大人の読書感想文⑥/安部公房「箱男」

久しぶりに、また、感想文を書きます。題材は、鬼才 阿部公房氏の「箱男」です。まず、率直な感想から書くと「どえらい厄介な作品に出逢ってしまった。」ってところです。どう厄介な小説か?と言うと、

僕が今まで読んだ中で、最も、難解な作品だったので「鬼才の遺した奇書」って印象です。これじゃ感想文にならないから、

いつも通り「あらすじ」をザックリ書くところから、始めたいのですが、

内容が、複雑で、それだけで数百字以上要してしまうので、詳細な粗筋は割愛し、簡潔に書くと、
この話は、箱男に関して記述されたものです。
では、その箱男とは、どんな男かと言うと、
ダンボール箱を頭から被り、都会をさまよい、また、都市に佇み、見た事、遭遇した事をノートに記述する男なのだが、

物語は、彼がそうして記述した手記という形式で進んでゆくが、次から次へと登場する、登場人物達の中の誰が箱男なのか?分からないまま、物語は、進み、明かされないまま、物語は、終わる。 つまり、主人公が正体不明なのです。主人公が分からない小説なんて、初めて読みました。
きっと、この作品を読み解くポイントは、箱の中(主人公)が、誰か?より、彼と社会の間に箱が有り、隔てられ、閉ざされている事だろう。

僕は、この作品は「個人」と「社会」の在りかたを問う作品に感じました。

個人が社会に、どう関わり、どう生きるか?なんて、若い方々は、そんなの「個人の自由」だと思われるかも知れないけど、「個人の自由」なんて発想が、一般化したのは、わりと最近の事です。社会は本来、個人を規制するものだ。特に安部先生の頃は「男子たる者、戦場で、お国の為に・・・」って時代だった。
阿部公房氏は、戦前・戦時下・戦後それぞれの時代を知る大作家だから、戦争へと向かう時代の「うねり」の前で、個人が、いかに無力か?

社会が、いかに個人を厳しく、蹂躙するか?熟知しておられただろう。
僕は、公房氏は、そうした時代の影響から、社会に、ある種の「不信感」を抱いていて、そんな思いが凝縮された結果、この不思議な作品が、氏の独特すぎる作風が、生まれたのではないかと思います。

社会や、時代の抗いようのない恐ろしさを知る公房氏は、箱で全てを遮断し、社会に属さず生きる男に「社会や、時代に翻弄されるな!」との警告を託してくれたのかもしれない。

又、現代だって、米中・朝韓と、あちこちで、ギスギスし、時代が揺れてゆく予兆が有る。そんなうねりの前で、一個人に出来る事なんて、たかが知れている。絶えず社会に目を向け、時代を注視する事ぐらいだろう。
箱男が箱の覗き窓から社会を覗き、それをノートへ記述する姿に、苦難の時代を知る文豪が託したメッセージに「社会や時代への警戒・注視を怠るな」との警鐘を感じました。


平和は、そうして勝ち取らねば、維持されない。と思います。

今が安寧としていられる状況と楽観してよいかは、疑わしいのでは?

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