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フォントの多言語対応とアルメニア文字


さて、まぁ、今回のお題は、パブリックサイン用のフォントとしても素晴らしく優秀とされる書体のAvenir、そのアベニールが150ものランゲージに対応したAvenir Next Worldとなって今年の2月にリリースされたということでもあり……と、まぁ、そうはいってもAvenirAdrian frutigerの話を期待していた人にはごめんなさい。いずれするかもしれないけど、今回は、Worldのほうにかけて、最近のトレンドのフォントの多言語対応に関わるような話をしよう……とはいっても今回も多分まともならそうはならないだろうという方向からのアプローチ。相変わらず検索に殆ど掛からないだろう……というのを良いことにいつもの如く適当なことを言い放題しても大丈夫そうな日本から見ればマイナーな言語のマニアックな文字のお話……まぁ、そんな、趣味的な内容なうえに、はじめると恐らくいつもの如く、どうでもいいほど無意味に長くなることが、もはや書き始める前からすでに予測の付くという講談調の無駄な枕から始めるので、予め注意しておくけど、枕の部分は相当すっ飛ばしても大丈夫。あと、いつも注意しているけれど、それぞれの目次も内容も、かなり適当でいい加減だからご注意を。

ところでそのAvenir Next Worldのほうだけど、対応を謳っていたはずのアルメニア文字をmonotypeのホームページで入力してみると「記入した文字はこのフォントにありません」ってなことになるというのは何でだろう? まぁ、そこのところはともかく、今回は以下のようなおはなし。

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世界最古の創作文字

文字はどのように発明されたのかということすらよくわからないのに、ましてや誰が文字を作ったかという個人を特定しろという話は街に出ていって顔に眼玉が四つ付いている人物を見つけて探してこいという頭の悪いバラエティの企画にしても無茶振り過ぎて皺寄せを食らった新人のADが……いや、まぁ、わかりずらい喩えはともかく、そういうことでぶっちゃけ不可能という話なのだが、それでも現存する文字の中で制作者やその過程などが記録されていて、現在に至るもちゃんと実用に供されているとされている世界で最も古い文字は何かという質問にならば答えはあって、それが冒頭のアルメニア文字ということになる……よね?

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さて、それで、そのアルメニア文字はアルメニア語の表記に使われるアルファベットで、ラテン文字同様に左から右に横書きされる。五世紀の始めにアルメニア王ヴラムシャプーの命により、言語学者で神学者、政治家にして聖職者、教育者であり研究家、ミュージシャンにしてポエマーという多才多芸に八面六臂なアルメニアの聖人メスロプ・マシュトツによりプロデュースされてスクライブのロファノスにデザインされた文字だ。作られたときには36文字だったが後に3つの文字が追加され、さらにはラテン文字同様大文字と小文字が使い分けられるようになったり、若干字母が変わっていったりと、そういった何処の文字にもあるような変化はあったりするのだけれど、歴史は古いにも関わらず、まぁおおまかにはそんなに大きくは変化せずに現代に至るまで使い続けられているので、そんなところからもこのメスロプという文化的ヒーローの天才性が窺われる。天才と言えば、この文字にはいろいろと疑似科学ネタにでもなりそうな仕掛けも多数組み込まれているそうなので多くの……それこそ何千人もの学者が、錬金術的、占星術的、宗教学的、史学的、民族学的、音楽的、美学的と、まぁありとあらゆる科学的な側面からアルメニア文字を研究した結果、アルメニア文字は単なる書記体系以上のものであるということを……揃いも揃ってそういうふうなことを言い出してしまうということにもなるという……なんというか、そんな偉大なる大魔道士聖メスロプの魔法にも守護されているという、そういう古代文字だ。

この件に関してはいろいろあるのだけれど、話が長くなって収拾がつけられないからまぁ、ひとつだけ有名な例を挙げると、TOCANAかカラパイアかムーの記事にでもなりそうなトリビアだけど、元素の名前をアルメニア語でそのまま綴ると、アルメニア文字の単純ゲマトリア数……まぁ文字を数値に置換すると……ということだけど、その文字を数字になおしてそれぞれを合計すると合計した数がメンデレーエフの周期表の元素番号の数字とピッタリと一致するように設計されているという錬金術師もビックリな仕掛けが存在するなどという主張がまことしやかに語られる。これについては以下参照。

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もちろん、聖メスロプがただの人間ではなく宇宙人か未来人か異世界人か超能力者でもなければ元素の電子配置の理論を知っているなどということは天地が逆立ちしたってあり得ないことなので、まったくの偶然なうえ、そもそもアルメニア文字の数値というのは……いや、まぁ、この話はいいか、ともかく、そんな制作者も予期できないような仕方にいろんなところでいろいろとイマジネーションがインキュベートして盛り上がってしまうという例が数多く出現するので、そういうところにも人はまた神秘的な側面やオカルト的な意味を見いだしてしまうということもあったりなかったりするということはある。あたかもなにかの魔術が存在するかのように見えてしまうのだという、そういうお話でもある。

もっとも完成したこの創作文字で最初に書かれたと伝えられるその一文は、仰仰しくも観念的な神のお言葉を綴る……というよりは、ビジネス書のネタにでもなりそうな世俗的な教訓の集合たるソロモン王の箴言のワンフレーズであったとされるので、そういうところなんかも併せて考えると聖メスロプのセキュラーな感覚も透けて見え……って感じるのだけどね。なのでマシュトツからみれば後世の連中のいかれたオカルト議論のほうが臍で茶を沸かしながら鼻で笑っちゃう気持ちになるかもしれないのだけど……まぁ、文字なんてものは要は実用性なんだよね。当たり前だけど。

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超古代文明アルメニア

実はアルメニアというのは他称で、アルメニア人達は自分たちのことをハイクと呼び、全長300キュービットを誇る巨大な方舟の制作者として創世記にもその名を残すノアの息子のヤペテの子のゴメルの子のトガルマの子、ノアの玄孫……で、合ってるよね? まぁ、その玄孫のハイク・ザ・グレートことハンサムハイク、イケメンのアーチャー、ハイク・ナハペトの子孫を自称している。そういわれると世界一美人が多い国と言われることもあるアルメニアの美人って、まぁ、その、ヅカの男役っぽいというか、結構男前なイケメン顔だよね? いや、まぁ、あくまで個人的感想だけど。

で、アルメニアは現在のアルメニア共和国と隣国のアルツァフ、カラバフ高地あたりからトルコの北東部とイランの北西部に跨がり、ユーラシアプレートに食い込んだアラビアプレートの北のどん詰まりで地殻変動の巣であり地下資源も豊富だ。未来少年コナンの超磁力兵器並みに五大陸を変形し地軸をねじ曲げ多くの都市を海中に沈めた死海文書にも記されている伝説の大洪水において、生き物のつがいを乗せた方舟を座礁させられる程度には水面に顔を出していたとされているのこされ島……じゃなかった、高さ五千メートル級のアララト山。そのアララットをはじめとする千メーター超えの山々に周囲をぐるっと囲まれた3つの台地からなる陸の孤島の高原の一帯で、超古代文明の揺籃地で広大な流域面積を誇るティグリス=ユーフラテスの水源だ。豊富な水に恵まれ欧亜の結節点なる交通の要衝としても機能していて、お察しの通り周囲の超大国には常に恰好のバトルフィールドでもあった。

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現代でもアルメニアはまわりをほとんど敵に回してしまっているので、ソ連から独立した、ここ30年ほどでも、この地で正規軍、義勇兵、傭兵、ギャング、軍事会社、実験兵装秘密部隊……あと、なんかあったっけ? まぁ隣国全てはもちろんのこと、その手の関係者からただの強盗、暴れん坊、今はコロナでさすがに観光客までは……え? いたの? ふ〜ん。まぁ、いろいろと押し寄せては激突するという非常にカオスなことになっていた。システム・オブ・ア・ダウンが新曲の売上で支援活動をしていた昨年のアゼルバイジャンとの熱戦で、タンキアンらには残念なことにアルメニア側は大幅に領土を喪失したうえ停戦合意が微妙で国民の不満をwake upさせちゃうわ、仲介したロシア軍は当面の間居座る気満々でと……まぁ、いろいろとあることはあるので、火種は燻ったままだ。

それで、大昔、古代ローマ帝国の覇権下にあった時期は、一帯にガリラヤの新興宗教が普及していたこともあって王国はミラノ勅令より先走ってキリスト教の国教化を選択してしまい、世界初の基督教国となってアルメニアにあった景教以前の文書全ての焚書を始めてしまう。こんな調子で、どうにもこうにも、古代国家は何処もかしこもナザレのイエスの教えを受容して以降にどんどん調子が悪くなる印象があるんだよね……イデアで秩序を破壊し混乱をもたらした後にその混乱からの救済をも用意するという究極のマッチポンプに見えるんだけど……どうなんだろうね? 気のせいだと良いけど、まぁそれはともかく、それから1世紀足らずで混乱は帝国ローマに至り帝国から寛容さが失われて全体主義リベラル国家……じゃなかったハリストスな唯一神教国へと変貌していくという、そういう過程で、オリンピックは中止になるし社会は東西に分断されてしまうしで、字だけで書くと最近の話にも聞こえるけど、これは4世紀の終わりから5世紀の初めのころのお話。日本で言えば古墳時代ぐらいだっけ? 

