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余寒の怪談手帖 リライト集

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怪談手帖が大好きすぎて〈未満〉も含め、色々な方のリライトをまとめてしまいました。 原作者・余寒様の制作された書籍、「禍話叢書・壱 余寒の怪談帖」「禍話叢書・弐 余寒の怪談帖 二」…
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2024年1月の記事一覧

禍話リライト「箒神」【怪談手帖】

「長っ尻って言うんでしたっけ?ほら、なかなか帰らないお客さんのこと」 Aさんは、彼女曰く”空想のタバコ”を挟み込んだ痩せた指先で、トントンと絶え間なく机を叩きながら言った。 「そういう迷惑なお客をさ、箒で追い払う御呪いってあるでしょ?」 「”逆さ箒”、ですね」 箒を逆さまに襖や壁に立てかけて、手拭いを掛けるなどして長居する客の退散を願う。 古い俗信のなかでは、豆知識の類として知っている人も少なくないだろう。 彼女は僕の言葉に頷きながら、トトン、と指先のリズムを狂わせて

禍話リライト 怪談手帖『しし地蔵』

『自然仏』(じねんぼとけ) ……という話をしたのをきっかけに、話者の方から採集できた。 『お地蔵さんみたいなもの』についての話。 ※怪談手帖『自然仏』 提供者であるAさんが幼少期を過ごした集落には、鬱蒼と樹々の繁る一帯があり、鎮守の森めいた様相を呈していた。 しかし、彼の記憶する限り。 緑の奥にあったのは、社ではなく。 彼曰く『しし』とか『しし地蔵さん』と呼ばれる。 気味の悪い『何か』であったのだという。 「……お地蔵さんじゃないんですか?」 と問うと、 「……みた

禍話リライト「ヤンボシ」【怪談手帖】

某登山口でふた昔ほど前に噂されていたという話。 宵の口、山の傍から降りてくる人影として、山伏のようなものが現れることがあったという。 本物の山伏、所謂修験者というわけではない。 それは、下ってくる人影の姿かたちを見れば分かる。 装いこそ、一般的に連想される伝統的な修験者の様子なのだが、その顔を見ただけで宗教に詳しくない登山者や若い人にもそれが異様な存在であることが分かるという。 輪郭の内側の真っ黒な顔の形にヌラヌラと煌めく幾つもの光点と、棚引く雲のような紋様が蠢き、渦巻い

禍話リライト 怪談手帳【こうもり王】

 「なんというか、夢の様な話なんだよ」  小学校時代のトラウマなのだ、と、話の提供を申し出てくれたCさんは、対面した席でそのように話を切り出した。   「といっても…… もちろんいい意味でじゃなくって、あの── 悪夢、だよな。 あれは何だったんだ、って、今だに考えるよ。 でも、……言葉にできないな、当時のクラス連中に確かめてもいいんだけど、まあ……多分、合ってる。 お互いに触れたがらないんだよ」  陰鬱な顔でそのように語りながら、  「でも君は、『そういうもの』のほうが