。多くの中高生が利用し、地域との交流も盛んで、当時、地域の方も「地元に溶け込んでいい関係が築けた」と話しており、若者と地域をつなげる機能もあった。こうしたモデル事業を経て、世田谷区として拡充的に若者支援に取り組むため、青少年交流センターの設置へとつながっていった。

大人が運営するユースセンター

 現在、ユースセンターの多くは、自治体が直接運営するほか、指定管理者や委託によってNPO法人・公益法人・企業の共同体などが運営している。言わば、大人が運営しているケースが多い。事業の公益性や継続性、課題を抱えた若者の支援など、さまざまな事情により、大人が運営しているのだと想像する。一方で、期間限定ではあるが、オルパのような社会実験が成果をあげたことを考えると、若者によるユースセンターの運営の可能性もあり得るのだろう。実際に、さまざまな地域で、地域おこし協力隊などの活動をきっかけに若者が中心となって居場所をつくっている事例や、大学・ゼミ・サークルなどが関わってつくっている居場所の事例もあるようだ。
 ユースセンターを誰が運営するのかについては、モヤモヤポイントの1つだが、いずれにしても、その運営の仕組みの中に、当事者である若者の参加・参画や当事者性が求められることは、間違いないのだろう。

運営に求められる当事者性

 当事者、当事者性という論点は、かつて別の分野でも聞いた話である。地域子育て支援拠点事業の草創期、日本各地で子育てひろばの活動が始まった頃のことを思い出す。当時、子育てひろばでは、ママ同士の支えあいや、少し先輩のママが、子育て当事者の気持ちにより沿って支えることが大切なポイントの1つだとされていた。専門家による支援というよりは、ママ同士のつながりを築くことで、支えあう仕組みだ。こうした子育てひろばの活動が定着してくると、支えあいを担っていた先輩ママたちは、支援者として成熟していくことになる。一方で、次第に当事者との距離は離れていくために、当事者性をより意識するようになっていった。この当事者性とは何かということはモヤモヤするポイントだと思うが、当時この議論も活発だったように覚えている。
 ユースセンターなどの若者の居場所づくりを、若者が中心になって担っていくことになれば、同様のことが起きると考えられる。事業を継続することで当事者から支援者へと成熟していく若者が、どのように当事者性を保っていくのかをしっかりと考えておく必要があると思う。同時に、現在のように大人が中心となって運営していくのであれば、どのように当事者性を捉え、若者の参加・参画をどのように担保していくのかが重要なポイントになってくるのだろう。

ForとWith

 勤務しているユースセンターは、世田谷区の若者支援施策の大切な部分を担っている施設である。若者のための施設と考えれば、英語では For という言葉になるのであろう。何か困難を抱えた若者のことを考えれば For という意識は必要だが、For という意識が強過ぎると、当事者性は薄れる傾向にある。大多数の若者も、支援を目的にユースセンターを訪れていないだろう。そこで、ユースワーカーの中では、For よりも With を意識しようと話をしている。若者といっしょにということを意識することによって、当事者性や若者の参加・参画を担保したいと考えている。
 当事者性の中身やユースセンターは誰が運営したらいいのかというモヤモヤは、継続して考えていきたいと思っているが、当面の課題として、 For と With のバランスについて試行錯誤を重ねていきたい。ユニバーサルな居場所を目指すのであれば With を土台に、必要に応じて For なのかなと、個人的には考えている。


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