まぁ、ともかく、そういう感じなので、そういった覇権国家の一大イベントに巻き込まれてしまうと周辺諸国も無事ではいられない。なので、その頃のアルメニアも当然その影響を丸被りして、調子が良かったのも束の間、気が付いたらあっというまに民族存亡の危機に瀕していたという、ちょうどその頃その時その地に誕生し瞬く間に普及し大衆のリテラシーの上昇をあななうこととなった道具がこのマシュトツの作ったアルメニア文字であったというわけだ。

そのころのアルメニアでは宗教原理主義にかぶれて焚書坑儒をおこなった暴君を山中の洞窟で消してしまったこともあり、いろいろ状況がゆるくなって、マテナダランよろしく過去の写本の研究機関を復活しても大丈夫になった。まぁ、それで、ここで失われた叡智の復旧と海外文書の翻訳が始まる。そういう感じなので、今ではマシュトツは創造者というより、焚書によって失われた古いアルメニア文字をダニエル文書という……ここも説明すると長くなるのですっとばすけど、まぁそういう残された古籍をもとに文字を再発見した人というくらいの位置にまで格下げされているけど、そもそも、王様に文字を造ってって頼まれて造っているうえ、グリフの設計にマシュトツの創意が働いていないわけはないので、そういう評価も無いんじゃないかって思うんだよね……でも、まぁ、よくわからないので、そのはなしはどうでもいいとして。ともかく、文字製作の背景には大衆のリテラシー低下による悲劇を通過したアルメニアのそういう時代的な要請もちょっとはあったのではないの……というおはなし。

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スピュルク

さて、で、これをいっちゃあなんだが、アルメニアにとっては、近隣も悪すぎる。歴史的にも高原の周囲はメディアとリュディアの争いに始まりペルシア帝国にアレキサンダー帝国、パルティアにローマ帝国、ササン帝国に東ローマ帝国、ハザールにイスラム帝国にビザンチン帝国にアラブ帝国にモンゴル帝国やらセルジュクトルコ帝国やら、それからオスマン帝国にロシア帝国、ゆらゆら帝国……は関係ないけど、まぁとにかく、次から次に、あと、まだなんかあったっけ? ともかくそういう歴史に名だたる帝国達の覇権を賭けた衝突の最前線の鉄火場にいつもいつも立ってしまうので、アルメニアは帝国の保護国にされたり、帝国に削り取られたり、帝国の地方自治体にされたり、帝国の都合で分割統治されたり、もう国とはいえない状況に。それらの事情はIt is what it isなので振り回されてケセラセラ。なるようにしかならない……先のことなど、わからないけど。というわけで地政学的な位置取りの問題で周りの超大国が激突する度に擂り潰されないようにどっちに付くかで右往左往、もちろん内部対立は終始しょっちゅういつもの事、おまけに帝国が代替わりする度毎に税金が上がったり、ディアスポラさせられ強制退去、財産没収、全て残らず奪い去って、でかい空洞……って、そんな感じ。

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そういう訳で、そこから追い出されたり追い出される前に財産担いで自主的に出て行ったりした同胞は故郷パレスチナから出奔したアブラハムの子孫同様世界中に散らばり蒲公英の如く移り住んだ土地で根を張り、それなりに良いビジネスも悪いビジネスもしている。こういう民族離散なディアスポラな状況をアルメニアではスピュルクと呼ぶ。まぁ意味的にディアスポラとたいして変わらないけど、だから同じようなことになっているカナンのヘブライ人や客家の華僑との扱いの差というのは、実は宗教人種の違いでしかないんだよね。まぁ、見た目がいいというのも大事だったのかもしれないけど。どう、差別感情って微妙でしょ? こういうことに簡単に理屈を見つけようとしないほうがいいと思うんだよね、まぁ、でも、アルメニア人に対する扱いの酷さのもともとの最初の要因は中東の問題に帰結すると白人なんかは思っているみたいなので、欧州からすれば単性説の異端者とは云え、おなじ神とジーザスの教えを奉ずることでもあるし、西欧にとっては反キリストなジューイッシュに対する過去の所業ほどには罪悪感は感じないみたい。

それで、自分たちが強制収容所送りにした異教徒に対する後ろ暗い差別感情を隠すために世界を操る強大な闇の組織の存在を作り出してしまうほどの必要性を西欧社会はアルメニアに対してまったく思わなかったので、陰謀論界隈の秘密結社業界ではユダヤ系と違いアルメニア系は全然レベルのパラメータが低いんだよね。由来からすれば世界史を裏から操るほどに歴史だけは古い集団にもかかわらず、どうにもこうにも世界をひっくり返すような大きなクエストにはなかなか参加させて貰えていない。もっとも後でも話はするけど中東方面でも歴史的に色々とあることはあったので逆にムスリムの人に言わせると「アルメニア人は世界で活動するアルメニアンコミュニティのディアスポラパワーでメディアを都合の良いようにコントロールしていることは疑いない事実」らしいから、そこは中東ブーストがかかって、そのフィールドあたりではイスラム共同体を破壊するような大きな陰謀にも参加資格があるみたいだけど。あと、なんというか、固有名詞的に人物絡みのネタを出すとシベリアの怪人ラスプーチンと並んで伝奇小説のラスボス感すら漂う神秘主義者のグルジェフなんかはアルメニア系の人なので、どちらかというマジックポイントだけはチート級に使えると思うんだよね……イヤ、まぁ、戯れ言はともかく、そういうことなので、ユダヤ民族特殊論みたいなネタにあがるエピソードの多くが実はアルメニア人達にも当てはまったりすることもあるのだけれどもね。イヤ。ホント。

まぁそういう意味では、どっちの虐殺にも関わっていない日本人のユダヤ陰謀論好きも結構どうなんだろうって感じに思うんだけど、個人的には……まぁそれもともかく、それで、普通ならとっくにジェノサイドされ消滅してしまってもおかしくないような地政学的立ち位置なのに古代から連綿と文化の独自性を保って発展させてきたということは、奇跡的な状況なんだぜってことを言いたかっただけなんだけど……以前虐殺フォントの話をしたと思うけど……あれ、まだしてなかったっけ、まぁ、なんでもないです。とにもかくにも、そういうアルメニアの言語と文字とエトセトラエトセトラという独自の存在が、隣接する巨大な帝国の言語支配との同化を妨げ文明の消失に対する防波堤として二千年も機能していたということもまた云えるので、それだけ見ると……あれっ? たしかユーラシアの東にもそんな国もありますよね? まぁ、こういう話も、あまり細かい事を言い過ぎると滅ぼされていないから残っているんだよと言う鶏卵論争みたいになるからあれだけど。

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でも、勿論、独自言語ひとつで悲劇と無縁になれたかというと、逆にそんなことはまったくなくて、跳ね返すだけの力がないと、支配の同化に従わない集団というのは集団の外からすれば厄介なので、それに対するあたり具合は周囲と周囲の覇権国家のご機嫌次第ということになってくる。ヨーロッパでは西のユダヤか、東のアルメニアか、といった感じで「特定の集団の絶滅を目指し当該集団若しくはその基盤の破壊を目的とする様々な計画的行動」という現在習近平がウイグル、チベット、内モンゴルなどで絶讃進行形に行動中な民族集団や固有文化に対する破壊活動のようなものの動向には当然常に注意は必要だった。


