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QR-Code Irregular

いや、いや、なんだかモリサワがノリノリ。先週の月曜にタイプデザインコンペの「ファン投票」開始! ってなってからの水曜にアメリカでデジタルフォントのダウンロード販売サービス開始! って発表したとおもったら返す刀で200書体98言語対応を誇る欧文OpenType「Role」発表! で、自分のダウンロード販売サービスサイトで販売……しかし、18 fonts familyで953ドルったぁ随分強気な値付けだなぁ……。これで、商売は大丈夫なのか? なんせこのあいだのHelveticaなんか、セール中だったとはいえ15481円で48 fonts familyだったからね……200書体っていっているその家族を全部養うにはいったい幾らかかるのか……このあたり値段の付け方ってどうやって決めるのか謎。まぁ、この「Role」って書体にはあんまりピ〜ンっとこなかったのと、所詮他人様のことなんで、こっちが心配してもしょうがない……いっちゃぁ〜どうでもいいッちゃぁどうでもいいことなんだろうけどね。

さて、タイトルのQRコードの画像は何かというと、まぁ、毎度見に来て貰っている方には、もうフォント以外の何物でも無いだろうと察しは付くと思うのだけれど、お察しの通りフォントです。前に読みにくいフォントをどうつくるのかっていう話をしたときにこの話も一緒にやろうかとも思ったんだけれども、話が長くなるし、よく考えたらこれはこれでスラスラ読めるほうのフォントなので……今回は再び一周回って、一見まったく読めなさそうなのに、実は読めてしまうというフォントのお話です。

いやいや、そりゃまぁね、パッと見、二次元バーコードだから機械を当てればピッと読めるだろうけど……って、もちろん、機械を使えばちゃんと読み取れる。読み取れるのですが、だが、しかし、このフォントに関してはその必要は微塵もない。え? 機械必要無いの? そういえば、去年ぐらいだったか……感じとしては大分前に感じるけど、QuizKnockっていう伊沢拓司が脱サラ……じゃなかった、大学中退して設立した会社のWEBメディアで記事になっていた「人力で読めるQRコード」の話みたいに、右下から順番に4セル角ひとまとめにしてからマスの白黒を調べてバイトコードを数えて、2進16進変換して……みたいなやりかたをすれば……そりゃ、機械がなくても可能かもしれないけど、やってられねえ! 面倒くせえ! ってなる。所謂可算有限時間内に実行可能っていうことと、実質可能時間内で実行出来るかどうかはちがうんだよ! って言いたい。

まぁ、お怒りはごもっとも。しかしちょっと待って欲しい。実はそこまで面倒な事をしなくても本当に読むコトが可能なのだ。複雑な機械もスマートフォンも必要無い。勿論ウエッブのサービスにコピペする必要もない。このフォントのQRコードならね。実はこのQRコードにはコツさえつかめれば誰でも簡単に読めるようになるという、なんとも極悪な仕掛けが施してあるのだ。下の図にヒントがある。

と、どうだろう、コレを踏まえた上でタイトルの画像を見てもらえば、まぁ、下はかなり小さくなってるからアレかも知れないけど上の2行ぐらいなら、どう? 神山攻殻機動隊の第一話になんか、こういうことするシーンがあったけど、おおぉ全然読めるじゃん! 頭が電脳化した気分って? そんな大袈裟な話ではない。では、どうして? 偶然こうなったの? すごいね〜って……そんなわけもない。