Red Bloody Sultan

さて、それで、注意深く大規模なカタストロフィを避け続けてきたアルメニアにもいよいよその時が訪れる。20世紀を彩るその大量死の先駆たる巨大な暗黒の悲劇の幕が上がる……というのが、いわゆる近代的なジェノサイドというものの始まりで、ジェノサイドといえばホロコーストみたいな感じでユダヤ人に対するソレは誰でもご存知だろうけれど、実はホロコーストの雛形はナチスドイツのプロジェクトより半世紀も早くオスマン帝国によって完成されたというところからが近代悲劇の始まりだった。で、これが、世に云うアルメニアンジェノサイドというやつだ。初期の虐殺はサルダウカー……じゃなかったイエニチェリをコサック化したような皇帝の私兵かつ国境警備隊のハミディイェ騎兵が主体で、トルコというと日本ではエルトゥールル号からの一件もあり当時の皇帝も大日本帝国や明治天皇への好感度が高く高評価……というふうなことも伝えられているので、愛国心が刺激されプラスなイメージしか働かないかもしれないけど、その祐宮睦仁明治大帝をべた褒めしていたオスマン皇帝ハミト2世は特殊公安機動警察ハフィエを使って国内を監視社会化し、殺した人数は数知れず、積み上げた死体の血で河を作ったとも言われ、このことが国際社会に伝わると特にお隣の欧州諸国にはコロニー落とし並みの衝撃が走って、その所業に付いた渾名が赤い彗星……じゃなかった、赤い流血帝という、まぁ、なんというか、とんでもない独裁者。コイツに褒められたくはないかなぁ……同じ神を崇める人々にさえ容赦なくコレだから、異教徒相手ともなれば……まぁ、そこは本当に酷いので、それはともかく、そういう感じにやりすぎたので後に若者? 若年層? まぁ青春とか青年とかいうそういう青いナショナリストな活動家達による赤い革命で追い出されてしまう。

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ただ、ここまでのジェノサイドは、まぁ、ある意味、中途半端にロシアのラスト・ツァーリ・オブ・ザ・ドラゴンタトゥーことニコライ・アレクサンドロヴィチ・ロマノフのロールモデルとなったであろうこの狂った専制君主にありがちな原始的野蛮さでもあり、虐殺の責任なんかは皇帝一人に押しつけられるからまだアレなんだけど、この皇帝失脚後のほうが実はホントはもっとヤバくて、革命によってこの後にナチス、ソビエト、中華人民共和国に連なるような近代的全体主義国家を爆誕させてしまう。実は昔から疑問だったんだけど、みぎがわのひとたちからしんぽてきなひとたちまでみんなこれだけあからさまなとるこのたいどにわるくいうことはしないうえにふしぎなことにぎゃくにもちあげるようなこともいったりしたりするんだよねぇなんでだろう(棒)いや、まぁお察し? それで、あんまりそういうことも言われたかぁないだろうけど、この全体主義国家はイスラーム専制君主制度の土台と伝統の上に巧妙に非宗教化された様相に構築され、その容赦の無い残虐さでパッケージされたこの方法が以降の国にもフランチャイズされたので……って、ここも、あんまり言い過ぎるのもアレなんで、なんか適当な感じにしておくのだけれど、そういう戯れ言はともかく、これで、とうとう近代的なシステムで動き出してしまった虐殺機関が、緋色の流血帝が勇者に倒された後もなお、止められなくなってしまい、こんどは逆に勇者達によって継続的に稼働するというシステムにガッツリと組み込まれていってしまう。


Armenian Genocide

本当はこの異常事態に関して、当時の欧州列強が、すぐにでも南極条約……じゃなかったベルリン条約をたてに介入しておけばよかったんだけど、選挙後に大勢の支持者をあおってエリゼ宮まで行進させデモンストレーションを盛り上げてからのクーデタで第三共和制を瓦解させ独裁者に……などというザルな計画で担がれていた大統領……じゃなかった将軍が直前でビビってしまい実行を躊躇したため計画が瓦解し弾劾されてベルギーへ逃亡するわ、南米で大規模インフラ開発事業を請け負っていたゼネコンが放漫経営で破綻したのを助けるため政府保障で債券を発行するもそれも紙屑になってしまうというところでそこからの政治家への収賄スキャンダルが発覚するわ、これで儲けた連中は実は全員猶人だ的な言説でメディア全部がヒステリックに反猶感情一色に……と、最近でも聞いたことのあるようなそんなこんなのイベントが立て続けに起こってガタガタな危機的政治状況に陥ってしまっていた共和国の高踏派の詩人に、いくらこれをこのまま放置しておくと、いずれはヨーロッパでも同様な事態が起こって大変なことになりますよ……とその危険性を予言されていても、こんな調子なので一般にはそれどころではなかった。それに、犠牲者がたとえ白人種のキリスト教徒ではあってもカルケドン信条を拒否する異端者のことで骨を折るのも癪な上、なおかつこんな野蛮なことは後進国でしか起こり得ないと高を括ってしまっていた。さらには、そういうことを言い出すと、叩けば埃の出る連中は一杯いて、ブーランジェ将軍が逃げ込んだ先の王様がアフリカの奥地でやらかしている話なんかのほうが実は本当はものすごくヤバい……まぁ、ともかく、そういうことで脛に傷を持つ奴らを数えると、もう一人や二人ではなかったので、国際的にも長期に亘って放置され、その結果本当にどんどんと酷いことになっていってしまい、これが、やがて、その後の大量虐殺事件につながっていってしまう……というわけだ。

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それで、一般的にはアルメニア人虐殺といえば、第一次世界大戦中に主に準正規軍たるクルド兵部隊が使われるという形で練馬区と中野区を併せて一挙に無人にするほどの百万を越えるレベルで虐殺の犠牲者を積み上げ、古代から続いた西アルメニアの文化伝統を徹底的に破壊し尽くすという国家意思として行われたこのときの計画的ジェノサイドのことを指すのだけれど、19世紀からの一連の事件も繋がりとして見るほうがわかりやすいかも。それ以前からの虐殺慣れを経験してしまっていた結果なのかどうか、ともかく、何かの箍が外れたように……って、まぁ、起こってしまったことのその先のはなしを詳しく知りたい人は、どうか、別の所でどうぞ。


Original Sin

で、まぁ、国の選良がこういう形での悪行に手を染めると国民全体の原罪につながるので、21世紀の現在進行形でその悪行に手を染めている中国共産党と同様に、現代のオスマン帝国の継承国家もジェノサイド認定については拒否している。直接悪事に手を染めたかも知れない関係者も直接の被害者もご存命だった20世紀の時代ならともかく、ほぼ100年は経ったので、そろそろもうちょっとなんとかしておいたほうがいいんじゃないかとは個人的には思うんだけど今の土耳古のスルタンは……いや、まぁ、これは、言わない方がいいか……もちろん権力者がプロジェクトはまだまだ現在進行形であると考えているならばこれはこれではなしは別だけど。

それで、直接コレを命じたり直接実行したりした人たちのことは別として、じゃあ、結局何が悪かったのかということについては、当時トルコ人の帝国のことを「欧州の病人」呼ばわりし、債務管理を名目に帝国が滅亡したら領土分割をどうしようかなどという悪辣な皮算用までしていた英国が実はアルメニア地域の安定化には帝国以上に一番積極的だったり、フランスで高等教育を受けた帰国子女の高学歴アルメニア人元学生が戻ってきたら地元で一番の過激な活動家になってしまって元気に破壊活動に精を出してしまっていたり、その地元でロシア側からは帝国東部の不安定化工作を目的にテロリスト教育をされたロシア領内のアルメニア人が密かに送り込まれて略奪暴動を煽っていたり、そんな連中やオスマントルコのクルド兵からの虐殺を避けロシア側に逃れたと思ったら逆にこっちの帝国のアルメニア人のほうが実はもっと酷い目に合っていたということもあったり、さらにはオスマン領内のアルメニア人たちも独立か自治権拡大かで大もめにもめ内部対立が暴動にまで発展していってしまっていたりと……まぁ、単純に善悪が決められないほど絡み合った状況は複雑だ。あ〜、もちろん、みんなにトルコナショナリズムを煽って回った大衆媒体の責任は一番大きいだろうけど。そういうことで、一言でズバッと言える解答はなかなかないのだけれど、問題が深刻化した問題は問題が起きたときに直ぐに問題の解決に誰も動かなかったから……というのが一番問題が大きいということは件の詩人も考えていた。

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で、そのピエール・キヤールの提案では大袈裟で時間の掛かる国際連携な一致団結は必要無くて、列強数国の合意と迅速な介入が必要だと結論している。話し合いより速度が大事なこともあるよね。まぁ歴史のイフを言うのは不毛だけど、ヒトラーたちはアルメニア人虐殺は誰も罪に問われていないどころか一人も覚えていないではないかなどと嘯いていたとも伝えられているので、まだ事態が散発的だった19世紀中、94年のサスーン、95年のゼイトゥン、96年のコスタンティニイェことスタンブール……まぁどこだかの時点において、列強の介入を正当化できていたらその次の世紀での歴史の流れも少しは変わっていたかも知れないということはいわれる。ちなみに、日本では第一次大戦後に後に世界初の女性外交官といわれることになるダイアナ・アプカー駐日名誉領事の働きもあって、今期大河ドラマの主人公渋沢子爵を委員長にアルメニア難民救済委員会が組織され……ということは言われているのだけれど、これで何がどこまで出来て何が出来なかったのかということは……調べていないのでよくわからない。まぁともかく、サスーンでの虐殺から四半世紀を経過した第一次大戦後には600年続いた帝国の瓦解から国家世俗主義土耳古民族人民共和国の爆誕に至る大混乱もあって、はるか地球の裏側の日本にまで難民が到達するほどの事態へと惨劇は拡大していた。