知っている人にはコレもまぁ、今更の話で申し訳ないのだけれど、QRコードとは何かというところから……まず、説明しよう。

コレが開発されたのは今から遡ること遙か前世紀。時は高度成長期、話はいまから半世紀近く遡る。スーパーマーケットからPOSレジが普及し始め、いまやピッっといえば「お店屋さん」と言った具合に子供のままごとでもバーコードする時代。センサーで読み取るだけで商品情報が即座に送られコンピューターで一括管理……というのは大変便利ではあるのだが、これの普及が進むに従って問題点も浮上する。それは英数字でせいぜい20文字程度というバーコードの容量だ。しかし、情報をたくさん入れると読み取りやすさが犠牲になる「多くの情報を入れられるだけでなく読み取りやすいコードを開発しよう」熱い想いをもって原昌宏は立ち上がった。が、そのときの開発室には原を含めても二人だけ……なんとそのコードの開発はたった2人からのスタートであった……「風の中のす〜ば〜る〜♪ 砂の中のぎぃ〜んがぁ〜♪」って、まぁ、つまり、いろいろ、なんだかんだあって、これ、1994年に日本電装っていう元トヨタ自動車の開発部門で世界最大の自動車部品メーカー……っていうか、当時もうデンソーに社名変更してたんだっけ? まだ? まぁいいや、そこの事業部でバーコードの読み取り機なんかを開発していた部門……今はデンソーからわかれて子会社化しているのでトヨタから見れば孫会社って……いや、そんな話もどうでもいいよね? もはや、なにをいってるんだかわからなくなってきているが、まぁ、ともかく、その時代に誕生した。なのでQRコードの特許はその会社がもっているのだが、その今は「デンソーウェーブ」っていう名前になったその孫会社は、仕様をオープン化して規格化したコードに関する権利行使はしない……って明言したので、日本国内だけでなく世界中で利用され、規格化・標準化されることになりました。めでたしめでたし。いや、途中あまりにも端折りすぎだよねこの話。

さて、それで、そのQRコードの特徴は、QRの語源がQuick Responseに由来するように、360°どの方向からでも読み取れる高い反応性、偽造防止や決済サービスにつかえるセキュアなコードを追加できるといった汎用性、開発したのが自動車部品メーカーということも、あってかどうかはわからないけど、現場で粗く扱われても大丈夫という……まぁ、汚れや破損に強い誤り訂正機能といったものがある……Error Correction、つまり、自分自身で破損したデータを復元できるのだ。

この、どれぐらい破損しても大丈夫かというのはr個の連続したビット列をαの多項式を係数に持つxの多項式に変換してこれを要素とする体を……っていう話は専門家におねがいするとして、QRコードではこのError Correction Levelが一番低い場合で全体の7%、最大では50%が欠損してもOKなコードを生成することが出来る。もう、このあたりでなんだか悪い顔になっているのがわかると思うけど、お察しの通り今回の種明かしはこの部分。この高いサバイバル能力を悪用……おおっと、違った、活用しようというわけだ。

たとえば、下の図だ。QRアプリがインストールされているスマホとかあればピッってしてもらえばわかると思うけど左右とも内容の模様は同じだが、ただし右はスライムが結構な量のドットを食ってしまったため勇者リード・ソロモンがデコードの呪文でもとのデータを復元しようとたたかっている場面を表現している……って、え? 言い回しがわかりづらい。誰だよリード・ソロモンって? 大丈夫、そのへんの難しいことはコンピュータがやってくれるから。ソロモンさんの心配をする必要はない。きちんと読めているよね?

下の画像はシルエットで書いてある動物の説明がQRコードになっている。ちょっとした絵本とか、あるいはTシャツの柄だったら、何となくイイかな〜って思って……真ん中にべたっとシルエットのシールが貼ってある感じだけど、この状態でも元のデータを復元できているのだ……他にも色々あるかも知れないけど……まぁ、こんなことが出来るなら、この手のものはそのうちヒマを見つけて作ってみようかな……といったアイデアが発端。

まぁ、今では普通にQRコードだけをプリントしたTとかも売ってたりするからね。ちょっと大声では言いにくいことをプリントしてあったりして、それはそれで……まぁマジックミラー号の中のようなかなり恥ずかしいことになっていても外からではわからないみたいに一見しただけでは中が覗けないからね……もっともマジックミラー号はそこにあるだけでかなり恥ずかしいのかもしれないが。かといっても下のような例を見かけたら結構ホラー……