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で、こういう大規模な虐殺の起きる背景はたいていの場合「戦争中に敵国と内通していたから」というような、まぁ他にも、なんでもいいけど、社会が全体化してその共同体内部では反論しずらいような理屈のつく大義名分が理性の箍を外してしまうことによって発生する。ナチのやったことを擁護するつもりはサラサラ無いけど、第一次大戦後のドイツでも、ヒトラー以外にも中東でアーリア人が虐殺された事実を覚えていた人はいただろうし、事実は別だけど大戦中銃後のユダヤ人に撃たれて負けた論というのはそれなりに膾炙していたので、目の前でユダヤ人が連れ去られようとしていても森喜朗のような女性蔑視発言をするような男を強制キャンプに入れて再教育し直すだけだといわれると、擁護すれば「オマエも女性差別主義者だ」ということになるので反対するのは理屈上不可能になる。そもそもそういう話じゃないんだが、それでもそういうヒステリックな言論のヒステリックさが見逃されていると、そのうちにどうしようもなくヒステリックなところに至り、一次大戦後のオクラホマのタルサでもどうということもない理由で他人種に対する蛮行が始まりやがて航空爆撃や焼夷弾攻撃すら行われるというほどの大量虐殺事件にまで拡大したのに国際社会から黙認どころか出来事そのものが無かったことにされてしまっていたというわけだ。人間は結果論からの名分で高層ビルを破壊した阿呆な餓鬼共の大規模犯罪行為をそれ以上のなにかにしてしまったりするのでどうしようもない。また、理由の如何に関わらず戦争中の行為やおこってしまったことによる後付けの報復行為の禁止というルールを厳しく規定しておくことでもかなりの不幸は防げると思うのだけど、第二次大戦後の連合国は水師営の乃木大将とはまったく逆のお手本を示してしまったので、まぁそりゃぁそうなるよなっていう具合だ。核の抑止はいまのところ可能になっているけど、その何百倍……下手するとその何千倍も人を殺している虐殺の抑止にはまったく至っていないのは、どうもただのインフルエンザ扱いで、ほったらかしになってるようだけど、それで本当に大丈夫?

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だからこういう大量虐殺ジェノサイドというのは実際のところは政治体制だの主義主張だのとは実はまったく関係なくて、だいたいはどんな場所にも入り込む。日頃からの手洗いうがいが大事なんだよね。自粛警察や国際運動競技大会組織委員会会長の話みたいに近視眼的なくせに上から目線で異論を許さずヒステリックにわめき立てるメディアリンチな意見が絶対正義になってしまうとその高揚感で自分たちが常軌を逸した行動をおこなっているということにまったく気づかなくなってしまい、ましてやそこで得た成功体験がさらに快楽中枢を刺激して、常軌を逸した意見行動を正当化して、さらに大きな刺激を求め破綻するまで突き進み、蕎麦屋の話のみならず些細な飲み食いの話で役人吊し上げたり、自粛してない連中を辞めさせたり、感染症の免疫獲得やら飲食店の営業を邪魔したり、演出家を首にして、運動会から観客を排除しようとしたり、あまつさえうまくいくなら中止させようなどと嫌がらせ……まぁ、やりたい放題だ。自分たち以外が嘆き悲しむような事態が起きれば起きるほど愉しくなってくるので……というか本当はそれで自分たちも茹で蛙になってはいるんだけど、多分エンドルフィンやらドーパミンやらがバンバン垂れ流しになって、それで愉しくなっているのでまったく気が付いていない。ここのところつとに矯激過激で極端甚だしい常識外れな行動に拍車がかかっているように見えるのはネットでは自分たちとは逆の意見が主流になっているように見えるので、かえってそこで変な対抗意識が煽られてメディアスクラムで影響力を誇示しようなどと断末魔の叫びもいいところのそんな無謀な行動に躍起になってしまい、重要なことがオツムに入っていかない。それよりは、ネットよりまだまだ俺たちの方が人々の考えや行動を変えさせる力があるんだと、それだけを証明しようと随分とむきになっているように見えるのだけれど、やればやるほどこいつらの所為で無駄に迷惑かかる人間が増えていってさらに敵を増やしてしまうので、より一層に輪をかけてネットでの攻撃が厳しくなっていく。それで、さらに敵愾心に火がついてしまって、ますますレピュテーションを下げるような過激な行動にエスカレートしていって……そのうち遅かれ早かれ誰にも相手にされなくなって無観客試合しかできなくなってしまうと思うんだよね。イヤ、端から無観客でしか試合をしていないような俺に言われたくは無いかも知れないけど。

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それで、まぁ、結論として自分で自分の首を括るのが早いか、みんなを不幸にしてしまうほうが早いかという、事は誰も望んでいないようなところにまで行き着いてしまうということになるんだけど……そこでちゃんと立ち止まって反省できるかというと、多分できないので戦前同様アホな事をまた繰り返すことになるというわけだ……まぁ、関係者は溢れ出す脳内物質でジャンキーになっていたりするみたいなので、もう何を言っても無駄だろうし、そもそもジャンキーなので、ジャンキーがジャンキーな自分のことをなかなかジャンキーとは自覚できないだろうからね。病気の自覚も無しで社会の木鐸を気取り正しいことをしているのに何が悪いとマスクもせずに大声を上げ唾を飛ばしているので打つワクチンもない。これは、もう、ホントどうしようもないんだよね。イヤ、マジで。というところで大勢に迷惑をかけるだけの意味の無い小さな勝利に勝ちどきをあげて気分がよくなっているだろうところに申し訳ないけど、本当はやるべきでは無かったこの闘争の決着は実は……ってまぁ、戯れ言はここまでにして話を戻さないと……どうでもいい話に脱線しすぎたために予想通り毎度のことだけど予定よりも枕がえらく長くなってしまった。トホホ……イヤ、ホント、まったくもって面目ない。



アルメニア魂

と、いうわけで、さて、まぁ、そんな感じなので、いつもながらの適当な話をダラっと語ったのも、現代のアルメニア社会の共同幻想として虐殺の記憶がガッツリ組み込まれてしまってコミュニティの神話にまで昇華されているので何をするにもここへ戻ってくる。説明しだすと難しいのだけど、まぁなんかそれっぽい言い方にすれば「生存への衝動と犠牲へのレゾナンスがアルメニアの美学的伝統の核に……」なんていうなんの心もこもっていない上滑った話もできなくはないんだけど、まぁそういう話は余所へ行けばいくらでも上手く言ってくれているところがあると思うのでそちらへどうぞ。ともかく、そういうわけで、世界にはおおよそ一千万人程のアルメニア人がいるといわれているのだけれど、こういう事情があって、アルメニアに住んでいるアルメニア人は300万に満たない。その他はみんなスピュルクしているというわけ。

で、このスピュルク人口の700万のうちディアスポリックな言語と化したアルメニア語を操れる日常生活にも堪能なネイティブスピーカーな方々はどのくらいかというと一説には100万未満とされているので、そういう事情で読み書き知識のレベルである程度アルメニア文字を必要としている人々もスピュルク700万のだいたい半分程度に減少してしまっているだろうと漠然と想像すると、前々回のクメール文字を必要とする人々と比較しても潜在ユーザー数はその三分の一程にしかならない……って、まぁ、こんな適当な予測でも、実態とそれほどは変わらないと思うけど……どうだろう? ともかく、その実状に輪を掛けて、本国とスピュルクという2つのグループの間でも歴史的な経緯もあって、いろいろ正書法やら発音やら使う字の形にも若干の差異もある……これは、一例をあげればアルメニア文字のホー、Hにあたるհの形がGoogleのNotoSansでは文字の左からのメインストロークが丸っこくなっているけどここはピンとしてないとアルメニア本国では見栄えが悪いとされ、そのせいもあるためかNotoSansのデザイン的評価が低くなり……みたいな話になるのだけれど、これはどちらが悪いという話ではなくもともとの出身地域の違いもあってスピュルク組はイスタンブール語が主流で、本国ではエレバン語が主流となっていて、それぞれメスロピアン式かソビエト統治時代の改革式かでもって正書法が違っていて、それに伴って必要とされるデザインも異なっているためだ。まぁ、名前からすればマシュトツの名を冠するスピュルク側のほうが伝統的なもののように思うかも知れないけど、前述の事情でイスタンブール語……西アルメニア語と呼ばれているのだけど、その西側の言葉が絶滅危機に瀕してもいるので、そちらのほうが正しくオーセンティックといえるかというと一概にそうともいえない事情もある。多分。ちなみにお使いのブラウザでは、今はどっちの形で表示されている?

まぁ、ともかく、そういうはなしで、スピュルクなアルメニアの集団は世界中に散らばっていて、厄介なことにそれぞれのグループ同士でもアルメニアらしさとは何かという考えをめぐっていろいろと小さな意見の衝突はあるので、このあたり、なんかどこかの県民みたいに10人集まると意見が11出るみたいな感じかも? 高地特有の呪いか何かがあるのかなぁ? ま、こういう内部対立が趣味のレベルにまで昇華されているという印象で、アルメニア芸術美術ってこう音楽とか建築とか総じて知恵の神ティルのご加護よろしくオツムの働きが重要な面倒くさくて理屈っぽい感じのもののほうが得意な印象があるけど……いや、これ以上いっていると本当に適当なでまかせばかりになるのでそこもともかく、そういう感じで意見はいっぱいあって、意見が割れる度にクラスタが分割され、どんどん需用が特殊になるので、商機が減ってそれに伴なって供給も少なくなるという悪循環。

PCで文字を使うなら一応、最低限、GNU/LinuxシステムではBitstream VeraをベースにしたDejaVuが、MacOSではMshtakanが、GoogleではNoto Sans Armenianを利用すれば、無料で高品位なアルメニア文字を表示することだけは可能なんだけど、え? Windows? あー、まぁ、Segoe のことに別に含むことがあるわけじゃないんだけど……うん、まぁ……その話はともかく、それで、そこから先が少しややこしい。

たとえば、MacOSのMshtakanはフォントとしてはアルメニア文字のグリフしか含まれていないので、フォントファミリーのアルメニア文字だけでデザインの雰囲気が独立してしまっているため他の言語とマルチスクリプトで使用する場合……あぁ、これは文字の話なので説明をいれるか……マルチスクリプトというのは例えば「かなカナ漢字Alphabet」併記という日本だと意識せず普通にやってしまっているという、このText全体みたいに、いろいろなルーツの字がごちゃ混ぜに表示される場合ということで、写植の時代には本文に和文に欧文や外国語、記号などが並べて使用されているという場合などに、このことを混植と呼んだ。今でも使うので混植で通用する……よね? このマルチスクリプトのデザイン的な問題は、このかなカナ漢字Alphabet併記な混植されたテキストをなるべく違和感なくフラットにデザインしようとする場合に、並んでいる文字のスタイルが変に目立ったり引っ込んだりしないようにちゃんと揃って見えるデザインを合わせた書体の組み合わせを選ぶ必要があるのだけれど、そのあたりをするときにどのフォント同士の組み合わせが一番グッドかというと、その選択が結構難義だよねというはなし。アルファベットの場合はそのフォントの従属欧文をつかうという選択肢もあるのだけれど、欧文と和文の組み版ルールの違いから単にフォントが一緒だからといっても美しく組めるかというとこのあたりちょっとしたコツがいる。とくにDTP以降はもう……いや、これも脱線しすぎるからまた今度。

それで、無関係な地域の複数の文字を組み合わせて使うわけだから、まぁ、いろんなところが調和して見えるようにするためにはいろいろと必要になることがいっぱいある。既存のものや手持ちの書体をそれぞれ比較してスタイルがなんとなく合っているように見えるフォントの組み合わせを発見し、コレ良いんじゃない……ってなっても、そこから単にポイントサイズを同じに揃えれば同じサイズや太さのもののように見えるかというと、こういうケースでは大抵の場合、見えない場合のほうがほとんど、さらに加えて本当は一応同じにデザインされているはずの和文のフォントを選んでいても、このフォントの従属欧文を使わされるのは気持ちが悪くて病気になるので仕事を断ってもいい? などと言い出すデザイナーもいるくらいだからなおさら……さらにフォントによってはそもそもベースラインの位置が合わなかったり、その概念が無かったり、そもそもサイズの考え方や書字方向の問題やら……まぁ、ここらへんの話で記事が何本も書けるほどのネタが本当にいっぱいあるというはなしなのだけれど……いや、もちろんDejaVuもNoto Sansもマルチスクリプト対応な書体を謳っているので、多言語でデザインを揃えたければ、こちらをインストールしてあれば一般的に普通のレベルではそんなに問題にはならないはずなのだけれども、まぁとりあえずは、いろいろあるけど、話が終わらなくなるのでそういうことにして置いて下さい。

そういうわけで、まぁ、そういった諸々の事情もあって、現在デジタル化していてまともに使えるアルメニアフォントが含まれる書体はアルメニアデザイン界の重鎮 Edik Ghabuzyan に言わせるとその数は100にも満たないといっていて、中には50以下などと主張する人もいるなど……まぁ、何というかそういう感じ……ただ、全体が23区の人口に満たないという共同体で、かつ継続的にコンテンツを生み出せている独自の言語世界などというものは地上からドンドンと少なくなっているので、こういうものが誇りをもって非常に大切にされているということはホント大事。なので、あんまりふざけたことをするとアルメニア人の怒りを買いそうなんだけど……ただ、イスタンブール語に関しては今ではコミュニティ内でも使う機会も減って、もはや同族同士のコミュニケーションですらアルメニア文字を使用する場所もないとも言われる……って本当? まぁ、ともかくそういう傾向もなくはないというなかで、だけど、意外なことに一番文化的に保守的な主張が飛び出すのもアルメニアには一歩も足を踏み入れたこともないようなディアスポラなスピュルク側だったりもする。生きのびるためのデザイン……ヴィクター・パパネックじゃないよ、まぁ、そういう感じのアルメニアンカルチャー教育を受けて育っているためか、アルメニアを維持するという目的というか、伝統というか、いわばアルメニア愛とアルメニア魂がガチガチに発露している。海外経験の長い日本人が、日本に戻ってくるとゴリゴリのナショナリストになって帰ってきた……みたいな感じ……いや、まぁ、それとは違うかもしれないけど。

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それでまぁ、ようは何が言いたいかというと、そういった、諸々の事情もあって、単にわりと面倒くさめの人が多い印象なんだよねアルメニア……まぁ、あくまで個人的な印象なので、そんなことはないという人は文句はコメント欄で……っていうはなしも実はさっきの話と一緒で、コメントがくれば、やっぱり面倒くさいって証明したことになるし、書かれなければ認めたことになるからやっぱり面倒くさいっていう……ね、まぁ面倒くさいでしょアルメニア? いや、それはオマエだよ! オマエ! って、いや俺のことだったか、まぁ、なんというか、そういう、グダグダな噺もともかく、そんなことは忘れて、文字の話を続ける。


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アルメニア文字のスタイル

それで、意外に思うかもしれないけど、暗黒時代……って、この言い方はポリコレった人たちからは中世を暴力的で後進的な時代と誤認させるような言い方でよろしくないから使うなとのお達しだけど、人口経済文化知的レベル全てがそれ以前よりあきらかに悪化しているんだから誤解も六階も無いとは思うんだよね……暗黒時代なんて時代区分が唯物論的歴史観とそりが合わないので認めたくないというなら素直にそういえばいいだけなんだけど、まぁそれはともかく、その暗黒時代の西欧社会においてはアルメニア語の知識は現代の何倍も重要だった。文字も読めないような連中がそれ以前より何倍も多くなってしまった中世社会においてはアルメニアンコミュニティがそのリテラシーの高さからヨーロッパでもアラビアでも技術集団として重用されていたのだ……ということは勿論だけど、古代のファウンデーションがアブラハムの宗教の信者達によってビブリオコーストされ続けた結果、貴重なオリジナルが失われ、エウセビオスの教会史とか年代記など、ファウンデーションにとっては新刊すぎるが、教典の信者にとっては大切なはずのその耶蘇教の初期の重要文書すらもが早々と原典が散逸し……まぁ、ギリシャ語、ラテン語、ペルシア語、アラム語、アラビア語、エトセトラ、エトセトラ、それらで書かれた多くの古典がアレクサンドリアの第一ファウンデーション亡き後ではもはやアルメニア語の翻訳によってのみでしか保存されていなかったという……そういう事になってしまっていたということもまた大きい。野蛮人に言わせれば大事なことは全て教典に書かれている。教典に書かれていないことは大事じゃない。大事じゃないものは燃やしてOK! みたいな低リテラシーな理屈が通って皆で煮炊きの炊き付けにでもしちまうもんだからそりゃ散逸ってレベル以上。本がなんの足しになる? というわけで、それでまともな扱いで、やっとコースターかまな板代わりってぇんだから、ファーレンハイト451度のほうがよっぽど本に対する敬意溢れる立派な処遇にみえるくらいのヤバいワールド。とにかく世界がいろいろとダークエイジ化していた中世のその手の事情で、まともな人間なら異端として吊し上げられる前にアイルランドに逃亡するか、本をどこかに隠しておく必要もあった。ということで、欧州人なら古典世界のハリ・セルダンよろしく野蛮化した社会から欧州の叡智を避難させた第二ファウンデーションことアルメニアの教会に足を向けては寝られないと思うんだけど、まぁ、そんな戯れ言もともかく。