QRコードというものをご存知だろう。通勤時間帯のバスを待つ間、スマホで朝のニュースを閲覧していた私は通りの向こうから歩いてくるスキンヘッドの男のTシャツにそれがプリントされているのが目が留まった。魔が差したとでもいうのだろうか、ちょっとしたイタズラ心から何が書いてあるのかと気になって、端末のカメラを向けたその瞬間、私と目が合ったそのTシャツを着た男がにやりと笑う。すると、そのまま眼をそらさずに肩から下げたボストンバッグをゆっくりと下ろすと、クラウチングスタートの形にしゃがみ込み、バッグの中からバトンのようにも見えるものを握り取……時局がら、こっから先は自粛いたしますが……そういうホラーとかね……。

というわけで、怖い話はともかく、下は制作途中で思いついた何が出目っているのかよくわからないサイコロ。その展開図。数字の代わりに罰ゲームでも書いてあればQRコードなので、相当事細かに指示を出せる。とは言ってもあまりに指示が細かいと、コードも細かくなって逆に怪しさ満点だが。

そんなわけで、文字数を揃える等の工夫は必要だ。まぁ、パッと見には読めないので、その恐ろしさ……いや基い、くだらなさは倍増だ。他にも、トランプのカードに見立てた物にQRコードでプリントした罰ゲームを貼ってババ抜きさせるっていう闇鍋風な極悪なゲームとか……まぁ、要は昔バーコードバトラーってゲーム機があったけど、それのQR版みたいな……コードが複雑化した分だけ、いろいろと遊び方も増えるし、スマホやカメラ付き携帯が簡単に読み取り機器になるので敷居も低い……といった感じで。

2次元コードは……まぁ、思いつくだけでもQRコード以外に、データマトリックス、アステカ、3-DI、真ん中の◎が特徴のマキシコード、薬局とかで見るCPコード、任天堂カードe、PDF417……結構あるなぁ、まぁでも容量と省スペース、読み取り速度、汎用性、それら等々のバランスを考慮すると、いまのところQRコードが一番扱いやすい。現在ではこの手のバーコード技術は形状を増やすとか、多色化するとか、動きを伴うとかによって、2次元、3次元どころかミンコフスキー次元を超えて、いくらでもディメンションがポリトープ。いや、もうどんな言い回しか意味不明だが、そんな感じでもはやクリスタルの1片にテラバイトレベルでデータが書き込めますといわれても「ふ〜ん」としか思えなくなってしまってはいるんだが、そこそこのデーター量に、そこそこわかりやすいローテクさ、コスト面や環境面、さらにはデコーダ……つまり、まぁ、その機能が持てるカメラ付きスマホの普及やなんやかんやもあり、セキュアなソリューションまで追加可能なので、旧来の磁気カードなんかに取って代わって使用される場面も増えるなどと、案外2次元コードってのは、まだしばらくはこれに取って代わるのは容易ではないんじゃないかと思うくらい筋はいいんじゃない? といった感じ。レコードがなくならないみたいに、紙に刷るような多次元コードは、カラーなものよりは白黒の2次元コードのほうがしぶとく生き残るんじゃないかなぁ……まぁ、わからないけど。


それではタイトルのフォントの作り方を説明しよう。QRコードは作成サービスや、アプリが有料、無料含めていろいろとある。このあたりの情報はここでグダグダ始めるよりもネットで調べて貰うほうがいい。サンプルでは必要なグリフの分だけ、もう機械的に21×21セルで、コードを出力したらあとは必要なグリフにペタペタ。21×21は一般的なQRコードのセルサイズとしては一番最小になる。まぁ、実際データは1文字分しかないし、いくら曲線が必要無いとは言ってもあまりに細かいと前につくったステレオグラムフォントのように、もう、ただの災害にしかならないからね。なのできちんと前回の反省点は取り入れている。今回Error Correction LevelはH(30%)そういうわけなので、それで削れるギリギリのスペースがキャンバスということになる。最大50%までの復元が可能な規格も定められているのに、ECLがHなのは、単に手持ちのアプリで対応していなかったから……というのも大きいのだけれど、セルサイズが一回り大きくなりそうだし、実際のところ1文字しか入っていなので、それをしてもあまり意味が無いだろう……というところでもあるんだよね……というわけで作例では中央に7×7セルのキャンパスを空けてそこに文字を作成するという感じになっている。コーナーの切り出しシンボル。つまり角の3個の四角い形あたりを潰さなければ、こんな装備でも全然問題ない。上でやったみたいに、こうやって空けたキャンパスの中はカラーでも自由曲線でもなんでもある程度は自由に使えるのだけれど今回はまぁ、QRコード風に作ってみました……という感じなのでデザイン的な意味も含めてこんな具合。