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さてさて、それで、アルメニアの書体は、雑に言うと当時の筆記具の名前から鉄筆体(erkata'gir / iron script, uncials Երկատագիր)ともいわれるルーツの原メスロプ体が最初に誕生してerkata'girにはコーナーの形態でと丸いのと角張っているモノに別れる。そこから後にスモールレターに発展する小メスロプ体、定義上は丸字体とされるエレガントに洗練され、傾いて、文字のコーナーがRound erkata'girよりやや鋭くなっていった、スクリプト体の (bolor'gir Բոլորգիր) 、そこからbolor'girをさらにちまちまっと崩し、書記し易さに重点を置いて作られた草書にあたる(notr'gir Նոտրագիր)、イングリッシュラウンドハンドのように整った筆記体の(sła'gir Շխագիր) というように分かれる。スクリプトの線形進化に関する研究をしている学者によると、sła'girを除くほとんどの書体は実はかなり早い時期にはもう存在していたんじゃないか……という説を唱えていて……あ〜、あと、あれだ、18世紀以降の斜体字にあたるšelagirのことを忘れていた。ともかく、教科書的にはアルメニア文字は4つの書体に分かれる的に書かれることは多いのだけど、それだと日本の書体は主に明朝とゴシックであると言い切っちゃうくらい雑な言い方に感じる。デザイン的に見てみるとその分類方法では収まらないくらいに種類も構造も豊富なんだよね……だけど、まぁ細かい話になるのでそこまではともかく、それで、現在の活字に使われている本文書体というものはこの5世紀の文字の主にメスロプ体と呼ばれるフォントの骨格をベースにして作られている。アルメニアの書体はクメール文字と同様に伝統的にはやや傾けたスタイルのほうがオーソドックスらしいのだけれど、ここのところはアルメニアの年寄りなんかは苦々しく思っているかも知れないけど、最近では正立したもののほうが好まれる傾向なのだということらしいのでAvenir Next Worldでも正立したスタイルの骨格のほうを正式として採用している。

まぁ、ともかくそういう感じで、文字としてのルーツの古さは折り紙付きだ。古いと言えばアルメニア文字の活版印刷の歴史もかなり古く、ヨーロッパで印刷技術が流通すると、それほど時をおかずにスピュルクな人達により活字が製作されて、17世紀までにはすでに200点ほどの書籍が出版されていた。かなりうろ覚えなはなしだけれどその当時最も多くの書籍を発行していたというパリでの出版点数で累計総数おおよそ1万種類ほど……だったと言われたような記憶が……もっとも、これも、アルメニア本国での印刷となると工場は18世紀になるまで待たないといけなかったのだけれど、もちろん、ここら辺は中世の印刷史に関してはミュテフェッリカからブーラークの間がどうなってるのかという知識がまるでミッシングリングになるくらいにいろいろ足らな過ぎるので、適当なことしかいってませんよ……まぁ、それで、アルメニアではその活字のデザインが、完成度の高いその神の文字のスタイルに引っ張られ過ぎてしまうせいか、現代のアルメニアのグラフィックデザイナーに言わせると、アルメニア文字のデザインは鉄筆体の時代からほとんど進化がなくて書体の開発の速度も非常に遅いとはこぼしている。また、根本にも関わる問題なので今コレを言うのもアレなんだけど、そもそも、もともとのアルメニア文字が創作文字にありがちな文字としての機能的に駄目なパターンに嵌まっていて、誤解されやすいいいかたでいうと、それぞれのグリフのデザインが似すぎていて意匠に差が見えにくい……という欠陥もある。

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これは文字を作るときにマスター・メスロプが英霊としてアーチャーのハイク・ザ・グレートを召喚してしまった所為で、ほとんどすべての文字のストロークにアーチが刻まれてしまっているのが原因だ。いや、まぁサーバントの話は冗談としても、ともかく、そういう呪いでオリジナルのグリフキャラクターは、ほぼすべてのデザインに弓が突っこまれていることなど、決まり切った要素の組み合わせだけで、またそのエレメントの種類も少なくて、さらにラテン文字と違って異なる要素を無理に組み合わせたような箇所もほとんど無いのでデザインがし易く整理すると非常に美しくなる……のだが、まぁ、こういう事情からどういう単語の組み合わせを作っても注意しないと綺麗に揃い過ぎて、変わり映えしなさすぎ、どのテキストも同じに見えるので、結果、長文になればなるほど打ち出された活字のリズムがマンネリ化してしまい退屈な……と、このあたりのはなしも、急ぎ足の解説だと誤解が拗れるし細かいことを言い出すと長くなるから詳細はあまり語らないけど、別に良い悪いの話をしてるんじゃないからね! ニュアンスが伝わっているかどうか不安だけど、ともかくまぁ、そのあたり、簡単に言えば文章が非常に読みにくくなる。

この欠陥はユネスコ無形文化遺産と讃えられるほどの技術でハンドライティングにカリグラフィーされるときには、手書きなので当然どのキャラクターにも1文字1文字表情に緩急をつけられるからまったく、ほとんど、問題にもならないのだけれど、活字化されるとこれもまた当然ながらそういうことが出来ないので、それが顕著に表れる。それで前述の話は、アートディレクターがいかにも口にしそうな愚痴でもあるというところだろうけど、もともとの文字にも、そもそもそういう傾向になりがちな呪いがかかっているというおはなしもあることはある。まぁ、でも、そういう傾向は逆に考えると要素が限られているのでフォントデザインの手習いをはじめるならラテン文字からやるよりも、もしかしたら簡単かも! って思うんだけどね。それで、多言語対応の事始めには、まずは発音記号からというのが王道で、それはそうなんだけど、面白みに欠ける。とくに何から始めるという拘りがあるわけではないのであるのならば、ダイヤクリティカルマークに振り回されるアブジャドったりアブギタったりするようなはなしからはじめるよりはアルファベッた書体で要素が限定されていてそこそこ文字数のあるアルメニアンからやってみるのも面白いかも……っていうおはなしもあるよっていう……まぁ、そのあたりも見解は、また別にいろいろとある人もいるかもしれないけど。



Digital Era

それはそれとして、今はデジタル革命により時代は変わって教育やアプリのおかげでそこそこの仕上がりの書体なんかは一通りの基礎が出来ている学生ですらできるようにはなってはいるけど、アルメニアのグラフィックデザイナーAram Gyumishyanは、その彼ら彼女ら世代の新人さんですら、やることなすことみんな既存のモデルによりすぎていて独自のデザインでこの業界を前進させようという反骨精神がなさすぎる! カバーやリミックスばっかりしてないで、世間をあっと言わせるようなオリジナルをつくれよぉ〜っ、っていう感じ……前述したようにアルメニアのタイポグラフィの歴史はラテン文字でのそれに匹敵するほどの長さと深さがあるのだけれど、ことをデジタルエイジ以降に限って言うと、実績が浅く、まだまだ若すぎてひよっこ同然……いや、お気持ちわからんでもないけど……まぁ、それで、このあたりは、デジタル化以前のソビエト時代のデザイナーの方がぜんぜん有能だったということをいってしまっていて、それはそれで非常に手厳しい。自国の書体デザインの教育は、この時代へきてもまだ、その、ソビエト時代の、Fred Afrikyanの The Art Of Letter-Type や Henrik Mnatsakyan の Armenian Type などボロボロの古書がいまだに教科書としてアルメニアでは重用されているという現状というのは、それはそれでどうなの! ってお嘆きなんだよね。