さて、そうはいっても実質、文字に見える部分のセルのサイズは5×5しかないので、フォントデザイン的にはかなり厳しい。なので今回は大文字と小文字の区別はなし……って見せかけておいて、実は、そこのところはQRコード上では差が付くようになっている。まぁ、差が見えないし読めないので意味はない。所詮は自己満足でしかないのだが、書体コンセプト的には小文字を大文字の単純コピーで作るわけにもいかないだろうという……まぁ、そうだよなぁ……というわけで、下の図はAとBの大文字小文字、どっちがどっちというのは、もうマンマミーア! 作った本人でもパッと見ただけでは全然区別がつかなくなってしまっているのだが、これは……まぁリーダーでスキャンすれば一発だ。どう?

ということなのだが、この書体、実は冗長性がなさすぎるので、いつもの如くQRコードとしてはまったく役にはたたない。と、いうか、規格外のことを行っているので厳密に言うとこれをQRコードとは呼べない。いちおう、QRコードとして機能することはするのだが、誤り訂正レベルがもうギリのところなので、お察しの通り、ちょっとでも歪んでいたり、ドットが潰れたりするだけで、悲しいことになる。もちろん、性能の低いコードリーダーを使ったりしていれば、これはもうかなり厳しいといわざるを得ない。まぁ、そういう意味ではリーダーのテストで使うぶんには……いいのかもしれないが……最小セルサイズが11×11セルのマイクロQRコードですら最大35桁の数値が入るというのに、こっちはその倍のセルを使っているにも関わらず、コード1個に1文字しか入っていないからね。また、さっきデンソー、正確にはその子会社のデンソーウェーブさんだけど、まぁ、そのデンソーさんは使用に特許権を行使しないと書いたが、規格を逸脱したものについてはこの限りではないとも表明しているのでそれが行使される可能性も常に考慮しておく必要はある。つまり、どこでデンソーの逆鱗に触れるかもわからないのだ。もっともデンソーウェーブにはフレームQRといってコードの内部に自由に画像を入れることが出来るというソリューションもあるので、まぁ、こういうことがやりたいという場合には、こんなパンクな方法は忘れて、素直にそっちを使った方が良いし、事前にきちんと相談すれば少しはお目こぼしは……え? 駄目? すいません、勝手にやってしまいました。デンソーウェーブがOKっていうならフォント公開するのに吝かでもないのだけれど……。

ということで、つまり、法的な問題すら怪しいうえに、更に言えば、非効率極まれりといったところなのだが、その非効率性により……これも、リーダーの性能にもよるだろうけれど……というか、そもそもQRコードはPDF471と違ってデータスタックを想定していないのでまとめ読みが苦手だから……あ〜、データースタックっていうのは……ってこれはじめると、また長くなるのでアレだな〜……まぁ、ここは聞き流してもらうということで、そういうことなので、なんということでしょう! 長文になると何と機械に読ませるより人間様が読み取る方が早いという、機械を出し抜いてメンタートになった気分が味わえる。ブトレリアンジハド万歳!

それで、なんでこんなことをしてるかというと、まぁ、もともとこれQRコードというか、電子決済特集みたいな感じの記事のタイトルに使おうと思って作ったんだよね、読めるしスマホで読み取れる。洒落も効いててイイと思ったんだけど、編集長曰く「わかりづらいわ!」って……まぁそうなるよな……いや、まぁ、ぶっちゃけ、そりゃぁ作った本人でもダメってわかるけど……折角作ったんでフォントにして……作る必要の無かった文字まで追加して……まぁ、なんていうか……何やってんだろうねホント。


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