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ただ、まぁ、これらのソビエト時代のアルメニアのデザイナーの業績に関しては反対に鉄のカーテンの外側ではあまり知られてはいなかったので、こちら側としてはコレを紹介してもらえるとそれはそれで逆に新鮮だった。それで、世紀末から21世紀にかけて、これらのタイポグラフィが西側にも知られるようになってくるとATypIカンファレンスがアルメニアの首都エレバンでも開催されるというまでに至り、これらの伝説的デザイナー達の業績がマニア以外にも徐々に知られるように……たぁ言っても、国際タイポグラフィカンファレンス自体がマニアしか知らないというはなしもあるけど、そこはともかく、それで、こういうアルメニア文字に対するデザインアプローチをラテンアルファベットに当てはめたら面白いかも知れないなどという、なにやら怪しからぬことを考える連中も出てきて……つまりはこのアルメニアデザインのヴィジュアルランゲージなエッセンスを西側のラテン文字に翻案してみようとする試みなども行われるようになった。特にAfrikyanが70年代後半に行っていたアルメニア文字に対する幾何学的実験にEdik Ghabuzyanが触発されてゼロ年代にCanada TypeからリリースされたフォントのTabooはハイコントラストスタイルのフォントとしてもそれなりに知名度はある。文字幅が圧縮された幾何学的フォルムのファンシーな書体で、複数のAlternateに多彩な合字の組み合わせを誇るこの書体は、現在はAdobe fontでも利用できるのでアドビのサブスクことAdobe Creative Cloudの契約があれば実質ロハで利用が可能だ。

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ただ、このAdobe fontで利用できるTabooフォントは、せっかくPROとネーミングされてはいるのに、大人な事情もあるとは思うけど、残念なことに現在のバージョンの書体には、ここにアルメニア文字のグリフのキャラクターは含まれていないのだけれどね。

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Adobe fontだと他に、DJRことDavid Jonathan RossのFitやKhajag ApelianによるRosetta Type FoundryのArekもアルメニア文字のグリフをサポートしてはいたはずだけど、現時点のAdobe fontで利用できるバージョンではこちらも大人な事情もあってアルメニア文字の言語サポートはない。まぁ、所詮はCreative Cloudのおまけみたいなものだから多くを期待してもアレなんだろうけど、どちらも製品版をお金を出して購入すれば多分利用可能だ……ちなみにRosetta というタイプファウンダリーはグローバルなタイポグラフィに対応したファウンダリーで、たしかとうとう最終回を迎えた進撃の巨人の漫画連載が始まった頃に設立されたので、なんと今年で十年越えだ。いや、これだと、どっちに驚いているのかわかりにくい表現だけど、まぁ、そういうわけで、今や十年選手でそれなりの年俸……じゃない規模のデジタルタイプファウンダリーへと成長していて、特にその得意な多言語対応に関しては今やトッププレイヤーといっても過言ではない。モリサワの多言語対応フォントもここのファウンダリーの協力によって製作されていたはず……だったよね? いや、中の人じゃ無いので知らんけど。で、まぁ、そのファウンダリーはworld typography specialistsを自称し、国連加盟国数を遙かに凌ぐ、450以上という数の言語に対応したフォントをリリースしている。

それで、いまはまともなフォントなら多言語対応させるというのもそれなりの常識になってはきていて、次回のMorisawa Type Design Competitionの明石賞のお題にでもどうかと思うくらいなんだけど、Rosettaが営業を開始した10年前は、まだまだマイナー過ぎるジャンルだったので、多言語どころか発音記号ひとつとっても酷いことにはなっていた。ましてやそれに対応したツールなんかを探すのも一苦労で、ここは今でもそうかもしれないけど……というのは、って、あ、イヤ、ダイヤクリティカルマークの話はしない予定だった、これもまたいつものパターンだ……まぁ……この話もまたそのうち。ともかく、そういったもろもろの事情もあって、アルメニア文字が使えるフォントの種類はというと、それはそれは、かなり少なかったのだけれども、ここ最近は別の意味でもかなり面白い事態になってはきていてあと数年もすれば、また、相当違ったことも言えるようになってくるのだけど……多分。まぁ、それに興味があるならばね。

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アルメニア文字の作り方

そういうわけで、今回も、なければ作ってしまうというクラフトフォントのお時間。それで、ここまでのあいだにキャプションも入れずに、記事中に、こっちで文字をトレースしたり、つくったり、古書をキャプチャーしたり色した様々なスタイルのアルメニア文字の画像をなんとな〜くニュアンスが伝わればいいや程度のゆる〜い感じで挟み込んでおいたので、アルメニア文字がどんなものかという感じというかイメージというか雰囲気ぐらいは伝わったかと思うので、細かい言語学的解説はちゃんとしたところで学んでもらうとして、そこは飛ばしてしまうけど、まぁいいよね。

さて、誰も見たことの無いような、まったく新しい文字をつくりだそうとするような阿呆な野望でもなければ、まともな仕事をしているように見えるようにするためには……というか、まぁ、こういうローカルなフォントに対するクリエイトのアプローチの方法は2種類あって、ひとつはその国の伝統的な意匠形態を学習してより現在な感じにリファインしていくというものと、もう一つは既存のフォントのデザインや骨格をもとに現地の文字に寄せていくという方法だ。多言語対応というのは基本的には後者のアプローチを指すので、なにかができると言うよりは、人としての調停力がより如実に露わになるという……まぁ、その辺はあれだけど、ただ調定した結果、もとにしたフォントのほうを調整する必要もでてきたりはするんだけど、そのあたりも、具体的には和文の従属欧文を例にすると……という話もあったりなかったりはするので、ここも長くなるのでまたいつか。

で、マルチスクリプトな話題といえども、そういうことなので、調和問題のような、あまり危険な話には今回は踏み込まない。こういう問題を扱うときに気づかされるのは、我々が普遍的だと思うような問題はぜんぜんユニバーサルでもなんでもなくて、スタイル的な分類の方法ですらスクリプトごとに異なっていて一般化しにくいというあたりまえのはなしなんだけど、いろんな歴史や習慣の違いによって見た目にデザインが揃って見えても見る人によってはデザインが同じようには見えないという……なにを言ってるかわからないかも知れないけど……う〜ん、そうだなぁ……。

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たとえば、日本語では哲学でも語り始め出しそうな、わりと真面目な文章は、ほとんど全てが明朝で印刷されるので、同じ文章をまるまる本文横組丸ゴシックキャピーかなで突っこもうモンなら、もうそれだけで馬鹿の話にしか見えないかもしれないけど、こういうはなしを別の言語と日本語との間でマルチスクリプトする場合、哲学的な話題だからと言って、明朝に似たようなセリフのフォントを別の言語で組み合わせると、その別の国の現地の人にはそのスタイルのフォントで真面目な話をされるという経験がまったくないので、そういうことをされると異質過ぎてコメディでも見せられているのかのように感じるという……う〜ん、わかりにくいか……なんというか、まぁ、言いたいことはなんとなくわかるよね? 文字にはそういう、単純な意匠だけの問題では無くて、テキストグリフの形態に持たされている伝統的かつ階層的な意味構造がスタイルにもたらす影響ということまで踏み込むと非常にややこしいことになるのでっていう……いや、さらにわかりづらくなったな……まぁ、そういうことなので、そのあたりの問題は、まぁ、また、そのうち。それで、今回は……いや今回も、でした、その今回もまったくまともなアプローチでするつもりもないので、そのあたりのこともバッサリほったらかしだけど、なので、良い子は真似しちゃダメだよ。


ノトルギル

さて、ということで、先にフォント製作のアプローチの方法を語ったけど、マルチスクリプトな話をしようとしているにもかかわらず、今回はあえて伝統的な意匠形態からの逸脱という方向性で、議会図書館のコレクションから写本をコピーしてきてそのスタイルをべースにアルメニア文字のデザインをしている。下の文字は先の分類方法でいうとnotr'girにあたる書体だ。

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何でコレにしたかというのは、まぁなんとなく気分だったからっていうだけの理由だけど、理屈をつければアルメニア文字のフォントスタイルとしても探すとそれなりに入手困難な書体ではあるので、今ならまぁ作っておいても損はないだろうというところもある。他にも、コロナのおかげで抽選でしか入場できなくなった国会図書館へ行っても探せないような一級品の資料がインターネット上に画像化されているので、リアルタイムに現代なものよりも資料を参照するのに扱いやすいということもあるんだけど、ま、後付けの屁理屈はどうでもよろしい。案外、動画で見たRuben MalayanのCalligraphyをなんとなく覚えていて、イケメンなので……あ、いや、それはまぁいいか……しかし、なんだろうなぁ……まぁ、この手の古書的な資料がステイホームで手に入る時代になったというのは実に素晴らしいということで、おじさんは感慨深いよ。ホント。とにかく作っている途中で迷子になったら戻って見られる一次情報に寝ながらにして手が届くというのは実に上々。ということで今回はコレを片手に作業するというスタイル。と、いっても、大袈裟に構えて歴史的なフォントを蘇らせるといったそれほどちゃんとした思いも能力も持ち合わせていないのであくまでも参照程度でしかない。それほど歴史的知識にもアルメニアンな書道にも聡いわけでもないので、どれがオーセンティックかといわれてもよくわからないから本当に雰囲気だけなんだよね。まともなカリグラファーから見ればノトルギルというよりは金釘るっていう感じなんだけど……まぁ、だいたい、キチンとした司書なら俺みたいなどこの馬の骨かもわからないような風来坊に貴重な古書典籍に触れさせる訳もないのでそういう意味からいっても、いい時代にはなったよねホント。それで、こういうスタンスなので、実に出鱈目でパンクなアプローチでしかないのだけれど、まぁ、自分でいうのもなんだけどホントに碌でもない。ということで、やらかしておいて今更なんだが図書館のサーバーにあまり負担を掛けたくないからあえてリンクを張ったりはしないけど……似たようなことをしようと思ったら知識と興味のある人だったら今や誰でも検索だけで苦も無く辿り着くから大丈夫だよ。イヤ、ホント。


エンコーディング

さて、アルファベット英文字を製作するだけの場合だと、大抵のフォント制作ツールではツールのデフォルトで直感的に作業してもなんとかなるからあまり気を使わなくても良いけど、それ以外の言語のフォントを製作する場合の言語サポートの定義がどうなっているかは気になると思う。といっても、制作ツールを開くとJISだのSJISだのASCIIだの、Extended Unixだのextended binary decimal interchangeだの……恐ろしくいろいろとエンコーディングの種類がいっぱいあって、見たことのない外国語の場合どれにチェックマークを入れれば良いのかよくわからない……何てことになるかも知れない。コードポイントは特定のグリフに対して一意に決まっているもので、エンコーディングにない文字でも31文字以内で別々にグリフ名を振ればフォント内部では制作ツールがインデックスを吐き出すときに自動的に各グリフIDに接続されて矛盾なく扱うことができるようになるから、きまったエンコーディングが必要なのはあくまでシステム側の要請によるものなんだけど、そうはいってもAって打ったらBが出てくるようだと問題にはなるのでちゃんとしておくにこしたことはない。

まぁ文字コードの割り当てなんていうのは理屈がわかっていないと混乱の元になるだけなんだけど、こういうものがいっぱいあるのは、大昔はアルファベットのエンコーディングに使えるバイト数に限度があったので、英文字のエーとギリシア文字のアルファーとスラブ文字のアーとカタカナのアに同じコードを割り当てるみたいなことをして……要は通常は1つの書記体系だけをサポートしておいてフォントを切り替えることで別のアルファベットや言語を表示するようなことをしていたというようなことの名残や、国やメーカーやOSの違いによってコードの割り当てが異なっていたことの影響、その後の標準化作業における混乱みたいなものが残ったためで、ユニコードを標準で包括的なエンコーディングとして選択している現代のオペレーティングシステムではそこのところはあまり問題にならないようになっている。それでも、古いエンコーディング名が残されているのはレガシーなシステムとの互換性や、特定の言語のグリフのセットを明示するに役に立つのでそれをそのまま利用するほうが便利だからだ。Glyphs3の場合はスタートウインドウから新規作成する場合はアルメニア文字の選択肢が出てくるから直感的にわかりやすいけど、そうでない場合でも……例えばFontLabの場合ならば下の図のようにエンコーディングのメニューからMacOS Armenianを選択すればWindowsだろうがLinuxだろうがアルメニア文字を製作する場合はこれはこれで作業開始の準備が整う。

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後は、それで表示されるグリフの箱をポチポチ埋めていけばOKだ。このメニューでは227文字のフォントの製作が要請されているけど、今回はとりあえず大文字を作るつもりはないので39プラスアルファーでアルメニア文字のフォントセットは出来上がる。必要な文字を準備したらスキャンするなり何なりでアウトラインを用意するところは……まぁ普通のアルファベットを作るところとまったく変わらない。形態的に注意する部分が特にアルメニア文字だけに存在するということも殆どない。ただ、ラテン文字でもそうだけどノルトギルのようなスクリプトのフォントの場合は流れやリズムが大事なので、最初はまぁ、あまり細かいところは気にせずにザックリ埋めてから最終的にはある程度長い文章を組んでみて調整していくということにする。こういうフォントは一文字一文字の完成度より組んでみた見た目のほうがものすごく大事なんだよね。まぁなんでもそうかもしれないけど。


ベースライン

それより問題なのは、多言語対応で他の書記体系のグリフとある程度同調させるつもりであるのならば、Emというグリフの仮想ボディのグリッドにどう文字を配置するかのほうで、デジタルフォントの設計座標できまっているのはEmのベースライン位置をX座標で0にとるところだけなので、文字がそこからどれだけ上下するのかはアルファベットの場合ですら一意に決定しているわけではない。和文の場合は活字のサイズが固定されていたことの伝統からある程度の決まりがあるけど、守らなかったからといって別にペナルティがあるわけではない。それでも市販されているような混植を想定した和文の従属欧文の場合では、和文が1000ユニットで構成される仮想ボディ内をアセンダ880ディセンダ120で分割するのはほぼ決定事項なので、欧文を仮想ボディの地に収めようとする写植時代のプロポーションに引っ張られている秀英明朝のようなフォントではそういうことにそこまで拘りのない游明朝体に比べ和文と欧文の間のベースラインギャップを大きく取っていて、それでも間に合わないのでディセンダも狭くなり欧文単体のデザインとして見ると微妙にダサいラテン文字が従属欧文としてデザインされている。

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こんな感じ。ただ、それでも秀英明朝はまだマシなほうで、これがベースラインギャップのほとんどない平成明朝になるともうほんとうにディセンダが極端に短くて、かなりみっともないので、ここは武士の情けで画像はキャプらないけどまぁお察し。もちろん多言語対応なんて知ったコッチャないというのであれば、ここもそれほど気にすることもないのかもしれないけど。まぁそれはともかく、今回は今のところ、後で気が変わらなければ、下の図のような感じになっている。いろいろ弄っているうちにフォルムがドンドン変わっていっているというところが笑いどころでもある。もはや、もともとの原型を留めていないグリフもある。まぁ、何回も言うけど、これで本当に正しいのかどうかもよくわからないんだけどね。

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ともかく、そういうことである程度字の幅や形が決まったら、次にカーニングペアを設定する。カーニングはアルファベットならAVとかLTとかToなんかの字のペアの間のスペースを調整して字のあいだに変な間ができないようにする処理で文字の数が多くなると当然処理する組み合わせも大きくなり、その最大は総文字数の階乗を文字数から2を引いた数の階乗で割った数になる。アルメニア文字の39であれば 39!/(39-2)! になるので1482通りだ。もちろん言語学的にこの組み合わせはないだろうというものもあるかもだけど、どんな可能性があるかどうかはアルメニア人ではないのでよくわからない。さらには、多言語を想定すれば当然文字の組み合わせはこれだけにとどまらず1文字増える度に級数的に可能性は増大するので多言語対応な文字でこれを馬鹿丁寧にするとフォントの持つカーニングテーブルが莫大なサイズになってフォントをインストールしただけでシステムのパフォーマンスを大幅に引き下げる事が出来るようになる。そうなると迷惑このうえないので、そうならないようにするためOpenTypeのフォントではクラスカーニングというもう少しクレバーな方法が用意されている。

これはグリフの片側もしくは両側で同じ形の文字をひとまとめにして扱う方法でクラス毎にグループ化したグリフのペアをGPOSでカーニングクラスとして定義する。カーニングクラスは最初のモノを1st Kerning Class次のものを2nd Kerning Classと呼んで英語のように左から右に書かれる文字なら1st Kerning Classは左側に、アラビア語なら右側に、和文縦組なら上に、下から上に向かって書かれる文字なら……え? そんな文字あるか! って? いや、あるんだなこれが、これはアイルランドの英語の元になったゲール語という今や殆ど死語に近づいている言語の古代ドルイド文字で、オガム文字といってUnicodeのU+16800から1690Cに収録されているので、PCで使おうと思えば出来なくはないのだろうけれど、多分多くのアプリケーションがその書記方向に対応していないため利用することはできないだろうという文字だ。一種のアルファベットだが文字の名前一つ一つに植物の名前がふってあって……って、いや、また悪い病気が始まった、なんか、いろいろとあちこちふらふらしているあいだに、もう、すでにテキストが3万字に届こうとしている……脱線しすぎて話がもう、なんか、だいぶ長くなってきたので、この続きは以下次号。




















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